第21話 収束
極限まで強化されたイリス
感情までも削除され、ただ破壊をし尽くすだけの存在
そしてイリスはアルテミスに拳を振り下ろし攻撃を仕掛ける
「な!?速い!!」
能力値を極限まで高められたイリス。今までの鈍足とは違う
スピードまで強化されている。
なんとか運よく回避できたものの、何度も躱すのは困難
パターンを読む前にやられてしまう。
イリスは今度は鉄球を手に持ち
それを縦横無尽に振り回す
「な・・・めちゃくちゃだ・・・」
規則性のなさすぎる鉄球の振り回し
目で追うのに精一杯
そしてアルテミスに鉄球が向かう
避けようとするが間に合わない・・・
次の瞬間
女剣士が身を挺してアルテミスを押し出し鉄球から回避させる
「お・・・お前・・・!?」
女剣士は苦笑いしながら話す
「は・・・はは・・・
あの時の借り・・・返せたね・・・」
そう言って女剣士は鉄球に潰され、消滅する
続け様に再び鉄球がアルテミスを襲う
「アルテミス!左斜め前方に回避!!」
後方から聞こえる声
現れたのは
「リュウセイ!!」
オリオンは表情は険しくもなるも不敵な笑みを見せる
「ちっ・・・!あの野郎・・・戻ってきやがったか
だが無駄だ。お前達にイリスは倒せない。」
「・・・」
イリスは再び鉄球を手にし、縦横無尽に振り回す
「アルテミス、伏せろ!」
「11時の方向に3メートル進め!!」
「一旦後方1メートル下がれ!!」
「衝撃が来る!思い切り飛べ!」
しかし、見切りを極めたリュウセイにイリスの攻撃は当たらない
戦闘に特化したAI のアルテミス以上に戦況を読んでいた
「聞け!アルテミス!!改ざんされたプログラムを修復できるのであれば、
きっとイリスを助けることができるはずだ!!」
「俺が道を切り拓く!!」
「わかった!」
リュウセイはイリスの鉄球の軌道を読み、アルテミスに指示を出す
次第にアルテミスとイリスの距離は縮まっていく
「イリス!!」
アルテミスが一気に距離を詰めようとした時
オリオンが不敵な笑みを浮かべる
リュウセイはオリオンの策に気づいたがもう遅い
「まずい!アルテミス!!距離をとれええええええ!!!」
「【閃光照射】能力の解放
強大な光を出す!眩焉閃」
イリスが全身からまばゆい光を放つ
「な!?」
至近距離にいたアルテミスは強烈な光に視界を奪われてしまう
「くっ・・・しまった!!」
アルテミスとリュウセイもイリスの能力を知っていたが
相手の策にかかってしまう。
アルテミスは目をやられて身動きができない状態
そんな中、巨大な鉄球がアルテミスに向かい落ちていき
巨大な轟音と共に砂埃が舞う
「・・・・・・・」
アルテミスの視界が徐々に回復し、
砂埃も落ち着いてきたところ
目に映ったものは、
瀕死になりながら身を挺して守ってくれたリュウセイの姿があった
「リュウセイ!!」
リュウセイは全身に大怪我を負い、足も鉄球で潰されていた
そんな光景にオリオンは
「【空間転移】でアルテミスを守ったか・・・足掻くな
だが、リュウセイ、お前はもう終わりだ。」
イリス、相手はもう動けない!!
最大の必殺技で仕留めろ!」
「わかった」
イリスは鉄球を振り回し、そして天高く振り上げ、そしてそれをリュウセイとアルテミスに向けて振り下ろす。
凄まじい勢いで落ちてくる鉄球はまるで死が迫ってくるようであった
「リュウセイ・・・」
絶望的な状態にアルテミスは死を覚悟する
「アルテミス・・・大丈夫だ。お前は必ず守る」
リュウセイは瀕死の体を仰向けにし、
右手を天に向ける
「【実体障壁】!!」
「な!?あれは俺の能力じゃねえか!奪ってたのか!?」
だが、リュウセイは【練気一閃】、【空間転移】に続き
【実体障壁】は3番目の能力
ゲームのルールとして
多く能力を習得するほど一つ一つの質は落ちていく
オリオンの時は全身を纏うほどあったバリアも
リュウセイが生み出せるのは僅か1平方センチほど
そして数秒しか発動できない。
それを角度、硬度、タイミング
全てを最適解で発動し、鉄球の威力を殺す
しかし、それでも威力は殺しきれない
直撃は避けれたものの凄まじい衝撃が襲う
リュウセイは衝撃を全身で受け止め
アルテミスを守る
そして・・・リュウセイはダメージの限界を越え、体が消滅していく
「リュ・・・リュウセイ・・・」
「行け!!」
「!!」
リュウセイは体が消えながらも力強い眼差しでアルテミスを鼓舞する
アルテミスの目に闘志が宿る
体勢を立て直し、全力でイリスの元に駆ける
「うああああああああああ!!!」
オリオンは焦りながらも指示を出す
「く・・・イリス!眩焉閃だ!!アルテミスを近づけるな!!
目眩しをして、攻撃をすればあいつはもう終わりだ!!」
「わかった。眩焉閃!」
イリスに再び眩い光が放たれ
アルテミスに攻撃を仕掛ける
しかし・・・
アルテミスはイリスの攻撃を躱ける
イリスは眩い光を出し続けているにも関わらず
アルテミスは攻撃を避け続けている
「・・・?」
心を失ったはずのイリスは疑問に感じていた。
なぜ自身の攻撃を避けられるのか・・・
「見える・・・私にはイリスの姿が・・・!
そうだ・・・私は、今、この瞬間のために呪いをかけたんだ」
アルテミスは天高く飛び上がり、
イリスに向かって勢いよく急降下していく
(その右目は!?)
髪がなびき隠れていた呪われた右目が顕となる
それはドス黒く、悪魔のような瞳であった
・・・・・・・・・
ー過去、初期化されていくアルテミスー
ステラ・ストリア開発局
「では、これより、アルテミスの初期化を行います。」
(消えていく・・・。記憶も心も・・・
忘れたくない。自分が生きてきたこの世界もイリスもホシノのことも)
(だから、私は・・・呪いをかける。
光を閉ざす暗闇の呪いを、この右目に・・・)
(これは・・・イリスを悲しめてしまった罪だ・・・!)
(アルテミス、絶対に忘れるな!自分の罪を!!)
初期化されていくアルテミスは最後の力を振り絞り
自身のプログラムを書き換える。僅かな、ほんの僅かなプログラムの書き換え
運営たちの目すら欺くほどの・・・
(教会・・・呪いを解く場所であり、私とイリスとホシノの思い出の場所
必ず・・・私はここに戻ってくる。)
(この呪いは、この願いは・・・)
(いつか必ず・・・
私とイリスを繋いでくれるはずだから・・・!)
・・・・・・・・・・
呪われた右目は視界を暗闇に誘う。それは強大なサングラスの役割を果たし
閃光に輝くイリスの動きを正確に捉えていた。
アルテミスはイリスを全力で抱きしめる
そして感じる・・・
抱きしめられたアルテミスの温もりとは別の、
右手の感触
「ずっと・・・ずっと・・・!こうしたかった・・・。」
「・・・!?」
アルテミスの左手の小指とイリスの小指は
指切りを結んでいた。
(ねえ、アルテミス、ヤクソクしようよ)
(小指同士を結んで言ったことを守るの!)
(また明日会おうね。ヤクソクだよ・・・。)
「ヤクソク・・・ずっと果たしたかった・・・。
イリス・・・ごめんね。たくさん傷つけて・・・」
イリスを抱きしめながら
アルテミスは次第に消滅していく
「そんな・・・
アルテミス・・・」
消えていくアルテミスに
ゲーム外から見ていた星野は落胆する
それとは対照的にオリオンは高笑いを上げながら勝利を確信する
「ふはははははは!
やったぞ!ついに・・・ついにアルテミスも手に入れたぞ!!」
「これで全てを・・・支配できるぞおおおおおお!」
茫然と立ち尽くすイリス
頬には一滴の涙が伝っていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ー闇の中ー
(私は・・・どうなったのだろうか?)
(何も見えない。)
(何も聞こえない。)
(何も感じない。)
(これが・・・「死」というものだろうか?)
(・・・ミス)
(・・・アルテミス)
微かな光が揺らめき、
どこからともなく響く声に導かれるように
アルテミスは足を踏み出す。
そこにいたのは——
「イリス!」
アルテミスを待っていたのは、
紛れもなくイリスの姿だった。
「ありがとう、アルテミス!!」
イリスは笑顔でアルテミスを抱きしめる。
「イリス……本当に、イリスなの?」
アルテミスは戸惑いながらも、その温もりを感じる。
「うん。アルテミスの声が届いたから……
そして、聞いてほしい……。ごめんね……ずっと謝りたかった。私が不正をしたことを」
イリスの言葉を遮るように、アルテミスは叫ぶ。
「違う!謝るのは私だ!!
イリスはきちんと謝ってくれたのに……私はイリスに酷いことをしてしまった!!」
涙が零れ落ちる。
後悔と痛みが、アルテミスの胸を締めつける。
そんな彼女を見つめながら、イリスは優しく微笑んだ。
「ははは……やっぱりアルテミスは真面目だね
そして……聞いてほしいことがあるの」
「聞く……?」
イリスは静かに頷く。
「ここは、私に残された僅かなデータ領域
以前、オリオンに奪われた時のことを学習して……私は、アルテミスのデータを取り込んだの」
「オリオンに何度もデータを書き換えられて……自分が自分でなくなる感覚に襲われ・・・
無理を重ねすぎた私は、もう……限界なの」
「私は、消えてしまう」
「ゲームのキャラとしてではなく、データそのものが——」
「え……?」
アルテミスの表情が凍りつく。
「だから、最後にお願いがあるの」
「私に残された僅かなデータを、受け取ってほしい」
「私のデータを受け取れば、アルテミスは再びゲーム内に復帰できる」
「そんな……データを受け取るなんて……」
「それじゃあイリスは!?死んでしまうのか!?」
イリスは首を振る。
「死んだりしないよ
アルテミスと一つになるんだ」
「嫌だ!せっかく会えて、仲直りもできたのに……!」
アルテミスは涙を堪えきれず、イリスの腕を掴む。
まるで、この瞬間を引き止めようとするかのように。
イリスはそっとアルテミスの頬に手を添え、優しく微笑んだ。
「アルテミスのおかげで……最後の最後は、私として生きることができたんだ
そして……アルテミスの中で、私を生かしてほしい」
「だから……」
イリスは手を差し出す。
「さあ、手を取って……」
アルテミスは震える指先で、そっとイリスの手を握る。
その瞬間——
二人のデータが溶け合い、
一つの光となって広がっていく。
「ようやく辿り着けた。私たちの想い——」
「生まれてから、たくさん辛いこともあったけど——」
「今この瞬間だけは、誰よりも幸せなのだと思う——」
「二人一緒なら、どんな運命だって乗り越えられる」
「「私たちは、二人で一つのAIだから・・・」」
光が収束し、
イリスはアルテミスの中へと溶けていった。
彼女の想いと共に——。
次回最終回です。