第15話 暴走
ー中心都市 ステラー
「3.2.1・・・キラーン☆彡!!」
「星々が輝く時間!『ステラTV』の始まりだよ!!」
「第52回!今日もいろんな情報届けちゃうよ!」
「皆さんもご存知の通り、昨日は大ニュースが起きました!
なんと・・・イリスを破った冒険者が現れました!!」
「ですがまだまだ皆さんにもチャンスがあります!」
「まだアルテミスが・・・」
生配信中、司会の後ろに現れたのは
禍々しい雰囲気を纏ったアルテミスの姿があった
司会もアルテミスの存在に気づく
「ア、アルテミス?今日はお休みなんじゃ・・・?」
配信内、多くのユーザー達が見ている中アルテミスは叫ぶ
「よくもイリスを・・・お前達!絶対に許さない!!
全て・・・全て壊してやる!こんな世界!!」
「ア・・・アルテミス?」
アルテミスは次第に全身が黒く闇に覆われ
異形の姿となっていく
司会は即座にアルテミスに攻撃され消滅する
「そ、そんな・・・私まで・・・?」
アルテミスは感情が抑えきれず暴走状態となり
ゲーム内のプログラムに干渉する
そして、空は裂け
物体はバグって表示され
文章は全て文字化けを起こす
「うわああああああ縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠��シ�シ�」
「な、縲∽ス輔%繧鯉シ�」
「縺イ縺�>縺�>繝サ繝サ繝サ」
生配信の会場の近くにいた冒険者達もアルテミスから攻撃を受け
次々に消されていく
その光景はまさに地獄絵図
・・・・・・・
ーステラ・ストリア開発局ー
運営達も予想できない事態に混乱する
「一体何が起こってる!?」
「とりあえず生配信を止めろ!」
「早く事態の修復を行わないと!!」
・・・・・・・
「アルテミス!!」
その混乱の中、一人だけまともに行動できる人物。星野
運営の一人だからこそある程度の不測の事態に対応できるよう設定されている
「ホシノ・・・」
アルテミスは星野の言葉に反応する
「やめて・・・!そんなことしてしまったら
あなたまで消えてしまう!!」
星野は全力でアルテミスを説得する
「構わない!私もいずれは倒されて消えてしまう運命だ・・・」
アルテミスは無茶なプログラム改変を続け体が消滅しようとしていた
アルテミスに近づくほどバグが進行し、会話すらもできない
「だったら・・・【物質転送】!!」
星野はアルテミスの前に移動し
全力で抱きしめる
「お願い・・・消えないで・・・!
もう、これ以上家族を失いたくない!!」
星野の言葉に
アルテミスは少しずつ冷静さを取り戻す
「ホシノ・・・」
「聞いて、アルテミス・・・
イリスは生きているわ。」
「イリス・・・」
そう言ってアルテミスは眠りにつき
それと同時にバグの進行は治った
・・・・・・・・
しかし、ゲーム内の惨状は変わらない
空の亀裂やバグったフィールドは残ったまま
被害はそれだけではない
ーステラ・ストリア開発局ー
「収まったか・・・?」
「だが、修復は大変そうだ」
「大変だ!他のゲームにまで影響が出ている!!」
「なんだと!?」
会社が運営しているゲームはステラ・ストリアだけではない
他のパズルゲームやテーブルゲームにまで影響を及ぼしていた
映像に亀裂が入ったようになっており
まさにアルテミスの悲痛な想いが込められたような現象だった
この事件は世界中に瞬く間に知れ渡り
『アルテミスの恨み』とまで呼ばれるようになった
生配信は演出
『アルテミスの恨み』と他ゲームの不具合は関係ない
そう言って無理やりその場を収めた
・・・・・・・・・・・・・
開発局 では、緊急の会議が開かれていた。
「アルテミスを『初期化』しよう」
「ええ。目が覚めたら、また暴走するかもしれない」
その意見に、星野は 即座に反対 した。
「『初期化』って・・・どういうことですか?」
「言葉通りだ。記憶をすべて消し、創り出した直後の状態にする ということだ」
「イベントも盛り上がってるし、アルテミスを削除するわけにはいかない。
しかし、問題が起きる前にリセットするべきだ」
別のスタッフが 星野のほうを向き、淡々と言う。
「それから、星野君。君は もうアルテミスに干渉しないでくれ」
「なぜです!? 私はあの子の親ですよ!!」
「君は何か勘違いしていないか?」
プロデューサーが 冷たく言い放つ。
「あれはAIだ。人間ではない。会社の所有物なのだ」
「所有物……?」
星野の 瞳が怒りに震えた。
「あの子をなんだと思ってるんですか!?
『心』を持っている以上、人間と変わりません!!」
「人間……? あんな理解を超えた存在が?」
「……!」
「君だって見ただろ。あの暴走を……」
「……」
「他のゲームのプログラムにまで影響を及ぼしている。
あのAIは、一歩間違えれば人類の脅威 になりかねない。
そうなったら、君ひとりの責任では済まされないんだよ」
「アルテミスを 消さずに、ゲームも存続させる。
全てを満足させるには『初期化』が最適解なのだよ」
「無責任・・・すぎる・・・!
自分たちの都合で生み出して、危険と感じたら消してしまえだなんて・・・」
それでも星野は運営の指示に従うしかなかった
・・・・・・・・・・・
「それでは、アルテミスの『初期化』始めます」
星野とプロデューサー
初期化されていくアルテミスを見つめていた
「本当に、これでよかったのでしょうか?」
「あいつはもう限界だ。お前だって見ただろう?」
「・・・」
「『失った』ことを嘆き苦しむより、初めからなかったことにする方があいつにとっても幸せなんだ。」
星野は俯きながらも、何かに気づく
「これは・・・!?」
「どうした?」
「いえ・・・なんでもありません。」
(この子には強い意志を感じる。
わかったわ・・・。アルテミス、あなたの覚悟は無駄にしないから)
・・・・・・・・・・
数日が経ち、 ステラ・ストリアのフィールドは修復され、バグもすべて修正された。
「さて、明日から アルテミスを再びステラ・ストリアのフィールドに放つ わけだが……」
会議室に響く運営の言葉。
「上層部から指示が出た。アルテミスは我々運営が討つ」
「なっ……!?」
その言葉に、星野は耳を疑った
「用意した 3体の天使 『レミエル』、『ミカエル』、『ガブリエル』
このキャラクターを使って、アルテミスを討伐する」
「新人君、君も挑戦してみるか?」
「わ、私が……ですか?勝てるのでしょうか?」
「大丈夫だ。能力もステータスも最上級のものにしてある」
「全部で3体いる。君が負けても他のベテランスタッフが参戦する
万が一負けても問題ない」
「わからないことがあれば メッセージで聞いてくれ」
「さらに3体目の天使には『他のユーザーからの攻撃を受けない』というプログラムを組む予定だ」
「負けようがないさ」
「どういうことですか!?運営がイベント対象を倒す!?」
星野が 強く抗議する。
「それに、能力やステータスをいじるなんて……不正行為じゃないですか!!
さらに『攻撃を受けない』だなんてユーザーが知ったら炎上どころじゃないですよ!」
しかし、運営側は冷静に答えた。
「もうアルテミスは、単なるミッション対象ではない」
「ゲームの世界だけでなく、現実世界においても脅威になりかねない」
「かと言って イベントを中止すれば、多くのユーザー……冒険者たちの反感を買う」
「時間をかけたり、冒険者が下手に刺激すると 記憶を取り戻す可能性がある」
「だから、我々運営が迅速に直接葬り、イベントを終了させる」
「それが、全ての者にとって最善の選択なのだ」
「・・・全ての者?」
星野の 目が鋭くなる。
「あなた達だけにとっての“最善”じゃないですか」
「またお前は・・・仕事に感情を持ちこんで・・・」
「そういえば、アルテミスのデザインは 変更したのか?」
モニターに映し出されたのは——
リュウセイが初めてアルテミスと出会ったときと同じ姿。
右目は 髪で隠れ、右手は 禍々しく黒く染まっている。
「ええ。アルテミスは イリスを失った悲しみで悪魔になろうとしている……という設定です」
「以前の暴走も、一つの演出ということにするのであれば 自然な展開かと」
「ははは、面白い設定じゃないか」
運営の一人が 軽く笑う。
「星野君、君もシナリオを書いてみるかい?」
「そういえば ユーザーたちもアルテミスのことを『悪魔の子』と呼んでいる らしいしな」
星野は アルテミスとの何気ない会話 を思い出す。
『爪や手を自由自在に変形できたら、多様な戦いができそうだ!
影の中に爪だけ移動させたり……』
(アルテミス……私は些細なことしかできない。だけど、望んだ『爪』の力……あなたなら、きっと使いこなしてくれるはず)
・・・場所は変わり・・・
ナガレの勤務先にて
『ニュースです。某銀行にて個人情報が盗まれる事件が発生しました
相次ぐハッキング事件。犯人は未だ捕まらず・・・』
「ついにここにも目をつけられたか・・・情報は盗まれたのか?
いえ・・・こちらのセキュリティは突破できなかったようです。
ハッキングにはAIを用いているみたいですね。」
(AIの悪用によるハッキング・・・)
ナガレの脳裏に映ったのはイリスを奪うように消し去ったオリオン
(明日からアルテミスがフィールドに放たれるのか・・・
そのハッキング事件の犯人がオリオンなら、恐らくアルテミスも狙ってくるはずだ
アルテミスと同行して、オリオンを見つけ出す!)
(ナガレの姿だとあいつは警戒して現れないかもしれない。だから、アカウントを作り替えよう・・・『リュウセイ』として・・・!)
翌日
ーステラ・ストリア フィールド内ー
アルテミスはフィールドの真ん中で目を覚ます
「ん・・・ここは?私は・・・?何をしていたんだっけか?
な・・・!?右目が見えない・・・。それになんだこの右手は?」
「私は・・・何をしようとしていたんだっけか・・・?」
しばらく戸惑ってしまったが、アルテミスは中心都市ステラに足を運んでいた
街の住人達に話をかける
「ようこそ、ここは中心都市 ステラよ」
「君は夢を持ってるかい?夢はいいぞ。夢を持つと心を豊かにし、人を強くさせる」
「あら、あなた呪われてしまってるのね?呪いを解くなら教会に行くといいわよ」
「教会?」
何故か懐かしく感じる響き
「そうだ。私はそこに向かわなくてならない。そうすればきっと右目は治るはずだ」
アルテミスが街の外れに向かってる最中
「ひ・・・あれは・・・アルテミス・・・!?
いや、悪魔の子・・・?」
街中を徘徊するアルテミスを見かけたのは
以前の暴走を目の当たりにした冒険者
その恐怖は日が経っても鮮明に残っている
「みんなに知らせなきゃ・・・
アルテミスだああああああああああああ!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
そして現在
星野とリュウセイはお互い全貌を話し合った
「これが、真実全ての・・・全貌」
「そして・・・聞いてほしい。
イリスを助ける方法をついに見つけたわ」




