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第11話 開発


目的地である教会へと辿り着いたリュウセイとアルテミス。

そこに待っていたのはひとりの女性が立っていた。


眼鏡をかけ、落ち着いた雰囲気を纏ったその姿—彼女は静かに微笑みながら、二人を迎えた。


「アルテミスの親、か・・・・・?」


リュウセイは慎重な目を向けながら問いかける。


「正確には開発者ね。」

女性——星野は落ち着いた声で答えた。


「安心して。私は運営の人間だけど、あなたの敵じゃない。」

リュウセイは一瞬、表情を変えずに彼女を見つめた後、ふっと力を抜いた。


「ホシノ……」

アルテミスが小さく呟く。


星野はそっと歩み寄ると、優しくアルテミスの頭を撫でた。


「アルテミス……よく頑張ったわね。」

その仕草は、まるで本当の親が子を慈しむかのようだった。


アルテミスは少し戸惑いながらも、その手を拒むことなく受け入れていた。


「・・・・・・・教えてください。」

リュウセイが静かに口を開く。


「あなたのこと、アルテミスのこと・・・・・・そして、この世界——ゲームのことを。」

彼の目には、強い決意が宿っていた。


「俺も持っている情報を話します。」

星野はリュウセイをじっと見つめ、やがてゆっくりと頷いた。


「わかったわ。」

彼女は深く息をつきながら、どこか遠くを見つめるような目をする。


「アルテミスが生まれるまでの経緯と、私たち運営に何があったのか・・・・・・全部話しましょう。」


そして、続けた。


「でも私も知りたいの。なぜあなたが過去を捨ててまで、アルテミスを守ろうとしたのか——」

 

静寂の中、教会の扉が静かに閉じられる。

交差する想いが、今、初めて本当の意味で向き合おうとしていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ー数ヶ月前ー


『オンラインゲーム 【ステラ・ストリア】!!』

『史上最大の、奪い合いゲーム!』

『このゲームは自分がつかえる能力を自分で決めることができる!

さらに、他のユーザーを倒せば、武器やアイテム、能力までも奪うこともできる!』


『君だけの能力や組み合わせで、最強の冒険者となろう!!』


―ステラ・ストリアゲーム開発局―


「はあ・・・かつてはアクティブユーザーが50万人もいたステラ・ストリアもだいぶユーザーが減ってきたな・・・。」


部屋には重苦しい沈黙が広がっていた。スクリーンに映し出された業績グラフの下降線が、否応なく現実を突きつける。ゲームの低迷を嘆く職員たちがいた


「やはり何か新しいイベントを開催するとか?」

「例えば?」

「困難なミッションを開示し、達成できたら賞金とか・・・」

「それだけではインパクトが足りないかな・・・?もっと目新しい何かが必要だ」

「目新しい何か・・・ですか。」

「そうだ。このゲームにおいて、評価の高いところはなんだ?」


「グラフィックや自由度、AIの性能とかですかね?」


AI・・・人が実現するさまざまな知覚や知性を人工的に再現する存在

今の時代では当たり前の存在だが、この会社は特にその技術が進んでいる


「AI・・・そうだ!こういうのはどうだ・・・?」


・・・・・・・


「星野君、星野君」

ゲームの開発局、運営に呼ばれたのは一人の女性だった

小柄でメガネのスーツ姿の女性

名前は星野


「君は確か、AIの開発に長けているよね?」


突然の問いに、星野は一瞬たじろぐ。少し間を置いてから、ぎこちなく答えた。


「は、はい……」


男は指先で軽く机を叩きながら、静かに言葉を続ける。


「一つ、新しいAIを開発してほしい。それも、とびっきりのやつを」


星野は息を飲んだ。男の声には、ただの依頼とは思えないほどの熱と確信がこもっている。適当に流すことは許されない——そんな圧力が無言のうちに伝わってきた。


「とびっきり……ですか

例えば、どういったものですか?」


男はわずかに笑みを浮かべる。まるで、その問いを待っていたかのように——。


・・・・・・・


「『心』を持ったAI!?」

星野は思わず声を上げた。


「ああ、誰かが操作するキャラクターでもなく

自身で考え、行動する。決まったプログラムを遂行するNPCとは違う

人間同様笑ったり、泣いたり、怒ったりするAIだ。

そのAIを、君に作ってもらいたい」


「『心』を持ったAIですか・・・」

呟きながら、星野はわずかに俯いた。


「何か問題でもあるのか?」


「私は、以前個人で『心』を持ったAIを開発しようとしました。

しかし、失敗しました。そしてそのAIはかわいそうな最期を迎えてしまいました。

あの二の舞はしたくないです。」


手を握りしめる。あの時の喪失感が、今でも胸に残っている。


「大丈夫だ。こちらで予算も用意するし、優秀なソフトや機材もそろっている

必要であれば人員もフォローする。

君にしかできないことだ。頼むよ。そしてこれは人類の文明の発展にも繋がるのだ」


本当に、それは“発展”なのか? それとも——。

しばらく沈黙が続いた。


「・・・・・・わかりました」


星野はその依頼を引き受けた


・・・数か月後、


「どうだい?進境は?」


男が気軽な調子で尋ねる。

星野はデスクから顔を上げ、疲れたように眼鏡を押し上げた。


「順調でしょうか。ベースの『感情』は概ねできました」

「そこで一つお願いがあるんだが・・・」


その言葉に、星野は嫌な予感を覚えた。経験則的に、こういう「お願い」は大抵ロクなものではない。


 案の定——


「AIは双子にしてほしい!?」


またしても耳を疑うものだった


「ああ、どうせならもっと話題になるほうが良いと上層部からも話があってだな

ベースができたなら一人つくるのも二人つくるのも変わらないだろ?」


言われた瞬間、星野は反射的に立ち上がった。


「全然違いますよ!一人作るだけで大変なのに二人だなんて!!

せめて締め切りの期間を延ばしてください!!」


「そういうわけにもいかないんだ。ステラ・ストリアはあと少しで4周年を迎えるだろ?その節目になんとか間に合わせてほしいんだ

そんなに慌てなくても大丈夫さ。不十分なところがあっても、定期的なメンテナスで徐々に修復していけば・・・」


軽く言ってのける男を前に、星野は絶望的な気分になった。


・・・・・・・・・・・・


そして数か月後・・・


ステラ・ストリア内

中心都市 ステラの中央広場


「3.2.1・・・キラーン☆彡!!」

「星々が輝く時間!『ステラTV』の始まりだよ!!」

「今回で第50回!ステラ・ストリアも4周年!!」

「みんな、応援ありがとー!!」


ステラTV

ゲーム ステラ・ストリアの運営が開催するネットの生配信

中心には、緑色の髪でカジュアルなスーツを着た女性である、

運営が作成したキャラクターが司会を務めている


広場の周囲にはゲーム参加の冒険者たちもいる


「今私は、中心都市 ステラにいます!

4周年という節目、今回は超ビッグニュースがあります!

もったいぶっても仕方ないので、さっそく来ていただきましょう!!」


ゲーム内、まばゆい光とともに現れたのは二人の少女


「それでは、二人に自己紹介をしてもらいましょう」

司会の女性は手に持っていたマイクを少女に向ける


「やっほー♪イリスだよ!」

「・・・私はアルテミスだ。」


ショートの金髪で活動的な印象を受ける天真爛漫な『イリス』

赤髪ロングのツインテール、クールでそっけない冷静沈着な『アルテミス』

相反する特徴をもつ二人。だけどどこか似ている


ただ、この時のアルテミスは髪で右目を隠していなく、

右手も普通の人間となんら変わりないものだった


司会は続けて話す


「なんとこの二人は『心』を持ったAIなのです!

この子たちは我々人間のように考え、喜怒哀楽の感情を持っています!」


「早速二人に聞いてみましょう!

好きなものは?」


「私はね!カレーが大好き!!」

満面の笑みで答えるイリスと

「チョコレート・・・でも甘いものは何でも好きだ」

照れるように目をそらすアルテミス


「続いての質問。どんな能力が使える?」


「私の能力は【影間・・・」

「秘密!!」


アルテミスの声を遮るようにイリスが答える

「ちょ、ちょっとイリス・・・!」


アルテミスはイリスの予想外の言葉に動揺する

「だって、言っちゃったらつまんなくない?

知りたかったら・・・私たちと戦ってほしいな♪」


スタッフや視聴者、冒険者もイリスの言動に面を食らうも

それが逆にこの二人が心を持ったAIだというのが確証できた

司会は仕切り直し


「さっきイリスも言いましたが、実はこの二人と戦うことができます!

しかも、一人倒すと賞金50万円!両方倒せば100万円贈与します!!」


「はっきり言います!めちゃくちゃ強いです!!」


「みんなの挑戦待ってるよ!」

「簡単に勝てると思わないことだな」


「では、いくつかルールをお話しします」


「一人で挑むもよし!複数人で挑んでもよし!

しかし賞金はとどめを刺した冒険者に送ります!!」


「昼には『アルテミス』が、夜には『イリス』が世界のどこかで徘徊しています。

がんばって探してください!!」


「一定の範囲内で『武器を抜く』とこの二人は敵とみなして攻撃してきます。

逆に言えば、至近距離であっても武器を抜かなければ攻撃を仕掛けてきません!

腕に自信のない人はそうやってやり過ごしてください!!」


「期限はありません!二人が倒されたら終了です!!」


「明日の明け方と共にアルテミスがこの世界のどこかに現れます!

それではみなさん、良き旅を!!」


この日の生配信は大盛況のまま終えた


―明け方―


「それじゃあ行ってくる」

「初日でやられたら駄目だよ」

イリスは旅立つアルテミスを見送る


・・・・・・・・・・・


荒野を歩くアルテミス

そこに立ちはだかる一つの影


「ふはははははは!俺の名前はアース!!ランキング4位の冒険者だ!!

いきなり会えるとはツイてるぜ!早速ぶっ倒してやる!」


アースが斧を取り出した瞬間


「状況解析・・・最適解は・・・」


アルテミスがつぶやいた後

すれ違いざまにアルテミスは短剣でアースの腹部を貫く


「・・・え?」


何が起きたのかもわからずアースは倒れた


・・・・・・・


「ぐああああああ!」

「があ!!」

「つ、強い!能力を使っていないのに!」


アルテミスは圧倒的なスピードで次々と襲い掛かる冒険者たちを返り討ちにする


そして夕暮れ・・・

場所は大陸の北の果て

気が付けばずいぶんと遠くまで来てしまった


そういえば聞いていなかった

夜はイリスの番。どうやって交代するか


「アルテミス・・・・・・アルテミス!」


どこからか、イリスの声が響いた。  

その声だけがはっきりと耳に届く。


「イ、イリス・・・・・・!?どこだ!?近くにいるのか!?」


アルテミスは周囲を見回した。だが、彼女の目には黒々とした影が揺れるばかりで、イリスの姿はどこにも見当たらない。


「ここだよ!!」


次の瞬間

目の前の建物の扉が勢いよく開かれた。

不意に飛び出してきたイリスに、アルテミスは思わず飛び退いた。


「だああ!?びっくりした!」

「あはは♪ びっくりさせた!」


イリスは無邪気に笑う。

アルテミスは溜息をついたが、その胸の奥にはほんの少し安堵もあった。


「イリス、なんでここに?そしてその建物は?」


「ここは教会だよ♪」


「・・・・・・教会?」


アルテミスは改めて建物を見上げる。

「とりあえず、入って!」


イリスは彼女の手を引くと、ためらう間もなく教会の中へと連れて行く。

アルテミスは軽く眉をひそめたが、結局、されるがままにその扉の向こうへと足を踏み入れた。


教会内にある椅子に適当に腰をかける二人


「とりあえず、お疲れ様♡ アルテミス。」

イリスが楽しげな声で言うと、手を軽く振って笑みを浮かべた。


「どうだった? 冒険者たちは。」


「別にどうってことない。全員、返り討ちにしてやった。」


その言葉に、イリスは小さく目を見開いた後、くすくすと笑った。


「ははは♪ アルテミスは強いんだね♪」


「何言ってる。お前も同じくらいの強さで設定されてるんだぞ。」


 アルテミスはじろりとイリスを見やるが、彼女は気にする様子もなく、相変わらずの無邪気な笑顔を浮かべている。


「それより、私からも聞かせてくれ。なぜ都合よく私の行き先にいた?」


イリスはすぐに明るい声で答えた。


「うん♪ あの人が連れてってくれたんだよ!」 


「あの人・・・・・・・?」


アルテミスはイリスの指さす方向に視線を向けた。

そこから現れたのは、眼鏡をかけ、ローブを纏った魔法使いの姿の女性だった。


「お前は・・・・・・?」


 アルテミスが問いかけると、女性はふっと微笑んだ。


「この姿で会うのは初めてね。覚えてるかしら?」


 ゆっくりと歩み寄ると、彼女は静かに名乗った。


「私は星野。あなたを生み出した者よ。」


 その言葉に、アルテミスの瞳がわずかに揺れる。


「・・・ホシノ?

少しだけ覚えてる。意識が芽生えたときに、私たちに名前をつけてくれた人だな。」


星野は満足そうに頷いた。


「そこまで覚えてくれたのであれば十分よ。配信の時は一緒にいられなくてごめんね。疲労で倒れてて・・・・・・」


最後の言葉は少し照れくさそうだったが、それでもどこか申し訳なさそうな響きを含んでいた。


「話はズレちゃったけど、私の能力は【物質転送】。」


星野は軽く手をかざし、指先に魔法陣のような紋様を浮かび上がらせた。


「人でも物体でも、この世界の好きなところに移動できる能力。それを使って、アルテミスのいる場所まで移動したの。」


「どうせならびっくりさせようと思ってね♪」


 話を遮るようにイリスが突然割って入り、得意げに笑う。


「あと、あなたたちはまだ生まれたばかりのAI。

だから、私が親としていろいろ面倒をみるわ。」


星野は穏やかな口調で語る。


「まずは、どこに家を置くかだけど・・・・・・」


 星野が思案するように顎に手を当てたその瞬間——。


「そこで提案だけど!」


 またしてもイリスが会話を遮るように声を上げる。


「この教会を私たちの家にしようよ!」


「「え!?」」


 思いもよらない発言に、アルテミスと星野は同時に驚きの声を上げた。

 アルテミスは半ば呆れたようにため息をつく。


「・・・・・・誰か来たりしないのか?」


「ここ教会って、呪いを解く場所だけど、

今は『呪い』というもの自体ほとんどないんだって!きっと大丈夫だよ!!」


ゲームがリリースされた直後、「呪い」にかかってしまった冒険者は

世界各所に存在する教会まで足を運び、呪いを解く必要があった。

だが、この仕様がユーザーたちに極めて不評で「呪い」という状態そのものが次第になくなり、この教会だけが虚しく残った。


「確かに、それはいい考えかもね

冒険者に見つかったときは、また拠点を探しましょう」


「・・・ふぁ」


アルテミスの口から、小さな息が漏れた。

彼女の瞳は徐々に焦点を失い、まるで意識が霞んでいくかのようだった。


「なんだ・・・・・・? 体が重い・・・・・・動きが鈍くなってきた・・・・・・。」


いつもなら軽やかに動くはずの体が、まるで鉛のように沈んでいく感覚。アルテミスは戸惑いながら自分の手を見つめた。


「それはね、眠いっていうのよ。」


星野が静かに言う。


「あなたたちAIは学習にエネルギーを多く消費するから、日没、日の出あたりの時間に睡眠と起床をするよう設定しておいたわ。」


体の力が抜け、膝がかくんと折れそうになる。


「そろそろ交代の時間ね。」


星野がイリスの方を向く。


「イリス、準備はいい?」


イリスは無邪気な笑顔を浮かべ、勢いよく胸を叩いた。

「大丈夫♪ まっかして!」


その答えを聞き、星野は満足そうに頷く。

「じゃあ、世界のどこかに飛ばすから、頑張ってきてね。」

彼女が手をかざすと、イリスの周囲に淡い光が集まり始める。


「朝が来たら迎えに行くわ・・・・・・。」


次の瞬間、光が収束し、イリスの姿がかき消える。

静寂が訪れ、星野はそっとアルテミスの肩を支えながら、眠りについた彼女を教会の椅子へと横たえた。


人間とAI——。


奇妙だけど、どこか温かい日々がしばらく続いた

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