第10話 到着
「・・・」
「私は・・・」
「私は・・・!!」
「まだ・・・消えるわけにはいかない・・・!!」
アルテミスは鎌を右手で受け止め
右手からは血が滴り落ちている
(鎌を止めた・・・?
手を通過させて首だけ跳ねるつもりだったが・・・!?)
「な!?」
絶望に沈んでいた表情が、瞬く間に闘志に満ちた表情と変わる。
その力強い瞳に、ガブリエルは思わず手を離し、アルテミスから距離をとる
「私も、この世界も・・・作りものだとしても!
『心』までは作りものなんかじゃない!!」
「魂に・・・刻まれているんだ!!
私の意思で・・・やらなくてはならないことがあると・・・!」
「この先に・・・ある!私の!!生きる意味が!!!」
ー更新完了ー
アルテミスは右手の爪を鋭くし
ガブリエルをすれ違いざまに攻撃する
「ふふふ・・・無駄なことを・・・
な!?がは!!」
地面に落ちていく血液
それは、間違いなく自分のもの
ガブリエルの胸にはアルテミスから受けた傷があった
余裕の表情も束の間。ガブリエルはすぐに焦りの表情を見せた
「ば、バカな!?俺は絶対にダメージを受けないはずでは!?」
「お前の体には、『他ユーザーからの攻撃を受けない』というプログラムが施されてあった。
だからそれ以上のプログラムを組み立て、攻撃したんだ
私ならできる。プログラムすら書き換えることのできるAIだから」
「プログラムを書き換えたのか!?自分で!自分を!?
調子に乗るなよ・・・!お前は、あと一撃で終わりなんだ!!」
ガブリエルは右手を振り下ろし雷を落とす
しかし雷は自身の狙った場所とはずれ
アルテミスの後方に落ちる
「な!?外れた!??」
リュウセイが立ち上がり、アルテミスの後方から近づいていく
「アルテミス・・・」
「リュウセイ・・・」
二人は目を合わせ
「「まずは、あいつを倒してからだ!!」」
「アルテミス、まずは俺の前方を走れ!」
「わかった」
アルテミスはガブリエルに向かって走り出す
リュウセイはそれを追うように後方から走り出す
「俺を倒す前提で話を進めるなああああ!!!!」
再び雷がアルテミスめがけて落ちるが
全て直前で外れてしまう。
「なぜだ!?アルテミス・・・お前、他にも何かプログラムを書き換えたのか!?」
「私がいじったのは、お前の不正に対する書き換えだけだ」
「そんなことが・・・」
アルテミスはガブリエルの間合いに入り、攻撃を仕掛けるが
「くっ・・・捌くので精一杯か」
ガブリエルの能力は最大限まで強化されている。
そして熟練の技術
攻撃が通るとはいえアルテミス単体で撃破は困難だろう
そしてリュウセイも追い討ちをかけるように刀を振るがすり抜けてしまう
「ちっ、やっぱり俺の攻撃は当たらないか」
「近づきすぎたな!今度こそ雷を当ててやる!!」
ガブリエルが右手を上げた瞬間、
リュウセイはガブリエルの足元に刀を突き刺し
アルテミスを抱えたまま後方へ跳ぶ
「さて、雷回避のネタばらしだ。このゲームにおいて雷は・・・
金属に優先して落ちる!!」
「な・・・!?」
気づいた時にはもう遅い
ガブリエルが放った雷は・・・
足元に突き刺した刀めがけて落ちる
「がああああああああああ!!!」
自身の放った雷に刀もろとも直撃を受けるガブリエル
それは、間違いなくダメージを受けている
「お前が雷を放つ瞬間、俺は刀をアルテミスの真後ろに突き刺し
それを避雷針がわりにしていたのさ。それにしてもちゃんと効いてるようだな。耐性とかもなくてよかった」
「ああ、あいつが攻撃をすりぬけるのは、『他』ユーザーの攻撃だから」
「なぜだ!そんなマニアックな仕様・・・ゲームスタッフの俺ですら知らないぞ!」
「よっぽど余裕がないようだな。自ら正体を知らせてくれるとは
雷回避の経験があってよかったよ。
このゲーム、どれだけやりこんだと思ってる・・・」
「リュウセイ、お前は・・・」
昨日のリュウセイと女性との会話を思い出す
(大丈夫だ。ナガレはお前を傷つけたりしない。それどころか、お前を守ってくれるかもしれない。)
(『ナガレ』さんは刀を使う冒険者で、素早く、攻撃を当てるのが不可能と呼ばれる見切りの天才だったんです。
中でも雷が鳴り響く嵐の中で全ての雷を避けたと言うのは今でも伝説として語り継がれています。)
「ランキングNo.1 、ナガレ・・・」
「【練気一閃】!」
リュウセイはオーラを込めた拳をガブリエル足元に打ち込む
凄まじい衝撃が地面を揺るがし、硬い大地がひび割れ、蜘蛛の巣状の亀裂が瞬く間に広がる。割れた地面が持ち上がり、砂煙が激しく舞い上がった。
「な!?」
ガブリエルは崩れる地面では立つことができず倒れ込んでしまい
手に持っていた鎌を手放してしまう
「アルテミス!!」
リュウセイはアルテミスに目で合図を送る
「・・・ああ、わかった」
「おのれ・・・」
ガブリエルは崩れた足場から体勢を立て直した時、目の前には
自身が持っていた鎌を奪ったリュウセイの姿があった
「なあ、スタッフさん・・・一つ聞かせてくれ
あんたが持ってた鎌、俺が手にした場合、お前に攻撃は通るのか?」
「な・・・」
ガブリエルは動揺する
自身は『他』ユーザーからの攻撃を受けないというプログラムを組んでいるが
先程まで自分が持っていた鎌、第三者が手にした場合どうなるか
(た、多分攻撃は通用しないはずだ・・・
だけど・・・確証が持てない・・・!)
「なんだ、わからねえのか。
じゃあ、試してみるか。お前の首を狩って」
「ぐ・・・!」
「逃げろ!アルテミス!!」
動揺したガブリエルの隙を突いて指示を出す
その合図と同時にアルテミスは背を向け走り出す
(な!?だが、焦ったようだな・・・
アルテミスがリュウセイから離れたのであれば雷を直撃させることができる!)
ガブリエルは右手を上げ、雷を落とそうとした時・・・
リュウセイはガブリエルの首をめがけて勢いよく鎌を振り下ろしてきた
(・・・!?だ、大丈夫だ・・・。
俺に攻撃は通用しない・・・!
アルテミスに雷を当てれば俺の勝ちだ・・・!)
(だけどもし・・・攻撃が当たったら・・・
・・・!!)
「うおおおおおおおおお!!」
咄嗟にガブリエルは雷を取り消し
姿勢を低くしリュウセイの攻撃を回避する
「はあ・・・はあ・・・」
「へへ、スタッフさん、あんたも反応がいいな」
(まずはこいつ・・・リュウセイを倒す!)
(・・・・・・倒す?こいつを??)
(どうやって!!!!???)
(雷は避けるし鎌も奪われた・・・!)
自分は攻撃の通らない無敵の設定
アルテミスはあと一撃を与えれば倒れる
圧倒的有利な状態にも関わらず
勝てる方法が見つからない
負けようがない戦場に出たつもりのガブリエルの表情が
次第に・・・次第に・・・恐怖に移り変わっていく
「おらあああああああ!!!」
リュウセイは拳を再び地面に叩きつける
今度は地面を崩すためでなく
粉塵を舞わせるために
「目眩しだと!?小癪な!!」
「!?」
粉塵から鎌が大車輪の如く回転しながらガブリエルに向かう
しかし、その鎌はガブリエルの体をすり抜ける
「ふ・・・ははは!やはり俺の予想通り鎌は通用しなかっ・・・
・・・え?」
ガブリエルが気づいた時には
自身の腹部を貫くアルテミスの姿があった
「な・・・何が?」
粉塵が薄れ、リュウセイが姿を現す
「何が起こったのかわからない顔してるな。説明してやる」
「俺がアルテミスに『逃げろ』と言ったのはブラフだ。
そう言ってアルテミスへの意識を薄くさせ岩陰に隠れさせた。
そして俺が投げた鎌の影にアルテミスを移動させ、お前の体を貫いた」
「攻撃を与えられるのはアルテミスだけだからな」
ダメージの限界を超えたガブリエルは自身の敗北を悟る
「ありえない・・・我々天使・・・いや、ゲームスタッフが・・・全員敗れたのか?
一人のユーザーと一つのAIに・・・」
「能力も・・・設定も・・・最強にしたのに・・・」
ガブリエルの姿は徐々に薄くなり、消滅した
「・・・ふう。」
今までにない強敵
それを打ち負かし安堵の息をつく二人
「アルテミス・・・記憶は戻ったのか?」
「断片的だが・・・あと少しで全てが思い出せそうだ。
リュウセイ・・・何も言わなくていい。真実は私が見つける。
お前のことだ。きっと色々考えてくれてるのだろう」
「・・・」
アルテミスは床に転がったねこねこのぬいぐるみを見つめている
ぬいぐるみはもうすでに半分以上が焼き焦げてしまっていた
「すまん、ねこねこを守れなかった・・・」
リュウセイは頭を下げる
「いや、ねこねこはまだ生きてる
ねこねこも、『守ってくれてありがとう』って言ってるぞ」
「え?」
「あとは、私が直す・・・いや、治すんだ」
アルテミスはねこねこをぬいぐるみを抱き抱えたまま・・・
「行こう。北の教会へ
そこに全ての答えがある」
リュウセイとアルテミス
二人は再び歩を進める
ーオンラインゲーム ステラ・ストリア開発局ー
「バカな!ガブリエルまでやられるなんて!!」
「アルテミスも初期化前の記憶も取り戻そうとしています・・・」
「またあの暴走を起こすのか・・・?」
「さらにアルテミス『まで』自身のプログラム書き換えまでするとは・・・」
「このAIはもはや危険な存在・・・下手したら現実世界全ての脅威になる」
「恐らく再度初期化をしてもすぐに記憶を取り戻しそうですね」
「やむを得ません。このゲームを終了させましょう・・・」
・・・・・・・
荒野を歩き続けるリュウセイとアルテミス
そして二人はようやく辿り着いた
北の教会へ・・・
教会は静かな大地に佇む巨大な建物だった。
白い壁は歴史の重みを感じさせ、入り口の大きな扉は厳かな雰囲気を漂わせていた
「はあ・・・はあ・・・」
アルテミスは頭を抑え、目は虚となっており
足元はふらついているようだった
「だ・・・大丈夫か?」
リュウセイはアルテミスの容態を気にかける
「大丈夫・・・と言ったら嘘になる
私の中で・・・色々な物が込み上がってくる
真実はきっと・・・重いものなのかもしれない・・・。」
「だけど・・・知りたい・・・。知らなくてはならないんだ。
私が・・・私達が前に進むために・・・」
二人は教会の扉を開ける
玄関、廊下を進み、一番大きな扉を開けた先には礼拝堂があった。
礼拝堂は静寂に包まれており高い天井が光を拡散し
柔らかな光が彫刻された壁や聖なる彫像を照らしていた。
「あ・・・ああ・・・」
(ここを私たちの家にしようよ!・・・)
(また明日、会おうね・・・)
(私が親としていろいろ面倒見るわ・・・)
断片的に蘇る微かな記憶
アルテミスはふらつきながらも導かれるように礼拝堂の奥に進んでいく
そして講壇に辿り着き、何かを探し出す。
「あ・・・あった・・・。」
アルテミスが手にしたものは一つの画像
いや、誰かが描いた『絵』だろうか
そこにはアルテミスともう一人の少女が恋人繋ぎで描かれていた
その少女は金髪でショート アルテミスとは対照的に白を基調とした服装
そして・・・
アルテミスの目から涙が次々と溢れ出す
「イリス・・・」
「そうだ・・・思い出した・・・。
私・・・私は・・・。」
礼拝堂の扉が開く
「久しぶりね・・・アルテミス。覚えてるかしら?
以前も、似たようなこと言ったっけ・・・。待ってたわ」
一人の女性が礼拝堂に入ってくる
それはメガネで魔法使いの風貌した
小柄の女性だった
「ホシノ・・・」
メガネの女性は喋り続ける
「それと、あなたは、元ランキングNo.1のナガレ、今はリュウセイという名前なのね。アカウントの作り直しは本来N Gだけど黙認しておくわ」
「あなたは・・・?」
「私は、この世界、
いや・・・ゲームの開発者の一人 星野」
「そして・・・アルテミスの生みの親でもあるわ」
物語の大きな区切りです