もし僕がラノベの主人公なら2
その後は、机をくっつけて教科書を見せたり、校内を紹介したり、一緒に昼ご飯を食べたり…なんてことはなかった。
(まあ別に期待してないけど…)
彼女はといえば、席を囲まれて質問攻めされてたり、他のクラスから覗いてくる男子がいたりと、一日で学校中の注目の的となった。
少し茶色がかった髪色のショートヘアーそして眩しいくらいの笑顔、まるで…そう、例えるならかの人気ラブコメ「心が好きと叫んでいる」通称「ここ好き」に出てくる天真爛漫なヒロイン落合美雪のような…佐藤美咲はこれからカースト上位の座を難なく手に「ねえ」するのだろう。そしてあのイケメン…浜城優也と「おーーい」結ばれるのだろ「ねえってば!」…う?
「僕ですか?」
「そうだよ君だよ隣の席の翔くん」
いきなり下の名前呼び…やっぱ陽キャこわ
「朝のお礼したいから放課後どっかカフェでもいかない?奢ってあげるよ?」
「お礼なんてそんな…ぼっ僕なんかよりもさ、浜城くんとかは?朝、助けられてたよね?」
「私チャラチャラした男ってキラ〜い」
おい、後ろにいるぞその浜城くんが!彼は何やら話しかけようとしてたみたいだが、その辛辣な一言に刺されてしょんぼりといった表情を浮かべて去っていった。なんと哀愁の漂う背中だ。
「ね!良いでしょ?おねが〜い」
いやいやいやいや僕みたいなモブがストーリーに割り込むわけには行かない。ここは丁重に断ろう。
「ありがたいけど」と言いかけたとき、彼女のポケットからはみ出ているスマホとそれについているキーホルダーが目に入った。
(ここ好きの神谷のキーホルダーだと…?)
なぜ彼女が?いやまさか。何かの見間違え…?と思いもう一度目をやるが、やはり見間違えなどではない。
その時ふと、彼女が小さな声で、「君にしか頼めないことがあるの」と囁いてくる。
考えを巡らす…が、もう気になってしまった。そしてもしかしたら、彼女とここ好きについての談義を交わせるかもしれないと思ってしまった。万年友達がいない僕にとってそれはとても魅力的に映り…そして僕は…
「…わかりました」と声を出していた。
そんなこんなで…メッチャクチャお洒落なカフェにやって参りました!うん!
(やっぱ帰りたいかも…)
「私アイスココアでー!翔くんは?」
と聞いてくるので僕は適当に、「あっおんなじので」と言った。
店内は白を基調としたデザインにお洒落な装飾がされており、お洒落なジャズもかかって観葉植物なんかもあったりして。ザ・意識高い系みたいな雰囲気だ。僕たちはそんな店内の窓際の席で向かい合う形で座っている。
「それでは早速本題に入るんだけど…」
ゴクリとつばを飲み込む。サラッと言ってたけど僕にしか頼めないお願いって…何だ?僕は何か特別なスキルなんて持ち合わせてないぞ?
「助けてください陰野さ〜〜ん!後さっきは急に下の名前で読んでごめんなさい〜!」
「え?待ってくれ色々と整理がつかない」
どういうことだ二人きりになった途端性格が変わったぞ。
「まずその話し方は?あと呼び方は何でもいいですよ」
「あこれが素です私もド陰キャなんで」
私もって言ったぞ、サラッとこいつ一日で僕のことをド陰キャ認定してやがった。
「私前の学校では全く友達いなくって…それで転校するってなって、今度こそは、高校デビュー成功させようって思って…ここ好きの美雪ちゃんみたいに振る舞ってたんです。自転車も苦手だけど…美雪ちゃん乗ってたし」
意外と安直だなこいつ。そこまでする意味はないんじゃないか?
そして一番気になるのが…
「助けてほしいっていうのは?」
「はい、美雪ちゃんみたいに振る舞ったのはいいんですけど、こんなに上手くいくと思ってなくて…囲まれたりするのすっごく苦手なんですよ。だから〜なんというか、程よく友達作って程よく青春できたらいいなって…つまり〜ええと〜何とかしてください!」
丸投げしやがったこの女。しかしだいぶ難しいこと言ってないか?なんだよ程よく青春って。と言うか…
「そもそもなんで俺に?」
「そっそれは〜ええと〜…オタクの波動を感じたから…的な。っと言うか…あっそういえば!」
と言って何かをポケットから取り出す。
「朝、絆創膏と一緒に落としてました!」と言い僕にそれを差し出す。
「あ、美雪ちゃんのキーホルダー!なくしたと思ってたらその時に一緒に落としてたのか!」
コクコクと彼女は頷く。と言うかダサいな僕。ちなみに、ここ好きにおいて美雪ちゃんと、彼女が持っているキーホルダーの神谷くんは作中で結ばれている。ちょっと…ちょっとだけだが、流石に僕も運命的なものを感じずにはいられなかった。
なるほどつまり彼女は、高校デビュー成功させようと思って張り切ったら成功しすぎちゃったわけだ。そして僕になんか何とかしてくれと。
「知るか!帰る!」と言って席を立つ。
「え酷くない!?」
うるさい自業自得だろ。僕はモブキャラのまま高校生活を終えるんだ。
「だって僕みたいなド陰キャのモブ野郎にできることなんてあるか?」
まあないだろう「ある!」
「わっ私の!とっ…友達に…なってくださ…い」
「友達…?」
それは、いいのだろうか。仮にも、こんなに高校デビュー成功した学校中の注目の的と僕が、友達…?面倒ごとの予感がする…それもとてつもなく。でも…
(友達…しかも、おんなじラノベを読んでるオタク友達…しかも、中身はともかく外面は超美少女)
そんなの魅力的に映らないわけがない…高校での恋愛、青春なんてのは面倒の連続だ…ラノベのように全部うまくいくわけなんてないでもやっぱり考えてしまうもし僕が…ラノベの主人公なら…
「…わかった。えっとこれからよろしく?佐藤さん」
「ありがとう!美咲でいいですよ!わたしも翔くんと呼びますので!」
と言い満面の笑みでこちらを見る。そんな彼女に僕は…
ドクンッッ
恋に落ちる、音がした。