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弥助 Powerd by 鳥取ジョン  作者: 元野ハイジ
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1582年 春「脳内の声」

 頭の中に湧いたジョニー・ロックリンを名乗る存在に、俺は疑問をぶつけた。

(俺を侍にするって……、なんのために?)

(元々は、三浦按針より前に、白人の侍がいたことにして、サムライ概念の書き換えを図るつもりだったんだが……、今の時代には黒人である方が、クズみたいな左翼連中には受けが良いんでな。お前は記録も少ないし、ちょうどいいんだ。まあ、何を言っているかはわからんだろうが)

 質問に答えるつもりはあるんだろうか? まあ、もしも俺が転生者でなければ、たしかに何を言っているかわかるはずもない。そして、脳内で問い掛けが重ねられた。

(実際のところ、どうなんだ? 今はいつで、どんな身分だ)

(今は、天正十年。武田討伐が済んだところだ。俺は信長公の側に仕える小者だな)

(サムライではないのか?)

(苗字も与えられていないし、誰を指揮するわけでもない。侍でも武家でもないな)

(くそっ。やっぱりそうなのか。……まあ、いい。こうして道筋が開いた以上、アニメと映画が実現すれば、過去も変容するはずだ)

(なんだって?)

(わかるはずもないが、説明してやろう。私は日本の日ノ本大学という二流大学で准教授をしていてな。元々は歴史なんて興味なかったんだが、あいつら、外国人が日本の歴史に興味を持っているというだけで、舞い上がってたからな。まったく、底の浅い連中だ。……お前の記録は、後世では断片的なものしか残っていないが、それだけに好きなようにいじれるんだ。日本語での論文こそ、日ノ本大学の本流でない連中に査読で邪魔された関係で、曖昧にしか書けなかったが、英語の書籍ではお前の侍としての人生を確定させてやった。奴らが英語の書籍なんて読めるはずもないからな)

 なにやら穏当でない話が並べ立てられているが……、査閲やらなにやらの概念を理解していることは、明かす必要もないだろう。日ノ本大学は……、アメフトのタックル問題やら薬物汚染やら、各種の不正会計やら理事の解任騒動やら、様々な問題で世間を騒がせていた記憶がある。それくらいにガバナンスがガバガバであるとしたら、変なのが紛れ込んでもおかしくないのかもしれない。

(よくわからないが、俺の経歴を書き換えてるってことか?)

(おお、そのくらいは理解できるか。ただのでくのぼうじゃないようで助かるよ。お前という黒人侍を発掘したという実績を確保すれば、調子に乗ったこの連中の歴史を好きなように書き換えてやれるってもんだ。まあ、ほとんどが英語もろくに使えない連中が、大きな顔をしている方がおかしいんだからな。偉大なる我が大英帝国を差し置いて、天皇ごときがエンペラーを称するなど片腹痛い)

 ……なかなかの差別主義の持ち主のようである。こうなると、俺が日本人としての前世知識を持っていることは、悟られない方がいいだろう。

(それで、俺に何をしろって言うんだ?)

(お前がサムライとして活躍したという私の著作は、既に世界に浸透している。さらには、私の論文や著作を引用する形で、ウィキペディアを書き換えてきたのも、効いてきているはずだ。小説が書かれているし、映画の企画が持ち上がっている。日本の馬鹿なテレビ番組も、弥助はサムライだったと喧伝している。こちらで多くの人間が、弥助がサムライだったと信じれば、過去も書き換えられる。……その状態で、お前が活躍すれば、史書にも残って盤石になるはずだ。弥助よ、サムライとして名を残すんだ)

 言いたいことだけ言って、脳内にあった異物感が唐突にかき消えた。そんなこと言われても……。

 ため息を吐くと、徳川方の小者がびくっとしたのがわかった。まあ、俺の容姿と体躯からして無理もない話である。

 一つ伸びをして、俺はまた富士山に視線を向けたのだった。



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