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第7話~アシュリー・タルリング~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。

 そんな俺の気持ちがわかるかのように、満面の笑みを見せるアッシュ。


「ありがとうございます。それと、僕の本名はアシュリー・タルリングですよ?」

「……すまない……これからは気をつける」


 少し申し訳なさそうな顔をすると、それを見たアシュリーの表情が明るくなる。


「よろしくお願いします」


 アシュリーはそう言って右手を差し出してきた。

 応えるために俺も右手を伸ばし、手を握り返す。


「ふむふむ。打ち解けたようでよかったわい」


 俺たちの握手を眺めていたザックさんが顎鬚をさすりながら目を細める。


「アシュリーには週に1度程度、ラビへ魔法を教えるように頼んである」

「そうなんですか!?」


 正直驚いた。

 俺の知っているアシュリーが人に何かを教える側になるとは思ってもいなかったからだ。


(高飛車だったこいつがどんな経緯でここに?)


 そんなことを考えていると、今まで笑顔だったアシュリーの顔が一瞬で曇ったことに気付く。


(なにか事情がありそうだな……ザックさんのいないときに話を聞いてみるとしよう)


 アシュリーの表情を伺っていたら、急に視線が合った。


「ラビさんだからって遠慮しませんよ」

「厳しい指導を頼む」

「わかりました。僕の指導についてきてくださいね」


 俺の言葉に笑みを浮かべるアシュリー。

 それは、まるで俺をからかうような笑みに見えた。


「あまり脅すなよ。こっちは魔法初心者なんだぞ」


──コンッコンコンッ


 俺が言い終えると、再び扉がノックされた。


「失礼します。学校長、そろそろラビ……先生のご紹介の時間です」


 扉の先にはフランシスがおり、部屋に入ってきたと思ったらすぐそう告げてきた。


「連絡ありがとうフランシス……さて、ラビ、行くとしよう」

「はい。よろしくお願いします」


 その言葉に頷き、俺は部屋を出てザックさんの後を追って歩く。


(いよいよ生徒の前に出るわけだな……とりあえず最初は挨拶か? 紹介だけされるのか?)


 紹介の時に俺が何をすればいいのか聞いていなかった。


(まぁ、なんとかなるだろう)


 国王から白銀冒険者章を下賜されたときもまったく緊張しなかった。

 俺は戦艦タートルの砲撃など、守れなかったら多数の仲間に被害が及ぶ場目を何度もこなしてきているためだ。


(挨拶をするにしても、その程度なんでもない)


 そんな楽観的な気持ちのまま、ザックさんが大講堂への扉を開ける。


──キィィッ


「こ……これは……」


 目に飛び込んできた光景に、思わず間抜けな声が漏れた。

 黒いローブに身を包んだ集団が一斉にこちらへ視線を向けてくる。

 生徒の数は計り知れず、ざっと千は軽く越えてそうだ。


「下級魔法学校の生徒総数は2751名じゃ、この中の何人がお主の生徒になるのかのう。少し待っておれ」


 ザックさんがそう言うなり扉から離れていき、生徒の前方にある壇上にあがり、中央にある教壇へ向かう。


(まさかこんなに多くの生徒がいるとは思わなかったな……想像以上だ)


 これだけたくさんの生徒がいるとさすがに圧倒されるものがある。


──ドクン、ドクン、ドクン、ドクン


 壇上の隅に立っているだけなのに、何故かうるさいほど心臓が脈打つ。


(なんなんだこれは……立っているだけだぞ!?)


 俺の異変を他所に、ザックさんは教壇に立つと大きく息を吸い込んだ。


「入学式という晴れの日に、皆へとても嬉しい知らせがある!!」


 ザックさんのの言葉を聞いた周りの生徒たちがざわつき始める。

 その一声でさらに俺へ視線が集まり、鼓動が激しくなってきた。


(クソっ、なんだこの状況はっ!!)


 心臓の音が耳元で聞こえているのかと思わせるくらい煩い音になり、自然と顔が赤くなっていくのがわかるほどだ。

 みんな興味津々といった様子で俺を見てきている。


(ただ見られているだけだというのに汗が止まらない!!??)


 このままではマズいと気持ちを切り替えていると、ザックさんがこちらを向いてきた。


「王国の英雄、ラビ・グライダーを教師として招くことになった!!」

「「「「「うぉぉぉぉおおおお!!!!」」」」」

「「「「「きゃぁぁぁああああ!!!!」」」」」


 ザックさんが言い終わる前から、信じられないほどの喧騒に包まれた。

 俺の鼓膜を突き破るかのような声が響き渡り、同時に全身が粟立つ。


(えぇぇえええええええっ!!??)


 動揺する心を押さえつけ、なんとか思考を巡らせようとした。


「ラビ先生!!!!」

「すごい、本物だっ!!!!」

「こっち向いてー!!」


 女子生徒の黄色い声を筆頭に、様々な声が聞こえてくる。


(なんでここまで人気なんだ……俺は防御専門だぞ!?)


 戸惑いながらも周囲を見渡す。

 教壇に立つザックさんにアイコンタクトを送ったところ、ザックさんの口が動く。

『どうぞ』と動くのが見えた。


(この状況でそこに立てと!!??)


 ザックさんはにこやかに教壇の前から退き、俺に手でそこを示してきた。

 口の中はカラカラに乾き、全身からは冷や汗が噴き出している。

 心臓も激しく動きすぎて破裂しそうだ。


(魔法のためだ……行くぞ!!)


 乾いた口の中で生唾をゴクリと飲み込み、俺は一歩ずつ教壇へと進んでいく。

 すると誰が言ったわけでもなく、徐々に歓声が止んでいった。

 静まった室内には、コツコツと俺の靴音だけが鳴り響く。

 何を言うかも決まらないまま、俺は教壇に立ってしまった。

お読みいただきありがとうございました。

次回も書き上げたら更新させていただきます。

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