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プロローグ①~ラビ・グライダー、冒険者を辞める~

気分転換用の物語として書き始めました。

気長に待っていただければ幸いです。

「ローマン、俺は冒険者を引退する。この白銀等級章も返還させてもらうぞ」


 そう言って、俺は自分の首から下げていた白銀のブレスレットを外して机の上に置いた。


【白銀級冒険者:ラビ・グライダー】


 それは、俺が白銀等級になった時に国王から授与されたものだ。


「待ってくれ! 頼むから考え直してくれ!」


 俺に向かってそう叫ぶのは、冒険者ギルドの長を務めるローマンだ。

 普段はほとんど表情を崩さないローマンも今は焦りの色が見える。

 白髪交じりの髪をかきむしりながら、額に汗を流して俺を引き留めようとしていた。

 だが、俺もここで引くわけにはいかない。


「悪いな、もう決めたことなんだ」

「なんでだよ……お前の助けを必要としている人は世界中にいるんだぞ……」


 ローマンは力なく椅子に座り込むと、頭を抱えながら深いため息をついた。


「……すまない」


 俺が謝ると、ローマンは頭を振って立ち上がる。


「どこへ行くのかだけ教えてくれ頼む」


 真剣な眼差しで見つめられる。

 俺は少し考えた後、こう答えた。


「やりたいことがあるんだ。どこに行くかは秘密にさせてくれ」


 それを聞いたローマンは驚いた表情を見せたあと、再び深くため息をつく。


「そうか……分かったよ。ただし、お前が王から賜ったこれを俺がこれを受け取ることはできない」


 ローマンは俺が机に置いた白銀等級章を差し出してくる。


「もう俺には必要ないんだ。ローマンが預かっていてくれ」


 俺は首を振って、受け取る意思がないことをはっきり伝えた。

 ローマンはしばらく悩んだ様子だったが、最終的には受け取ってくれた。


「わかった。これはお前が戻ってきたときのために俺が預かる」


 これで、俺のやるべきことはすべて終わった。

 あとは旅立つだけだ。


◆◇◆◇◆


 白銀等級章をローマンに預かってもらってから数日後。

 俺は緊張しながら、王都にある下等魔法学校へと向かっていた。

 これから入学試験を受けるのだ。


(歩いているだけで呼吸が乱れる……ドラゴンの前に立ってもこんなにプレッシャーがかからなかったぞ)


 今までで一番と言っていいほど落ち着かない。

 心臓の音がバクバクと音を立てているのが聞こえるほどだ。

 この国では、15歳になると国民全員が魔力測定を行うことになっている。

 そこで、魔法の適性のある子供は無料で国が運営する下等魔法学校に入学し、魔法を習うことができるのだ。


(俺には適正はまったくと言っていいほど無く、魔法を習うにはこの方法しかない)


 下等魔法学校に入学する手段は、推薦以外にもう一つある。

 それは、制度だけがあるような試験に合格し、入学する方法だ。


(俺が冒険者をしているときもこの方法で入学したなんて聞いたことがなかったけどな)


 魔法の適性が少しでもあれば入学できる下等魔法学校に試験で入学しようと思う人はいない。

 なぜなら、適性の無い者はどんなに努力しても魔法を使うことができないからだ。


(今の俺は違う。【イージス】の魔力を使えるから、きっと魔法も使えるはずだ……)


 そんなことを考えているうちに、俺は目的地へとたどり着いた。

 敷地はかなり広く、まるで城のような見た目をしている。

 敷地内には様々な施設があり、食堂や図書館、体育館などもあるようだ。


(まずは受験票を見せて中に入るんだったな)


 目の前にそびえ立つ大きな建物を見上げながら、ゆっくりと深呼吸をする。


「よし、行くぞ!」


 気合を入れなおして、俺は中に入っていった。

 中に入ると入口には受付が設置されているのだが、そこには誰もいない。

 木のテーブルを置いて、正面に【入試受付】と書かれた紙が貼ってある質素な受付だ。


(毎年誰も来ないんだからこんなもんか)


 俺は形だけ用意された受付へ近付いた。

 テーブルの上には『入試受付』という用紙があり、名前を書く欄があった。

 紙の横にペンも置かれていたため、俺は名前を記入した。

 すると、すぐに後ろから声がかかる。


「ねえ、ここが下等魔法学校の入試受付?」


 振り返ると、そこに立っていたのは俺より一回り以上年下の女の子だった。

 髪は金色で肩までの長さ、目は青色でとても綺麗な顔立ちをしている。

 俺の胸程までしか身長がないが、どこか不思議な雰囲気を感じた。

 服装を見る限り貴族令嬢だろう。


(貴族の少女? どういうことだ?)


 俺以外の人がこんなところにくるなんて思ってもみなかったが、とりあえず返事をすることにした。


「ああ、そうらしい」


 俺が答えると、彼女は安心したようにホッと胸を撫で下ろす。


「よかったぁ! 本当にやっているか怪しかったけど、制度は残っていたのね」


 少女は嬉しそうに笑うと、テーブルの上にある紙へ視線を移した。


「ここに名前を書くのね……えっ……私以外にも受ける人がいる? ラビ・グライダーってどこかで聞いた事あるけど……」


 少女は俺の名前を読み上げ、首をかしげている。

 何かを思い出そうと悩んでいる少女と目が合ったので、自己紹介をしようとした。


「まあいいわ。会場へ行けば会えるでしょう。名前を書かせてもらうわね」

「……そうすると良い」


 出鼻をくじかれた俺は名前を言わず、少女が書き終わるのを待った。


【バーバラ・ガリアッツォ】


 俺は少女の書いた名前を見て目を見開く。


(ガリアッツォ? なんで公爵家の子供が下等魔法学校(こんなところ)に?)


 公爵とは王族に次ぐ地位にある爵位のことだ。


(まさか、何か裏があるんじゃないだろうな……)


 警戒していると、バーバラが俺へ期待を込めた視線を送ってきた。


「書き終わったから案内してくれる」


 どうやら、バーバラは俺が誰なのか知らないようだ。

 それに加え、俺を学校の人間と勘違いをしているらしい。



(ここで騒がれても面倒しかない……あれか)

 俺は進行方向と思われる矢印が書かれた紙が貼ってあるのを発見したので、バーバラを誘導する。


「ああ、一緒に行こう。あっちだ」

「助かるわ」

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