20.『空間をあらわすもの』part 4.
教会に帰還した人間たちは、そのまま王城に移住することを希望した。まあ、普通に考えたらそうだよね……幸い家族単位で離ればなれになったっぽい人はいなかったので、軽く面接して問題がないか不満や下心を確認。怖がってる人はいっぱいいたけど、一応テロリストみたいな人はいなくてホッとする。ついでに西の森に行きたい人を募集したけど、ディキスさんとグリハルバさんをトップに考えてるって言ったら、逆に誰も手を挙げてくれなかった。なにゆえ……
結局、私イチオシの西の森プロジェクトに賛同してくれたのは工作員組だけかぁ……面談を終えて廊下に出ると、公爵様がいたので声をかける。なぜか公爵様は、私の顔を見ると真っ赤になって挙動不審になった。
「あ、う、み、ミド……!」
「どうされました?」
「いや、なんでもないっス」
まさか、ロプノールの野郎になんか吹き込まれたのか?? あいつ結構危険人物だからなぁ……今んとこメガラニカ王とツートップで精神破壊王って感じがしている。公爵様も見た感じ、完全になんか影響されてるし。
「ホムンクルス姫が待ってるんじゃないんですか?」
「そ、そうっスね! ちょっと行ってきます!!」
怪しい……しかし掘り下げたら対処が必要になってしまうかもしれない。つまり教会と私の対立が明確になってしまう気がする。それはまずいので知らないふりをするしかない。帰還魔法を使うたびに逮捕・監禁されたら困るしね。まあ好感度上げても監禁されそうなところが地味に怖いけど。これまであの子は公爵様に執着してたのが、たぶん私に移行してしまったんだろう。……と思う。
とりま、やるべきことは大体終わったし、西の森に行ってみよう。フワフワちゃん暇かな? 誰か強い人が一緒に来てくれると助かるんだけど……
☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜
「す、すみません、他に当てがなくて……」
「問題ない。気になることもあったからな」
フワフワちゃんも執事さんも忙しいみたいだった。ダメ元でロンゲラップさんに声をかけたら、なぜか承諾してくれたので、助手の堕天使マルパッセさんも一緒に湖への道を進んでいる。なんかちょうど欲しい材料が西の森にあるんだとかなんとか。錬金術師って引きこもっているだけじゃないんだね……フィールドワークも結構行くんだって。そういえば冒険ばっかりしてる某考古学者もいたなぁ。っていうか教授とかって結構外に飛び出しまくってる人多かったわ。
そう考えると、この布陣はかえって良かったのかもしれない。亀島じゃ青髪悪魔の強さがいまいちわからなかったけど、お手並み拝見できるのか?! 一応、執事さんと一緒にエニウェトクさんをボコボコにしたらしいから、結構強いのかもしれない。そのエニウェトクさんも、今は堕天使マルパッセさんの中に収まっているから、なんかのご利益があるかもね。
マルパッセさんは相変わらずのファンシーピンクだけど、よく見ると結構な筋肉がついている。いっつも本ばかり読んでるのにルネサンスな体つきなのは、フワフワちゃんと互角に戦える赤髪悪魔の影響だろう。マルパッセさんがどのくらい強いのかも、実はまだ知らないのだった。ゴクリ。
前回戦ったどデカい蜘蛛とかいたらどうしようと思ったけど、それほど凄い魔物は出なくてちょっと安心。しばらくすると、森を抜けてキラキラ光る水面が見えてきた。西の森の湖って、川とかじゃなくて底の部分から湧き水が出ているらしいんだよね。だから結構な深さまで透明ですごく綺麗。
「最高の景色ですね!!」
「美しいとは思いますが……」
「ほう、お前もわかるのか。この場所……膨大な魂を感じるな……」
「えぇ?! そ、それってどどどどういう……??」
ロンゲラップさんは素早く周囲を見渡すと、地面を調べたり水のサンプルを取ったりして、私のほうを見る。
「予定している場所に結界を張れ。その中だけでも確定させよう」
何の話でしょうか……? 確定?? とりあえず言われたとおりに結界を張る。湖全体っていけるかなぁ? と思ったらいけた。ピンク色の半球が狙った空間から広がっていく。どうしても丸い形はいじれないらしく、無駄な場所まで結界内に入ってしまったけど、まあそこは仕方ないってことで。怒られたら謝ろう。指摘されるまでは知らんぷりだ。
「ほう、素晴らしいですな」
「お前、この結界はどのぐらい維持できるのだ?」
来たね! そのセリフ!! ゴッホン。
「フッ……30分は確実です!」
……あれ? 北の火山で思いついたミステリアス演出、失敗したかも。ついロンゲラップさんの前で調子こいてしまった。二人の顔が、完全にスベッた感を醸し出しているんですが……うぅ……私をひとりにしないで……
「つ、通常なら最長でも5分が限界の結界魔法を、君は30分も維持できるのかね?」
「こいつはおかしな奴だからな、さして驚くようなことでもない」
なんかやっぱり失敗したっぽいねこれ……マルパッセさんの説明によると、普通の結界は1〜2分しか維持できないものらしい。だから戦うときは、攻撃がヒットする瞬間だけこまめに出して使うものらしい。そ、そうだったのか……私ってば結界の才能があったのかな? メガラニカじゃ、3日ぐらい結界張りっぱなしだったような……
まあ、深く考えるのはやめよう。とにかく出来る。その事実だけあればいい!
「さらにおかしなことに、こいつは魂が拾える。おい、この辺に落ちている魂を探してくるんだ。可能な限りすべてだぞ」
「わ、わかりましたぁ!」
何となく犬っぽい扱いをされているような気がするけど……まいっか! 例の白い球を集めればいいんだよね。いっぱい拾って、ロンゲラップさんをビビらせてやろうじゃないの! あのポーカーフェイスを崩せるなら、どんな労働も苦じゃないね!!
☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜
「はぁ……」
「お疲れ様、君のおかげでかなりの魂が集まったようだよ。はいお茶」
「ありがとうございます……」
何だかよくわかんないけど、私には魂を光るビー玉みたいにコア化する能力があるっぽい。ロンゲラップさんもマルパッセさんも光る魂を見ることはできるけど、なぜか触れない。でも私が拾った魂のビー玉は扱える。じゃあベアトゥス様の心のコアは、触った覚えなんてないのに何で私の懐にあったのか? それはまだ、ロンゲラップさんでも解明できない謎らしい。
夕暮れまで頑張って、結果的に6000個ぐらいの魂を拾った。一体ここで何があった? この魂は人? それとも動物のもの??
「はーお腹減った……」
久々に焚き火を見ると、口の中にザリガニの思い出が広がる。
「そうか、お前は何か食べなければいけないのだったな」
「……? はい。え、まさか……?」
「これは失念。陽が落ちる前に早く狩ってしまいましょう」
「え? え? みなさんご飯食べないんですか??」
「ええ、我々は特に必要としていないんです」
「悪食のマーヤークと一緒にするな」
「あ、悪食……」
そういえば、執事さんはフツーにチョコとか食べてたなぁ……それって普通じゃなかったのか。とりあえず、お腹が減って動けなくなる前に、食べられそうなヒトカゲをやっつける。マルパッセさんが手際よく皮を剥いで、長い枝に刺して焚き火で炙る。なんかこの世界に来たばかりの頃を思い出す。あのときはまさかフワフワちゃんに出会うとは思わなかったな……
「キュー……キュー……」
ヒトカゲの肉がいい感じに焼けてきたとき、小さい生き物が私の近くで可愛く鳴いた。なんだろ? キョロキョロと辺りを見回すと、なんだか見たことのあるデザイン。
「おお、これはヒトカゲの子供ですよ」
や……やっぱり……? それって、この子の親が今……
「君、いい具合に焼けたようだよ! ほら!」
う……マジか……でもしっかり食べないと、森の中だし……ご、ごめんね……
私は、マルパッセさんに渡された串焼きを恐る恐る口に入れる。ちょっと鶏肉みたいでクセのない味。う、美味いです……ヒトカゲの子供は、つぶらな瞳で私を見上げている。うぅ……すみません……自然の恵みに感謝しますから許してぇ……
「泣くほど美味いのか? おかしな奴だな」
「うう……悪魔……」
号泣しながら串焼きを食べる私を訝しげに眺めながら、青髪悪魔は集めた魂を選り分けはじめた。
「ヒトカゲの子供を捕獲したのなら、熱源に使うといいだろう」
「……熱源?」
「ああ、この辺りは夜冷えるからな、建物の暖房にするといい」
「それって、温泉とかもできるってことですか?!!」
「温水を壁や床に流す循環システムもできるだろうな」
「そ、それ採用です! どうやったらできるか教えていただけますか?」
「教えてもいいが……面倒だな。希望の条件を出せ。設計図までなら用意してやろう」
「え、本当に?! ありがとうございます!!」
ヒトカゲのヒーちゃん救済計画が西の森ホテルに組み込まれ、私はロンゲラップさんに設計を丸投げすることになった。なんとなくイメージを伝えるために、地面にちょっとしたイメージ図を描く。
「ここが玄関でー、そんで魔車とか停められる場所とー、大広間。そんでこっちに大浴場でー、人間用の居住区も欲しいんですよ!」
「ふむ、まあ可能だな……見た目は木造でいいのか?」
「丸太っぽい感じなら、森に溶け込むかなー? と思うんですけど、石造りでも。いい感じにお願いします!」
「ふむ、いい感じとは?」
「この自然も満喫したいし……あ! 窓大きめで!! あと、この星空も見せたいです! 屋上は半球みたいにしてー。そうだ! リアルプラネタリウム作りたいですね!」
「それがお前の『いい感じ』というものなのか……ならば天体望遠鏡を設置してもいいか?」
「お願いします!!」
うわー! 漠然としたイメージが一気に具体的になってきた!!
すごく興奮して眠れない!
……なんて思ってたのに、ガッツリ寝てしまった。
「……おはようございます! 朝ですよ!」
「ん……あれ? 朝……?」
「遅い、やっと起きたのか、戻るぞ」
「あ、はいぃ!」
ここに来て、いろんな人との繋がりができた。
帰還魔法を発動すると、ちょうど教会にいたロプノール君に出くわす。何度体験しても気まずい瞬間……
「また違う男性と一緒なのですかー?」
あからさまにわざとらしいセリフを誦じながら、ロンゲラップさんを一瞥する大司教様。
「でもまあいいでしょう。今では僕の側がミドヴェルト様の帰る場所なのですから!」
「は、はは……」
中には面倒な人もいるけど、私の世界は確実に広がったと思う。
用事を済ませて裏庭のガゼボに走ると、季節の花々に囲まれて、いつもの面々が待っている。
「すみません、遅れました!」
「お待ちしておりましたわ!」
「はよう、こちらにくるのじゃ!」
「ムー!」
「ふふふ……いつもこんなに賑やかなのね」
「あ、そうだった! こちらヒュパティアさん、神国メガラニカからいらしゃった方です!」
「はじめまして」
「あらまあ!」
「よしなに」
「とりあえず座りましょう」
「ムー! ムー!」
毎日を紡ぐもの。
空間をあらわすもの。
fin
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
思いつきの見切り発車で、はじめはどうなることかと思いましたが、何とか20話にたどり着くことができました。
当初の予定どおり、ここでひと区切り付けさせていただきます。
妄想が浮かぶままに、魔国とそれを取り巻く世界を文章化させていただきましたが、どうにか空間を明確に定義できたような気がします。……できてないかもしれませんが。
来月から性懲りもなくシーズン2を投稿する予定ですので、またご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。
追記(2023.11.1)
「空間をあらわすもの2」はコチラ↓
https://ncode.syosetu.com/n9039il/




