20.『空間をあらわすもの』part 1.
※長いので分割します。
「統率者たるロワがお呼びです」
王城の自室で寝転がっていると、執事さんがやってきた。今は、ロンゲラップさんがヒュパティアさんのホムンクルスを作っている最中で、例の安定待ち。公爵領組は帰途についていて、あと5日くらいで王都に着くらしい。私はロンゲラップさんがペンダントに収納できるようにしてくれたベアトゥス様の心のコアを、恐る恐る首にかけて、ぼんやりと眺めていたのだった。
つまり暇なので、王様のお召しを断る理由もない。おとなしく廊下を歩いていると、マーヤークさんが口を開いた。
「ミドヴェルト様、この度はお役に立てず、誠に申し訳ございませんでした」
「え? ああ、結果オーライですよ! 気にしないでください」
「しかし、王子殿下にはきついお叱りを受けてしまいまして、あのようなご無理を……」
あ、あれってそういうこと……? あのとき、急にフワフワちゃんがついてきたのって、もう部下に任せてらんないっていう思い詰め感とかもあったのかな? フワフワちゃんがそんな……何か私のせいでみんなに迷惑かけちゃったなぁ……結局魚釣りもできなかったし、ホムンクルス姫も怒ってるかもなぁ……
「あのー、人間の待遇ってどうなるんでしょうか……?」
「おそらくですが、ミドヴェルト様に準じる扱いになるかと」
「王城で暮らす感じってことですか?」
「大した人数ではありませんからね。使われていない区画はたくさんあるのです」
「な、なるほど……」
執事さんの読みどおり、王様は人間の処遇を私に丸投げしてきた。まあ、メガラニカ王以外は言葉も通じないし、投げたくなる気持ちもわかる。魔国の人は基本強いから、あんまり下剋上の心配とかしてないっぽいんだよね。習った魔国の歴史も結構平穏な感じだったし、メガラニカみたいな粛清の嵐とかは起きてないっぽい。まあ、純粋な弱肉強食の世界だから、そんなにランキングが変わったりはしないんだろう。だいたいみんな長寿だし。騎士団の人たちより、どうやら王族は強いっぽい。そういう力の差は、なかなか覆らないようだ。
人間だと、個人の強さはドングリだし、王だって頑張れば一兵卒の力で倒せる。だから泥沼になりやすいのかもしれない。人間達が魔国でどう生きるつもりかわからないから、公爵領と王城と、あともう一個くらい選択肢もらって、一人ひとり面接して希望を聞いてみよう。まあ、非力な一般人はどうとでもなるけど……あ、西の森に村作って、狩りのときに本陣みたいにするとか?? 森の中の避暑地的な感じでホテルっぽくしたら良さそうじゃない?
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「本当に心配いたしましたわ!」
「あきれたきょういくがかりどのじゃ、むちゃばかりしおって」
公爵領からのご一行様が王城に到着すると、二人の姫君は魔車から私の姿を見つけて、すぐ駆け寄ってくれた。妖精王女ちゃんのほうは正確に言えば飛んできたんだけど。
「すみません……いろいろとドジっちゃって。魚釣りの約束したのに、申し訳ございませんでした。あ、チョコ足りましたか? 良かったら、客間のほうにご用意してますので……」
「もうそんなのどうでも良いですわ! お気になさらないで」
「うむ、しかしちょこがあるというのであれば、そちらにうつろうではないか」
ですよね……女性陣に連行されそうになるも、何とか抜け出して、騎士団と公爵様にご挨拶をする。
「いろいろとご迷惑をおかけしました。向こうのほう、どうです?」
「大丈夫、ちゃんとしときました!」
「ミドヴェルト殿の指示どおり、万事問題ございませんぞ!」
うん……疑ってるわけじゃねーけど、後で様子見に行こう……帰るときは一瞬だし。二人の満面の笑みを見て、逆に不安になってしまった。モルドーレさんは、基本的にフワフワちゃんの近くに待機するお役目らしい。公爵様はいろいろ用事を済ませたら、また領地に舞い戻る予定らしい。……姫も一緒かな? あとで聞いてみよ。
「こっちは、メガラニカ王が魔国の王様と会談して、ひとまず人間は王城にってことになったっぽいんですけど……」
「そうですな、保護の観点から見てもそのほうがいいでしょう」
「それで……分散案もありまして、希望者は公爵領に定住っていうのも考えてるんですけど……」
「それ、いいアイデアですね!」
思わず話が盛り上がりそうになるが、後ろから女性陣が私を呼ぶ。
「申し訳ございません、ではこの話は後ほど!」
久しぶりの女子会は、時間を忘れるほど楽しかった。
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「こ……これがホムンクルス……」
一応、ヒュパティアさんを完全体として復活させるまでは見せないようにと考えていたんだけど、ホムンクルス姫のとき結構大変だったし、彼氏ならまあいいかってことになった。事前に蓋開けちゃダメってことと、髪の毛が赤ちゃんってことだけ伝えて、あとは流れのままに。前回のワタワタを踏まえて、着替えとかは準備済みだ。
勇者ベアトゥスは、まだちょっとメンタルケアが必要そうなので、王城から見て線対称の離れにあたる別棟で封印中。っていうか、まあ……ただ眠らせてるだけだけど。ピンキーな堕天使マルパッセさんに看てもらっている。
「前回の実験は成功しましたけど、ヒュパティアさんの記憶とか才能がそのままかどうかはわからないので、覚悟だけしといてくださいね」
「う、わ、わかってるさ……」
「おいお前、俺の実験を勝手に失敗させるな」
「あ……すみません。そうですね、成功させましょう!」
私が思わずガッツポーズを取ると、ロンゲラップさんは無言でアトリエの窓やドアを閉めはじめた。うぅ……完全スルー……メガラニカ王が気を使って肩を叩いてくれた。案外いい奴なのか?
「な、なんかホムンクルス姫のときより、ちょっと口数が少ない気がしませんか……?」
「彼女、もともと無口だったからねぇ……」
「言葉は目安にならんからな」
瓶の中の赤ちゃんが一気に成長をはじめ、ロンゲラップさんが蓋を開けると、等身大のヒュパティアさんが飛び出す。私が素早く服を着せようとすると、メガラニカ王が制止する。仕方がないので、服を持ってロンゲラップさんの視界を遮る。
「……何をしている」
「今は恋人達の時間なんです!」
「ありがとう、もういいよ」
振り向くと、王にふわりと布を巻かれて体を預けるヒュパティアさんが、テーブルから床に降りていた。
「ここは……?」
「協力者の隠れ家さ。ベアトゥスも無事だよ」
事前の打ち合わせに従って、私たちは口裏を合わせる。ヒュパティアさんもまたこの時代の人なので、魔国とか聞いたらパニックになるかもしれない。情報は小出しにしていこうってことになっていた。私が持っていた服に着替えさせ、青髪錬金術博士の診察を受けてもらう。まだ混乱しているのか、ヒュパティアさんはとにかく目で語る感じになっていた。私も変にうるさくしないほうがいいかと思って、頷いたり笑顔を見せたり適当に合わせてみる。
メガラニカ王はすっかり恋愛モードになっていて、ヒュパティアさんの手を握って離さなかった。
ロンゲラップさんの見立てでは、問題なく成功したらしい。あとは髪が生え揃ったら完璧だ。王と打ち合わせ日時の約束だけして、何だかムードたっぷりな二人をロンゲラップさんに任せる。あとは向こうの避難民を確認しないと。公爵様が自領に戻るときに相乗りさせてもらおうかな……ダメかな? ちょっと聞いてみよう。
念のため、ベアトゥス様の様子を見に行くと、勇者はまだ寝ているみたいだった。マルパッセさんは出かけてるっぽい。もう一週間くらい眠り続けている気がするけど大丈夫かな? 一応、息はある。心臓も動いて……ぶふっ!!
「ここは魔国なのか?」
「……ふぁい」
「俺は来たいなどと言っていないぞ!」
「ふみまふぇん……ふぉーの命により」
「嘘をつくな! あいつが俺の心配などするわけがない」
「ふみまふぇん……わらふぃがやりまふぃら……」
フッと力が抜けた瞬間、筋肉から頭を抜く。あぶねー! 首引っこ抜かれるかと思ったぁ!! しかし相変わらずピンチである。いつから起きてたんだよ!! とりあえず会話で様子見するっきゃない。
「ベアトゥス様、怒ってます?」
「別に怒ってはいない」
「じゃ、じゃあ悲しいとか……?」
「別に悲しくはない」
「何かお持ちしましょうか? 食欲は?」
「別に欲しくはない」
心がないって……どうすればいいんだろ? 思わず首に下げた赤い玉のペンダントを握る。
「もう少し眠ってはどうですか?」
「そうしよう……」
あ、寝た。こ、コントローラーなの? これ……
何かヤバいものを手に入れてしまったような気がする。鉄人29号……? 後でご飯食べさせてみよ。
マルパッセさんが戻ってきたので、私は後を託して王城に向かうことにした。




