19.『メガラニカ遺跡の謎』part 7.
何もない真っ平らな荒野に取り残された私たち。
最後の最後でこうなるかぁ……
あ、そっか……あの筋肉勇者に壁投げされたときに、モバイル式転送装置がぶっ壊れたんだ……くっ……思わず、すぐ横で安らかに眠るベアトゥス様を恨めしく睨んでしまうが、今さらだ。
集中して忘れてたけど、何だかアバラの辺りが痛い。
「あの、ピーリーは……?」
「バッテリー的に最後の転送だって。あとは君に任せるってさ」
「あ、あぁ……なる……」
思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
…………
あっはははぁ〜もうだめだぁ〜!! 笑えてくるほど絶望的状況!!
いや……ちょっと待って、そう、王! メガラニカ王がいるんだからどうにかなるんじゃない?! 思わず振り向いて王に目を合わせると、彼は何かに気づいたように首を振る。
「あのスキルは、僕のものじゃないんだよ」
おおう……詰んだ……
不安を感じてざわざわし始める人々。王が首を振った辺りで、かなり動揺が広がっているようだ。もうやだ! 帰りたい! どうしたら帰れる?! 私のせいで帰れないなんて、みんなに言えないよ!!
「ムー?」
「フワフワちゃん……」
ああ、そうだ……私ったら教育係のくせに、魔国の王子をこんな場所に連れ出して……
近寄ってきた白くて丸いフワフワを思わずギュッと抱きしめると、フワフワちゃんは私にスリッと頭を預けてくれる。久々のオキシトシンだぁ……はあぁ……
よし、落ち着いた。前向きな気持ちを忘れるな!!
「絶対に帰るからね!!」
「ムー!」
これまで、私が本気で願ったことは、魔法という形で叶えられてきた。そして今、私は魔国に帰りたい。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい……頼む!!!
身を固くした私の肩に、フワフワちゃんが乗ってくる。
私は、ひとりじゃないんだ!
転 送 魔 法 こい !!!
ギュッと目をつぶって集中を高める。頭の中に、妖精王様の姿がチラッと浮かんだ。あ、でも行き先は亀島じゃなくて……
⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘
「おお……!」
周囲のざわざわが、少し喜色を含んだようなものに変わった気がする。寒々しい風の音もしない。キツく閉じた目を恐る恐る開けてみる。薄暗い……ホワイトヘイヴン城の中に転送成功か……?
「皆さん! 我らの神がご降臨されました!!」
ん? え? なん……どこ? ここ……
思わず立ち上がって辺りを見渡すと、頭上から差し込むステンドグラスのカラフルな光に照らされていることに気づく。私たちはたくさんの人に囲まれていた。見た感じは魔国っぽいけど……
「おお、神よ!」と、すんごくわざとらしい高らかな宣言を合図として、四方八方から拍手がわく。その音と光で、私はめまいがしてきた。急に立ち上がったから、圧迫されてた太ももに頭の血液が吸い取られたのかもしんない。ふらつく私をメガラニカ王が支えてくれようと手を伸ばしたけど、顔を隠した司祭みたいな人がそこに割り込んで「こちらへ」と数段高い場所にある椅子に座らせてくれた。
ぐるぐるの視界が少し落ち着いてくると、集まった人たちが興奮して私を取り囲んでいるのに気づいた。
「うわあっ!」
「大丈夫ですか? ミドヴェルト様」
「えっ? 誰?」
「僕ですよ、あなたのしもべです」
「うえぇ?! ロプノールさん? な、なんでここに?!」
「お呼びしたからです!!」
さあ、どうぞ! と言わんばかりに教会のすごくいい場所に飾られた彫像を紹介されると、それはどうやら私っぽいヴィジュアルだった。こ、こいつ……マジか……
よく見ると、ところどころに飾られた絵画もかなり私っぽい……こんなん、ストーカーの部屋じゃねえか……
なんかロプノール君は、私が「あまり公爵様に信仰心が集まりすぎないように」って、魔国の王様に注意されたことをそのまま伝えた注文内容を曲解したようだ。わざとなのか? あ、ある意味オーダーどおりですけど……怖い。もうこいつ、一周回って精神がどっか行っちまったんじゃ……? ま、まあ……私にはどうすることもできないし、あまり深く考えないようにしよう……
「そ、そうですか、それは凄いですね……」
「お褒めいただきありがとうございます!!」
いや、褒めちゃあいねえが……イチイチ否定することでもないので、頭を切り替える。やることはまだまだあるのだ。
「すみません、ロプノールさん……じゃなくて大司教様……人間の国から避難民を連れてきたので、2週間ほど隔離できる部屋と清潔な着替え、できれば温かい食事と、それから王様と公爵領への報告をお願いしていいでしょうか?」
「仰せのままに、我が慈悲深き主!」
「よ、よろしくね……」
制止する手を何とか押さえて避難組のほうに戻ると、メガラニカ王はニヤニヤしながら声をかける。
「君ィ……まさか神様だったなんて、凄いじゃない」
「……いじらないでください」
私は、フワフワちゃんとメガラニカ王を連れて、勇者ベアトゥスが眠るストレッチャーをガラガラと押しながら教会の外に出す。このままロンゲラップさんのところに行くと何か問題がありそうなので、人気のないところでみんなに目をつぶってもらって殺菌魔法を発動。一応、見知らぬ感染症対策をしてみる。
あ、そうだ、教会の中の人にもやんないと。フワフワちゃんに少し待ってもらうようにお願いして、小走りで教会に戻る。ロプノール君に人を集めてもらって、一気に殺菌魔法をかけた。ついでに風邪っぽい症状とか出た人がいたら知らせてもらうように頼んで、またさっきの場所に戻る。
王は……まあ大丈夫だと思うけど、ベアトゥス様は目覚めたらマズいかもしれない。さっきはフワフワちゃんが押さえてくれたけど、騎士さんとか呼んだほうがいいのかな?
なんて考えているうちにアトリエに到着してしまった。悩む間もなくガチャっとドアが開いて青い髪の錬金術師が顔を出す。
「あ……」
「……お前か」
ロンゲラップさんの顰めっ面が、私たちを見てさらに深く陰った。
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「……というわけで、この魂を再生していただけないでしょうか?」
「まあ、できなくはないだろう」
ロンゲラップさんは、光るビー玉を受け取りながら、小さいレンズを嵌め込んだ拡大鏡っぽいものでじっくり眺める。ホムンクルス姫を再生した実績があるので、あとは任せて大丈夫。アトリエに残りたがるメガラニカ王を魔国の王様に会わせるべく、ドアから押し出そうとしていると、青髪の錬金術博士が私を呼び止める。
「お前……またおかしなものを手に入れたようだな」
「ええ……その人はすごく頭が良い女性で……」
「いいから、さっさと出せ」
「ふぇ?」
振り向くと、ロンゲラップさんがこちらに向けて手のひらを向けている。何でしょうか……? あれか? 壊れたモバイル式転送装置のことかな? 懐を探ると、それっぽいものがあったので、差し出す。
「……あれ?」
「ふむ、面白い」
私の懐から出てきたのは、なんか赤い玉だった。うっすら光ってるから、……魂の仲間?
「これは心のコアだ」
「え? 私の?!」
「馬鹿を言うな、どう見てもここで眠っている男のものだろう」
「え……ってことは、この人しばらく目を覚まさないってことですか?」
「心がなくても動くことはできるが……まあコントロールは可能だろう」
「いろいろ押し付けてすみません! ちょっと王様のとこ行って、またすぐ戻ります!!」
念のため、フワフワちゃんに見張りを頼んで、筋肉勇者が暴れたらストッパーになってもらうことに。魂とか、心とか、何であんなにコロコロ落ちてるんだよ……メガラニカ王を魔国の王様んとこに連れて行こうと廊下を歩いていると、ヤギ系文官さんがいたので連絡をお願いする。みんながざわざわしはじめて、私たちは空き部屋でしばらく待つことに。
「君って、本当に女神様なんだねぇ」
「だから違いますって……」
「でもさぁ、君がいれば、何もかもうまく行くような気がするよ。それって勝利の女神だろ?」
「あ、そっち系の話ですか……って別に私、勝利の女神でもありませんから」
「いやぁ、僕は、神になれなかったから……羨ましいよ」
何となく寂しそうな顔をしてメガラニカ王は独りごちた。これまでずっと、この人は無力感と万能感を行ったり来たりしてたんだろう。幸せなときは無害っぽいけど、基本クズ野郎だからあんま追い詰めないようにしないとな。面倒は魔国の王様に丸投げして、私は挨拶を終えるとアトリエに走った。
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アトリエに近づくと、キャアキャアと黄色い声が響いてきた。
な、何?! とうとうロンゲラップさんにモテ期が……?!
慌ててアトリエに駆け寄ってドア近くの窓から中を覗くと、メイドさんたちが凄く楽しそうに、眠るベアトゥス様の髭剃りをしていた。中には、勇者が纏う鋼のような筋肉をすごく丁寧に拭きながら、何だかうっとりしているメイドさんもいるようだ。その人……人間なんですけど……
やっぱ魔国の人は、あんまり人間だとか魔物だとか気にしないのか……? それとも、王様が命令出してくれて、それが効いてる感じ?? ま、まあ……問題さえ起こさなければいいか……
「何をしている?」
「ひゃあ?!」
すぐ後ろに青髪メガネ悪魔の声がして、思わず背中がゾクッとする。完全に怪しい行動をしていたところを、一番見られたくない人に見られてしまった。取り繕うのも手遅れなので、ちょっと逆ギレでごまかす。
「お、女の人の声が聞こえたので、気になって覗いてたんです!」
「……フッ」
ちょ、それだけぇ?! 私の愚行を鼻で笑うロンゲラップさんの後について、慌ててアトリエに入る。メイドさん達は途端に静かになって、テキパキと用事を済ませて出ていった。おおう……プロフェッショナル。これが彼女達の流儀なのか……だが私は見てしまった……仕事を心から楽しむメイドさん達の素顔を。
全然起きないベアトゥス様に目を向けると、髭がなくなって、なんかこざっぱりとしてる。
何となく……年相応に見えるかも……?
フワフワちゃんは、アトリエの長椅子でおねむのようだった。室内はあったかいけど、背もたれにかかっていた毛布をフワッとかけてみる。あ、これロンゲラップさんの仮眠用か? まいっか、本人起きてるし。フワフワちゃんは結構頑張ってくれたもんね。今回はマジでどうなることかと思ったけど、本当に帰れて良かった。
そうだ。忘れないうちに、もっかい転送魔法の練習しとこうかな? ちょっと公爵領にいって、サッと戻って来れたら大成功だよね。などと思って、アトリエの外に出ると、意識を集中させる。地面に黄色の魔法陣が出て、私の姿は一瞬で消えた。……のだが。
「あれ? ミドヴェルト様、どうしました?」
「うえぇ?! 何で???」
飛んだ先は、なぜかロプノール君のいる教会だった。こ、これ……帰還魔法じゃねえか?! いや便利は便利だけどさぁ!! 目の前で嬉しそうに微笑む角エルフに、思わず怯んでしまう。こいつ……私になんか変な呪いとかかけてないでしょうね……? うぅ……この子マジ苦手なんだけどぉ……最低限、良好な関係を壊さないようにしなければ……




