19.『メガラニカ遺跡の謎』part 6.
公爵領の雪の古城、ホワイトヘイブン城。
考えてみたら、ここって魔国と人間の国が戦争してたときの古い砦だったっけ。だから、ここの固定座標だけが生きてたんだろう。戦争が終わってから気の遠くなるような時間、誰も気づかないような場所でひっそりと、魔国ジェヴォーダンと神国メガラニカの繋がりが存在し続けていたってことか……
「帰れた……」
思わず辺りを見回して、感慨に耽ってしまう。そんなに日にちが経っているわけでもないのにすごく懐かしい気がする。いや、調査のときにこんな古城の奥まで入ってこなかったから、正確には見覚えもない場所だけど。
「ミドヴェルト様」
吹雪の中、聞き覚えのある声が背後から私を呼ぶ。ペンダントの道が復活したのに気づいたとかかな? 嬉しくて顔が緩んでしまいそうだ。でもアドレナリンを切らしたくないので、事務的に答える。まだやることはたくさんあるんだから。
「執事さん……公爵様ってまだこちらにいらっしゃいます?」
⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘
「な……! 人間が避難してくるんですか?!」
人がたくさんいる中で話してしまったので、公爵様は演技がチグハグになっているようだ。領主館の一室で、私は公爵様と隊長のモルドーレさん、執事さん、そしてフワフワちゃんに向かい、メガラニカ国民のの避難について打ち合わせをしている。私の隣にはホムンクルス姫、そして左肩にはアイテールちゃんがしがみついていた。
「公爵様には多大なるご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません。しかし、可能な限り人命救助をしたいと思いまして……」
「いえ、全然迷惑なんかじゃないですって!」
「しかし、まだ人数も分からず、人間以外認めないという考えの人もいるかもしれないので……」
「そんなのは後で考えましょう! 必要なものがあればいってください!!」
「ありがとうございます。それでは避難民が2週間ほど隔離生活が送れるような場所をご用意いただけますか?」
「わかりました!」
「騎士団にもご迷惑をおかけしますが、ホワイトヘイブンの固定座標付近で待機をお願いできますか?」
「問題ございませんぞ! ミドヴェルト殿にご協力いたしましょう!」
「ムー!」
「ありがとうございます!」
念のため、こっちに残ってる工作員の皆さんにも話を通しておこう。などと考えながら部屋から出ると、廊下にネブラちゃんとウーツ君がいた。そういえばこの子達は寝返り組だったわ……
「あ、あの……ピーリー……大丈夫?」
「……メガラニカってどうなっちゃうの?」
お、チャラ男のウーツ君も、さすがに神妙な顔をしている。ネブラちゃんも……置いていかれたのにピーリー君の心配をしているってことは、やっぱ納得の片道作戦だったのか?
「とりあえずピーリーは大丈夫だよ。でもメガラニカは……ごめんね、こんなこと言いたくはないんだけど……もうだいぶ前に終わってたみたいなの」
「う……」
ウーツ君は、いつものヘラっとした態度が嘘のように消えて、かなりショックを受けているようだ。この子もメガラニカに帰属意識を持つことで、魔国でも平気でいられたのだろう。いまだに現実世界との繋がりを捨てられない私みたいに。
ネブラちゃんは私をまっすぐ見つめて言った。この子は強いなぁ……
「みんなを……助けて……!」
「わかったよ、任せて!!」
⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘
「……本当に行ってしまいますの?」
「そりゃぁ……だって、行かなきゃあっちの人を連れて帰れないじゃないですか」
「それはそうかもしれませんけど……」
ホムンクルス姫は、自分のせいで私が誘拐されたと思っているんだろう。かなり心配してくれた。こっちに帰ってきてからというもの、ずっと私にべったりだ。私もなんとなく身代わりになる以外の解決法あったかもなぁ……なんて反省して、姫のやりたいようにさせてしまっているが、なかなか手を離してくれない。
確かに、またあっちに行くのは嫌かもしんない。本当は夢か気のせいってことにして、何もかも忘れてずっとこっちに居たいって気持ちも少しだけあるけど……いや、ネブラちゃんにも頼まれてるから、できるだけのことはしよう。それに時間もないんだ。
「すぐ帰ってきますから!」
勢いで姫の手を振り解くと、モバイル式転送装置を発動させる。そのとき、急にフワフワちゃんが足元にすり寄ってきた。
「ムー!」
「はえぇ?!」
私たちは、一緒にメガラニカに転送されたのだった。
⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘
「すいません、戻りました! あと時間どのくらいあります?!」
ピーリー君に連れられてきたときみたいにメガラニカの外に転送されると、一発で滅亡してないメガラニカに当たった。フワフワちゃんも無事に転送されて、ひと安心。迷わず町を真っ直ぐ駆け抜けて、謁見の間に向かう。ぱっと見、まだ町の外に避難民は集まってなかったっぽかったけど、個人的にはまあゼロでも問題ない。
メガラニカ王は半笑いで忙しく何やら操作している。
ティントン♪ ティントン♪
と、なんかの警告音みたいな間の抜けたメロディが何重にも響いていて、エラーってやつが出まくっていることがわかる。それ以外はいつも通りで、赤いランプが点滅するみたいなエフェクトはないっぽい。
「はは……まさか帰ってくるとはねぇ……君だけ逃げてくれても全然よかったんだけどぉ?」
「魔国では受け入れ態勢を整えてくれてます。皆さんで避難できますよ!」
「じゃあ、町のみんなを優先で! 僕はここに居ないとダメだから頼むわ!」
「わかりましたぁ!」
とりあえずピーリー君の避難は確定させたい。ネブラちゃんも心配してるし。そう思ってテストルームに走ると、ピーリー君は最新式の治療ベッドから起き上がって身支度を整えている最中だった。
「もう起きれるの? ピーリー!」
「何だよ、戻ってきたのかよ」
「当たり前でしょう、ネブラちゃんが待ってますよ!」
「え……な、なんで……?」
「いいから手伝ってください! 町の人を集めて! 私は2階を回ってきます!」
寝てる間に滅亡に巻き込まれるのも嫌だろうし、一応、希望者がいれば連れ帰ろうと考える。そういえばベアトゥス様はどこに行っちゃったんだろ? 念のためほかの人への声がけと同時にベアトゥス様のご寝所もチェックしたけどいなかった。お墓とかか……?
謁見の間に戻ると、メガラニカ王は一心不乱に働いていた。ダウンしたモニターがさっきより増えている。この人、もしかして……
「あの、ヒュパティアさんと恋人だって聞きました」
「えぇ? 君って案外サディストなのぉ? 今、必死で忘れたいことなんだけどソレ」
「あ、すいません。私、ヒュパティアさんの魂を拾ったので……」
「は?」
王の顔色が変わる。は、早く説明しないと……本当に転生者ならわかってくれる……よね?
「あの、魔国に行けば錬金術師さんがホムンクルスとして生き返らせてくれるはず……です」
「…………」
「もしよろしければ、ヒュパティアさんとまた……暮らせると思うんです……けど……」
メガラニカ王は、すごい勢いで近づいてきて私の肩をつかむ。
「マジか?!」
「マジです……」
「よし、行こう! 今すぐ行こう! こんな国どうでもいい!」
「そ、それでですね、ベアトゥス様がいなくて……あの、お墓ってどこですか? たぶんヒュパティアさんを埋葬しに行ったんじゃないかって……」
「はぁ? ベアトゥスなんか自分でどうにかするだろ?」
「いや、でも……」
「時間ないんだよ! さあ、行こう!!」
メガラニカ王が、何の未練もないようにモニターから離れて私の手を引く。しばらく走っているうちに、王が私の肩に乗っているフワフワちゃんに目を向けた。
「ところでその子、何?」
「魔国の王子殿下です!」
「ムームー!」
王はフワフワちゃんを凝視して、気まずそうに頭をかいた。
「僕はファンシー帝国にビビっていたのかなぁ……」
「次からは、ぜひ友好ルートを選択していただきたいものです!」
「ムー!」
町の出口が近くなると、ピーリー君がだいぶ人を集めているみたいだった。ざっと数えて500人以上はいる。私はピーリー君に予備の転送装置を渡して、順次移送を開始してもらう。メガラニカ王も、人々に声をかけて順番に並ばせる手伝いをしはじめた。
「すみません、王にこんなことさせて……」
「問題ないさ、僕、会場整理の短期バイトしてたからね」
「はは……」
上機嫌で避難誘導をする王を残して、私はまたベアトゥス様を探しに行こうと町に近づくと、白っぽい土門の影から思いっきり腕をつかまれる。この筋肉は……見上げると、無表情の勇者がいた。
「皆で集まって何をしているのだ」
「べ、ベアトゥス様? お探ししておりました……メガラニカを維持することが困難になったため、希望者で魔国に避難することになりました。ベアトゥス様も……」
「魔国だと?! ヒュパティアを見捨てて魔国に逃げるってのか!!」
マズい……頑固になってるぞ……メガラニカ王は転生者だから、ホムンクルス復活案にすんなり賛成みたいだけど、この時代のこの世界の……しかも脳筋な上に妹の死に打ちひしがれて冷静じゃない筋肉勇者はどう考えるのだろうか。正直、まったく想像もつかない。もう説得は無理かも……だけど、この人だってまた妹と会いたいはずだ。
「ベアトゥス様、落ち着いて聞いてください。妹さんは魔国で復活できるんです!」
「何?! ヒュパティアに何をする気だ!?」
「王は賛成してくれました! 私と一緒に魔国へ行きましょう!」
「うるさい! 俺はここにいる! お前は私とここに居ろ!!」
「でも、この国はもう維持できなくて消えるんですよ?!」
だ、駄目かー。いや、親とか価値観ちがう人とは本当マジ話せないんだよね、私。……この人……やっぱ、ここで死にたいのかな? 戦いが好きな人ってすぐ死にたがるし……男のロマンとか、なんかいろいろあるんだろ? 知らんけど。
でもさ、妹さんだって復活した後、お兄ちゃん死んでたら悲しむんじゃないかな? 兄妹仲よくわからんけど。私はヒュパティアさんの魂を拾った責任がある。拾った魂を、私はロンゲラップさんに渡すつもりだ。いっそ、この勇者が死んだ後、魂を拾ってやればいいんだろうか? そしたら兄妹おそろでホムンクルスだ。
ベアトゥス様をじっと見る。どうすればいい? 何を考えてる? モヤモヤ出てくれ!! いや、無理に助けたいわけじゃないんだけど、絶対死なせないほうがいいって気がするんだよね。
「よせ、見るな!」
「なぜです?」
「お前は俺を惑わせる……やめてくれ……」
「じゃあ思いっきり惑っちゃってください! 全部私のせいにしていいですから、ここから避難しましょう!」
「やめろ!!」
気がつけば土壁が目の前に迫っていた。そのまま、すんごい力で叩きつけられる。たぶん手を振り払われて、ぶっ飛んだみたい。うぅ……物理防御結界あるのに……クソ馬鹿力……霞んだ視界にフワフワちゃんと勇者ベアトゥスのぶつかり合いが見えた気がした。
⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘
「ムー! ムー!」
フワフワちゃんのフワフワを顔に感じて目を覚ますと、筋肉勇者が地面にのされていた。マジか……さすがです、王子殿下。戦闘の音を聞きつけて、メガラニカ王が様子を見にきてくれた。
「うわ、仮にもドラゴン殺しの勇者だよぉ? 凄いね、この子!」
「ええ……肉体言語系なので……」
大部分の住民は、もうピーリー君が転送してくれたようだ。あとは私たち数人が残るのみ。王が最新式で高性能なストレッチャーを出してくれて、意識のないベアトゥス様を町から運び出す。私たちがギリギリで外に出た途端、滅亡していなかったメガラニカは掻き消えるように消滅した。
「消えてしまったんですね……」
「さあ、どうだかね……別の次元にいったのかもしれないし……可能性はいろいろあるよ」
「なるほど……」
あの中にあと何人の人間がいたんだろう……そもそも国民は何人いたんだ? 今さら考えてもしょうがないけど、どうしても気になってしまう。ベアトゥス様のように、ぶん殴ってでも全員連れ出すべきだったんだろうか? それは強制連行と変わらないのだろうか。どっちにしろ……もう手遅れだ。みんな好きにした結果がコレ。私はモバイル式転送装置を握る。
「じゃあ……行きます」
「オッケー! 頼んだ」
「…………」
あ、あれ? 装置が起動しない……
「もしかして……ダメっぽい?」
「え、ええと……すみません……」
ふえぇ……ツンドラの荒野に置いてきぼりだぁ…………!!




