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19.『メガラニカ遺跡の謎』part 5.

 少し落ち着いたベアトゥス様を妹さんと二人にしてあげて、私は謁見の間に王の様子を見に行った。お兄様であるベアトゥス様の話では、王とヒュパティアさんは恋仲だったらしい。さぞかし落ち込んでいるだろうから、見てきてやってくれ……と言われたんですけどねぇ……



「ああ、遅いよ君ィ、一人分、手が足りてないんだから早く手伝ってくれないと!」



 んー? まあ……ご不幸があったときは忙しいほうがいいと聞きますけど……



「あのう……大丈夫ですか?」


「全然大丈夫じゃないよォ……あ、これとこれ、あとこれ見といて!」


「私……魔国とその周辺で暮らしてたんですけど……」


「何ィ? その話って今必要?」


「どうでしょう……人間……全然見かけなかったんですよね」


「そうなんだ」



 メガラニカ王は少しトーンダウンしながらも、手を止めないしモニターから目を離さない。たぶん私の話を聞いていると解釈して、言いたいことを続けた。



「この世界の人間って……メガラニカにしかいないんじゃないですか?」


「そうだね、おそらく」


「……いいんですか? これで」


「君はもう気づいてるかもしれないけどさぁ……僕って()()()なんだよね」


「……やっぱり」



 急に自分語りをはじめたメガラニカ王によれば、転生したばかりの神国メガラニカは、緑あふれる豊かな国だったらしい。第三王子として覚醒したものの特に政治には興味がなく、神女として天文学から土木設計まで、あらゆる計算を一手に請け負うヒュパティアという女性と恋に落ちる。その兄である勇者ベアトゥスとも親しくして、充実した異世界生活をしていたんだとか。


 均衡が崩れたのは、父王が崩御して第一王子が王位についてから。父王のスキルがかなり強力だったらしく、新しい王にはあまり強いスキルがなかった。臣下たちの間では、第二王子が理想的なスキルを持っていると噂されていた。それでも第二王子は余計な争いをしたくないといって、行動を起こさなかった。現在の王いわく、本当にジーランディア兄さまは第一王子の愚かさを理解できていなかったのだ、と。


 第一王子は第二王子を粛清し、自分の正当性を臣下たちに認めさせようとした。メガラニカを脅かすドラゴン退治を勇者に命じたのも、自らの強大さをアピールするため。父王が残した重要な書類も確認せず、重臣からの忠言も聞かず、反対するものはすぐ粛清した。現王も命を狙われたが、仲間たちと反乱を起こして王位についた。だがもはや国を立て直すような余裕もなく、神国メガラニカは滅亡した。


 その時、今の王にスキルが発現した。彼を支えたいと言って、ヒュパティアは自分の脳を捧げた。人間の脳は250万ギガバイトのメモリに相当するといわれている。足りない分の計算は、全部彼女がサポートしてくれた。その献身に全乗っかりで賭けた一か八かの秘策で、神国メガラニカは半分消えながらも存在し続けていた。しかしヒュパティアが限界を迎え、活動を停止した今、もうサポートはない。


 私にはどういうことか、ちょっと正確には把握できないけど、要するにマザーコンピュータが逝ってコロニー終了ってことだよね? ここからはもう避難一択じゃないの??



「に……逃げないんですか?」


「どこに?」


「魔国とか……」


「まあ、君や僕はねぇ……どっちでも生きていけるだろうけど、この国の人はどうなんだろ?」



 やっぱ、みんな人間至上主義みたいな感覚があるってことかな……? それとも、この国が好きってこと? ……ちょっとありえないと思うけど。でもやっぱり絶対みんなどっかに逃げたいはずだよ! いや残りたい人は残ってもいいけどさ。



「必ず全員で同じ行動をする必要はないでしょう? 希望者を募って移住って形で……」


「君、そっちルート丸投げしてもいい?」


「え?」


「このカードあればどこでもパスできるから!」



 やりかたは任せる! と王に言われ、私は慌てて投げられたカードを受け取る。わ、わからんけど……ピーリー君の転送装置借りて、魔国に行って、受け入れ体制整えてもらって、こっちで希望者……いやまず希望者(つの)ってから魔国か!


 とりあえずピーリー君が最初だ。ついさっきのことでアレだけど、意識回復してるかな?





⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘





「ベアトゥス様! ピーリーは……あれ?」



 巨大水晶のあるテストルームに行くと、そこにはピーリー君しか居なかった。ヒュパティアさんの体もない。埋葬しに行った……?


 まあいい、今はピーリー君が優先。ピーリー君の様子を見ると、少しうなされてるけど起きてくれそう。その前に、モバイル式転送装置をいただいておく。アレから充電したのかな?



「ピーリー! ピーリー! 起きて!!」


「うあ……何だ……?」


「王の命令です、転送装置の使い方を教えてください!」


「お、お前! なんでそれを……」



 ピーリー君は、私が目の前に提示した、透明で断面がちょっと水色っぽいカードを見て、一気に目が覚めたようだった。……すげーな、このカード。



「いいから早く! 私はこれから魔国に避難したい人を募集して、魔国と打ち合わせして、そんでもってまたこちらに戻ってこなければいけません。これ、バッテリー足りますか?」


「一応フル充電は終わってるが……こちらに帰れるかはわかんねーな。運次第だ」



 ピーリー君が言ってるのは、いわゆる量子の()()()ガチャのことだ。



「向こうの子たちが持ってる転送装置は、どうやって充電するのですか?」


「あいつらは持ってねえよ」


「え?」



 ピーリー君たちは、片道切符で送り出された? というか、こいつ……仲間見捨てるの既定路線だったの? まあ、この国の追い詰められっぷりからすれば、仕方ない……のか? うーん……深く考えないようにしよう……今は行動あるのみ! 私が走り出そうとすると、ピーリー君が呼び止める。



「待てよ、ほら!」



 投げてよこしたのは……同じモバイル式転送装置? バッテリー切れた時の予備か。



「あんがと!」



 私はとりあえず町に出て、逃げたい人を募集するって噂をあちこちに流す。『魔国に行きたい人は町の外へ出て待て』……この国にそんな噂を信じる人が何人いるかわかんないけど、滅亡したメガラニカに巻き込まれないように範囲外で待ってもらったほうがいいだろう。それに、本気で行動できる人しか連れて行けない。なんとなく魔国に来られて文句とか言われても困るし。そもそも転送装置の限界がわからんし。もれなく救うことはできない。たまたま運よく縁があった人だけ。


 王に丸投げされたから、やり方も私の方針でいく。時間もないし、最善策をチンタラ考える暇はないのだ。まあ正直なところ、魔国にあまり迷惑をかけたくないって気持ちが第一かもしんない。人間だから絶対助けたいとも思ってないし、余裕があったら一人ひとり何考えてるのか確認したい。風土病とかもあるかもしれないし、2週間ぐらいは隔離生活を我慢してもらうことになるだろう。


 それに、まずは公爵様に許可取らないと。難民が王都まで行けるかわかんないし、大部分が公爵領に留まる可能性もある。人間に好意的な公爵様だけど、ホムンクルス姫の人質事件で人間への印象変わったかもしれないし、そもそも拒否される可能性も高い。移民は何かと面倒の火種になる場合も多い。まあ、出たとこ勝負だ。



 とりあえず魔国にGO! 


 私は転送装置を握った。




 転送先が、土の中とか、空の上じゃないことを祈る。




 目の前をまばゆい光が流れて、目の前が雪のホワイトヘイブン城に変わった。






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