19.『メガラニカ遺跡の謎』part 3.
いまだにベアトゥス様のご寝所から抜け出せないでいる私。
何だかわからないが、筋肉を自慢されたり、これまで倒した敵の数とかをムチャクチャ長時間にわたって聞かされている。帰ろうとすると、まあ待てと肩をがっしりつかまれて、笑顔が怖い。おそらく何かのアピールみたいですね……自意識過剰かもしれませんが、マッチョの求愛行動ではないでしょうか……危険な流れです……
「あのぅ……私、そろそろ仕事に戻らないと……」
「あぁん? もうちょっといいだろ?」
「しかしですね、王が……」
「チッ……仕方ねえな! じゃあ、明日もこれ持って来い、いいな!」
「は、はい。承りました!」
気が変わったらまた捕まるかもしれない。私は脱兎の如く廊下に飛び出す。右下右左右左左!! 慌てて謁見の間に駆け込むと、呑気な声が返ってくる。
「あれえ? 早かったねー」
「な、何ですかあの人、すごい筋肉見せてきたんですけど……?」
「あー……君、彼に気に入られたんだね、ソレ」
「うえぇ?」
そういえば……この王は、少年を雪山に送る野郎だったわ……
おそらく私も、あの筋肉マッチョんとこに送り込まれたんだ。今、早いって言ったな? つまり、本当は一晩かかるお使いってことだったのかぁ!! よく見ると、王からゲスい本心がダダ漏れだ。
<あのクソ勇者……使い所もないクズのくせに、まったく役に立たないなぁ……この娘をメガラニカに縛り付けて逃がさないようにするには……最悪、趣味じゃないけど僕が動くしかないのか……あーあ、憂鬱……>
は?! 憂鬱なのはこっちじゃい!!!
この王、すでに暗黒面に堕ちてやがる……!!
いや人手が足りないのはわかるよ? 大変ですねとも思うけど、縛り付けるって何なのさ?! ピーリー君とかは一体何を使って縛り付けてるのさ?! そんなんだから、ネブラちゃんとウーツ君はサクッと裏切ったんだねココを!! 何となくゲームの新しい面に来ちゃったみたいな感じでこの環境を受け入れてしまっていたが、真剣に帰る必要がある。きっとホムンクルス姫も心配してくれてるだろうし、魚釣りの約束だってしてるんだ。
ブラックな上に、もうとっくの昔に破綻している国を、何で無理に続けようとしてるの? 運営あたまおかしい。この国、誰得なんだよ? 公爵様でさえ、領地運営わかんないとか言いながら頑張って勉強してるのに、自分たちでどうにもできないからって他国から使えそうな人を拉致? ええ、それ、なんて北朝鮮?? いや、今はロシアか? いやいや、終わってるよこんな国。って、そうか……滅亡済みだった……滅亡済みの国ってなんだ? 頭が沸騰しちゃうよ!!
立地的に絶望的なんだし、どっかほかに……って、山脈越えられなくて詰んだのか。でも、こんなに技術が発達してんだから、何かできそうだけど? もういっそ、地底に都市を築くとか、なんかあるだろ。この無駄技術は一体何に使われてんだよ。
ていうか、勇者? あの筋肉マッチョって……勇者だったの? 勇者がいる国なのに滅ぶ……? でもまあ、戦う敵なんて居なそうだったしな……動物も見かけなかった。動物がいそうな森もなかったし。外は一面の荒野で左が砂漠っぽくて、右が白い雪に覆われてるっぽい感じで、後ろにはエベレスト的な山脈。国の向こうは見えなかったけど、こっからさらに北なんて、どうせ流氷の浮かぶ海か、完全に吹雪の世界だろう。勇者の使い所がないのも頷ける。
「君ィ……さっきから僕のこと見ちゃって、何か言いたいことでもあるのかな?」
「あの、この国って……どうしてこんなに技術が発展してるのに土壁なんですか?」
「え? ああ、これは僕のスキルだからね。扱える人間もごく僅かなんだよ。ほら」
そう言うと、メガラニカ王は指先を何もない空間にクルッと振る。そこにキラキラと光が降り積もったかと思うと、新しい機械が現れた。おお、これは……今目の前にあるモニターとおんなじやつ?
「す、すごいですね……」
「君だってすごいじゃない。あのジュースと同じようなものだよ」
同じだろうか……? とにかく基礎的な技術の発展を待たずに、スキルで進んでしまったせいで、この国はアンバランスになったみたい。特殊スキルの保持者が死んだら、それで終わり。スキルは個人の能力だから、弟子に受け継いだりできないので、急に何かができるようになるけど、急に駄目になる。継続性が一切ない。
「建築関係のスキルもあれば良かったんだけど、そっちは誰も持ってなくてね」
「なるほど……」
スキルがないと、この国はまだまだ豆腐レベルの水準ってわけね。何がスゴくて何がスゴくないのか、少し見極めといたほうがいいかもしんない。舐めてかかったら落とし穴にハマりそう。そういや何も考えずに魔法を使ってしまったけど、防犯カメラ的なものあったのかな? パッと見、あんまカメラっぽいのはなかったけど……
私の様子を伺うメガラニカ王の視線を感じながら、できるだけアホっぽくキョロキョロ辺りを見回した。
⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘ ⌘⌘⌘⌘
寝ていいとか言われなかったので、私も自動的にエンドレスデスマーチ軍に組み込まれていたっぽい。王にお手洗いの場所を聞いたら「え? 僕、垂れ流してるけど?」と笑顔で言われてビビったが、どうやら揶揄われただけみたいで、無事用が足せたので良かった。そんな感じで、何かと判断基準が落とされていく。なんつーか、モラハラみたいな感じで、最悪よりはマシだから良かったみたいな考え方にさせられている気がする。
こりゃあマズいですよ……
思わず首から下げたペンダントを握りしめる。執事さんに期待してしまうけど、量子のもつれで道も途切れちゃってる可能性が高い。ピーリー君をとっ捕まえて、また魔国に連れてってもらうのが一番現実的な案ではないだろうか。もしくは、あのボタンみたいなモバイル型転送装置をかっぱらって、自力で戻るか。バッテリーは充電型なのか電池入れ替え式なのか、私にも充電できるのか、指紋認証とかあんのか……完全に八方塞がりになる前にどうにかして脱出しなければ……
メガラニカの技術って数人しか使えないって言ってたよな……それは登録制ってこと?? そういや私、王の仕事手伝ってるけど、知らないうちにユーザー登録されたのかな? それとも誰でも使える系? 知能的な意味で数人しか使えない?? ここら辺、行動起こす前に確認しないと……まずはピーリー君を探すか。というか、いい加減に寝ないと良い考えも浮かばない。
「あの、さすがに眠いんですけど、寝てもいいですか……?」
「ああ、片目ずつ15分ならね」
「え……」
「嘘うそ、2階の空き部屋使っていいよ」
一瞬、寝させない拷問でもされるのかと思った。いつまで寝て良いか聞いたら藪蛇な気がしたので、サクッと2階に撤収する。中に人がいないか確認して、階段からできるだけ遠くてキレイっぽい部屋を選び、ベッドに寝転がる。
「はぁ……」
壁の高いところに開いた小さめの穴から、薄ら白い光が差し込んでいた。この辺りはずっと白夜で、夜でも暗くなることはないのだとか。体内時計が狂いそうだ。ずっとモニターを眺めていて眼精疲労が蓄積していたせいか、視界がぼやける。こんなんで脱出計画とか……できるのかな? モニターの時計が確かなら、27時間くらい働いてすごく眠いはずなのに、頭は冴えてなかなか眠れなかった。もしかして、この2階にピーリー君いないかな?
一旦思いついたら、行動せずにはいられない。また仕事がはじまったら、次は30時間ぐらい拘束されそう。私は、2階の部屋を改めてひとつずつ確認することにする。
寝てる人がいたら、近づいてチェック。起こさないように……っと。この人は違うかー。次の部屋は……
「おい、何してる?」
「ひっ!?」
「俺の部屋はこっちだぞ」
あぁ……忘れてたぁ……勇者ベアトゥスにまた差し入れしなきゃいけないってこと……私は、筋肉の塊に手首をむんずとつかまれて、長い廊下を連行されていく。これはヤバい流れだ。
「べ、ベアトゥス様? 私はこれから王の許しを得て睡眠をとらせていただく予定でして……」
「おお、そうか、なら一緒に寝てやろう!」
「いや、さすがにそれはちょっと……」
うわーん!! 昨日はいろいろ曲がったりしたのに、どういうこと?! てっきりこいつの寝所とは別方向だと思ってたのにぃ!! 豆腐建築だから、結局シンプルに2階は全部つながってるってこと?!! じゃあ、あの複雑な道のりは王の嫌がらせだったのかな!! そうだね、絶対そうだね!! あいつマジで性格悪いわ!
この筋肉から逃れる術はないのか?! 何か、何でもいいから……考えろ!
そうこうしてるうちに、部屋に着いてしまったのか、物凄い力でベッドに投げ倒される。いった……くはないけど、何だよこいつ……ヤバすぎるだろ……
「お、おやめくださいベアトゥス様……」
「いいだろ? この俺様がお前に慈悲をくれてやろうというのだ、ありがたく受け取れ……」
あれ、なんか、めっちゃ雰囲気出してきてる……うわはー! 完全にやべーへぇーい! これどうしよどうしよ……力押しじゃ絶対脱出は無理ゲーだ……ソフト……ソフトパワーで……柔の心で……!!
「けど、わ、私……まだ……ベアトゥス様に恋をしていないので……」
「…………!」
お、なんか空気変わったぞ……怖すぎて伏せていた目を上げてみると、勇者様は呆気に取られた顔をしていた。フリーズ? 今、逃げどき? しかし、まだ肩はすげーガッチリつかまれている。まあ、逃げる逃げないの話になると強引になると思ったので、逃げないけどやり方考えろよの方向に話を持っていきたいのだ。苦し紛れだけど、こいつを紳士的にして、何とか煙に巻く方向で行くしかねえ!! まあ……こいつが蛮族だったら通じない作戦だけど。
「ベアトゥス様がお強い……というのは理解いたしました。しかしまだ、私は怖いので……」
「お、おぉ……そうか、なるほど、こういうことには時間をかけねばな」
緊張して思わず手が震えたけど、筋肉勇者はそれを私の言葉どおりに恐れだと受け取ってくれたらしい。まあ怖いのも確かなんですけどね。しかし、案外話通じるな……イケる気がしてきた。
「ま、まずはベアトゥス様のことがもっと知りたいのです。秘密でなければ……」
「俺に秘密などあるものか! 何でもお前に教えてやろう!!」
「そ、そうなのですね。少し安心いたしました。で、ではあの……」
「む、何だ、はっきり言え」
「町に出てみたいのですが、ご一緒していただけませんでしょうか?」
「町? この建物の外のことか? そんなところに行ってどうする」
「えっと……私のいた所では、男女が二人で町を歩き、親睦を深めていたのでございます」
「何……?」
ダメかな……? この建物の中にピーリー君はいないっぽいから、町に行けば手がかりが見つかるかと思ったんだけど……まあ、そんなにうまくは行かないよね。この人、面倒なことしなさそうだし。
「面白そうだな、ではこれから行ってみよう!」
「こ、これからですか?!」
「む、嫌か?」
「い、嫌じゃありません! か、感激のあまり驚いたのですわ!」
ビビって思わずホムンクルス姫みたいな語尾になっちゃった。ほぼ完徹で、私はベアトゥス様と外出することに成功してしまったのだ……うぅ……が、頑張ろう……眠いけど……!




