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18.『赤い糸と黒い集団』part 6.

 夜、領主館ではパーティーが開かれることとなった。周辺の村長さん達を呼んで、リニューアルした公爵様のお披露目会をしないといけないらしい。やっぱ偉くなると、面倒なアレコレからは逃れられないんだよね。


 招待客が来る前に準備中の領主館を見て回ると、室内にキラキラした飾りが施されていたり、リボンがいろんな場所にクルクルとあしらわれてたりして、ちょっとしたクリスマスみたいな雰囲気だった。ホムンクルス姫が忙しく指示を出している。早くも立派な女主人ぶりで、堂々としたものだ。



「お花はここに、もう少し椅子を増やしたほうがいいですわね。あなた、そこの飾りもう少し整えてくださる?」


「すごいですね姫、豪華でセンスも良いし、完璧ですよ!」


「あらまあ、お褒めいただき光栄ですわ。公爵夫人になる身として、こちらの方たちにも認めてもらえると良いのですけれど……」



 ホムンクルス姫は生前、王子だけでなく、王宮の侍女とか召使いにも冷たくあしらわれていたらしい。侍女とはいっても王宮だから、その身分は伯爵令嬢とか、わりと高貴な人たちなんだって。他国の王女なんて、自分より下だと思っているような人たちだったみたいで、ホムンクルス姫はかなり苦労したっぽい。今の王城ってどうなんだろうか? 王様は寡暮(やもめぐ)らしっぽいし、フワフワちゃんはフワフワだし、侍女さんがいるのかもよくわからん。私が身分的に会えてないだけかもしんないけど。


 テーブルに並ぶ料理は、どれもこれも肉。寒い地方なので、野菜はあんまり取れないんだとか。内臓のぶつ切り焼きとか血のスープを見ると、今更ながら吸血鬼感がアップしてきたような気がする。モツ煮込み、嫌いじゃないんだけどね……ちょっとシェフさんに頼んで、モツ煮作ってもらおうかな? 久々にお酒飲みたくなりそう。最悪、厨房だけお借りして……


 なんて考えていると、あっという間にパーティーがはじまる時間になっていた。私は妖精王女のアイテールちゃんとフワフワちゃんを連れて、いつものように料理の味見。公爵領内から集まってきた招待客の皆さんは、はじめて見る公爵様に何とか顔を売ろうとウロウロしている。王子様だったときは領地を与えられてなくて、吸血鬼公爵になってからこの領地を治めることになったから、今まで全然公爵領に領主様が顔を見せたことはなかったらしい。


 そういえば、執事さんは来ていないようだった。騎士団の皆さんは、本館の見張りを除いて別棟に詰めている。やっぱ公爵様は、悪魔に処された事実がDNAに刻まれちゃってるのか、前世のことは覚えていないのに執事さんのことを本能的に嫌っているみたい。そういう関係なので、マーヤークさんとしても、何かと距離を置くように配慮しているようだ。さすが執事さん、細やかな気遣いですね。


 それに執事さんは、悪魔としてホムンクルス姫と契約したのに仕事が中途半端だったりいろいろあったことで、お互いに何となく気まずい雰囲気っぽかった。いろいろって、まさか……元彼だったりする?! でもホムンクルス姫はかなり真面目で、自分の使命をキッチリ果たそうとする()()()()だから、んなことしないか。私もすっかりアイテールちゃんに影響されて、恋愛話スキーになってしまった。気をつけよう……



「皆、聞いてほしい!」



 公爵様が、何かを発表するらしい。グラスをあげて、周囲の注目を引く。みんなが公爵様の話を聞く体勢になると、ホムンクルス姫の手を握って、改めて宣言する。



「私は、この度、こちらの素晴らしい女性と婚約することになった!」



 わー! とみんなが盛り上がる。拍手があちらこちらから聞こえて「おめでとうございます!」という声と、泣き崩れる女の人がチラホラ。あの辺、眷属だったりする? 後で病気チェックしないと……


 ホムンクルス姫は顔を赤らめながら、満面の笑みで周囲に答える。なんだか友達の結婚式にお呼ばれしたみたいで、軽くセンチメンタルな気分になってしまう。姫の前世のつらさを知っていれば、今の幸せそうな彼女の姿は本当に良かったし嬉しいことだ。あのまま間違って私が婚約していた日にゃ、こんなパーティーも仕切れないし、具合悪くなって寝込んでいただろう。……めでたしめでたし。



「そなた、ないておるのか?」


「泣いてませんよぉ……」



 左肩に乗ってる妖精王女ちゃんにからかわれながら、私はフワフワちゃんを抱き上げて顔を(うず)めた。フワフワちゃんは5秒だけ我慢してくれたけど、後はムームー言いながら私の腕からすり抜けて逃げた。うぅ……鼻かみたい。


 私たちは、公爵様とその婚約者に挨拶しようとする人の波に押し出されて、なんとなくそのまま空き部屋でカードゲームをすることになった。私とフワフワちゃんとアイテールちゃんで、神経衰弱に挑戦。幸せ気分で熱中していたせいか、パーティー会場の雰囲気が変わっていたことに気付くのが遅れてしまった。しばらくすると、使い魔っぽいコウモリさんが慌てて飛び込んでくる。



「大変です、人間が脱走しました! ひ、姫が!!」



 姫が何?! フワフワちゃんとアイテールちゃんを使い魔さんに預けて、パーティー会場に駆け込む。そこには、ホムンクルス姫を人質にしているピーリー君がいた。




 何してくれてんだ!! あんガキャぁ!!!




 久々に青い顔をしている公爵様が、左手を伸ばしたまま固まっていて、やっぱり左利きなんだなあと思う。ホムンクルス姫は、意外に冷静なのか、黙って突きつけられた刃物の切先を凝視していた。もしかすると、前世で王子に剣を突きつけられたトラウマが蘇ってるのかもしれない。


 ほかの人たちは人間語がわからないから、ネゴシエーターは自動的に私ってことになる。心が急速に冷えていくのを感じながら、脱走犯に歩み寄った。



「何をしているんですか? ピーリー」


「うるせえ! こ、こ、殺すぞ!」



 声の調子から、あまり手慣れていない感じを受けた。姫に目をやると、青ざめながらも少し微笑んでいる。任せて……絶対助けてあげるからね……



「ピーリー、その人はとても高貴な女性ですよ。武器を捨ててください」


「そ、そうかよ! じゃあ人質としては使えるな!」


「こんなことをしてどうなるっていうんです? ユルスルート君はどうするんですか?」


「やめろ! ユルスルートに手を出したらこいつもタダじゃ済まないぞ!」



 まずいな、何言っても裏目に出ちゃう……人質交渉のコツなんて知らないんですけど!! でも姫の命がかかっているから、間違ってはいけない。ま、まずは話し合いだ。



「ユルスルート君には何もしません。あなたがその人に何もしないと約束してくれれば……一体、何が目的なんですか?」


「目的……?」



 ピーリー君は少しフリーズする。なんも考えてなかったんかい!! 要求がないなら逃げたいってことか? 単なるバカなのか? でも怒らせたらダメってことだけはわかる。



「目的が秘密なら、これからどうしたいのか教えてください。食べ物はどうですか?」


「腹なんか減ってねえ……」



 周囲のパーティー料理に目を走らせながら、脱走犯は強がりを言う。差し入れ攻撃効くかな……?



「お腹は減っていないんですね、良かったです。では飲み物はいかがです? 喉は乾いていませんか?」


「じゃ、じゃあ……そこの()()()()持ってこい」



 ワインだけど……飲めるの? まあ酔っ払ってくれれば、対処しやすくなるかもしれない。



「あれはお酒ですが……大丈夫ですか?」


「う、うるさい! いいから持って来い!」



 私は飲み物のブースから、ワインの入ったグラスをひとつ持って脱走犯に近寄る。ゆっくり手を差しのべると、ピーリー君の手は震えているようだった。気つけのつもりか、一気に飲んで空のグラスを床に叩きつける。パリン! という音に、周囲の人たちが息を飲んだ。公爵様が思わず叫ぶ。



「乱暴はやめろ! 彼女は俺の()()()()なんだ!」


「ああ、公爵様……そのお言葉だけでわたくしは幸せですわ……」



 幸せな恋人たちが、理不尽に降りかかった不幸を受け入れようとしていた。そんなことは、私が絶対に許さない。このカップルを成立させるのにどれだけ苦労したと思ってんだ!! でも、ここでどんな選択をすればいいっていうの?! 私にできることは何? 考えろ……考えろ……こいつマジ何考えてんだよ!!



 穴が開くほど姫と脱走犯を見つめていると、何やらピーリー君の背後からモヤモヤが出ていることに気づいた。なんかのスキルなのか? 気になって目を凝らすと、モヤモヤが文字の形になっていった。




<帰りたい……誰でもいいから人質を連れ帰ろう……高判定がもらえるかも……>




「ピーリー、誰でもいいんなら、私が人質になります。話も通じるし、あなたの役に立つはずですよ」


「な、なんだよいきなり!」


「今、声を掛け合ったお二人は、さまざまな苦難を乗り越えて先日やっと結ばれた恋人たちなのです。もうこれ以上不幸にしないでください」


「ふ、不幸って……」


「ピーリー、姫が気絶しそうです。あ、ほら、()()()()! 倒れた女性を連れて逃げるのは難しいのではないでしょうか?」



 「気絶」の部分だけ魔国語で繰り返すと、ホムンクルス姫が察してくれたようで、膝をガクンと折って少年に体重を預けた。ピーリー君が驚いて両手を上げ、刃物が姫から離れる。私は必死で姫の手をつかみ、勢いをつけて公爵様の方へ引き倒した。ギリギリでホムンクルス姫を抱き留めた公爵様は、本日のMVPだ。それを見て安心した途端、後ろから襟首をつかまれて、私は人質になってしまった。


 耳元で声がする。



「確かに、あんたのほうが良いスキル持ってそうだもんな。約束は守ってもらうぞ!」



 ピーリー君は、おもむろに服のボタンを握ると、ニヤッとして尻餅をついた私を見下ろした。な、なんかする気っぽいけど、一体何?!!


 あっという間に私たちは周囲から隔絶され、光の壁に閉じ込められてしまう。



「暴れるなよ、()()()()!」



 て、転送?! じゃあこいつら、魔国に転送で潜入したの?! それがこいつのスキルってこと?? ごちゃごちゃ考えが浮かんできて、頭が全然まとまらない。いや待って、こいつ、私をどこに連れていく気?!






 『まったく、いつだってアイツは自分勝手なんだ……あの日も……』






 ……ってあの日? え、誰? アイツって? 何この記憶??






 今、私……何か思い出しかけ………………







 その瞬間、私たちの周囲の景色が変わった。


 ……天国から地獄へと。







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