18.『赤い糸と黒い集団』part 3.
「これは、かなり険しい道行きになりそうですな……」
バイソン系騎士のモルドーレさんが、フワフワちゃんに向き直って言った。風はないけど、ぼた雪が降ってきたので、天気がちょっと怪しい。
騎士の皆さんは結構余裕そうだから、その後ろにいる私に言っているっぽいね、こりゃ。雪国育ちの私も、子供の頃だったら何とも思わないで駆け回ってたけど、大人は雪かきとか結構大変そうだった。田んぼで遭難するお婆ちゃんとかもいたし……今ではすっかり雪が苦手になっちゃって、踏み込んでイチイチ数cmくらい足の裏がズレるのが、精神的に疲れる。
今回、私が駆り出されたのは、あの公爵領に潜む人影が眷属の皆さんだった場合を考慮してのことだ。……と思う。眷属の皆さんが襲いかかって来た場合も、眷属の病に冒されていた場合も、どっちも私は役に立つはずだからね。まあそれ以外の相手だと、あんまり役に立てる気はしない。ちょっと最弱の火魔法ができるだけだし。でもその火魔法と結界魔法を利用して「ヒーター」ができるようになったから今はあったかい。
「だ、大丈夫です。ヒーター覚えましたから!」
「おお、それは良かった!」
やっぱし私が懸案事項だったのね……モコモコモルドーレさんは見るからにあったかそうだった。騎士さんたちはみんなヒーターできるっぽいね。南の湿原で不甲斐ない姿を見せてしまったので、私はモルドーレさんの中で激ヨワな存在になってるみたい。それでも王子殿下の教育係として無下にはできないのか、いろいろと気を使ってくださるので申し訳ない。
「ミドヴェルト殿、自分が先頭に立ちますので、急な割れ目に落ちぬようしっかり足跡をたどってください」
「は、はい! わかりました!」
「ムー!」
「そうですな、王子殿下はミドヴェルト殿をお守りください!」
うぅ……なんか恥ずい……まあ強がっても意味ないし、ここはおとなしく従おう。何気なく騎士の皆さんに目を向けると、生暖かい視線を向けられている気がした。特に黒モヤ騎士は完全に口元がニヤついている。くっ……どうせダメ人間ですよ! 自分で自分を追い込んでもしょうがないので、みんなのことは意識しないように気を逸らす。
しかし……足元を見ながら思う。ヒヅメ系騎士の皆さんて……素足なの? 桜の花びらみたいな足跡は、靴底っぽくないのは確かだ。考えてみたら、肉球系騎士の皆さんも、足元は素足っぽかった気がする。……って足跡? あれ? こんなデカい足の人いたっけ??
などと思いながらふと横を見ると、本当にでっかい足が歩いている。
「うええぇぇ?!」
思わず叫んでしまった私に、注目が集まる。
「どうしました?!」
モルドーレさんが足を止めて振り返った。
「あ……足、足が……!」
「ああ、ピエノ村が近いようですな。少し寄って行きますか、調査の一環として」
「ぴ、ピエノ……?」
こちらです、と毛に雪がくっついてさらにモコモコになったモルドーレさんが先導してくれて、私たちは小さな村にたどり着いた。
……足が、いっぱい居る。
「少しいいか? 聞きたいことがあるのだが」
モルドーレさんが代表して話をすると、そこら中からぴょこぴょこと足たちが近寄ってきた。い……生きてるの?? みんな足首のあたりで真っ平らになっていて、頭とかはなさそうだった。何をどう聞くっていうんだ? 不思議に思っていると、ピエノ村の皆さんは器用に足話をしはじめた。
「最近ホワイトヘイブンに行ったものはいるか?」
パタタパタ……パタ
「そうか、その者は確かに見たと?」
パタパタパタタッ
「なるほど、助かった。案内を頼めるか?」
モルドーレさんはサクッと情報を入手すると、そのまま案内を頼んで「行きましょう!」と私たちに振り向いて言った。す……すごいね、今の私以外みんな理解したんだろうか……? しかし、足だけって……考えてみたら某ファミリーにも手だけのキャラがいたし、魔国じゃ普通のことなのかもしれない。ピエノ村の案内人さんについていくと、古城とは別の方角に進んでいく。何かと思えば小さなトンネルにたどり着いた。
パタタ……パタタ……
「あいすまぬ、案内ご苦労!」
パタパタパタパタ
「王子殿下、ここからホワイトヘイブンに行けるそうですぞ!」
ま、マジか……あんな小さい穴通って行くの?? 昔、洞窟好きって言ったらなぜか友達に怒られて、デートだと思ってオシャレして行ったら彼氏にとんでもない洞窟探検させられたって話聞いたのを思い出す。私は一応、閉所恐怖症じゃないつもりだけど、ここ完全に匍匐前進じゃないと無理じゃん! ていうか、モルドーレさんは通れるの? ……あ、通れるのね。じゃあ、行くしかないのか……
雪に耐える覚悟はして来たけど、こういう覚悟はしてこなかったんですよね……土まみれ……というか霜柱まみれになって、私たちは前進した。フワフワちゃんは興奮してご機嫌そのものだった。冒険ぽいもんね……
「着きましたぞ……」
モルドーレさんが声を顰めながら私たちを迎える。穴から這いずり出して、やっと垂直に立つことができた。どこもかしこもキンキンに凍っていたから、思いのほか汚れてはいないけど、鼻の中に土の匂いがこびり付いてる気がする。うぅ……帰ったら速攻でお風呂入ろう……
ピエノの村の案内人さんは、穴の向こうでお役御免になっていたみたい。羨ましい限りだ。私はといえば髪の毛に霜柱が絡まって、もうどうでもいい気分。眷属の皆さんは中にいるんだろうか? 砦っていうだけあって、想像したような丸い塔とかはなくて、まったく飾り気のないちょっと歪な四角い城だった。山肌に合わせて作ったらしく、うねうねと微妙な角度のツギハギが、何となく異様な感じを醸し出している。隠れようと思えば、どこにでも隠れられそうな雰囲気だ。
「ど、どうやって入るんですか……?」
頑丈そうな城門を見ながら思わずつぶやくと、周辺を探っていたっぽい騎士さんが完全に背景と同化してるモルドーレさんに何やら報告していた。それを聞いたモルドーレさんはこちらに向かって手を上げる。みんな無言で移動しはじめたので、私も慌ててついて行った。振り返ると、すぐ真後ろにも高い塀があって、ここがもうホワイトヘイブンの中だと気づいた。
よ、余計なこと言っちゃったのね……ここからは声を出さないようにしよう。
足音は雪で隠れるかと思ったけど、意外にもギュッギュッとうるさく響いてしまった。フワフワちゃんは肉球だし、騎士さんはヒヅメ系だし、私の足が一番面積広いのかもしんない。思わず悪魔執事の足元を確認しようとしたけど、きっと私が落ち込む結果にしかならないと思ってやめた。
気を取り直して、つま先でそっと歩きながら進もうとすると、目の前に矢が飛んできた。
「ひゃ……!」
「全員、隠れろ!」
モルドーレさんは素早く指示を出して、壁に背をつける。騎士の皆さんも、それぞれ壁に寄っていく。私は慌てて結界を張り、わたわたと壁に走った。これは、眷属の皆さんではないんじゃないでしょうか。
「見えたか?」
「逃した」
「チッ」
あの人たち、舌打ちしてますよ……? 敵さんは、かなり戦い慣れているような雰囲気で、粘ったりすることもなくすぐに去って行った。
「逃しませんぞ、ミドヴェルト殿はここに!」
「は、はい!」
「ムー!」
フワフワちゃんも飛び跳ねるように射手が消えた方向へ消えていく。執事さんが去り際にいくつか注意事項を残す。
「いいですか、敵が来たら戦わずに結界を活用すること。アレは卑怯な匂いがします」
「わ、わかりました……」
うぅ……私、ここでひとりになっちゃうの〜?!




