18.『赤い糸と黒い集団』part 2.
「……ホワイトヘイヴン?」
公爵領にある古城は、人間の国と戦争していたときに築城された、アンシェント・スタイルの城だとのこと。無骨で頑丈な砦で、万年雪に晒される山の中腹に建っているせいか、もう誰も住まない完全な廃墟になっているらしい。でも歴史的価値があるので、簡単に取り壊すこともできず、今や誰も近づかない場所になっているんだとか。領主館は、もう少し麓に近く立地の良いところに新しく建てられていて、そっちはなかなかの高級ホテル風に仕上がっているらしかった。
「そうですの。その古城で怪しい人影が夜な夜な目撃されて、周囲の村々を不安にしているみたいですわ」
「あ、姫、こうです。手首、こう」
「こうですの?」
私がホムンクルス姫に、自分の袖をつかんで見せると、姫がドレスの袖を引っ張りながら真似をする。いわゆる「萌え袖」ってやつだ。公爵様の好みは漫画の主人公っぽかったから、第一弾は萌え系テクで攻めてみることに。私が読んでた雑誌ではこんなのがモテテクだった気がする。服のデザイン的にちょっと無理があるかもしれないけど、レースの後付けでごまかしている。
「そうですね、次は……公爵様の服を、こう摘んでみましょう」
「こんな……失礼ではなくて?」
「公爵様は怒ったりしませんよ……たぶん」
「……なんともあいまいなことじゃの」
アイテールちゃんは、チョコに齧りつきながら、私たちの様子を眺めていた。そして、しばらくすると敏腕プロデューサーのような雰囲気で、ああしろこうしろと細かい指示を飛ばしはじめた。それが意外に的確なのが恐ろしい。
「ところできょういくがかりどのよ、このすきるは、いつはつどうするものなのだ?」
「えーと……そうですね……公爵様が早足で追いつけないときとか……」
「公爵様は、いつもわたくしの横を歩いてくださいますわ」
「じゃ、じゃあ……別れ際とか……?」
「なるほど、名残惜しさを演出するのですね?」
ホムンクルス姫は、私の服を軽く摘んでイメトレに集中する。
「ところで、そのホワイトヘイブン城、調査とかはしたんですか?」
「それが、公爵領の者たちを派遣したらしいのですが、帰ってこないのですわ」
「えぇ……」
「いんぼうのにおいがするのう、きょういくがかりどのよ」
アイテールPが、チョコまみれの口角を上げて私に視線を向ける。まったくもう、ここ結構人が通りかかる客間なんだから、ちゃんと綺麗に拭いてくださいよ! なんて注意しながら、心はもう真っ白な雪の古城に飛んでいた。何か嵌められた気もするけど、俄然興味が湧いたのは確かだった。
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「結局こうなるか……」
私たちは魔車に揺られて公爵領への道を進んでいた。黒い炎みたいな何かが先っちょに繋がれていて、竜車が飛行機だとすれば、魔車は電車? いわゆる馬車なんだけど、普通の馬車よりはちょっと早い気がする。竜車との違いは、空を飛ばないってことかな? うっすら浮いてる感じはあるけど、道なりに進んでいる。……リニアなのか? だとしたら速さは違うけど……よくわからん。
何だかんだで王様にも正式な派遣命令を出されてしまい、なぜかフワフワちゃんも一緒だ。アイテールちゃんは、立場上あまり旅行には行けないはずなんだけど、フワフワちゃんがいろいろと手を回してくれたらしい。やるね! 私も教育係として意見を求められたので、気晴らしの必要性とかを語っておいた。意味あったかはわからんけど。
目の前には安心しきったライオン公爵様と、満面の笑みを浮かべるホムンクルス姫がいる。横にいるフワフワちゃんはスヤスヤおねむの時間だ。私の肩を定位置にした妖精王女ちゃんが耳元で囁いた。
「これは……なんかくかんけいなのじゃ?」
何角でもないです! とツッコミを入れたいのを我慢しながら、できるだけ無難な話をする。よくわかんないけど、公爵領を調査するのにちょうどいいとか何とかいう理由で、べへモト騎士団の騎士さん達も何人か護衛の名目でついて来てるのだった。その中には、お馴染みのモヤモヤした執事さんも混じっている。公爵様とホムンクルス姫に配慮してんのかな? 何やら大ごとになりそうな予感……はぁ。
途中の宿場町では、魔車組で大部屋を借りて、修学旅行的な雰囲気を楽しんだ。公爵様って、見た目は20代くらいだけど、もしかして中の人は10代なのか? ホムンクルス姫は、改造計画で学んだことを頼りに、だいぶソフトなアプローチができているようだった。それにしても……いいの? このメンツで雑魚寝って……魔国の倫理観がいまいち把握できないのよね。とにかく晩ご飯のあとは、公爵様が持ってきたトランプでババ抜きとか七並べをして、毎晩異様に盛り上がった。
「あ! ……あれが領主館なのですね?」
ホムンクルス姫が、窓の外を見て嬉しそうに声を上げた。数日に渡る雑魚寝で、私たちの仲はすっかり馴染んでいる。私も……うっかりフワフワちゃんを枕にして寝ちゃったし。姫も、教育された立ち居振る舞いを解いて、少し素に戻ってるっぽかった。
「そうそう、俺……私もまだ見たことがないのだが、中はかなり暖かいらしいぞ」
公爵様も、ちょいちょい演技を忘れているようだ。だんだんバカップル化して来ているように見えるけど……姫の初恋みたいだし、生暖かく見守ろう。公爵様も、漫画のキャラに恋してたってことは……初恋か? アイテールちゃんじゃないけど、思わずニヤニヤしてしまう。他人の恋愛は楽しい。
領主館に到着すると、さっそく中を見て回った。噂通りの居心地の良い施設で、近くの街にも行きやすそう。今日のところは長旅の疲れを癒すべく、それぞれの部屋で落ち着くことにした。私はアイテールちゃんと同室。隣りにフワフワちゃんがいて、反対隣りにホムンクルス姫、その隣りの部屋に公爵様が入った。
雪山の洋館だなんて……事件の予感しかしないじゃない!! 無駄にドキドキして室内をキョロキョロ見渡してしまう。はめ殺しの窓とか、外から見るとあるのに、中からは行けない隠し部屋とかないかなぁ? 実は隠し通路があったりして……
「なにをしておるのだ? きょういくがかりどのよ」
「あ、いえ何でもございません。ははは……」
ちょっと浮かれすぎだな、気を引き締めよう。しばらくすると、魔車の中でたっぷり寝ていたフワフワちゃんが、眠れないらしく枕を持ってやって来た。ビビるからノックしてくれ……
途中の宿で王子殿下を枕にしてしまった負い目があるので、今度は私が枕になるのもやぶさかではない。はじめは呆れ顔だったアイテールちゃんも、しばらくするとフワフワちゃんの上で熟睡していた。もう雑魚寝が癖になってしまったのね……教育係としてはよろしくないことなのだけど、まあ旅先だからいっか! 明日は雪の古城に向かう予定だ。ぐっすり寝るほうが大事だね! ……と自分に言い聞かせた。
ホワイトヘイブン城……どんなとこなんだろ。公爵領の人たちは無事なのか。もしかして、やばい魔物がいるのか? 変なこと想像すると目が冴えちゃう。とにかく早く寝よ……
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「それでは、わたくし達は視察に行ってまいりますわ」
「私たちは古城のほうを調査してきます」
「きをつけてゆくがよい」
ホムンクルス姫は公爵様と領内を回る予定。萌え系仕草、頑張ってくれ! 私とフワフワちゃんは、騎士さん達と古城探索だ。名目上、公爵様のほうにも2人ほど護衛が付くけど、後はみんなこっちに来てくれるっぽい。例のモヤモヤ騎士さんもね。古城には何かが居る、と判断されたってことなんだろう。アイテールちゃんはホテル……じゃなくて領主館で待機。花びらチョコを山ほど準備したので、おとなしくしていてくれるはず。
公爵様にエスコートされて、ホムンクルス姫が魔車に乗り込む。私とフワフワちゃんは、騎士団の皆さんと合流する。ここから少し登ったところにホワイトヘイブン城があるみたい。またしても雪山登山だけど、山頂まで行くわけじゃないから大丈夫だよね!
……なんていう私の甘い予想は、もちろん裏切られることになるわけだが……




