18.『赤い糸と黒い集団』part 1.
※長いので分割します。
ここんとこ、色々忙しかったけど、やっと一息ついた。と思っていたら……
「かわいそうに、ニンニク料理好きなんだろ? 元気を出すんだよ!」
ゴトンとひと皿、厨房のおばちゃんが差し入れてくれる。ニンニクたっぷりのガーリックスープに、ガーリックジンジャーペーストをたっぷりと。バシバシと私の肩を叩いて、おばちゃんは慈しむような微笑みを残し去っていった。
「あ、ありがとう……おば……ちゃん……」
久しぶりに朝食を食堂の大広間で摂っていた私は、急なニンニク臭で衆目を集めてしまった。くッ……自業自得なんだけど……厨房のおばちゃんには、朝活で公爵様を撃退しようとしたときにニンニクフルコース料理を特別注文したため、ニンニク大好き人間だと思われている。とりあえずホムンクルス姫と公爵様が、この度めでたくご婚約の儀を執り行ったので、魔国はお祭りっぽい雰囲気になっていた。
それに比例して、私にいらん気遣いを見せてくれる人もチラホラと……うっ、またメイドさんが笑顔で水を渡してくれた……斜め前の人が頼んだやつなのに……す、すいません。
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「公爵様にはすべての事情をお伝えいたしましたの」
ホムンクルス姫は、恐ろしいまでに何もかもオープンに語ってくれるタイプだった。おかげで私もアイテールちゃんも、公爵様がどこで何を致したか、まるでその場で見ていたかのように聞き及んでいる。真面目な公爵様は、ほぼ人間にしか見えないホムンクルス姫をいたくお気に入りで、頑張ってエスコートしているようだ。さらにちょっとドSな姫から、過去の自分(本当は他人だけど)がやらかしたあれやこれやを聞かされて恐縮しまくっているらしい。
今日も今日とて女子会を開き、私たちはホムンクルス姫の話を聞く体勢になっている。珍しく雨が降っているので、お城の空き部屋を借りてこっそりチョコレートパーティーだ。フワフワちゃんは、最近お気に入りの某黒い雷を4つも食べて、ムームー言いながらどこかへ行ってしまった。もう……私のチョコだけが目当てなのね! いいけど別に。そういや公爵様も大好物っぽかったから、あとで姫にお土産として渡しておこう。
「それで、どうなのじゃ? くちづけはいたしたのか?」
「んな、何ストレートに聞いてんですか!!」
「あらまあ、うふふ」
…………したな? ホムンクルス姫の満面の笑みを見て、私たちは察した。順調そうで何よりです。これ以上は波乱もなさそうなカップルの様子を知り、急速に興味を失ったアイテールちゃんが、また私に絡んでくる。
「やはり、こちらのほうが、われのくちをはさむよちがあってよいの」
「いや、本気でやめてくださいよ……」
「そういえば、公爵様もあなたにお会いしたいとおっしゃってましたわ」
余裕を見せるホムンクルス姫だけど、私と公爵様が転生者っぽいという情報はまだ知らないようだ。そのせいか、どうも私たちの仲を誤解しているような節もある。でも、この情報をフルオープンなスピーカー体質のホムンクルス姫に明かしたら、全世界の人にバレる気がする。そんなわけで、私は公爵様に絶対言わないようにお願いしていたのだった。もしかしてその相談かな? 真面目な公爵様のことだから、姫に秘密を持ちたくないと思ってしまったのかもしれない。
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「実は、りょ……領地に行ってみようと思いまして……」
「そうですか、何か不安なことでもありました?」
公爵様との会談。ホムンクルス姫は、しばらく私たちのやりとりを間近で聞いていたが、ギクシャクした雰囲気に気づいて何やら適当な理由をつけて部屋を出ていった。の、覗き窓とかないよね……? 目の前でホッと息をついた公爵様に、私は一抹の不安を覚える。ぶっちゃけ過ぎないでくれよおおぉ……
「もう俺、限界なんスよ!」
「え?」
「あの人、すげえ谷間見せつけながらガンガン迫ってくるんです! でも婚前交渉は厳禁だって言われて……!」
「はあ」
「ミドヴェルトさんみたいに色気なかったら、俺何も苦労しないんですけど」
「あん?」
なんか今……余計なこと言ったか? 公爵様は、お構いなしに自らの苦悩の日々を愚痴りまくっていた。
「昔の俺が、なんかすげえ酷いことをしたみたいで……俺あの人をこれ以上傷つけたくなくて……」
「……良いお気遣いなのでは?」
「で、でもぉ……領地にいくの8日ぐらいかかるんスよ! そそそれって、外泊デートじゃないスか?!」
「おぅ……なるほど」
「ミドヴェルトさんとだったら、きっと散々こき使われて俺大丈夫だと思うんですけど」
「いちいち余計なこと言わないでもらえます?」
ホムンクルス姫も、前世では死ぬほどの目に遭っている。しかも今の公爵様と顔も声も同じ男に追い込まれているのだ。中身が別人と言われて頭では理解していても、やっぱり仕返ししたかったり拒否感があったりするのかもしれない。もしくは小悪魔的な性格が爆発しているか……
姫の本心はわからないけど、自分でもどこまで公爵様を受け入れられるかわかっていないのかもね。お茶会では結構ラブラブなこと言ってたけど、案外無理してたんじゃないかな。一応お姫様だし、そんな悪女って雰囲気もなかった。これは……拗らせてる予感。
「わかりました、姫とお話ししてみますね」
「えー? 一緒に来てくんないんスかぁ?」
なんでやねん。行くわきゃねだろ。返事の代わりにため息だけ残して、私は部屋を出た。
「ずいぶん仲がおよろしいこと」
おおう!? いたんかい! ホムンクルス姫は、腕を組んで鼻をツンと斜め上に向けながら、ドアのすぐ脇に立っていた。こりゃあ、かなりの本気だ。ちょうどいいから話を聞こうじゃないの。
「あ、姫……聞いてたんですね? 公爵様をいじめちゃいけませんよ」
「いじめてなんていませんわ。あ、愛情表現をしているだけですわ」
「姫は魅力的なんですから、ガンガン迫っちゃ駄目です。公爵様は限界だって涙目でしたよ」
「そ、それをなぜあなたに打ち明けるんですの? わたくしだってお話いただければ……」
「公爵様だって殿方なんですから、姫の前ではカッコつけたいんですよ」
捻くれてるのか素直なのかわからん姫は、珍しく俯いて何かボソボソとつぶやいていた。
「わたくし……恋はしたことがなかったんですの……」
「はぇ?」
ホムンクルス姫は、王女としてそれなりに結婚後の知識は持っていた。しかし、それは後継を残すのに必要最低限の知識で、殿方の興味を引く方法と生誕の儀の手順のみ。かなり雑な感じで、義務を果たしたら、あとは好き勝手するのが常識みたいだった。だから、姫にとって好きな相手にできることはグイグイ迫ることだけ。公爵様は一応現実世界の日本人だから、いろいろ面食らっているらしい。
私も恋愛弱者だけど……しょうがないね。恋愛セミナーを開こうじゃない! ということで、アイテールちゃんも誘って早速お茶会……と見せかけて、ホムンクルス姫改造計画をはじめることに。他人事ってマジ楽しい。私もアイテールちゃんのことを言えないかも……と思いながらワクワクが止まらないのだった。




