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17.『天井桟敷は大騒ぎ』part 7.

 アイテールちゃん達に事情を話して別れ、トカゲ系の騎士さんについて行く。深刻そうな雰囲気で、嫌な予感しかしない。



「もしかして、眷属の皆さんにも症状が……?」


「ええ……症状はまちまちですが、黄灰色に変色した者が多数確認されています」


「意識はある状態でしょうか?」


「……それは何とも。部下の話では死者はいないようです」


「い、急ぎましょう!!」



 私は足を早めて現場に向かう。眷属の皆さんは、体の一部が黄灰色になってかなり元気がなくなっている状態。フルーツ屋さんの感じから想像すると、短時間で症状が進むみたいだった。今ならまだ助けられる……!!


 逆に、グズグズしてたら手遅れになる可能性も高いってことだ。私の殺菌魔法は範囲魔法だから、騎士さんに頼んで広場に患者を並べてもらう。念の為、目の部分は包帯でぐるぐる巻きにしてもらった。



「ミドヴェルト殿、終わりました」


「じゃあ、行きます! 騎士さん達も目を閉じてください!」



 私は一気に殺菌魔法をかけはじめた。思ったより人数が多くて、ちょこちょこ移動しては満遍なくブラックライトを当て続ける。王都の広場は、さながら野戦病院のようになってしまったが、一人ひとりの家に訪問して都度魔法をかけてたら、とても間に合わない気がした。ついでに眷属からも元に戻ってしまったけど、しょうがないよね……


 後の処置を騎士さんに任せて、私はロプノール君の様子を見に行った。寝顔は無害そのものだ。見ててくれたお隣さんにお礼を言って、コインより価値が細分化されてるっぽい紙幣を渡す。いまいち貨幣価値が頭に入ってないんだけど、すごく喜んでくれたから高めにあげちゃったのかなぁ……とぼんやり考えた。



「……あんなにチップあげて、あの人の1ヶ月分のお給料ですよ」


「あれ、もう大丈夫なんですか?」



 ベッドで寝たままのロプノール君が、いつの間にかこっちを見ていた。私と目が合うと、背中を向けるように寝返りを打って掛け布団を頭までかぶる。



「……大丈夫じゃないです」


「すみません。吸血鬼公爵様はもう……」



 そこまで言いかけて、あの能天気なライオン王子が頭に浮かんだ。ど、どう説明すりゃいいの……? ロプノール君は、吸血鬼公爵様のどんなとこが好きだったのかな? 青白い肌とかだったら、素直にごめんなさいするしかないが。



「今、生誕の儀が終わって、公爵様は王族に復帰されたみたいです。ロプノールさんもお城に戻れば、公爵様も喜んでくださいますよ」


「……ミドヴェルトさんは?」


「え?」


「ミドヴェルトさんは……僕を許してくれないんでしょ?」



 まあ許すわきゃあないんですけどね。だけど……キレやすい若者こえーし、病人に鞭打つようなことも言えないしで言い淀む。でもなーここで甘い顔したらつけ込まれるよなー。コイツ公爵様と違って頭が回るしなぁ……うぅ……なんて答えりゃいいのよー? 期待を持たせず、絶望させないベストアンサーは??



「ロプノールさんが……これからずっと良い子にしていると約束してくれたら許します」


「…………」



 怒ったかな? あえて子供扱いして、条件をつけてみた。オメーを恋愛対象とは見てねーよってメッセージを込めつつ、でも悪さしなければ将来的に希望があるよと光を見せる。うまく伝われば、予定説みたいに「とりま頑張る」って方向に行くだろう。うまく伝わればね。将来どうなるかわからない。だからこそ人は頑張れる。より良い未来に向かって行きたくなる。そうなってほしい。



「……じゃあ、()()()()()()()()



 お? 理解してくれたのかな? どっちみち、ロプノール君の件は公爵様と私しか知らないから、まあ丸く収めようと思えばできるはずだ。





 それから2〜3日ほどロプノール君には安静にしてもらって、ちょいちょいお見舞いしていると、街の人に声をかけられるようになった。



「ありがとうございます、うちの人が目を覚ましました!」


「あんただろ? すごい魔法だったね!」


「あなた様は神様です!!」



 ちょ、最後?! 元々、気持ち的に盛り上がりやすい眷属の皆さんだ。私に依存してくるのも時間の問題かもしれない。面倒なことに巻き込まれるのはごめんだぜ……


 ……これは、あの公爵様に責任をとってもらおう。ちょっと王様達に相談して、問題にならない程度に対策したい。まずは最初の信者をうまく丸めこめるかなんだけど……






「……宗教ですか?」


「はい、吸血鬼公爵様がいなくなってしまったので、眷属だった皆さんの心の拠り所が新しく必要だと思うんですよ」


「心の拠り所?」


「ロプノールさんて、すごく公爵様のこと好きじゃないですか」


「……僕はミドヴェルトさんのことが好きです」


「ふぇっ? ま、まあ……あそう、尊敬! 尊敬してるでしょ? 公爵様のこと!」



 怖! 油断も隙もないね! ロプノール君は、慌てる私を見て薄く笑う。今はこの程度の反応で満足してもらおう。この子を見てると、何だか現実世界の会社で一緒だった後輩の女の子を思い出す。純粋系不思議ちゃんかと思って油断してたら、私のことコントロールして来ようとしたんだよね。そいつとこいつが被るんだわ。嫌な予感しかしない……


 まあしかし、この魔国で王様や公爵様と関わっていく限り、ロプノール君をシャットアウトすることはできないだろう。うまく誤魔化しながら付き合っていくしかない。持病みたいなもんだ。……と思う。



「とにかく、公爵様が生誕の儀を行ったウェスパシアの祭壇を話題にして、ついでに新興宗教を起こそうと思うんですよ。そうすれば、この街に何となく漂う不安を取り除けるんじゃないでしょうか?」


「そうかも知れませんね。でもどうしてそんな話を僕に?」


「ロプノールさんなら大司教様役にピッタリだと思って」


「え……僕が大司教ですか?」



 忙しく働いて貰えば、余計なこと考える暇もなくなるだろうって見込みなんだけど、どうかな? 私はちょっと頷いてから、期待を込めた目で角エルフ君を見つめた。ロプノール君は俯きながら少し考えて、ゆっくりと顔を上げた。



「わかりました。引き受けますよ、あなたの命令なら」


「いや、命令ってわけじゃ……」


「僕はあなたの忠実なしもべです」



 な、なんかレベル高くなってないか……? 怖いんだよねイチイチ。まあ、変なことしないんなら何でもいいけどさ。たぶんだけど、ロプノール君は精神操作系の能力持ってるんじゃないかと思う。私があの時かけられた術ってやつも、もしかしたら宗教で役に立つかも知んない。それにこの人なら、特別な術なんかなくても、話術だけでたくさんの信者を籠絡(ろうらく)できることだろう。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜






「なるほど、宗教と来たか……」



 王様に許可を取ろうと思って文官さんに相談すると、なんだかんだで謁見することになってしまった。ちょうど良いので、吸血鬼公爵様が人気だった理由を私なりに考えて、新しい宗教の必要性をプレゼンしてみた。王様は前向きに考えてくれるみたい。私が考えるウェスパシア教(仮)は、あんまり哲学とか難しいこと後付けしないようにして、ファミリー向けの平和な宗教にしたい。……できれば。



「宗教などというものは、いかにも人間が考えそうなことですな。しかしながら、吸血鬼の眷属への対応は必要不可欠と存じます。ここは、ミドヴェルト殿にお任せするのがよろしいかと」


「ふむ、ジャマナ卿をあまり崇拝させすぎないようにできるのか?」


「こういうのは、禁止するより公式に応援してあげたほうが落ち着くと思うんですよね……まあ、魔国の人がどう判断するかはわかりませんけど。とりあえずご利益は子宝に恵まれるとか、無難な感じにして様子見ですね。親しみやすい宗教で、行政からこぼれた人のサポートができればと思います。もちろん、ちょっと深い教義も用意して、プライド高めの人にもマッチするようにいたします。生まれ変わったジャマナ卿に、どれだけの求心力が残っているかわからないんですけど、だからこそ! ウェスパシアの祭壇で、みんなが繋がりを感じられたら良いんじゃないか……と、愚行しますです……」



 おじさん達が軽く引いていたので、ちょっとだけトーンダウンして周囲を見渡す。私、オタ語りしてたかな……? 現実世界では宗教原論とかも割と好きで、世界の宗教を調べたり、成り立ちとか歴史とか事件とか、細々した新興宗教とかテロとかいろいろ情報をコレクションしていたのだった。だからって教祖誕生みたいなことできるかはわからないけど、ロプノールさんに丸投げするからなんとかなるだろう。またしても見切り発車。でも必要だからしょうがない。あとはライオン公爵様と商談だ!






「お、俺の肖像権……?」


「そうなんですよ、公爵様の根強いファンに向けて商品開発を考えてまして、王都のお店とライセンス契約をして使用料を取るんです」


「お金とるんスか?」


「ええ……お嫌でしたら違う案を考えますが」


「いや、ありがたいです。俺、領地経営とか、ちんぷんかんぷんで……代官に頼んでるけど、本当にこれで良いのかなって……」


「あー。丸投げだと汚職に繋がりやすいみたいですね。定期的に公爵様が領地検分に行くといいんじゃないですか? 旅行気分で楽しいですよ」


「え、りょ、旅行とか……好きなんですか?」


「私、ここに来るまで森でサバイバル生活してたので」


「マジすか?!」


「……で、なんですけど。申し訳ございません、ロプノールさんに教会の運営を任せることを、勝手に決めてしまいました。ほかに適任がいなかったので……」


「あ、そういえばアイツ、どうしてます?」



 生誕の儀の後、ロプノール君のことを告げると、公爵様は思いのほか動揺していた。公爵様なりに、ロプノール君を眷属にしてしまった責任をずっと感じていたらしい。でも王族に復帰したので、なかなか下町に出られないようだった。



「かなり元気になりましたよ。もう起き上がって話せます。もう少ししたらお城に戻れると思いますよ」


「そ、そうスか……」



 なんだろ? なんか公爵様が珍しく思い悩んでいるような……ロプノール君と気まずい関係なのかな?



「その、うちの従僕が……あなたに大変失礼なことをした上、こんなに助けてもらって……すいません!」


「いえ、お互いできることをしていきましょう。何かございましたら、お気軽にご連絡ください」



 ……心配するようなことはなさそう。公爵様はやっぱ、ロプノール君の保護者なんだろうね。自分を慕ってくれる相手を無下になんかできるような公爵様じゃないはず。何はともあれ、絵に描いたようないい人なのだ。




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