17.『天井桟敷は大騒ぎ』part 6.
策士、策に溺れる!!
結局あの後、1000体近くの眷属を殺菌魔法で元に戻した。
まあ、結果的に暴動は鎮圧され、煽り犯は逮捕済み。黒い集団は調査中。一部の眷属は、吸血鬼の可能性を探りたいと、元に戻ることを拒否してとりあえず自宅謹慎となった。報告書だけ見れば、丸く収まったのではないか。うん、頑張ったよ私。もう一週間くらい引きこもってチョコ食べてウダウダしたい……
「ありがとう、ミドヴェルトさん! 本当にありがとう!!」
「……もう帰ってくれません?」
なぜかライオンっぽくなった公爵様は、いろいろあって私の部屋にいる。たしか感謝を伝えたいとか言ってた気がするが、恩義を感じてくれてんならひとりにしてくれ……全然休まらない。せめて上の階の庭っぽいとこで暴れてくれ。エセメゾネットな私の部屋の上にあるスペースは、コツコツとガーデンチェアやベンチなんかを配置して、あとその辺の草を観葉植物的に飾ってイイ感じの庭に育成中だった。あれ? 私が上に行けばいいのか……?
ライオン公爵様は、血流が良くなったせいか、若干ウザさがレベルアップしている。あとなんか、喜び……? 吸血鬼だったのが相当嫌だったっぽいね。吸血鬼からの記憶しかないはずなのに、何でそんなに喜んでんだ? ……と思ったら、本人は人間に戻れたと思い込んで喜んでいたようだ。しばらくして「うぉ?! 耳がある!」という叫びが聞こえてきた。ご愁傷様です……
執事さんの話では、かつて魔国の王子殿下だったライオン公爵様が、今後どういった扱いを受けることになるか、再度協議が必要になるんだとか。その結果待ちみたいなとこもあって、ここで待機になってるらしい。何故……自分の部屋で待ってりゃいいじゃん。私は一応お偉方がいらっしゃるせいで思いっきりベッドに倒れ込むこともできず、渋々長椅子に斜め座りしてグッタリしているのだった。疲れたアピールは、まったく公爵様に伝わっていないようだ……こいつマジ何なの……
「えーなんスか? 冷たいなあ……この喜びをあなたと分かち合いたいのに……」
「そうですかー……よくわかんないけど、良かったね。はいはい終わり。魔力消耗して眠いんですよ……」
「えー? もしかしてミドヴェルトさん怒ってない?」
「いや……この状態で機嫌がいい人、この世に居ますかね……?」
一応、対面を保とうとしてたんだけど、公爵様に対する扱いが雑になってしまう。暗に匂わせても駄目なんだった。正面からストレートに……いや、帰れって何回も言ってんだ。でも帰らねんだ。もう駄目だこいつ……早く何とかしないと……寝落ちしそう。
「失礼いたします」
待ちに待った執事さんがやってくると、私は一瞬で飛び起きる。公爵様はちょっと静かになって、不機嫌な視線をマーヤークさんにぶつけた。慇懃無礼な態度で悪魔は一礼する。
「決まったんですか?」
「はい……ジャマナ様は生まれ変わったと認定されまして、ウェスパシアの祭壇にて生誕の儀を執り行うことになりました。その後は王族として扱われ、第26位の王位継承権も与えられます」
絶妙な王位継承順位に、王様の苦悩が感じられる。公爵様は悪人ではないと思うけど、こんなのが王様になったら、一瞬で魔国は滅びるだろう。それか大臣さんたちが過労死するに違いない。王位継承権は形式的に設定するけど、継承させる気はないってことなのだ。当の本人は、わけもわからずキョトンとしていた。
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ウェスパシアの祭壇は、人工物というよりは小さめのカルデラみたいなところだった。全体的に洞窟の中みたいな雰囲気で少し薄暗い。変なガス臭さはないけど、ほんの少しカビっぽい匂いがする。小学校ん時のお習字道具みたいな……? イメージとしては前に行った北の火山の100分の1ジオラマみたいな感じで、山肌に豪華な階段が作られている。周囲にはなんとなく石柱があしらわれていて、真ん中にマグマじゃなくて、タールみたいな黒いドロドロが溜まっている。それがポコポコと泡立っていて、魔女鍋のような怪しい雰囲気を醸し出しているのだった。
「どうだ、魔国の根幹に触れた感想は?」
「あ、王様……お早いですね」
公爵様がメイドさんたちにラチられていったので、暇を持て余した私は、ちょっと早めに祭壇に来ていた。フワフワちゃんと妖精王女様は、王族らしくそれぞれお召し替えの最中だ。王様は、大臣さんと数人の護衛を引き連れて私に声をかける。こっちも慣れたもので、もう王様と対面してもそんなに緊張はしなくなっていた。特に、公爵様評を聞いて超絶納得してからはね……
「本来、この国の魔物はすべてあの祭壇から生まれるのだ。余が王子を授かったのもあの場所だった」
急にフワフワちゃんの出生の秘密を聞いてしまい、ソワソワする。私なんかが聞いていい話なのかな? 王様に失礼のないようにそれとなく大臣さんたちの顔を見ると、みんな顔を伏せていて表情が読めなかった。
当時、王様はお妃様を亡くして悲しみに暮れていたそうだ。しかし後継問題があって、おひとりで生誕の儀を執り行ったらしい。そして生まれたのがフワフワちゃんだったんだって。本来は愛し合うカップルが二人で魔力を注いで行う儀式なんだとか。システムはよくわからんが……あのカルデラは人口子宮で、儀式が代理出産ガチャみたいな感じなのか? 魔物は血じゃなくて魔力を受け継ぐものなんだろうか。今回、公爵様はすでに顕現されているので、形式的な儀式をするらしい。
不思議だね。現実世界も海のバクテリアからすべてが始まったとか言われてた気がする。この魔国では、あんなドロドロからいろんな命が生まれてくるんだ……
ただし、悪魔は自然に生まれ、妖精は草木から生まれるんだって。これはアイテールちゃんからなんとなく聞いて知ってた。そんで、天使は神が作るメモリーとか、タブレットの付喪神みたいなものらしい。ちょっと理解が追いつかない。なんだかんだで、みんなはっきりした親みたいな存在は居ないっぽかった。ひとりぼっちで、不安で、派閥を作ることでしか、あやふやな気持ちを落ち着かせることができないのかもしれない。
この異世界は、ちょっとしたアノミー状態なんじゃないだろうか。自由で適当で、私には居心地がいいけど、私は心のどこかで現実世界の人間だと思い込んでる。私の帰属先は現実社会だから、ここで何が起ころうと平気っちゃ平気なのだ。だけど魔国のみんなは、明確な立場がない人もたくさんいる。そんな将来に対するぼんやりした不安が、眷属となって吸血鬼公爵様に帰属意識を持つことで落ち着いていたんじゃないかな?
あれ……? これもしかして、やっちまったなぁ……教団ひとつぶっ潰したみたいなことになるのか……や、ヤバい予感がする。そういえばあの人って……
「すいません大臣さん! 眷属のまま自宅謹慎になってる人のリストってあります?!」
「なんでしょう? 必要な情報ならこちらで精査してから……」
「ロプノールさんの謹慎先わかります?!」
いや、忘れたてたわけじゃないんだけど、いろいろあり過ぎて思い出せなかっただけなんだってば! あの時、鎮圧部隊で眷属の皆さんを元に戻したけど、ロプノール君はいなかった。お城でも見ていない。なら、どこにいる?! 謹慎者の中に紛れ込んでるんじゃないの? ロプノール君は吸血鬼公爵様の熱烈な崇拝者だった。そう簡単に眷属をやめられないと思っているのかもしれない。変に思い詰めて、ジョーンズ・タウンとかヘヴンズ・ゲートみたいなヤバい展開にならないとも限らないじゃん!!
慌てて走り出したせいで、足が引っかかって転ぶ。王様達が「どうした?」と驚いていたけど、こっちはそれどころじゃないんだって! これじゃ公爵様のこと言えた義理じゃないけど、とにかく急いで大臣さんから聞いた住所に向かう。
王都は荒廃したせいで意外とスッキリしていた。前回みたいに迷うことなく、スムーズに目的地に辿り着く。どっちで行く? 青いドアをノックしようとして、やっぱり勢いで押し切ることにした。バーンと思い切ってドアを蹴破る。やり過ぎか?! いや、こういうのは酔ったもん勝ちだ!!
「ロプノールさん!!」
家の中に踏み込むと、ワンルームの中で角エルフ君が倒れていた。慌てて駆け寄り、様子を確認する。何これ? 眷属の病ってやつ? ロプノール君の体は、かなりの面積が黄灰色になっていた。フルーツ屋さんみたいに治るかな? とにかく殺菌魔法を患部に当てまくる。
「うぁ……」
痛みを感じているのか、ロプノール君が小さく呻いた。とりま息はあるみたい。部屋のベッドに寝かせて、様子を見ると、安らかな寝息を立てはじめた。これってロプノール君だけの症状なんだろうか? ほかの眷属さん達は無事なの? 気になって外を歩く巡回の騎士さんに報告しておいた。騎士さんは、直ちに自宅謹慎者達を訪問して確認する、と慌ただしく駆けていった。
念の為ロプノールさんの家に戻ると、鍵が壊れた青いドアの下に、光るビー玉みたいなものを見つけた。なんじゃこりゃ? 後で調べようと思ってポッケにしまう。ベッドを確認すると、ロプノールさんはまだ寝てるみたいだった。お隣さんがいい人そうな感じだったので、様子見をお願いして生誕の儀に戻る。
「なにをしておったのだ?」
ギリギリセーフで祭壇の間に滑り込むと、正装の妖精王女様にお叱りを受けた。白金のドレスに金木犀の半分くらいのサイズの小さな黄色い花が散りばめられている。さすが朝露を輝かせる者、超プリチー。
「すみません……ちょっと城下に行ってて」
「お前、何を持っているんだ?」
「え? あれ? ロンゲラップさんも居たんですか?」
意外な組み合わせに驚いてしまった。ロンゲラップさんはいつも通りの格好で、時折、革の本を開いて何か書き込んでいる。
「あおがみあくまどのは、まこくのひみつにごきょうみがおありのようじゃ」
「ああ、なる……」
「失礼だな君達、俺は契約に忠実なだけだ」
「あっ、すいません……」
「いいからソレを見せてみろ」
なんだかわからないままに、ポッケに入れていた光るビー玉を青髪錬金術師に渡す。謎の拾い物に夢中になってるメガネ悪魔をよそに、妖精王女アイテールちゃんが私に囁いた。
「あやつ、とんでもないけんきゅうばかのようだぞ、きょういくがかりどのもぜんとたなんじゃな」
「な、何探ってんですか、やめてくださいよ」
「だが、われはいいほうほうをおもいついた」
「な……変なことやめてくださいよ?!」
「なにかんたんじゃ、れんあいけっこんのなぞに、けんきゅうよくをむけさせればよい」
この王女、とうとう第二フェーズに突入しやがった……すなわち「話を聞いて面白がる」から「自分もドラマの制作に加わる」ところに入りかかっている。先生達にもっと課題出してくださいって頼んでおこうかな……? 教育係としては、ささやかな反撃を画策することしかできなかった。
王様が祭壇に上がる。フワフワちゃんはその横にちょこんと飾られていた。本当に、植木鉢を高く飾るアイアン製のガーデニングのアレみたいなやつに、いい感じにハマっている。どういう立ち位置なの? ソレ……
完璧に着飾ってるんだけど、何故かひとりだけギリシア神話みたいな半裸になっている公爵様が、文官さんに名前を呼ばれてカルデラに近づいた。
「ジャマナ・ストーカー、ストーカー公爵家の創始者にして眠りから目覚めし者、ここに汝が生まれし日を永劫に記し、その存在を正式に認める!」
王様が一際大きな声で宣言すると、ワー!! っという歓声が上がり、拍手が洞窟内にぐわんぐわん響いた。明らかにあの辺、元眷属さん達が集まってるぽい。こういうのって、みんなどんな気分で受け止めてるんだろ……? ヴィジュアル系バンドが化粧とってソロデビュー的なことか?
何はともあれ、儀式は無事終了。みんなでゾロゾロと祭壇の間から出ると、さっきの騎士さんが私を探していた。
「申し訳ございません、今すぐ御足労願えますか?」
やっぱり……予想通りなのか……?




