17.『天井桟敷は大騒ぎ』part 4.
また号外が出て魔国が大変なことになってもアレだってことで、しばらく私は公爵様と婚約しそうっていう曖昧な雰囲気でいることになった。
公爵様には聞かなきゃいけないこともあるし、ちょうど良いっちゃあちょうど良い。
「嫌われていることはわかっている。ただ、あなたを守らせてほしいことに変わりはない」
「……公爵様に大変ご無礼をいたしまして、誠に申し訳ございません……」
公爵様のお部屋に再度お邪魔する。今回は取材っていう明確な目的がある。吸血鬼公爵様は、あんまりお付きのメイドさんとかを置かないっぽくて、またご自分でコーヒーを淹れられてた。ロプノール君は見当たらないっぽい。今なら気兼ねなく話ができそうかな……?
「実は、折入ってお話があるんです。公爵様はご生前のご記憶があるのでしょうか……?」
「せ、生前……?」
「はい、もしあれば探し物のヒントになるかと思いまして」
正直、なんの情報もなく見切り発車しちゃったから、わりと焦っていた。公爵様の運命のお相手がどこにいるのか、見当もついていない状態なんだよね。でも、いるっていう気はする。なんでも良いから情報を集めよう。考えるのはそれから。吸血鬼公爵様は、宙を睨みながらしばらく悩んでいたけど、ため息をつきながら言った。
「わかった、あなたには話しても良いだろう……俺は……たぶん転生者ってやつだ」
「……ぅえ?」
そ、そっち?! 私は吸血鬼になる前の公爵様のことが知りたかったんだけど……ま、まあ、これはこれでスゴく重要な情報だ。……と思う。こ、これは私も情報開示しなきゃ失礼かな……?
「そ、そうだったんですね……じ、実を言いますと私もたぶん……そんな感じです」
「やっぱりかー! なんかちょいちょいおかしなこと言うなぁと思ってたんだよ……」
吸血鬼公爵様は、ソファの背もたれに背中を預けて天井を見上げた。泣いてるロプノール君に声をかけてたあの時みたいに、ラフな口調に変わっている。なんだろうね、この感じ……恥ずい。オフ会? 中の人が見えないから、そこまで衝撃はないけど、公爵様が一気に身近な存在になってきたみたい。ひとつの世界に転生者が何人かいるパターンはいくつかの作品で見かけたし、もしかしたらほかにも誰かいるのかもね。
公爵様は、吸血鬼になったときからの記憶しかないらしい。たぶん姫様の儀式で召喚されて、たまたまそこに捧げられていた公爵の体に宿ったのではないかということだった。そっかぁ……欲しい情報は収穫ゼロだった……
「いや、本当のことが知れて嬉しいっス。あのパーティーでチョコを見かけたとき、絶対誰か転生してきただろコレって思ったんだけど、なかなか言い出せなくて……」
公爵様は、私が転生者だと踏んで、何とか繋がりを持ちたかったらしい。ロプノール君に紹介されたのをいいことに、話を切り出そうとしたけど、公爵様も交渉力ゼロだったんだって。ますます親近感が湧くね……
話のタネに、チョコ魔法で板チョコ出すと、スゴく喜んでもらえた。某黒い雷もご所望だったので、頑張ってチャレンジしたら出せた。これは……行動食分野をもっと極めてみても良いかも知んない……
「でも正直ショック受けたのは事実で……そんなに俺のこと嫌? って思いましたね……」
「あ、本当にごめんなさい。なぜかしっくり来なくて……そしたら、あなたには別に運命の人がいるって聞かされて」
「そこがわかんないんスけど……どういう能力か聞いても?」
占いですとは流石に言えないので、思わず黙り込む。
「確定じゃないんですけど……あなたと関係の深い人が、こっちの世界に来てるんじゃないでしょうか……?」
「んな……本当っスか?!」
「何か……心当たりってあるんでしょうか?」
「心当たりってわけじゃないけど……」
公爵様は前世で若くして病に倒れ、この世界に転生することになったらしい。入院しているとき、スゴくハマっていた漫画のヒロインに片想いしていたんだとか。
「でも……来てるはずないスよね、存在しない人だし……」
「あーでもわかるかもー……私も存在しない人が好きだし」
「え? 誰? 聞いていいんならだけど……」
「某PVで男装したガガ様です……」
「あー…………」
何じゃその反応!! 公爵様は、やっちまったな感を隠すこともせず、死んだ目になっていた。うう……心を許して素直に語った私が馬鹿だった……! いいもんいいもん! 好きなものは好きなんだもん!
結局、正体を明かしても公爵様とはあんま馬が合わない感じだったが、謎が解けてスッキリした。某探偵も言ってたもんね。謎が複数あると、正しい答えにたどり着けないって。今んとこ公爵様と私の共通点は、人見知りってとこと、交渉力ゼロってとこぐらいかな? ははは。
あと公爵様が私を守ることにこだわってたのは、まだ前世の感覚が抜けなくて、お化けの世界にいる人間の勇者みたいな気持ちだったかららしい。まあ、私は見た目が一般人女性だから、魔国では浮いてるほうかも知んない。なんせ公爵様はワケもわからず吸血鬼になってしまい、1年ぐらい活動して666年眠るサイクルになっちゃってるから、まだ魔国のことあんまり把握できていないんだって。公爵様曰く、異世界にきてまだ3年くらいしか経ってない感覚なのだそう。666×3=1998 って……およそ2千年前からこっちにいる……? じ、時空の歪みが……
最初の2年くらいは、何が何だかわからないままにクーデターのトップに担がれてしまったり、周囲に流されちゃって来るもの拒まずで手当たり次第眷属にしちゃったんだとか。そのせいで、もう公爵様も把握できない数の眷属が王都に潜んでいるらしい。マジ……それ、ヤバくない? 公爵様もその点については反省しているっぽかった。そんで、3年目にロプノール君と出会うことになる。そこでやっと魔物だらけの国に前向きな気持ちで馴染もうとしはじめたらしい。
なるほろ……そんで今が4年目ということなのね……
公爵様としては、4年目にしてやっと見つけた私という手掛かりに、藁をもつかむ思いだったんだろう。だからって婚約はやり過ぎだと思うけど。公爵様には眷属がたくさんいる割に、結局みんな自分の理想とかを押し付けてくるだけで、言うことを聞いてくれる部下はロプノール君と後二人ぐらいしか居ないとのことだった。まあ、ロプノール君も怪しいけどねぇ……
「だから……あなたにも俺の仲間になって欲しかったっていうか……」
「そうですか、ご相談いただければ、いつでも公爵様にご助力しますよ……け、眷属にはちょっと……なれませんけど」
「そ、そっか! いや、そうスね……! 今はそれで十分です!」
目の前に座る公爵様に思いっきり頭を下げられて、思わず怯む。この人、デカいうえに動きがいちいち急なんだよね。もっと公爵様っぽいゆったりした動きを修得すべきだろう。いや、正直な雰囲気は好感度あるけど……上品とは、欲望に対する反応がスローモーなことだと誰かが言ってた。
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「で、こうしゃくとはどうなっておる?」
お城の客間で午後のお茶をする。半日ほど魔国の歴史をお勉強していたアイテールちゃんは、大好物の花びらチョコを受け取りながら、ニコニコして話題を振ってきた。この妖精王女様……完全に楽しんでやがる。まあ、ゲームもないしスマホもないし、他人の恋バナか陰謀ぐらいしか貴族の子女にとっての楽しみはないのかもしれない。男の人なら、狩りとか戦争とかほかにも何かあるんだろうけど。
フワフワちゃんは、朝から騎士団のほうに行ってるっぽかった。一応、妖精のスパイがいるかも知れないことは執事さんに伝えておいたけど、何だか騒がしい雰囲気なのはそのせいなんだろうか……?
「とりあえずお話はさせていただきました。公爵様の事情は把握できたので、運命のお相手を探しているところです……あ、そうだ。アイテール姫、公爵夫人になってみる気あります?」
「ふむ、きゅうけつきこうしゃくのもとめとあらば、おうけしたいのはやまやまじゃが……われはひとのこいじをじゃましたくはないの」
あーうまく逃げたね! まあ、いいけど。アイテールちゃんとお茶を楽しんでいると、文官さんたちが慌てて駆け回っていることに気づいた。最初に顔見知りになったヤギ系文官さんを見かけたので、ちょっと呼び止めて事情を聞く。
「何があったんです?」
「じ、城下で暴動が起きたとのことです!」
暴動って……あのゾンビ眷属たち?!
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「このような事態を引き起こした責任は、私にあるようだ……」
慌ててアイテールちゃんと一緒に会いに行くと、吸血鬼公爵様は頭を抱えていた。ご自分で鎮圧したい旨を王様に申し出たみたいだけど、城の中に居るように命じられてしまったらしい。まあ、公爵様は良い人過ぎるから、私だってミイラ取りがミイラになるパターンが容易に想像できる。王様たちも吸血鬼公爵派の象徴になる公爵様を簡単に外には出せないんだろう。送り出したつもりが、明智光秀みたいに本能寺されちゃったらたまったもんじゃない。
またしても公爵様が斜め方向の想像をして悩んでるっぽかったので、光秀的なことですよーと説明したら、一応は納得してくれたっぽい。まあ、私の勝手な解釈だから、合ってるのかはわからないけどね……
「私の眷属たちは、いったい何を考えているのだ……!」
アイテールちゃんがいるので、公爵様は素の自分を出すことができないようだった。まあ、あのラフな喋り方はできるだけバラさないほうがいいに決まってる。正直、ロプノール君にも秘密にしといたほうが良かったんじゃないか、と思ったりもするけど……今更ですしね。
「そういえば……ロプノールさんはどこ行っちゃったんです?」
「わからん、朝から見ていない!」
公爵様は何だかイライラしているようだった。状況も把握できないまま、事態が悪化していく一方だし、気持ちはわからなくもない。吸血鬼公爵様が扇動しているわけでもないのに、なんで眷属たちは暴動を起こしたの? 私が襲われたときは、明らかに煽ってる人がいた。そして妖精魔法が発動された。でも事実はそれだけ。ミスリードかも知んないし、冷静に考えないとダメだろう。
問題を起こして得をするのは誰? 私はまだ婚約を公には断っていないし、王都はお祝いムードだった。眷属たちだって喜んでるっぽかったけど……相手が人間だから気に食わなかったのかな?
そんなことを考えているとドアがノックされた。
「失礼いたします、こちらだと聞いたもので……ミドヴェルト様、統率者たるロワがお呼びです」
公爵様の部屋に入ってきたマーヤークさんは、うやうやしく礼をした。悪魔執事に鋭い視線を向ける公爵様は、珍しくつっけんどんな態度で、何やら無言の威嚇をしていた。この二人、なーんか因縁ありそうな雰囲気だな……
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「……そなたの耳にも入っておったか。今回は穏便に済むかと思っていたが、まあこのような体たらくだ」
「それではやはり……吸血鬼の眷属が暴動を?」
「不満が膨らんでおれば、突いて割るのが一番手っ取り早いからな」
王様の話では、666年ごとのお祭りみたいなものだから、ある程度は許容しているとのことだった。今年は婚約を報じる号外も出ちゃったし、何かひと騒ぎあるだろうとは思っていたらしい。それが他国に利用されて過剰に盛り上がってしまったようだ。妖精の残党は何人か捕まえたらしいけど、暴動に火がついた今となっては断罪も無意味だった。
騒ぎを起こすのは簡単だもんね……不安を煽れば勝手にみんなが騒ぎ出すし。そういや昔、某銀行で取り付け騒ぎが起きたときも、女子高生の噂話から一気に広がったのだ。こういうのは信頼感が重要なんだよね。一人ひとりが冷静な判断をすれば、パニックは避けられる。でも、そんな話をしたら、王様にダメ出しすることになっちゃうから黙っておこう。
「あの、吸血鬼公爵様のお話を、眷属に聞かせたら大人しくなりませんか?」
「ジャマナ卿か……あやつは少しズレとるからなあ……」
あ、王様も私と似たような意見だったんだ……思わず謎の連帯感を持ってしまう。公爵様って、いい人なんだけど、なんか違うよね! え、そっち?! ってなるよね。メチャクチャうんうん頷いてたら、大臣さんにため息をつかれてしまった……やべ、不敬罪か??
王様によれば、魔国は誰でも受け入れる気風で人種の坩堝みたいなところがあるから、かなり他国のスパイが入り込んでいるみたい。そのスパイ達は、日頃は大人しく情報収集と連絡に徹しているんだけど、何かあればアジテーションを始めるのだ。迷惑極まりない。他国は武力で魔国に敵わないらしく、政治工作を仕掛けてくることが多いらしい。何ならサイレント・インベージョンを狙っている。
戦争になったらなったで別にいいし、その前に魔国の屋台骨を崩せたらラッキーだし、お金や偽情報をばら撒いて自分たちに都合のいい社会にいつの間にか作り変えるのが目的だ。可能な限り戦わずして勝つ。孫氏の兵法か。執事さんが妖精さんたちを卑怯卑怯と連呼してたのは、そういう関係性だからなのだった。
意外と高度な情報戦が繰り広げられているのね……
だけど、私だって歴史好きだ。あえてアホを配置するという戦略もあるんだぜ。
私たちだけがストレスを感じる必要はないじゃない。そう、眷属の皆さんにも、吸血鬼公爵様の斜めっぷりを篤と味わわせてあげればいいのですよ……(白目)




