17.『天井桟敷は大騒ぎ』part 3.
軽い気持ちでお買い物に来たら、アンデッドに囲まれた件。
魔国ってこんなにアンデッド系の人いたんだー!
どうしよう……次から次へと吸血鬼の眷属が増えていくよ!!
ヤバ過ぎて思わず笑ってしまう。いや、笑ってる場合じゃないって知ってんだ。なんか武器があればなぁ……この人たち苦手なものないんだろうか。公爵様は太陽大丈夫だったよね。そういやロプノール君も普通に昼間外歩いてたし。でも一般の眷属ならもしかして……効いたりしないかな? 太陽……ガーリック……銀……言い伝えにある弱点は、全部殺菌作用があるものばっかりだ……殺菌? こいつら菌なの??
よ、よし……イメージを大切に……私は心を落ち着けて集中する。伊達に悪魔のシゴキを受けちゃいないのだよ! とにかくここを切り抜けないと!! 手に温かいものを感じる。き、来たかも……!
うぉりゃああ!! 汚物は消毒だあああああ!!!
ダメ元で眷属たちに手のひらを向ける。私の手のひらが紫に光って、眷属たちの歯が蛍光色みたいに浮かび上がった。お……おお?
……ブラックライトでしょうか……?
なんかこう、一応おっきめの火魔法をイメージしてたんだけど……「殺菌」とか「消毒」って言葉に引っ張られちゃったっぽい。私の周りは一瞬ダンスクラブみたいになって、眷属たちは目を押さえながらその場に倒れた。やった! 範囲攻撃魔法を手に入れた! 結果オーライだぜ!! ただしアンデッド限定っぽいけど。
隙間が空いたところを何とか走り抜けて、元居た大通りに向かう。
い、今のって……新しい魔法ができたってことだよね……? 殺菌魔法?? 人に向けたら危ないから、後でちゃんと練習しないと……なんて思って、私は全然前を見ていなかった。
「ぅわっぷ……!」
気づけば目の前に男の人がいて、私は思いっきりぶつかってしまう。やば……すごくワイルドな服装で、何も言ってくれない……盗賊とかだったらどうしよう。
「すすすいません……!」
「何してんのよ、グリハルバ」
聞き覚えのある声に目を向けると、ミステリアスな占いのお姉さんがいた。
「あ、占い師さん……?」
「あら、お元気?」
「は、はい……何とか」
「そ、良かった」
「あの、本当にすみませんでした。今、眷属たちに追われてて……」
「は?」
占い師さんは話を聞いた途端、私の後方に向けて目を凝らした。何だか瞳が黄色に光ってる。魔法か?
「ちょっとマズいわね……グリハルバ!」
占いのお姉さんとグリハルバさんは、すごいジャンプで建物の屋根に登って行った。お、御庭番……? チンタラしていたせいか、またしてもアンデッドがわらわらと路地から集まってくる。もう! 何人いるんだよ!!
離れたところで占いのお姉さんとグリハルバさんが戦っているのが見えた。頼れるお二人なのかもしれない。とにかく私は私にできることをやろう。さっきの殺菌魔法を!!
「美味しそうな人間……美味しそうな人間……」
眷属たちは何だか虚ろな顔をして、ずーっと同じことを呟いている。これ……吸血鬼ってよりゾンビっぽいんですけど……? 思わぬ方向から腕が振り下ろされ、思わずビビって対処が遅れた。足がもつれて横向きに倒れる。手を地面についてしまい、すぐ魔法が発動できない。
ヤバ!! 誰か……!!
体が硬直して思わず目を閉じる。駄目ってわかっていても、つい受け身を取る体制になってしまった。結界が物理攻撃も防いでくれるといいけど! もう運を天に任せるしかない……!! ドン亀作戦で凌げるか?!
「こんなところでグズグズしていてはいけませんよ、ミドヴェルト様」
「ええぇぇ! マーヤークさん!? マーヤークさん何で!?」
急に執事さんの声がして、泣きたいほど嬉しい。何この安心感……これからは少佐と呼ばせてもらおうか! でもその前に殺菌魔法を発動させる。半径3mくらいのアンデッド達が倒れた。
「これはこれは、新しい魔法を身に付けたのですね。おめでとうございます」
「ありがとうッ! ございます! でもイメージとは違いました!」
「確かに……あまり拝見したことのない魔法ですね……光なのか闇なのか」
「うわっ……ぶ、ブラックライトです!」
「ほう……」
悪魔執事のマーヤークさんは、眷属たちの攻撃をひらりひらりと軽くかわしながら、気軽に話しかけてくる。余裕を見せつけてくれるよね! 私はとにかく、このアンデッド達をゾンビと仮定して、当たり判定に掠らないように必死だ。吸血鬼だと思ってたときは噛まれなきゃいいやと思って頭部だけに注目してたけど、ゾンビなら引っ掻かれてもマズい気がする。そういや、空気感染してる作品もあったけど……さ、殺菌効果を信じよう……
二人がかりであらかた眷属を片付けると、いつの間にか占いのお姉さん達はどこかに行ってしまっていた。た、助かった……のか? 執事さんの後についていくと、思ったよりすぐ大通りに着いた。
「ミドヴェルト様、お怪我はございませんか?」
「た、たぶん……大丈夫です」
慌てて体中をチェックするけど、痛くもないし平気だと思う。焦って中途半端になってたけど、あの結界でセーフだったみたい。しっかし……こりゃもう外には出れないか? お城でも眷属に襲われたらどうしよう……そんなふうに不安がっていると、お城の敷地内では王様の命令が絶対だから、私の生存権は守られているのだと執事さんが教えてくれた。そ、それは良かったです……逆に王様に嫌われたら無事死亡ってことね……
王都にも王様の御威光は届いているはずなんだけど、場所によっては何故かスラム化してしまうスポットもあるのだとか。だからあまり危険地域には入り込まないように、とのお叱りを受けた。す、すいません……
「……そういえば、マーヤークさんはどうしてあそこにいたんですか?」
「ああ、以前お渡ししたペンダントに道が仕込まれておりまして、そこを通ってまいりました」
「ふぁ……?」
こ、これ、そんな代物だったの……?! 驚いて首にかけているペンダントを確認する。無難なアクセだからって、ついヘビロテしてた……そういえば、お城の廊下で妖精に襲われかけた時も、急に執事さんが出てきてたっけ……
思わず取り澄ました顔の悪魔執事を凝視してしまう。こ、こいつもストーカーなのか……? いやまあ、助かったのは事実だけれども!! ま、まあ……いざという時にヘルプが期待できるなら……え? いや、そういう問題か……? 知らない間に生命力とか抜き取られてないだろうな……?
「ご安心ください、王子殿下の命により、使用用途は限られておりますので」
「そ、そうなんですか……?」
フワフワちゃんが? なんか意外。私はロプノール君だけじゃなくて、フワフワちゃんのこともあんまりよく知らないのかもしれない。でも、直感的にフワフワちゃんは絶対私の味方でいてくれると思えるから不思議。私にはムームー言ってるようにしか聞こえないけど、ほかの人たちはフワフワ語を理解できているようだし、フワフワちゃんは王子様として立派に行動しているんだろうなぁ……
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「ミドヴェルト嬢! 襲われたと聞いたが無事か?!」
念のためと言って執事さんがロンゲラップさんを呼んでくれて、お城の自室で軽く診察を受けていると、吸血鬼公爵様がやってきた。わー最近見なかったから、久々に圧が凄いわー。公爵様は、血の気のない顔がさらに青くなっていて、もう静脈しかないみたいな色合いになっている。
「ご心配をおかけして恐縮です……私は大丈夫ですので……」
個人的に色々思うところがある2人が、同じ空間にいるんですよね……どうしたらいいんでしょうか……? あえて無の心になるように精神を集中する。でも気になってロンゲラップさんのほうを窺うと、本を閉じてフラットな姿勢になってて、質疑応答に備えているようだった。
「まさか、私の眷属がこのようなことをするとは……」
「いえ、私も危ない地域に踏み込んでしまって、悪かったのはこちらなんですよ」
「し、……しかし! そうだ、あなたも眷属になれば、二度と襲われるようなことはなくなるだろう! 眷属たちは私の印を認識しているはずだから!」
はぁ……そんな敵味方識別信号みたいのあるんだねー。今にも私の首にかぶりつきそうな公爵様の圧が超怖い。わ、悪気はないんだろうけど、公爵様って天然で私を追い詰めてくるんだなぁ……
「ち、血を吸うとかはちょっと……ご遠慮いたします。私、注射恐怖症なので! 血液検査とかも苦手なんです!」
「注射恐怖症? ……そ、そうか……それは良くない……」
吸血鬼公爵様の目が、真っ直ぐ私を射抜く。恐るべき目力です……思わず軽く視線だけを逸らしてしまう。顔を背けるのは流石に失礼だよなあ……そんなことを考えていると、ロンゲラップさんが口を開いた。
「確かに、吸血鬼の眷属となれば、目の前の問題は解決するかもしれんな」
「え……」
「しかしミドヴェルト、お前がアンデッド化すれば、生命力を失うことになるだろう」
そ、そうだよね……マーヤークさんも言ってた。私にはものすごく生命力があるって。それがいつ活かせるかわからないけど、わざわざアドバンテージを自分から捨てることはないだろう。それに、いろいろ考えすぎて忘れてたけど、私は生きていたいんだった。……ギリギリまで。どこまで行けるかわからないけど、生きていろいろ体験したい。不死じゃなく。
カッチリと、心の中で何かがハマった。
「公爵様……私……申し訳ありません、ご婚約のお話は受けられません」
「それは……! 待ってくれ、話をッ……」
「安心してください!」
私は公爵様を落ち着かせるために、あえてそのお手を取って「受け入れてるよアピール」をする。人は、否定されると我を失うって聞いたことがある。拒否ってるわけじゃないんだ。なんか違和感があって、もっと時間が欲しいだけってこと。これまで私の意図は滅多に伝わらなかった公爵様だけど、今回ばかりはわかってもらえたっぽい。海外ドラマだと、すぐ手とか握ってるもんね。日本だと、なんか……浮くけど。
「……公爵様には、私以外に運命のお相手がいるんです……」
「何?」
「そのお相手を……私が探します!」
私が公爵様のためにできること、それはたぶんコレなんだと思う。
自分がやるべきことがわかったら、なんだかスゴくいい気分になれた。




