17.『天井桟敷は大騒ぎ』part 2.
号外!! 吸血鬼公爵閣下、婚約か? 世紀の恋!! お相手は美味しそうな人間?!
占いの結果を口実に、何とか公爵様の申し込みを断ろうと思っていたら、なんか話が勝手に進んでいた。世紀の恋って……ウィンザー公じゃないんだから。また例の飛ばし記事か?? 適当書きやがって……っていうか、私ってば食糧なんでしょうか……?
今は、フワフワちゃんとアイテールちゃんが、私の部屋でくつろぎながらチョコを嗜んでいる。美味しそうってのはさぁ……こういうチョコレートのことを言うんじゃないかな?
アイテールちゃんが持ってきてくれた新聞を見ながら、私は深いため息をついた。正確には、妖精王女様が新聞を抱えて、フワフワちゃんの上に乗って運んで来たんだけどね。重くて飛べなかったらしい。
「はぁ……終わった……」
「なにをいうておる、これからすべてがはじまるのではないか、きょういくがかりどのよ」
「ムー!」
チョコを食べ終わって満足したのか、フワフワちゃんが私の膝に乗ってスリスリしてくれる。吸血鬼公爵様対策ではじめた朝活は、なんか楽しいねっていうことでまだ続いていた。公爵様はいらっしゃらないようだ。束の間の休息。ははは。追い込まれてるぜ……
でも、魔国の人は、人間をあんまり特別視しないんじゃなかったっけ……? いや、待てよ? この情報は、確かロプノールさん経由だった気がする。も、もしやミスリードされてる……? うわーん! 難しいことあんま考えたくないのにぃ……
朝活も終わりかけになると、ドアをノックして執事さんが部屋に入ってきた。
「ミドヴェルト様、統率者たるロワがお呼びです」
「……それって、この件ですよね?」
「さあ、それは……」
私が掲げた新聞の号外を見て、悪魔執事マーヤークさんはただ苦笑していた。
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王様の要件は、やっぱり吸血鬼公爵様の件だった。
「そなたに無理強いはせんが、吸血鬼公爵たるジャマナ卿より、本日正式に婚約の申請があった。受けるのか?」
婚約の件は、何やらかんやら書類申請する超絶正式なやつらしい。私の後見人は王様になってたみたいで、吸血鬼公爵様より王様に話が行ったとのこと。これはデカい案件だ……ヤバい、ヤバすぎる……
「そ、その……ですね。も、もう少し考える時間を……」
「ちなみに、返答には1ヶ月の猶予が与えられております。ただ、この期間は通常お輿入れの準備に費やされるものでして、ご返答はお早めに願いたいと存じます」
大臣さんがさりげなく追い込んでくる。うぅ……断れないのか?
「余はいい話だと思っているぞ。そなたがこの国に根を張るというのであれば、魔国としても歓迎する」
「はぁ……前向きに検討しますです……」
王様たちにも変なハッパをかけられて、私は足取り重く謁見の間を出た。あのおじさん達はどうせ、私を早めに片付けたいんだろうと思う。しかも魔国内に落ち着くのを歓迎するっていうからには、未来永劫いろんな面倒を押し付ける予定に違いない。私が人間のままだと、あと60年くらいで死んじゃうだろうし、不死になってくれたほうが都合がいいのかもしれない。
確かに、魔国でお世話になっている限りは、王様の意向に逆らえないだろう。はぁ……困った。
こんなときはストレス解消にショッピングしかないね! ちょっと街ブラして心の整理をしてみようじゃない。初見はビビっちゃったけど、一応都会っ子として、慣れればあのダンジョンみたいな王都だって余裕ですよ。気分転換でリフレッシュしよう。散歩して体動かせば、なんかいい考えが浮かぶかもしんない。
そんな適当な理由をつけ、私は街に出た。書を捨てよ!!
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魔国の王都として、ただでさえ立体感のある街は、前回の探索時よりさらに騒がしくなっていた。
「吸血鬼公爵様ご婚約記念のパンを配給するよ! これはストーカー公爵家より500万Gを穀物取引所と製粉協会にご寄付いただいて作られた高級品で、王都に住まうもの全員に提供される、真の魔国民のためのパンだ!」
「いらっしゃい! 吸血鬼公爵様ご婚約記念のマグカップはいかが? 公爵様ご愛用のデザインとお揃いだよ!」
「吸血鬼公爵様がおみ足を拭いたタオルだよ! 限定6枚、早いもん勝ちだ!!」
なんかすごいことになってるなぁ……ほかにもスプーンにお皿、燭台に水差し……いろいろな記念グッズが展開されてる。前回行ったフルーツ屋さんでは、公爵家ゆかりのフルーツジャムが並んでいた。絶対ソレ急遽テキトーに作っただろ!! グッズがない店では、割とお得なセールみたいなことをしていて、私はきれいな石屋さんで緑色の石を買った。自分の名前が「緑」なせいか、無意味に緑色が好きなのだ。
魔法なのか、ガチでエメラルドなのか、ともかくすごい綺麗な緑の石だ。カットはされてないけど、ツルツルに磨かれていて、宝箱に入れておきたい感じ。お買い得だったので、直径3cmくらいの歪な石だったけど、かなり心が浮き立ってきた。現実社会でもパワーストーンみたいなの大好きだったんだよね。まあ、水晶オタの友達に影響されて何となく集めてただけだけど。でも、満月の夜に月光を当ててみたりはしていたのだった。
この世界にも魔法石とかあるのかな? 今度ロンゲラップさんに聞いてみよ……そんなことを考えていたら、あまり治安のよろしくない場所に入り込んでしまったようだった。
カンカンカン! ……カンカンカン!
物乞いのような子供が、私の前でコインが数枚入った木の器を上下に振る。い、入れろってこと?? 少し離れたところでは、こっちをガン見する親っぽい人が、頭から布をぐるぐる巻きにしてじっと見ている。なぜみんな無言……
カンカンカン! ……カンカンカン!
あーもう! わかったってば! 離れようとしてもしつこく追いかけられるので、私は仕方なくコインを子供の器に入れる。気がつくと、後ろにも同じような子供がいて、4、5人に囲まれるような形になってしまった。……失敗。いいカモだと思われている……いや実際、いいカモなんだけどぉ……
念のため、結界を張ろうとすると、後ろのほうで誰かが言った。
「吸血鬼公爵様の婚約者だ! 美味しそうな人間!」
おいおい……マジか。何だか不自然な気がしたけど、あの号外を読んだ人なのかな……? 私の個人情報って、どこまで漏洩しちゃってんの?! 慌てて周囲を見回すと、美味しそうという言葉に反応してるっぽい人が集まってきた。に、逃げなければ……でも、どこへ? 走って振り切れるかな? いやいや魔物の走るスピードに勝てるわけないじゃん。私のスピード値は1よ!
「美味しそうな人間……美味しそうな人間……」
命の危険を感じる。こ、こいつらは眷属の皆さんなのか? だとしたら全員吸血鬼なの?? 簀巻きにされるのだけは勘弁したい……!
ファ……ファイヤーボール打っていいかな? 街中だけど……というか、それ以前に聞くのか? アンデッドに火は相性良さそうだけど、なんせ私の火魔法は弱小だ。
不意に背後から光が。
え? マジで攻撃してくんだ!?
いや、そうだよね、今はそういう状況だもん! ストップ! 平和ボケ!!
慌てて振り返ると、すぐ目の前にまぶしい緑色の光が迫っていた。終わった!!
と思ったら、光は弾けとんで消えた。これって妖精魔法?
……だいじょうぶじゃ、きょういくがかりどのには、ほうびとしてようせいおうのかごをさずけておる……
ま、まだ妖精が魔国に潜んでるってこと?!




