17.『天井桟敷は大騒ぎ』part 1.
※長いので分割します。
「あんた! 聞いたよ、良かったじゃないか!!」
お城の客間から出ると、厨房のおばちゃんがドアの外に控えていたっぽくて、思いっきりぎゅうっと抱きしめられた。自分が作ったデザートが、公爵様のお口に合うか気になっていたらしい。エフェソスのアルテミスのようにふくよかなおばちゃんの胸圧で、危うく窒息しそうになる私。厨房のおばちゃん……あなたも公爵派でしたか。
「んー! あんたはいつも良い匂いがするねぇ! きっと公爵様のお口にも合うはずだよ!!」
……何やら不穏なフレーズが混ざっていたように感じるが……まあいいか。喜んでるおばちゃんに水を差すのも悪いので、されるがままになる。
しかし……この流れで婚約申し込むか? 普通……いや、私の普通と魔国の普通は違うのか……外国の人だから? そういえば、某イラストサイトで活動してたとき、外国の方が「これ使っていい?」「これもらっていい?」「確認したんだから良いよね?」とグイグイ来て、駄目に決まってんじゃん!! と思ったけど、うまく伝えられなくてノイローゼになって辞めたのだった……交渉力ゼロ。
公爵様は、なんで正式にって部分を強調してまで……? またロプノール君の入れ知恵か? やだなーやだなー。断っていいのかなー? でも、私が個人的に魔国の母と慕う厨房のおばちゃんすら、かなりの公爵様推しみたいだったし……お断りしたのがバレたら、もうご飯作ってもらえなくなるかもしんない。やはり申し込みをお受けするしかないのか……?
いやいや、ご飯のために進路を決めるっておかしいだろ。冷静になろうよ自分。
これがもしロプノール君だったら簡単にフれたのか?
まあ、気持ち的には、もうあいつにドン引きしてるからなぁ……でもあっちはあっちで、気軽にフったら謎の罠に嵌められたり凶行に走ったりしそうで怖い。どっちみち、公爵様と付き合ったら、もれなくあいつが付いてくるじゃねーか! いや、付き合わないけども!!
答えは出てるんだよね……
☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜
「おもしろくなってきたようだの」
アイテールちゃんがお望みなので、裏庭のガゼボでひと休み。お茶とチョコレートを用意して、私の悩み相談に応じてもらっている。うぅ……ガールズトークできるのが妖精王女ちゃんしかいない現状……でもどうせ女子が何人いたって、こういう話は消費されるだけなのだ。こっちは愚痴を垂れ流したいだけだから別にいいんだけどね。
フワフワちゃんは、アイスを挟んだ板チョコを2枚食べてから騎士団のほうに稽古に行ってしまった……意外と忙しい王子殿下。フワフワちゃんは体動かすのが好きらしく、稽古に私がついていく必要はないらしい。部活大好き少年か。
「面白くありませんよ……」
「われには、きょういくがかりどののなやみがわからぬな。あいなきけっこんなどよくあることじゃ」
さすが王女様、達観してるぅ……
まあでも、そうね。現実世界でも年齢とかタイミングとかいろいろで、妥協して結婚してる人は結構いた気がする……話が貰えるうちが花ともいうしね。でもでも、離婚した友達もいて、なんか憧れの気持ちを恋愛感情だと誤解してたって言ってたよ? そんなの、お互い不幸だよ?? 泥沼離婚裁判に発展してたし……
「けっしんがつかぬのなら、うらないにいってみるのもよい」
「え……占いですか……?」
「かんがえかたのもんだいであろう。きょういくがかりどのは、いつかうんめいのあいてがあらわれる、とおもうからまようておるのじゃ。しかし、あしたしぬうんめいならば、そんなあいてとはであわない」
「な……! え……?」
「かのうせいとして、しあわせなけっこんをするかもしれないし、ふこうなけっこんになるかもしれぬ」
「はぁ……まあそれは、確かに……」
「すきでもないあいてとけっこんして、ながくあんいつにくらすのと、すきなあいてとけっこんして、すぐやもめになるのならば、どちらをえらぶ?」
「うえぇ……?」
またしてもアイテールちゃんの圧がすごい……なぜそんなにも究極の選択を?! あーでもなんか、女子の憧れみたいな某随筆家が、死を間近に感じないと大恋愛できないみたいなこと言ってたわ……それのことか? ま、吸血鬼と結婚して不死になるくらいなら、私は大人しくおひとり様の道を選びます……たぶん。
「みらいがわかれば、はらもくくれるというものよ」
アイテールちゃんは、そういうとカプッと花びらチョコに噛み付いた。
☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜
「す、すみません……ほかに頼める人がいなくて……」
「構わんよ、私も街に出てみたいと思っていたところだからね」
堕天使のマルパッセさんは、精神的にもだいぶ安定して、ロンゲラップさんから外出の許可が出たらしい。そんな話を執事さんから聞いたので、私は早速お出かけに誘ってみたのだった。まあ、占いに一緒に行ってくれる犠牲者を探してただけなんだけどね……
フワフワちゃんとかアイテールちゃんを連れて王城から出るとなると、たぶん竜車が出て大名行列になるだろうし……ひとりで行くのも心細いし……何も知らない頃だったらロプノール君を誘っていたかもしれないが、そもそもアイツが原因で占いをするまでに追い込まれているのだ。
街で評判の占い屋の場所は、お城の文官さんに聞いてきた。……はずだった。
「お、思ったより栄えてますねぇ……」
王都っていうだけあって、すんごくたくさん建物がある。赤い屋根の石レンガのお家とか、バッテンの柱がいっぱい使われてる漆喰のお家とか。それが王城の聳える山肌に沿ってとんでもなく広がっていた。そう……とんでもなくね。
え? これ、私が悪いの? 文官さんの地図が悪いの? この街の構造が複雑なの?? 平地を想定して少し甘くみていたかもしれない。魔国ジェヴォーダンの王都は、まさかの立体ダンジョンだった。まるで都心の某駅みたいな……階段登って、降りて、3階、4階? 立体交差と地下もある!! それが駅の敷地内どころか、街全体に広がっているのだった。やっべえ……これ、帰れるかな……?
さ、最悪の場合は、オールで始発待ちみたいなことになるかもしれない……ごめんマルパッセさん……
しかし我らが元記録天使は、この困難に対峙するにあたり、驚くべき才能を発揮したのである!!
「なるほど、こちらの角を曲がって階段を降りるようだ。それから右手に曲がって突き当たりを左か。正面に見える場所に店があるようだな」
……やだ、天才!! 惚れたぜ!! 私は堕天使マルパッセ様のお告げに導かれるまま、先へと進んだ。……あれ? これ……占いなんか必要なくて、ファティマの預言よろしく、マルパッセの預言をいただけばいいだけなんじゃ……?
軽く目的意識を失いそうになりながらも、ファンタジーな石造りの街を歩く。ところどころに店があって、品物がカラフルだ。地味な世界に急に新鮮なフルーツとかが山盛りになっていて、ちょっと寄り道したい。
「マルパッセさん! 買い物していきません?」
「何を言っているんだね、そんなのあとあと! 荷物が重くなるよ!」
こういうのは段取りが大事なんだ、とマルパッセさんがブツブツ呟きながら地図と街の作りを交互に眺める。さすがの天才も迷ったか? ……と思うと、小さく「よし!」と言ってまた歩き出した。仕方なく私も慌ててついて行く。
辺りを見回すと、どこもかしこも石と花と店の連続で、あとは階段と高い場所に布がヒラヒラしてるだけ。右も左もほとんど同じ景色だった。なんだか不安になって堕天使のオジサンを探すと、3つ目の店を右に曲がってるっぽい。焦って小走りに駆け込むと、そこは薄暗い裏路地だった。
「マ、マルパッセさぁ〜ん……?」
急に心細くなって堕天使のオジサンの名前を呼んでみる。奥のほうで人の話し声がした。い、行ってみるしかない……?
「す、すいませぇ〜ん……」
「わかったよ、グリハルバ。じゃあ、あたしは……」
布で覆われた部屋っぽい場所に入ると、見知らぬ女性と目が合ってしまった。いかにも占いの館っぽい。グリハルバと呼ばれた人影は、私を待つことなくスッと去って行った。女の人は何だかミステリアス系の美人で、胸が半分出てるみたいな露出度の高い、ゲームの登場人物っぽい服を着ていた。
「……どうしたの?」
「あ、あのぅ……占いをしてほしくてですね……」
「占い? ……ああ、良いけど?」
「はぁ……」
「座りなさいよ。何を占いたいの?」
「えーっと……結婚相手について、ですかね?」
「そ、手ェ出して」
魔法系の占いかと思ったら、まさかの手相だった。ワクワクしてたのにちょっと残念。占い師のお姉さんは、私の両手をニギニギしながら目を閉じる。おぉ? 手相じゃないかもしれないぞ?
「その人は男? 女?」
「いや、え? お……男の人です……」
「生きてる?」
「えーと……生きてるような……死んでるような……」
「女いるね」
「ふぁ?」
「今はいないけど、あなたのお相手には運命の相手が見つかる。やめといたほうが良いんじゃない?」
これはビックリ。公爵様にはちゃんと運命の人がいらっしゃるようだ。やっぱりこの話は断ろ。半信半疑だったけど、アイテールちゃんの言うとおり、占い師さんに見てもらって良かったかも。
「あ、ありがとうございます! 助かりました、すごく迷ってたもので……」
「あらそ、あんまり良くない結果だったからお代は結構よ」
軽く追い出されるようにして、私は裏路地から大通りに出た。すると、道の脇でマルパッセさんが地図を持ったまま、キョロキョロと辺りを見回しながら困り果てていた。
「マルパッセさぁん!」
「ああ、そこか、迷ってしまったのかと心配したよ」
「すみません、占ってもらってて」
「じゃあ用事は済んだのかね?」
「あとは、さっきのフルーツのお店に寄って終わりです!」
王都ダンジョンは後でゆっくり攻略しよう。なんせ私は、某メッセですぐ行き倒れになるようなダメ人間なのだ。ウズウズしながらも目的の店だけ見て、私たちは早々に撤収した。




