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16.『ジャマナ・ストーカー』part 2.

 なぜか私にご執心な公爵様の対応に苦慮してる間、ロンゲラップさんの研究は違う方向に進んでいたらしい。


 久々に錬金術師のアトリエに出向くと、青髪悪魔は大きな革表紙の本に何かを書き込んでいる最中だった。



「なんだ、()()()この場所の存在を思い出したのか」


「いや……忘れてたわけじゃないんですけど……」



 なぜだかこのフラットな対応に癒される……


 好かれるって……疲れるね。嫌われるのも嫌だけど。そういやフワフワちゃんには好かれても嬉しい。何なんだろう? この違い。まあフワフワちゃんはフワフワしてるし、一緒にいると心がふわぁっとなる。オキシトシンもあふれるみたいな感じだし、そもそも最初から、嫌だとかストレスだとか、これっぽっちも感じなかったからなぁ……


 何で吸血鬼公爵様のことだけがこんなに苦手なんだろう? 目の前にいるロンゲラップさんすら、ちょっと怖いけど嫌いじゃないのに。何なら新しい扉を開きそうになってるくらいに気になる存在だ……って何いってんのかな私。ん? いや待って? いやいやいや……いやいやまさか……おい! あ、これ以上先のこと考えるな……! 思考停止!!



「何をひとりで騒いでいる? おかしな奴だな」


「は! こ、これは……な、何でもなくてですね……」



 思わずワタワタしていたら、怪しまれてしまった……変なこと考えるのはやめよう! そう、実験! 実験のこと考えて、真面目に生きる! 私は真面目! 仕事中!!


 しかし……




「だだだだ大丈夫ですかぁ?!」


「……ッグッ……い、いいから早くやれ、次だ……!」


「は……はいぃ!」


「うあぁッ……クッ……そうかッ……そういうことか……!」




 数十分後、そこには綺麗な青い髪を振り乱して苦しむイケメンが……!! ちなみにメガネは机の上です……


 こんなん、もう無理だってば……なんていうか……その。






 私、ロンゲラップさんのこと好きだわ。










☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜






「われも、おうじでんかのことはすきだ。だが()()はしておらぬな」



 ため息をつく私と一緒に、窓の外を見つめるアイテールちゃんが言う。小さいからつい子供扱いしてしまうけど、妖精王女のアイテールちゃんだって、最初は婚約目的で魔国に来たのだ。いろいろ憂鬱な思いを抱えていたに違いない。くっ……こんな女子トーク現実世界でもしたことないのに……しかも、教育係が教育対象に何をアドバイスしてもらっているんだよ……本末転倒ってやつなのではないか。



「それで、きょういくがかりどのはいかがいたすのか?」


「ど、な……何をですか?」


「きまっておろう……あおがみあくまときゅうけつきこうしゃく、どちらをえらぶのかきかせるがよい」


「ぅえぇ……?」


「くるしゅうない、いってみよ」


「ろ、ロンゲラップさんは……そういうの興味なさそうなんですよね……」


「ならばきゅうけつきのほうか?」


「いや、それは……」


「ではあくまをえらぶのか、ごうぎなことよ……」



 うわわわ……なんかアイテールちゃんの圧が凄い……でも、どうしたらいいかなんて、わかんないんだよ。ていうかそれ、今決めることなのかな? なんつって、他人に聞いてどうなるもんでもないよね。わかってるけど誰かに愚痴りたくてたまらない。意外にもこの場合、アイテールちゃんはいい話し相手になってくれた。この気持ちだって一時的なものかもしれないし、そもそも好き嫌いなんて自分でもコントロールできないあやふやな感情だ。これから、もしロンゲラップさんの闇の部分とかを知ったら、急に嫌いになるかもしれないし。人の心なんて当てにならんのだ。特に……私の心は。


 じゃあ吸血鬼公爵様を好きになる日なんて来るのか? それが来る予感はしない。なんでかはわかんない。



「はあぁ……」



 悩む私をよそに、アイテールちゃんはニコニコしながら花びらチョコにかぶりついていた。





☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜






「よし……いない……」



 こっそりお城の図書館に来た私は、流れで借りてしまった吸血鬼公爵様の本を気合いで読破し、やっと返しに来たのだった。感想もバッチリ。なんか手元に置いておきたくないんだよね……変に繋がりとか感じられても困るし……いや、何言ってんだって感じなんだけど。囁くのよ、私のゴーストが……


 流石にロックオンされてるなってことぐらいはわかるし、なんかやべえ感じがヒシヒシと来てる。自意識過剰じゃなくて、なんつーか、ガスライティングっつーか、狙われてる感覚はあるんだよ。ちょっとずつ追い込まれてるというか……もしや統失一歩前なのか??


 そりゃ相手が一般人なら、気軽にNOを突きつけられるけどさぁ……例えば王様の呼び出しに抗えないように、公爵様に命令されたら逆らえないじゃんか! 今んとこまだ命令形のお誘いはないけど……そりゃあ私がロプノールさんみたいに公爵様の大ファンなら嬉しくて飛びあがっちゃうんだろうけど……



「あれ? ミドヴェルトさん? どうしました?」


「ヒィッ! あ、ロプノールさんかぁ……」



 思わず飛び上がりかけたが、相手を確認して半目になる。元はと言えばこの人がすべての始まりな気がするんですけどー? とかいって、睨んでみてもはじまらないか……あ、駄目だコイツ……完全に悪気のない仲人(なこうど)の目をしている……でも、一応抗議のひと言ぐらいは言いたい。



「ちょっとぉ! ロプノールさんでしょ? 公爵様にテラリウムなんか運ばせて……!」


「ああ、どうでした? 公爵様テラリウムお上手なんですよ」



 僕が教えましたから! と自信満々に語る角エルフ。こ、コイツ完全に黒幕だった……! 公爵様はかっこよくてー。公爵様は優しくてー。公爵様は真面目でー。公爵様はお茶目なところもあってー。と、ひたすら吸血鬼公爵様の良さについて語ってきやがる。この感じだと、公爵様にも私のこと変に持ち上げて吹き込んでないか?? 事情はだいたいわかったけど、なんでこんなことするわけ? 謀略か? 陰謀なのか?!



「な、何でそんなに私と公爵様を合わせたがるんですか?」


「えーだって……()()()()()()()()が付き合ってくれたら最高でしょ?」



 はぁ? コ ド モ か !!!



 え? あれ? ロプノールさんてそんな人だったっけ?? なんかもうわからなくなってきたよ……パトラッシュ……



「わ、私だって、ほかに好きな人がいるかもしれないでしょ!」


「……それ、誰ですか?」


「そ、それは……」


「その人って公爵様より偉いんですか?」


「えぇ……? そういう問題じゃ……って」



 あれ? ……なんで? ロプノールさんが急に回転……






 ……何これ……メニエール??







 つの? ぐるぐる……







 …………









☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜






 ポットから何かを注ぐみたいな音がして目が覚める。


 コーヒーの香り。



「……大丈夫か? よかったら飲むといい」


「……公爵様……?」



 うわぁ……やっちまったなぁ……ここは、吸血鬼公爵様のお部屋か? 全力で避けてたのに……見回すと結構豪華な部屋で、ベッドも天蓋付きだ。私は長めのソファに寝かされていて、目の前の高級そうなローテーブルに意外とシンプルなマグに入ったコーヒーが置かれてる。


 ……へ、変なことはされてない。……たぶん。いやいや公爵様のことは疑ってないけど、一応。



「図書館で倒れたと聞いたが……どこか痛むところは?」


「……大丈夫です、申し訳ございません……」



 あれ、吸血鬼公爵様って、ご自分でコーヒなんか入れちゃうんだ……こういうとこなのかな? ロプノールさんが良い人って感じたポイントって。


 ……! っていうか、私、ロプノールさんの謎の能力でやられたんじゃん!! アンニャロどこ行った!!



「あのッ、ろ、ロプノールさんは……?!」


「ああ、何か用事があるとかで、すぐ出て行ったが……」



 本気なの? 本気で私と公爵様をくっつけたいワケ? だったら、もうちょっとやり様ない? あの人、もっとスマートなイメージだったのに……こんな雑なやり方って……つーかアイツなんの能力だったんだ? コレ……睡眠系……? か、確認していいかな……? マズいかな? でもこんなのもう……いや、立場なんか関係ない、はっきりさせないと駄目なやつだ。



「吸血鬼公爵様、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ん? ああ、いいが……お……私に答えられることならば」


「それでは単刀直入に質問いたします。公爵様はロプノールさんに、私を攫ってくるよう命令されましたか?」


「な……! (さら)う?! そ、そんな命令はしていないが」


「そうですか、では、ロプノールさんが勝手にやったことなのですね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! いったい君は……あなたは何を言って……?」


「私は……ロプノールさんの魔法か何かで眠らされ、意図的にコチラへ運び込まれたみたいです」


「まさか……そんな……」



 この狼狽(うろた)えっぷりが演技じゃなければ、公爵様はシロだろう。ぬぼっとしてるから、そんなに小細工とかしない……と信じたい。その後、私の取り調べに素直な供述をしてくれた吸血鬼公爵様によると、ロプノールさんは前回目覚めた時に身の回りの世話をしてくれた従僕だったみたい。やっぱりロプノールさんて、おじいちゃんなのか?


 でもそうじゃなくて、公爵様が前回眠りに入る前に、またお世話したいからってロプノールさんに頼まれて眷属にしたらしい。……ん? ということは、ロプノールさんて()()()なの?!


 公爵様曰く、ロプノールさんは真面目で良い子だったのだとか。でも666年の間に何かあって、公爵様が頼んでもいないことを独断で計画してるのかもしれないということだった。


 うーん……なんかみんな色々しがらみがあるのね……


 公爵様は(うつむ)き、左の手のひらで顔を覆っていた。左利きなのか。手もイケメンだ。この人にはまだまだ謎はあるけれど……今はひとつずつ解き明かしたほうがよさそう。とりあえず公爵様にはできるだけ丁寧に挨拶して、私はロプノールさんを探すことにした。吸血鬼公爵様は何だか落ち込んでいたけど、まあほっとくしかないね!


 さあ、真犯人に真実を説明してもらおうじゃない!









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