表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/46

2.『旅の仲間はフワフワ』

 朝、目を覚ますと、隣には白いフワフワ動物がいた。



「何これ可愛い……ん?!」



 とりあえず目が覚めた。なんやコイツ? 猫? いやまさか……え? 見たことないんだが??



 ん??




 ん???





 スヤスヤ寝てる。超カワイイ。でも。



 うーん……そうね、猫ではない。もちろん犬でもない。しかし、フワフワしている。マズルも可愛い。そしてこれは、プ、プライモーディアルポーチ!!



 もう猫でいいだろ、コイツ。可愛いし。



 正確には、猫サイズだけど猫よりまんまるだ。


 でも、見た目可愛くても毒持ってたり、起きた途端に襲って来たりしないかな……?


 などと考えながら、その白いフワフワを観察していると、フワフワちゃんはパッチリお目々を見開いた。



挿絵(By みてみん)




「あ、起きた?」

 


 フワフワちゃんは、私の言葉に不思議そうな眼差しを返す。可愛い。でもどことなく人間ぽい顔つき。何となく人面猫みたいな雰囲気だった。でも体はまんまる。顔しかないというか。顔に手足?



「ムー?」



 フワフワちゃんが控えめな音量で鳴いた。可愛い。



「ム、ムー……! ムー!!」


「え? なんか言ってる? 何? わかんない!」



 お互いにアワアワして、とりあえずフワフワちゃんを抱っこしてみる。超フワフワ。思わずオキシトシンが出てしまうよ。ふわぁ……


 フワフワちゃんは、違うと言いたげに私の腕から逃れて地面にバウンドした。着地できないんかい!


 それでも器用に転がって、また私の足元に戻ってきた。



「ムー……?」



 見上げる金色の瞳が大きくて可愛い。もうダメ、可愛いしかない。私、これ頼られてるのかな? いや、頼られてるよな。絶対頼られてるって! ……ということにしておこう。


 朝ごはんの前にワチャワチャしてしまったので、お腹がすいた。まずは貴重なタンパク質を探しに行こう。



「フワフワちゃん、ここで大人しくしててねー」



 私は何となくフワフワちゃんにお留守番を頼んで、沢の浅瀬を探る。フワフワちゃんって、ご飯食べるよね……ザリガニ、受け付けてくれるかな……? まあ、魔物っぽいし食べてくれるんじゃないかな。深く考えたところで意味はないのだ。だって、私は今ザリガニしか捕まえられない。甲殻類アレルギーじゃないといいけど。








「ムー!」



 フワフワちゃんは、喜んで焼きザリガニを食べてくれた。本当は魚が捕まえられれば良いんだけど……スイマセン、ムリデシタ……


 なんか目がキラキラしてるし……これは美味しいってことでいいのかな?


 謎の生物だけどすごく可愛いし、とりあえず焼きザリガニが食べれるんなら、お世話もできるかな?




 そんなふうに考えていた時期が私にもありました……




 何だか「ピキン!」とスイッチが入ったらしいフワフワちゃんは、すごい勢いで沢の岩影にジャンプしていった。うん、何だろうね……とにかく深く考えないことが大切だと思うよ。ははは。私は何も対応できずに、自分の焼きザリガニを咥えたまま、フワフワちゃんが重力を無視したような高速の動きを続けているのを見ていた。だって、何もできないんですもの。私にどうしろっていうのよ。追いつかないってば、あんなもん。


 しかし、私の目の前にビチビチ跳ねるザリガニが連続して投げられて来ると、とにかく逃がさないように慌てて集めることになった。フワフワちゃんすごい! 子供の頃は私だってもっとザリガニ捕まえるの得意だったんだけど、なんか大人になったら苦手になってたのよね。わ、私だって昔はこのくらい……このくらい……え? どんだけ獲ってくれてんの??


 フワフワちゃんは最終的に50匹ぐらいのザリガニを獲ってくれた……マジか……こんなに食べれな……ああ、あなたがお召し上がりに……え? 焼け? はあ、御意……



 遭難2日目はザリガニを焼いて終わった……








「ムー! ムー!」


 夜はフワフワちゃんを抱っこして安眠できた。フワフワちゃんは、陽が落ちて焚き火の明かりが目立つようになると、すぐ目がトロンとしてきた。焚き火のゆらゆらした炎は、まあ催眠効果もあるっちゃあるよね。ひとりで寝たときはすごく心細かったけど、あの人外な動きができるフワフワちゃんが一緒なら、多分安全だろうと思い込むことにした。もしかすると、私だけ置いていかれる可能性もあるけど。


 そんなわけでぐっすり熟睡していた私を、日の出とともにフワフワちゃんは起こしてくれた。多分まだ朝の4時か5時……健康すぎる。


 毎度の焼きザリガニで朝ごはんを済ませると、私たちは下山するために移動をはじめた。


 昨日から、何となく沢を下って歩いていたんだけど、まんまと滝っぽい場所に辿り着いてしまった。山で遭難したら沢に下ってはいけないと言われているけれど、飲み水と唯一の食料であるザリガニの問題があるから、川辺から離れられなかった。そもそも、気づいたら沢にいたし、どうすることもできない。


 両脇の山は、絶妙に登れなかった。まあスニーカーだしね。途中までは登れるんだけど、柔らかめの土と苔で滑りまくって、あと少しのところで上に登りきれなかった。フワフワちゃんに少し期待してみたけど、そう都合よく意思疎通はできなかった。それどころか、滑りまくってウォーキングマシンで運動中みたいになっている私を、キラキラした目で見ながら飛び跳ねてムームー喜んでいた……うん、そうね。面白いかもしれないね……




 どうしよう……行き詰まってしまった。


 はぁ……空が飛べれば……




 私はどうすることもできずに滝の上で立ちすくんでしまった。足元には、フワフワちゃんが滑らかな動きで8の字を描くようにスリスリしていて、何も知らずにご機嫌そのもの。頭上には、爽やかな水色の青空。なぜ水空じゃないのか。


 滝を降りて、また行き詰まったら、もう戻れない。うーん……


 そんなふうに考え込んでいると、元気いっぱいのフワフワちゃんが何の前触れもなく滝にダイブした!



「ちょ!! ……え?!」



 フワフワちゃんは、急に下からテーブルのように噴き上げてきた水柱に飛び乗り、楽しそうに上下しながら私を呼ぶように鳴く。



「ムー!!!」



 嘘でしょ……私、高所恐怖症なんですけどぉ……



 でも、ここでフワフワちゃんに見捨てられたら完全に詰む。どうせ死ぬなら思い切って飛んでみよう! そんな覚悟でフワフワちゃんに向かってジャンプする。水柱のエレベーターは意外にしっかりしていて、私たちは安全に下に降りられた。ほっ……と、息をつこうとして気づいたんだけど、



「フワフワちゃん、あなた水の魔法が使えるの?!」


「ムー!」



 フワフワちゃんは、えっへん! といった雰囲気で可愛くお返事してくれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ