16.『ジャマナ・ストーカー』part 1.
※長いので分割します。
……お前って、マジ全然他人に興味ねえのな……
……緑ちゃん、なんか危なっかしいよねー……
そ、そうかな。私、結構みんなに気を使ってたつもりだったんだけど……
……もっと周りを見なきゃダメだよ……
……緑ちゃん、冷たーい……
そうなのかな……そうなのかも……? で、でも……じゃあ、ドウスレバ良カッタノ……?
うぅ……変な夢を見た。口から下しか顔が見えなかったけど、現実世界の思い出かな……? 確かに私はボンクラで、いつも周囲に助けられていた……気がする。何の取り柄もない一般人女性だった。そのせいか異世界でも、つい勘のいい人に甘えてしまっていたかも知んない……私のことをわかってくれそうな人を本能的に選んでしまう。そのせいで執事さんにいいように噂を流されてしまったり、ロプノールさんに何か変な気を回されたりするんだけど。
「やあ……よい天気だな」
「お、おはようございます……吸血鬼公爵様」
あれから何か知らんけど、私の部屋に無意味に公爵様がいらっしゃる。自室まで荷物運んでもらうんじゃなかった……失敗。はぁ……
一応の口実は、私が水魔法できないからってんで、テラリウムのやり方とか教えてくれる……みたいな感じなんだけど……べ、別にそんな真剣に取り組んでないんで、こんな頻繁に来てくれなくても大丈夫なんですが……まあ、こういう趣味っていろいろこだわりがあるだろうし、もしかしたら公爵様はテラリウムマニアなのかもね。そういえば、うちのお父さんも何だかメダカいっぱい育ててたなあ……売ったらお金持ちになるんだぞ! なんて言ってたけど、ちゃんと結果出たのかなぁ? ……いちいち落ち込むから、現実世界のことはできるだけ思い出さないようにしよ。
とにかく、公爵様とはあんまり軽口叩ける関係でもないし、ありがたき幸せ〜な感じで対応しなきゃならんのが地味につらい。ある意味こっちも、嫌々ながら笑顔で嘘ついちゃってるわけだから、吸血鬼公爵様が歓迎されてると勘違いするのも仕方ないことなんだよね。そんでもって……
「今日はあなたと話せて、たの……よかった。では日を改めてまた」
「は、はいー! ま、またー!」
また来んのかよぉ……脱力。いや確かに有難きイケメン様なんだけどさぁ……やっぱ無碍にできない立場の人に対応すんのって、すんごく疲れるよね。お客様サポート係じゃないんだから……もうホントにどうすんだ? これ……私は目の前のテラリウムをただ呆然と眺めた。
しかもまた、何だか吸血鬼公爵様の話し方が、何か知ってる系というか……私のこと、この世界の人間じゃないって既にわかってるみたいな雰囲気あるんだよね。はっきり言わないけど。これは、新たなるハニトラ? イケメンパワーで何か探り出そうとしてるのか?? よくわかんないけど、そんなことばっかぐるぐる考えちゃって、言っていい事と隠すべき事をアドリブで瞬時に選択しなきゃいけないのがまた非常に疲れる。やっぱ私が最初に弱点聞き出そうとしたのが悪かったんだろうね。アレでなんか勘付かれたんじゃないか……と思う。
それに毎回30分〜1時間くらい話をするんだけど、本ッ当にマジで、特に用事もないっぽいんだよね……謎。別に話が盛り上がったりもしないし、むしろ無言タイムのほうが多いくらいなのだった。意味不明に拘束されるの……マジつら。
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「なるほど、それで部屋を変えたいとおっしゃるんですね?」
吸血鬼公爵様に関しては、ロプノールさんに相談しても無駄だと思い、私は執事さんにコトの次第を明かした。うぅ……あんまり頼りたくないけど、この悪魔くらいしか相談できる相手がいない……言葉が通じればフワフワちゃんに頼りたいけど、無理な話だからなぁ……
ずっと王様のご厚意で、無料で空いてる部屋を借りてたんだけど、今はお金もあるし自立したほうがいいんじゃないかなーと思ったのだった。なんせ、お城は広いといっても、このままじゃ吸血鬼公爵様とひとつ屋根の下みたいなもんだ。来んなっつっても来るし、どっか別の場所で家借りてのんびりしたい。ただそうなると、晩御飯と夜のボドゲタイムがどうなるかわかんないのよね……遅くなってお城に泊まるとかになったら、結局変わんないし……王子殿下を私の家に呼び付ける……? いやいやそんなことできないって……はぁ、悩む。
「吸血鬼公爵様に謀反の意はないと思われますが……周囲の有象無象が厄介ですね……」
「それってまさか……」
私、眷属達に道頓堀ダイブさせられちゃうってこと? う、後ろに気をつけて歩かないと系??
「まさかも何も、ミドヴェルト様は魅入られてしまったのですよ」
「ふぇ?」
「取り憑かれた……と申しましょうか……」
「…………」
「そんな嫌そうな顔をしなくても……吸血鬼公爵の妻ともなれば魔国では大変な名誉ですよ? 夫が眠りについた後も、666年間は確実に公爵夫人として栄華を我が物にできますし……」
「け……結構です……」
何だか面倒がハチャメチャに押し寄せてくる……ぐったりした私を見て、マーヤークさんはふむ、と眉を動かした。
「急に部屋を引き払って、公爵閣下を刺激しても話がこじれそうですね。まずは、あちらの真意を探るとしましょう」
「お、お願いします……」
「いえいえ、お話いただけて良かったです」
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「これがてらりうむというものか……うつくしいの」
「ムー!」
「……お気に召したようで良かった」
とりあえずの対策として、午前中はお子様たちと一緒に朝活をすることになった。なぜか吸血鬼公爵様もご一緒だ。フワフワちゃんと妖精王女殿下がいたら、さすがに遠慮して帰るかと思ったんだけど、意外と混ざってきたので驚いた。まあ、お子様相手だからそんなにプレッシャーなかったのかもね。むむむ。計画失敗か? もう帰ってくんねえか……とも言えないし……みんなで仲良く朝ごはんするしかない。
ぶぶ漬け……ってわけでもないけど、念のため厨房のおばちゃんに頼んで、朝からガーリック系の料理をがっつり用意してもらった。ガーリックシュリンプにガーリックスープにペペロンオートミールにシュクメルリ……のようなもの。トーストもガーリックジンジャーバター付きで、ニンニクの串焼きも付けてもらった。おばちゃんありがとう……面倒言ってゴメン! 食器は銀でピッカピカ。無意味でも気休めにお手製十字架の首飾りを右腕にぐるぐる巻いて握りしめてみる。早朝だからか、相変わらずぬぼーっとしている吸血鬼公爵様だけど、さすがに気づいてくれるだろう。つーか気づけ! 神よ!!
「うむ……これはうまい」
「われもこのりょうりはすきだ」
「ムー!」
……だ、だめだったあああああぁぁ!!
やっぱ噂どおり食べ物は何にも苦手なものなさそう……ううぅ……フワフワちゃんも気に入ったんなら良かったけど……きっとシュリンプだからかもね。ははは。美味いだろ? ザリガニじゃないんだぜ、それ……朝から目が死んでる私をよそに、フワフワちゃんと妖精王女アイテールちゃんは元気いっぱい。吸血鬼公爵様も楽しそうですね……私は一体何をやっているんだ……食後はテラリウムを鑑賞しながら公爵の講釈を聞くタイム。そして今に至る……うぅ……明日はもっと違う計画を立てなければ……
「ミドヴェルト嬢、もしよろしければ、今度は私の部屋でお茶でもいかがかな?」
「え? ……あ……ま、まあ……都合が合えば……?」
「いつでもお待ちしています……では、また」
「あ、はぁ……」
魅入られた……のか? もう良くわかんないね……私だって、いつかは恋人も欲しいし結婚したいけど、それは人間の国に行ってから考えることだと思ってた。魔国ではそんなこと考えてなかったんだけど……一体いつ人間の国に行けるのかもわかんないし。マーヤークさんのいうとおり、魔国の公爵夫人になるのもアリなのか……? とはいえ、私は666年も生きれないけど。ていうか、そんな打算的な結婚、まさに地獄じゃん。イケメンだからって好きになれるとは限らんし……あーもう! 何でこんなことに?? 早くまた眠りについてくんないかなぁ、吸血鬼公爵様。ほとんどストレス源だよ……とりま、お茶は確約してないし、華麗にスルーだな……
……そんなふうに考えていたことが(以下略)
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「ミドヴェルト嬢!」
「ひっ……あ、吸血鬼公爵様……」
「すまない、驚かせてしまったか」
お城の図書館で歴史書を探索していると、まんまと公爵様につかまった。念のため、吸血鬼の伝説を調べているところだったので、何となく気まずくて本を隠してしまう。疑ってるわけじゃないんだけど、グイグイ来すぎなんだよね……昔の人だからかな?
しかし、この人、まさかストーカー? いやまさかね。広いとはいえお城の中なんだし、偶然会うことはあるだろう。……とにかくデカくて怖いんだよね。早く離れたくてたまらない。何がどう苦手とは具体的に言えないんだけど……とにかく苦手だ。
公爵様は、ぬぼーっとしてるから……心優しい大型犬みたいな感じがギリあるけど、何つーかルールに則った騎士団のみなさんのような安心感とは違って、貴族の突拍子もなさがふいに炸裂しそうな危うい雰囲気がある。セレブ特有のヤバい予感というか。
「吸血鬼公爵様も何かお調べに……?」
「私は最近の魔国を把握しようと思ってな、王子の婚約の報があったのだが、その後どうなったかあなたは知っているか?」
「え? そ、そんなことありましたっけ……?」
「ん、知らぬのか? あ、いや……失礼。王子殿下のことであなたが知らないわけはないか」
「え、ええ、一応……」
「私はすでに縁戚から外れていると思うが……慶事があったのなら何か用意したいと思ってな」
あらら、意外とちゃんとしてるんだ……って、私が適当だから、ちゃんとした大人はみんなすごいと思ってしまう。とはいえ、フワフワちゃんと妖精王女ちゃんの間のあれやこれやは、マーヤークさんが内密に処理したからまるっと無かったことになっている。あの飛ばし記事も処理したって言ってたけど、眷属の誰かに聞いたのかな……? 実際、話題になったことは確かだしね。
ふと気づくと、公爵様の目が私の持っている本に向いていた。
「それは……だいぶ前に私が書いた本だ」
「え? あ、そうだったんですか?! 知らなくて……申し訳ございません」
「謝る必要はない……あなたに読んでもらえれば……嬉しい」
やっべぇ……この本、そんなに読む気なかったけど……読書感想文ガッツリ用意しないとだ……ははは。
はぁ……もう嫌ぁ……




