14.『契約の儀式』part 3.
あの時、悪魔にはすでに食べられていたらしい。
私は何も知らずにただ疲労して、別に痛みは感じていなかった。
たぶん今回も痛くないはずだ。
物事はいい方向に考えるべきだ。それが意志ある人間の在り方なんだと思う。
そりゃ、暗くなろうと思えば、いくらだって暗くなれるけどさ。
さようなら……
特に誰かを思い浮かべたわけじゃないけど、自然に別れの言葉が浮かんでくる。
フワフワちゃんにもう会えなくなる……いつもボドゲに付き合ってくれたロプノールさんにも。
魔国めぐりしてみたかったなぁ……
天使のオジサンはちゃんと目を覚ますのか……
モコモコモルドーレさんに騎士さん達……文官さん達もいろんな人がいた……
王様に大臣さん……面倒だったけど、楽しかった……
あ、亀少女のベアトリーチェちゃんにホワイトチョコの追加、渡せなくなっちゃたな……がっかりするかな?
思わず目頭が熱くなって、頬を生温かいものが伝う。
自分でもびっくり……そんな泣くほどか?
でもほら、これは、夏休みの終わりとか……旅でお世話になった人との別れとか、よくみんなが泣いてるやつだよ。
私も田舎のおばあちゃん家に数日間だけ泊まりに行って、帰りによく泣いてた気がする。
何事にも終わりは来るもんだから。
そのおばあちゃん家だって、今はもうないのだ。
異世界の、終わり。
そう、帰るだけだよ、怖くない。
きっと、また会えるよ……
…………
………………
それにしても頭がグラグラする……痛くないって言ったのに、マーヤークさんは嘘つきだ。あれ? 言ってなかったっけ? なんだか体が重くなる。眠いなぁ……そろそろかな……?
意識はまだあると思ってるけど、もしかしたら死んだことに気づかない例のアレかもしれない。きっと注射みたいに、もうとっくの昔に終わってて、目を開けたらちっちゃい絆創膏貼られて「しばらく押さえててくださいねー」とか言われるんだよね……
「……様! ……ミドヴェルト様!」
気がつくと、すっかり元の姿に戻った執事さんが私を抱きかかえていた。まだ終わってなかったのか……いや終わったの? 頭痛でガンガンする……うるさいな……いいからさっさと最後までやってくれ……とにかく寝たいんだよこっちは……
「ミドヴェルト様、お聞きになっていますか?」
揺すらないでほしい……私は顔をしかめて目を開けるのを拒否した。
「チッ……仕方ありませんね。このまま突破しましょう」
あ、なんか舌打ちしたね、今。しっかり聞こえているんですよ。目は開かないけど。まどろみながら風を感じる。あれ?……なんか移動してるっぽい。
「……! …… ……!!」
「……」
遠くに何となく大きな音が聞こえる……爆発? ほんわかあったかい……目を閉じてても光が眩しい。
「……ッハハ! これは素晴らしい!!」
「おのれ……あく……グワァ!」
妖精を一撃で圧倒した悪魔は、自分の強大な力に驚いているようだった。押さえきれないように高笑いを漏らし、全身をヒクつかせている。一般人女性を抱きかかえたままで黒い大きな翼を広げ、プラズマと尊大なオーラを四方八方に発しながら、その悪魔はゆっくりと地面に降り立った。
着地するにつれ、足元から禍々しさが消えていき、一瞬で落ち着いた執事の様子に変わる。
「……さて、帰りますか」
☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜
……目が、覚めてしまった。
いつもの魔国の私の部屋。
あれ? どうして? 頭は重いけど体はなんとか動く。い……生きてるのかな? 生きてるよね?
鏡だろ、鏡に映れば生きてるよ、たぶん。うん、映ってる! ……私、生きてる!
「目覚めたのか、驚いたな」
「へ? な、なぜ?」
急に声がして、鏡に青い髪が映り込んだ。ロンゲラップさん?! 状況がつかめない。王室御用達のイケメン錬金術師は、当たり前のようにベッド脇の椅子に座って、大きな本を開きだした。
「……お前は10日ほど眠っていた。今日の体調を診るから横になれ」
「ほぇ?」
「……5……4……3……2……」
「ちょ、わかりましたってば!」
よくわからないままにロンゲラップさんの診察を受け、私は問題なしと太鼓判を押された。次は無い、とか……身の程を知れ、とか……結構なお叱りを青髪のメガネ悪魔から受け、私はベッドでひとり頭の中を整理することに。
とりあえず死ななかったのは良いんだけど……なんで?
マーヤークさんが手加減してくれたのか??
わからん……
「……失礼いたします」
ノックと共に、執事さんが入ってきた。う……気まずいかも。死ぬしぬ詐欺しちゃったし……私は思わず寝てるふりをしようかと思った。でも執事さんは、確実にロンゲラップさんからの報告を受けて来てるんだから、小細工はしないほうがいいだろ。うん……恥ずかしいけど我慢。ぐぬぬ……
「ムー!!」
フワフワちゃんも一緒かー!! 一気にテンションが上がる。ぽいん、とベッドに飛んでくるフワフワちゃんを抱っこ。あぁ、癒やし……猫吸いみたいなことしたら怒るかな?
「お加減はいかがでしょう? ミドヴェルト様」
「あ……お、おかげさまで、もう大丈夫です。ロンゲラップさんにも怒られてしまいました」
「ああ……今回の件を内密に処理せねばなりませんでしたので、私と一晩の逢瀬を楽しんだということにしておきましたから、そのせいでしょう」
「………………は?」
え?……あのお叱りは…………そういうこと?!
「なん……なん……なんということを……」
「大丈夫です、ロンゲラップ以外には、別の理由をそれぞれ話しておきましたから」
全然大丈夫じゃねええぇ!!! あれはロンゲラップさんのクールキャラが炸裂しただけだと思ってたのに!! 完全に誤解されて、呆れられてたんじゃん!! もぉーなんなの?! やっぱり嫌いだ……この悪魔ぁ!!
「ところで、ミドヴェルト様」
「な、なんですか?」
「そう警戒せずとも大丈夫です。ミドヴェルト様の生命力は、驚くほど高いことが判明いたしました」
ど……どゆこと? 執事さんによれば、あの時、私を消滅させるつもりで、本気食いしたんだとか……あ、そう……手加減無しだったのね……いや、いいよ。そういう約束だもんね……ははは。でも、いくら食べても、全然私の生命力は無くならなかったんだそう。ほへぇ、私って生命力にあふれていたんだね……
「私ごときには計り知れませんでしたが、ミドヴェルト様の生命力は、別次元のものではないでしょうか」
ドキ……! やっぱり異世界と現実世界では何かエネルギーのレートが違うのかな? 私は一般人女性だった。確かにただの人だった。でも大体の作品で、転生したらチート能力持ってることになってる。そんでもって、私にも何かチートがあるっぽい。全然使いこなせてないけど。
「……お心当たりがあるのですね?」
「え……いや……その……」
「別に無理におっしゃらなくても結構ですよ。ただ、ロンゲラップめが、あなた様のお力の一端を解き明かしたいと申しておりまして……」
「え……解き明かすって、一体……?」
「もしよろしければ、これから数日間ほど、朝でも昼でもお暇な時間にあの者のアトリエまでお運び願えませんでしょうか?」
「は、はい……」
もう何がなんだかわからないけど、成るようにしかならん。現実世界でお医者さんに行った時もこんなだったし。先生にサクサク予定入れられて。そういや昔、動物病院でもポンポン予定入れられて、拾った子猫のワクチンと避妊手術日がサクッと決まってたなぁ……みんな忙しいしね。優柔不断な私の、勇気が出る出ない……みたいなどうでもいい悩みに付き合ってる暇なんかないんだろう。いや、私がお医者さんでも確かにそう思う。とりあえずいい機会だから、伝説の錬金術師に精密検査してもらおう。人間ドックみたいなもんだと思えばいいんじゃないかな。うん、そういうことにしておこう。
☆゜.*.゜☆。'`・。・゜★・。☆・*。;+,・。.*.゜☆゜
妖精一派は、魔国の騎士さんたちが全員捕縛したらしい。かなり前から魔国に潜入して、情報収集とかしてたんだって。『歌』の件がバレたのは、結構ヤバいらしいんだけど、魔国内のスパイだけで調査してた段階で、ギリ妖精の国には伝わってないっぽい。
一応、主犯ではないということで、妖精王女のアイテールちゃんはお咎めナシ。ただし、婚約の話はなくなって、留学しにきたってことになるんだとか。何だかんだいって……帰らないのね……もしかすると、人質を兼ねることになるのかな? 何はともあれ、変なプレッシャーも無くなって、フワフワちゃんともフツーに仲良くなってるみたいだ。
私が眠ってる間、二人は毎日一緒にお見舞いしてくれたんだって。部屋に飾ってある花は、アイテールちゃんが摘んでくれたらしい。それを見たフワフワちゃんも、負けずにザリガニをいっぱい獲ってきてくれたみたいだけど、執事さんが全部没収して厨房のドロドロスープの材料になったのだとか。む……無駄にならずに良かったよかった。
ところでマーヤークさんと交わした契約なんだけど、なぜか罰則規定が発動して、50億Gが私のものになってしまった。な、何やらかしたんだ……あの悪魔。
んで、どうすんの? このお金……




