13.『やっぱり美味しいものが好き』
※少し長めです。
「ムー!! ムー!!」
「ぜぇはぁ……待ってよぉ! フワフワちゃーん!!!」
今日は朝から無人島探検に来ている。南国アウトドア・アクティビティだし、私だって楽しみにしてたんだけど……フワフワちゃんの元気にはついて行けないかも……そして後ろには……トボトボ歩きの執事さんがついて来ていた。
……めっちゃ暗い!!!
ほとんど等身大のモヤが移動してるみたいな感じ。流石に一晩では復活できなかったようだ。ほかの作品の悪魔って……何かこう、もっと万能感あるけどなあ……まあ、私にセクハラしてた時はかなり調子こいてましたけど? 執事さんは、もしかしたらそんなに偉い悪魔じゃないのかもしれない。魔国の王子殿下よりも弱いっぽいし、何より豆腐メンタルだ。……と思う。演技じゃなければね。
「ムー! ムー! ムー!」
「えぇ? なにぃ……?」
フワフワちゃんが何かを見つけたらしい。ジャングルとも森ともいえない密度で青空と海が見える木々を抜けて、険しいわけじゃないんだけど絶妙な負荷のある上り坂を何とか登りきると、ちょっとした平らな場所がひらけていた。そこに不自然な丸い岩がある。直径1.5mくらいある謎の岩は黒曜石のように真っ黒でまんまるだ。まるでガ……いや、コスタリカの石球か。
「なんじゃこりゃあ……」
見たとこ、まんまる岩は2個あるっぽい……なんなのか。触らないほうがいい気がするけど、この島の神様?
緑に埋もれて神秘的な雰囲気はあるけど……
「ムー!!」
フワフワちゃんが頭突きを喰らわす。え、なんで??? 貴重な岩かもしれないよ??? 王子殿下も脳筋か!
ちょっと割れたところから細かいヒビが岩全体に広がった。強化ガラスみたいに黒い球体が粉々に砕け散って、中から派手な船長みたいな服を着た赤髪の人が出てくる。
「……エニウェトクではないですか、何故ここに?」
追いついてきた執事さんが、若干元気になって話しかけてきた。悪魔のお仲間??
「おや、マーヤーク。ご機嫌よう、だいぶ弱っているね」
エニウェトクと呼ばれた赤髪の悪魔は、薄ら笑いを浮かべると、私とフワフワちゃんを見た。一瞬、光が走って思わず目をつぶる。ハッと気がつけば、すぐ目の前に執事さんがいて、赤い悪魔と組み合っていた。
「どういうつもりなのでしょうか?」
「そっちこそ……おや、何だお前、契約したっていうのかい? あわれな……」
二人の攻撃が当たっちゃったのか何だか、もう一個の球体も割れた。今度は青髪メガネのイケメンが出てくる。なんか本持ってるけど、インテリ系??
「うるさいな、せっかく眠っていたのに起こさないでくれ」
「物は言いようだなロンゲラップ。我らは妖精王に封印されていたんじゃないか」
「余計な訂正を加えるなエニウェトク。俺は確かに眠っていたのだ」
「強制的に凍結されていることを、お前が眠ると表現したいのならば好きにするがいいさ」
面倒そうな黒歴史どもが勢揃いしたぞ……? それにしても、執事のマーヤークさんと赤髪のエニウェトクさん、青髪のロンゲラップさんは知り合いなのかな。急に仲良しっぽい会話が盛り上がっているが。しかし、揃いも揃って物騒な……ここは妖精王国の指定廃棄物一時保管所なのか……?
えぇーと……みんなの話をまとめると……当時、なぜか(ホント、何故なんでしょうね……)妖精王に追われて逃げることになった悪魔マーヤークさんは、魔国に匿ってもらう代わりに王家に従う契約をしたらしい。2000年借款で、すでに1994年ぐらい働いてるから、もうすぐ契約が切れるんだとか。よ、良かったね……しかし、逃げ遅れたエニウェトクさんとロンゲラップさんは、妖精王様に封印されたとのこと。お勤めご苦労様です。
どうやらマーヤークさん、本当は妖精の国には来たくなかったっぽいんだけど、契約で渋々って感じらしい。なるほどなるほど。単に、人の気持ちなんかまったく気にしないサイコパスなのかと思ってたわ。あ、いや……ごめん。色々としがらみがあるんですね……
しかし、こいつら……揃いも揃って妖精王様に何してくれてんだ? やっぱ悪魔の言うこと鵜呑みにしちゃいかんな……心の中だけのこととはいえ、妖精王様を軽く馬鹿にしてしまって申し訳なかったわ……これからはこの悪魔どもを三馬鹿トリニティと呼ぼう……都鳥三兄弟なんつって。でもこんな奴ら野放しにして良いの??
「おや、契約のおかげかな? もう悪い女癖は消えたみたいだね」
赤髪のエニウェトクさんが、マーヤークさん越しに私を見遣りながら言った。わかってますよ。まだ食ってないのかと言いたいんでしょ。嫌味だね、まったく。こっちだって、食われたくなくて必死で頑張ってるんですよ。
「こちらは大切なお方ですから」
「おやおや、そうかい。ならば本当かどうか試しても良いんだろうね?」
赤髪の悪魔はニチャついた笑いを口元に浮かべながら、執事さんに向けてなんか赤い霧を放出した。花の香りがあたりにふんわり広がって素敵な雰囲気。香水か? 何じゃこりゃ? 攻撃なの……?? 意味わからず様子見してると、赤髪と組み合ってた執事さんが、急に棒立ちになってゆっくりと振り向いた。やべえ……暗殺者の目、再び。怖い、動けない。逃げてもどうせ捕まる……どうしたらいいの!?
「ムー!!」
とっさにフワフワちゃんが跳ねる。次の瞬間、蹴られたボールみたいに悪魔がひしゃげて飛んでいった。……あの時みたいに。素早く躊躇なく、正確に蹴り抜いたフォームが美しい。体の軸がしっかりしていますね。……いやまあ、あの時と同じならば、マーヤークさんは大丈夫だろう。……たぶん。
「なるほどね。せっかくアイツをまた女狂いにして楽しもうと思ったのに……意外な強敵がいたもんだな」
な? 何か急に言質取れちゃったぞ……?? また女狂いにして楽しむ?? マーヤークさんを狂わせてたのはこの赤髪ってこと?? 真犯人の供述が取れました!! ……フワフワちゃん、やっておしまいなさい!! 私は気づかれないように距離を取りつつ、フワフワちゃんの邪魔にならなそうなところまで下がる。だってここで何ができるって言うのー? 悪魔VS.魔国の王子なんて好カード、人間の出る幕はないよー!! でもこの花の香りのガス、私もフワフワちゃんも吸っちゃったけど大丈夫かな……? 今んとこは何も変わってないと思うけど……
というかこいつら、友達ってわけじゃなかったのか……? 何でそんなしょーもないことをするんだろ? あれかな? 悪魔だから、嫌がらせすることが仲良しスキンシップなのかな?? 人間でもこういう奴いるもんな……迷惑極まりないが。あ、そういえば青髪は今どこに?? ……と思ったらめっちゃ斜め後ろにいてビビる!! し、死んだ……終わった……!!!
「……ああ、俺のことは気にしなくていい」
ゆったりと岩の上に座り、持っていた茶色い革表紙の本のページをめくりながらノールックで青髪さんはつぶやいた。……あれ? 危害を加えようとする雰囲気はなさそう。この悪魔は無害系なのか? しかし念のため離れよう……秒殺されそうで怖いし。
「君はマーヤークの恋人なのか?」
「ふぁ?! ち、違います……ただの教育係です!」
「ふうん……だが全身に食われた跡が残っているようだが?」
……な? 何ですと!??
怪しいと思ってたんだよねー。何かペロペロペロペロ舌出しやがってさぁ! あれか? やっぱ西の森か?! セクハラだけじゃなく、食べてやがったのか!!……って、え?! 私、食べられちゃってたの? 全然スプラッタ感なかったけど……何となく自分の体をチェックしながら、食われた跡ってやつを確認しようとするけど、本当にどこも何にもなってない。……どゆこと?
フワフワちゃんと赤髪悪魔は、時たまとんでもない大技を出しながら互角の戦いを続けていた。青髪さんは二人の戦いを気にする様子もなく、高級そうな本のページをめくりながら、こっちを見ずに話を続けた。
「我らの食い方は上品なものだからな。生命力を奪い去るのだ」
「せ、生命力……ですか」
だからあんなに疲れたのか……? 死ななくてよかった……そんなふうに胸を撫で下ろす私をよそに、青髪のロンゲラップさんは、何ということもない雰囲気でまたページをめくった。すぐ近くでフワフワちゃん達が戦ってるのに、ペラリペラリと本のページがめくられる音がハッキリと聞こえる。やけに静まり返ったような……これはこれで怖い。何にも音がしない。
「くッ! ……なん……だとッ……?! ……まさかッ!」
突然、青髪さんの様子がおかしくなる。襲わないと見せかけて、やっぱ戦う気?! わ、私の攻撃力はゼロよ! しかし、大きな音を立てて岩から滑り落ちた青髪さんはなんだかつらそうな感じ。クールキャラが切羽詰まってる……大好物ですが。いや、まずは救助だ、状況確認だ。
「え? 何……? 大丈夫ですか?!」
「そのッ……『歌』を……今すぐやめろッ!!」
「ふぇ?」
頭を抑えて苦しみ出す青髪さんに指摘されて、私はやっと気づいた。まったく意図せず、青髪さんがめくる本のページの音について考えてしまったようだ。なぜ? 音楽じゃないじゃん……音楽っていうのはもっとこう……あ、今は音楽のこと考えちゃったけど、でも、ただのめくりの音もダメなの?? 青髪さんを助けたいんだけど、ついつい、歌の仕組みについて考えてしまう。マーヤークさんがどっか飛んでってて良かったね。発生源を停止させられてしまうよ。このままじゃ天使のオジサンの二の舞だ。心は無……心は無……歌をやめる……歌をやめる……あ、歌って単語もダメなんだっけ??
「くあぁッ……な、なるほどな……アイツはこれで……ッ!」
天使のオジサンほどではないけど、青髪さんは苦しそうだった。大変申し訳ない。今んとこ、この人には何もされてないし恨みはない。……実は影の悪役だったりするのかもしれないが。
何とか収まってフワフワちゃんのほうを見ると、赤髪の悪魔が地面にのされていた。こいつも苦しんだんだろうか? ……ざまぁ。
「ムー! ムー!」
「……さすが王子殿下ですね」
倒れた赤髪の背中で跳ねるフワフワちゃんの視線の先を追うと、飛んでった場所からやっと帰って来たっぽい執事さんが、穏やかに微笑みながら歩いていた。すっかりいつも通りだ。……ボロボロだけど。執事さんは、頭を抱えながら立ちあがろうとしている青髪さんを見つけると、意外そうな顔になる。
「おやロンゲラップ、どうしたのですか?」
「マーヤーク、俺を魔国に連れて行け」
「束縛を嫌うあなたが? 一体どういう風の吹き回しでしょう?」
「わかっているだろう、エニウェトクは置いて行ってもいい」
笑顔だった執事さんが急に真顔になる。こ、これは……第二戦目はじまったりしないよね?? 暴力ハンターイ!! みんなで仲良く!
「よろしいでしょう……ただし、契約をすることになりますよ?」
「どうとでも好きにしろ」
ロンゲラップさんは、落ちていた本を閉じると、大切そうに抱えて立ち上がった。
ふー……危なっかしい悪魔たちだよ、本当に。私たちはことの顛末を隊長のモコモコモルドーレさんに報告し、気絶したままのエニウェトクさんは、執事さんのモヤモヤロープでぐるぐる巻きにされて騎士さんたちに運ばれた。ロンゲラップさんは無事、自分の足で歩いて森を抜けられたのだった。青髪悪魔のロンゲラップさんは、ヤベー人には違いないらしいが、マッドサイエンティスト系で無害。何だか有名な錬金術師なのだとか。じゃあなんで封印されてたんだ……謎。
「彼には天使殿の解析をお願いしようと思っております」
仕事もすでに決まっているらしい。王室御用達の錬金術師だ。私も昔は某アトリエ系ゲーム好きだったんだよね。あとは魔国ジェヴォーダンに無事帰れれば良いんですけど……
「なんと、これは美味……」
「ふむ、美味しいですな!」
「ムー!!」
2日目の夜。ロンゲラップさんの歓迎会を兼ねて、浜辺でチョコレートパーティーを大々的に開催。むしろチョコフェス。あ、騎士さんだけでなく文官さんたちもどうぞ。赤髪の悪魔はまだ気絶中。オメーに食わせるチョコはねえ!!
チョコフェスは結構好評で、火魔法と風魔法を工夫してチョレートファウンテンも設置した。マシュマロ焼いたら、ここでフォンデュしてもらう感じ。ロンゲラップさんも気に入ってくれたっぽくて、南国フルーツのチョコがけをお上品に味わっていた。フワフワちゃんも嬉しそうで何より。初めてチョコを食べたというモルドーレさんは、興奮して目を白黒させていた。赤いヒラヒラの布を近くに置かないようにしよう。ほかにも、イノシシっぽいマリシさんとかヘラジカっぽいフィンカさんは、自分なりの食べ方を開発して楽しんでくれてる。よかった……
これでみんなに元気出してもらって、早く帰る算段つけてもらわないとね!
などと思いながらマンゴーっぽいフルーツに手を伸ばすと、視線の先に、花冠をつけてレイを首から下げてるハワイアンな少女が佇んでいた。な……誰?? まあ、女の子だから怖くはない……か? まさか幽霊の花子さん……?? でもすでに悪魔と戦っといて、幽霊怖いってのもおかしいじゃないか、ははは。落ち着け、自分。
「ど……どうしたのかな? 迷子になっちゃったの?」
迷子なわけあるかい! 今日探検して、無人島確定したやろがい!! 少しドキドキする。ほかの人は気づいてるのか気づいてないのか、誰もこっちには来ない。
「それ……ちょうだい……」
「え……?」
「それ……ちょうだい……」
繰り返すなよ、怖いじゃないか……私はマンゴー的なやつを持って目で尋ねた。女の子は、ううんと首を振って、チョコを指差す。こ、これ……? ホワイトチョコを持ち上げると、うんと頷いた。こりゃあ霊ではないぞ……たぶん。
「お名前なんてゆーの?」
ホワイトチョコを1枚渡しながら、女の子に職質。マジ迷子の可能性アップしてきたかも……? 謎すぎる。
「……ベアトリーチェ」
「そうなんだー。可愛い名前だね。お父さんかお母さんはいる?」
「……カッチャグイーダ」
カ……??? え、なに? 名前の続き?? 親の名前??
「このしま、カッチャグイーダ。かめのしま」
「かめ??」
「このしま、かめ。ようせいじょおうさま、つくったしま」
……か……亀島来たああああああぁぁ!!!
あ、あなたはんがアナタハンの……?!
「じゃ……じゃあベアトリーチェちゃんは妖精さんかな?」
「かめ」
「ほぇ?」
「カッチャグイーダ、わたし、おなじもの、おなじきもち」
「ベアトリーチェちゃんもカメさんなんだねー! すごいすごいー!」
「……うん」
なんかわからんけど、お返事したあと、ベアトリーチェちゃんは頬を赤らめた。まあとにかくだ。私たちが今いるこの島は、亀の甲羅の上にあるらしい。仕組みがよくわからなかったけど、ベアトリーチェちゃんはこの島を動かせるんだとか。これはもう、盛大にヒッチハイクするしかありませんな!!!
早速、ベアトリーチェちゃんをチョコたっぷりのテーブルに着かせ、悪魔よけのためにフワフワちゃんに相手を頼む。うん、少女と白いフワフワ、ベストマッチ。私は慌ててモコモコモルドーレさんに報告し、亀島を動かす相談だ。
「何と……この島自体が妖精だったとは……」
たぶん、ベアトリーチェちゃんはこの島の管理者なんだろう。マスターは妖精女王様っぽいから、勝手に動いても妖精王様に怒られることはない。……らしい。マスター亡き今、彼女はフリーの亀少女なのだ。そんなわけで私たちは、ベアトリーチェちゃんに頼んで、このカッチャグイーダ島を動かしてもらうことになった。……いや、島じゃなくて亀? まあいいや。ベアトリーチェちゃんが浜辺で謎の踊りを踊ると、沖のほうに亀の頭がゆっくりと持ち上がった。で……デカい!! 津波とか来ない? 大丈夫?? 現実世界では、よく海の中のデカい生き物のイラストとか見てゾワゾワってなってたけど、実際見るとゾワりが凄い。亀島は思いのほかスムーズに動いて、2週間ぐらいで魔国の外洋までたどり着いた。そこから騎士さんたちが通信して、魔国の船がすぐさまお迎えに来たというわけ。ベアトリーチェちゃんには、ホワイトチョコを大量に進呈して別れることになった。
「また……くる……」
「うんうん、待ってるよー!」
「ムー!!」
夕焼けに照らされて遠くなる亀島を見ながら、みんなでずっと手を振っていた。いやー苦労したし、さりげなく危なかったし、散々だったけど……
あの妖精王様の転移魔法陣、真似できたら超便利だよなあ……
そう、思い描くことから夢は始まる。




