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はぁ?! 監視役ーーー?!

――静脈流に角膜承認?

 そんなの知らない! ましてや登録なんてした覚えは、…………あ。


 ある……カモ。


研究所ならこんな事態が起こらないとも限らない。万が一そんなことが起きたとき、外部から進入できる手段として、通常は会社とは無関係で、尚かつ信頼できる人物をセキュリティシステムに登録すると言われて、呼び出されたことがある。


 確か、工場の脇に設けられていた研究室棟を本館側に立て替えたときだから、もうかれこれ四年も前のことだ。


 そんなことは、もうすっかり忘れてた。それじゃ、その万が一の手段を逆手に取られたというのか。


 それにしても、当の本人ですら忘れていたそんなことまで調べ出したなんて、やっぱりこの人たち、ヤバイかも。


「……断る、と言ったら?」

「子供相手に手荒な真似はしたくはありませんがね」

 ……そうなるだろうな。


 そもそも私が断れないようにするために、ここを占拠したんだから。


 自分の家庭の事情のせいでみんなをこんな危険な目に遭わせることになるだなんて、そんなこと、思ってもみなかった。

 そんなのは道理が通らないし、許せるはずもない。けれど、どう考えてみたところで、今、既にこうなってしまっている以上、もはや私に選択の余地はなし、ということなんだろう。


「……判ったわ。ただ、一つだけこちらにも条件があるわ」

 そう言うと、男はその顔に少しだけ警戒の色を浮かべた。斜に構えて寄越した視線の先の瞳には、先程よりもずっと鋭い光りが宿っていた。


 怯んで堪るか。自分自身を奮い立たせ、なるべく声色が変わらないよう注意しながら続けた。

「みんなを建物の中で自由にして欲しいの。連絡手段を絶つのと外出禁止は仕方がないとしても、それ以外は食事もお風呂も全て普段通りの生活をさせて。あなたたちの目的が私自身である以上、ここの人たちは関係ないわ。それを約束するというのなら、その新薬とやらを何とかするわ」


「……できない相談だと言ったら?」

「私も協力しないまでよ。でも、呑まざるを得ないんじゃない?」


 私に見透かされたことを悟ったのか、男の表情は更に険しくなり、血走った(まなこ)が私の瞳の奥をギロリと睨み付けた。先程までとは打って変わって、もの凄い威圧感だ。


 小さなホームとはいえ、こんな昼日中から建物一つを簡単に占拠するような奴らだ。本来、研究所を直接占拠することだって不可能じゃないだろう。

 それにも関わらず、それをせずに会社とは無関係な私のことを調べ上げてまでここへやってきたということは、先程のセキュリティシステムの話も含めて、これが最も勝算があると踏んだからに違いない。


 若しくは、派手な動きを避けてあくまでも水面下で動きたい何らかの事情があるか。

 とにかくその二つのうちのどちらかだ。


 しかも、外部の人間でセキュリティシステムに登録をしたのは、私一人だけだということくらい、彼らだってもうとっくに調べは付いているはずだ。

 ここで少しくらい私がゴネたからといって、今この段階でここにいる皆を口封じのために殺し、ターゲットを内部の人間に変更して最初からやり直すなんて面倒なことは、まずしないだろう。


 本来ならば私自身を人質にしてパパに直接交渉するのが一番手っ取り早い。

それにも関わらず、こんな遠回しな方法を選択したということは、事情は限りなく後者に近いはずだ。

 自分たちの痕跡を極力押さえ、尚かつ、自分たちが動くよりもより円滑にことを進めるには私の存在が欠かせない。


 もっとも、人質を捕られているのはこっちだから、私の側に『断る』という選択肢は生まれない。

けれど、こいつらにしたって、ことを限りなく円滑に運ぶには私の機嫌を損ねるのは懸命ではない。

余程のことを言わない限り、彼らは私の条件を呑まざるを得ないはずだ。


 案の定、彼は私の掲げたその条件を呑んだ。


ところがそれから男は、とんでもないことを口にした。


「それからお嬢さん、あんたには監視役を付けさせてもらう」


「――は?」


 その言葉を受けるように、男の傍らに立っていた細身の長身男が、こちらに一歩、歩み寄った。それを見届けて男は続けた。


「先程の約束は守るとするが、ここにいる全員が本気であることは念のためもう一度伝えておこう。それからその男は外国の特殊部隊の経験がある。表で妙な気は起こさない方がいい」


 ちょっと待て、ちょっと待て。 


 ――は? 監視役?

 特殊部隊ぃ?


 聞き慣れない言葉ばかりで頭の中の整理が付かず、すぐには言葉が出てこなかった。同じ言葉を、頭の中で何度か復唱してみる。


 特殊部隊? これはよく判らない。判らないからあとで考える。

 んで? 監視役? 監視役……監視……役?


「ちょっと待って! 監視役って、それじゃこれからずっとこの人と一緒に居ろって言うの?」

 長身男を指差して、思わずそう叫んでいた。


 子供の頃から親に『人を指差してはいけない』と何度となく言われて育てられたけど、そんな教えは理性と共に吹っ飛んだ。


「嫌よ! 絶対に嫌! 冗談じゃないわ! みんなを人質にされているんだから、外で何か喋ったりなんてしやしないわよ、そんなことできる訳ないでしょ?」


「嫌ならさっさと薬を持ってくるまでだ。それともう一つ、肝心なことを言い忘れていたが、薬が手に入るまではここへは戻ってこないように。念のため、携帯電話も預からせてもらう。連絡がある場合は、すべてその男に伝えるように」


 全身の力が抜けた。もう、何の言葉も出なかった。


 こんな……こんな得体の知れないテロリストと、この先一緒に行動しなきゃならないなんて――。

 それから男は、こちらは人質を自由にする条件を呑んだのだから、万が一にも失敗に終わることがないよう、監視役は外す訳にはいかない、と念を押した。


 これ以上ゴネるのはそろそろ危険かも知れない。


 確かに何らかの事情があるからとはいえ、先程の条件を呑んだのはきっと特例中の特例だろう。

その事情よりも新薬とやらが魅力的であるとしたならば、彼らが手段を変えてくる可能性だって充分に有り得る。これ以上、彼らを刺激しない方が良いだろう。 


「……約束は、ちゃんと守ってよね」

「我々の目的は、あくまでも新薬だけですよ」

次回、目立ちすぎな監視役サン?

……それ、いろいろダメなきがするケド?

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