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!! まさかのお隣さんっっっ?!

 それにしても、いつの間にタクシーなんて呼んだんだろう。そう思ったのと同時に、手の中に握られていたペットボトルに目がいった。


 成るほど。


 私を気遣ってくれたのだろうか。それとも、こんなところでグズグズしている暇はないということか。


いずれにしても、今の私にとって、あのまま電車を乗り継ぐより遥かに楽だったのは間違いない。

シートに深く身体を預け、私は流れるように飛び去ってゆく街灯をひたすらに目で追っていた。


 まだ幼い頃、左右に二灯付いているその背の高い街灯をカモメと見間違えた私の目は、今でもそれを海鳥の姿として認識している。

沢山の海鳥が配列を成す様ではなく、一羽の海鳥が羽ばたく一瞬一瞬を連ねた姿の如くそれを捉えていた私にとって、夜空をゆくそのたった一羽の海鳥は、寂しくもあり、ただひたすらに前に進むことを止めない力強さの象徴でもあった。


その向かう先に何があるのか、孤高の海鳥に見えているものは一体何なのか、それは大人になった今でも、私にはまだ見当すら付かなかった。


 車窓からその海鳥の姿が消えたことで、湾岸線を逸れたことを知った。

やがてタクシーは、見慣れたマンションの入り口の前で静かに停車した。


乗り込んだときとは反対側のドアが開き、私が先に車を降りると、続いてカードで支払を終えたジェイドもタクシーを降りた。


 ツツジの植え込みに囲まれた3段しかない階段を上がると、自動ドアが開く。

玄関ロビーはシャンデリアの白い明かりで照らされていたけれど、すぐ右手にある管理人室の窓はカーテンが閉められ、明かりは既に消えていた。


年輩の夫婦が住み込みで営んでいる管理人室は、朝が早い代わりに、夜は10時を過ぎるといつもこうして静まり返っていた。


 いつもならここで左に並ぶ郵便ポストから郵便物を取り出すのだけれど、今日はそれも面倒で、私は真っ直ぐに奥に設営されたエレベーターへと向かった。


 一階に停止していたエレベーターは、ボタンを押すとすぐにドアが開いた。

乗り込んで部屋のある3階のボタンを押す。


 ジェイドはまだ着いてくる気らしい。

監視役の仕事とは、人質が部屋に入るところまで見届けないとその役目を果たしたことにはならないのだろうか。ともかく、目的の階に到着してエレベーターを降りた。


右に折れたその一番手前の305号室が私の部屋だ。


 このマンションは5階建てで、ワンフロアにエレベーターを挟んで左右に4部屋ずつ、計8部屋が並ぶ。

つまり、エレベーターを下りて左手に301号室から304号室、右手に私の住まいである305号室から308号室までが並んでいた。


 鞄の中から手探りで鍵を取り出して、それを鍵穴に差し込んだ。

昨今ではオートロック式だったりカード型の物を翳すタイプの施錠が施された建物が主流だが、この建物の鍵は昔ながらの差し込んで回して開けるタイプだ。


私としては1枚のカードを翳したくらいで開く鍵よりも、この旧式の鍵の方が余程信頼できるし、納得もいった。


 玄関扉を開けてすぐに内側の右壁を探って電気のスイッチを入れた。


 そこで私は改めてジェイドを振り返った。


 ……監視役って何だろう?


 それは、私の行動を逐一見張ること。


 ……と、いうことは、もしかしてコイツまさか、私の部屋に入ってくるつもり?


 たった今、私の頭を駆け巡った一部始終は全て顔にも描かれていたらしく、ジェイドは玄関の前から、さり気なく、スマートに、一歩退いた。


 良かった。いくら何でもそこまではしないか。

ホッとしたのも束の間、彼は私のその想像の遥か上をゆくとんでもない言葉を口にした。


「私は隣の部屋を使います。悪いが君の部屋には盗聴器を仕掛けさせてもらいました。ただし、その盗聴器は私の部屋でのみ傍受が可能です。それ以外、表に漏れることは一切ありません。明日以降の予定は、決まり次第、その場で喋ってくれれば結構です」


 顎が外れる寸前だった。


 先月、お隣さんが引っ越しをしたお陰で、奇しくもそこは空き部屋だった。でも、だからって、そんなことまでしますか?


 第一、盗聴器ってナニ? 喋ってくれれば結構デス?


 ケッコーデスじゃないんだよ!


 ――今後、こいつらを同じ生き物だと思わない方が身体に良い。


 ジェイドは一方的に説明を終えると、私の部屋のドアを外側から静かに閉めた。


 すぐにドアに駆け寄り、耳を当てて外の様子を探ると、彼の言葉が出任せではないことを証明するかのように、今朝までは確かに空部屋だったはずの隣の部屋のドアが開閉する音が聞こえた。


次回、典ちゃんとおじちゃんの研究

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