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意外すぎるjade正体……??

 ところが、彼が懐から取り出したのは、たった今想像した、私を絶望させるようなものではなかった。


「初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません、西田と申します」


 ……えっ?


 呆気にとられる私を差し置いて、彼はそう言いながら、たった今、胸ポケットから取り出したばかりの名刺をパパに差し出した。


 それを両手で受け取ったパパは、その名刺に目を通すと「ほぅ」と声を上げた。


 ジェイドの涼しい横顔に釘付けになりながら、私は自分が犯したもう一つの失態にようやく気が付いていた。

自分の彼だと紹介しておきながら、私は彼の名前をジェイドとしか知らされていなかった。

いくらアメリカにいるとはいえ、まさかパパに「ジェイド君です」と紹介する訳にはいかないだろう。


「西田コーポレーションの社長秘書の西田貴弘さん。ということは、君はあの西田社長の息子さんだね?」


「はい」


 へっ……?


 西田コーポレーションといえば、大手の貿易会社で、国内は元より、海外に於いてもその名は広く知れ渡っている大企業だ。確かテレビのCMでも見たことがあるし、その社名を聞いたことがないという人は、日本広しといえど、恐らくいないだろう。


 彼が……そこの社長の息子ぉ?


 ……おいおい、違うだろう、彼はテロリストだ。成実樹ホームを占拠して、今、正に彼らを人質に、こうして私の監視役を務めているんじゃ、なかったっ……け?


 頭の中が真っ白だった。


「パパ、彼、知ってるの?」


 ……私は知らないケド?


「実際にお目に掛かるのは初めてだが、息子さんが秘書をしておられることくらいは知っているよ。噂ではかなり優秀な人物だと聞いていますよ」


 パパはジェイドに笑顔を向けた。


「いえ、私はまだまだ修行中の身です」


 顎が外れそうになる私を余所に、パパとジェイドはそんな会話を交わした。


 半ばパニック状態の私を救ったのは、先程の秘書だった。遠慮がちなノックの音に続き、小さく押し開けられたドアの前で、彼女が申し訳なさそうな表情でこちらに一礼を寄越した。


「お話中、失礼して大変申し訳ありません。高津製薬の岡安会長より急ぎのお電話が入っていて、急な出張が入ったために、今日の打ち合わせの時間を繰り上げていただけないかと仰っているのですが」


 するとパパはジェイドに「失礼」そう声を掛けて立ち上がり、応接室の窓際の小さなテーブルの上に置かれた電話を取った。それから手短に話を済ませたパパは、電話の側に立ったままこちらに向き直ると、申し訳なさそうに表情を曇らせた。


「すまんが、急遽予定が変わってしまった。急ぎの用事が入ってな、これからすぐに出掛けなければならなくなってしまった」


 パパがそう話す頃にはもう、鞄と社名の入った封筒を抱えた秘書が、ドアのすぐ脇で待機していた。


 そんな。

これじゃ一体何のためにここまでやってきたのか判りゃしない。

こんな手の込んだ芝居まで用意して、しかもまだ本題前だというのに。


 気合いを入れてきてみたものの、思わぬ空振りとなって意気消沈していると、その直後、パパは願ってもない言葉を口にした。


「それで、もし良ければ、今夜3人で食事でもどうだい? 7時には時間が空くから、そうだな……おぉ、灯里の誕生日のときに行った、あそこでどうだ? ああ、なんといったかな……」


「花神亭?」


「ああ、そうだった。もちろん、西田君の都合が付けばの話だが」


 私としては願ったり叶ったりだ。

コイツに都合も何も在るはずがない。何せ、彼は私を監視し続けなければならないのだから。


 パパのその気の利いた申し出を二つ返事で承諾した。話が纏まると、パパはジェイドの方を振り返り、


「西田君、本当に済まんね」そう言い残して慌ただしく部屋をあとにした。


 パパと秘書の女性が出ていってしまうと、取り残された見慣れない部屋の中で、妙な現実だけが私の周りを彷徨っていた。

 

次回、テロリストと会社見学?

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