俺のファッションセンス
魔界全土を巻き込んだ大会は俺の優勝で終わった。
大会が始まった当初は俺が決勝戦で戦ったオウル・バーグこそが優勝すると誰もが思っていた。
だが、蓋を開けて見れば、決勝戦の戦いは終始ラグナが圧倒してみせた。
これには鉄板といわれたオウルに全財産をぶち込んだギャンブラー達は大荒れ、逆に大穴狙いでラグナにつぎ込んだ者達は歓喜の熱狂だったという。
コロシアム内では重傷を負って倒れているオウルを回収し、大会優勝者であるラグナに魔界最強の称号であるサタンの名の授与式に移っていた。
「先の戦いは見事であった。余の予測を超えてかの英雄とすら謳われるオウルを倒すとは!!」
陽光に反射して輝く銀髪に、背の高く整った顔立ち、着ている服は格式の高そうな高級品だと一目で分かる。
そう、この者こそが魔界の王たる魔王だ。
この大会を主催したのもこの魔王。RPGとかならば勇者によって倒される存在にこうして面と向かって表彰されるという事に若干の違和感なんかを感じてしまうが、それでも一応は権力だけならば魔族の頂点に立つ男だ。
間違っても戦闘開始のBGMを鳴らして戦いを挑んではいけない。
まあ、魔王といっても血筋とかそういうので選ばれてるだけで、才能はあるだろうが、実力でいえばさっきのオウル・バーグの方が何倍も高いのだが。
「さて、魔界最強の男ラグナよ。貴殿にはその強さに敬意を表し、魔王たる我からサタンの名を授けよう」
その言葉と共に拍手が巻き起こり、魔王の傍らにいた側近らしき者がサタンの名が書かれた金のメダルが授与された。
これで今日から俺はラグナ・サタンという名前に変わった。
サタンというのはこの魔界を最初に支配した魔族の名であり、初代魔王の名前であった。
つまるところ、サタンというのは魔界において最強を示すものであり、前世でいうところの宮本武蔵に近いものだ。
こんなものを貰ったところで何になるんだって言う奴もいるかもしれねえが、魔界では武勇が高い奴が偉いという風潮はそこかしこに存在する。
そんな世界で最強の称号たるサタンの名を持てばどうなるかくらいは大体は想像つくだろ?
「それにしても、大会優勝者がこんなにも若い者がなるなんて思いもしなかった!これならば今後の魔界も安泰というわけだ!!」
俺の肩を叩きながら興奮気味に話す魔王を見て思う。
魔王ってもうちょとこう威厳とか大切にしねえのか?せめて、もう少し落ち着いた性格にはならないものか……。
まあ、これくらい活発な方が王には向いてるのかもしれないがな。
この後は魔王のありがたいお言葉と観客達の万雷の喝采を持って大会は終了した。
俺はというと、コロシアムを出てすぐに魔王の側近である四天王に捕まり、魔王軍に加入しないかと勧誘を受けた。
だが俺はこの誘いを断った。何故かって?魅力を感じなかったからだ。
今の俺に地位も名誉も欲していない。勿論、金だって生きていけるだけの程度で充分だ。
この世界には娯楽というのがほとんど存在してはいない。あるのは賭博と女、後は強者との戦闘ぐらいなものだろう。
賭博に関しては俺は前世の頃から興味を持っておらず、女に関しても俺はビジネス関係とかじゃない純愛派の結構ピュアな男なのだ。
だから、俺は魔王軍入りを断って自分の宿屋に帰ってきた。
この時、宿屋の娘に全力で優勝おめでとうのハグをされかけたが、どう考えてもビジネス的な目的しか感じられなかったので、キャッチしてポイしてやった。
それから、俺の周りはいつも以上に騒がしくなり、勧誘やら依頼やらと次から次へと人ならぬ魔族が集まってきた。
最初のうちはそれなりに相手してやっていたが、最近になると面倒くさいが勝ってまともに相手しなくなるようになった。
そんな生活が10年程続き、堪忍袋の緒が切れた俺は魔族でも滅多に立ち寄らないエリアである絶死の平原に住処を移した。
ここは危険度が高く天災級と恐れられる超大型魔獣が数多く生息する地であり、自然環境も厳しい場所だ。
それ故に、ここには滅多に魔族といえど立ち寄らず、真の強者のみが生き残ることが許される。
俺か?当然、初日でそこら辺をうろついていた超大型魔獣を複数体狩ってやったよ。
まあ、その際に周囲の環境が熱くなったり寒くなったりしたが、概ね無問題であった。
今じゃこの過酷な環境に大分適応できており、ここら辺にしか生えない頑丈な樹でログハウスを建築して住んでいる。
ただ、ずっとこのエリアにいるという訳ではない。
時折は街へ戻って家具や服を購入したり、何か事件でも起きていないかのチェックもしている。
ここの魔獣から採れる素材は希少であり有用な物ばかりだから、かなりの大金に換金することが出来る。
そこで俺は前々から欲しかった大きな鏡を購入して家に設置した。
何故そんな物が欲しかったのかというと、俺は自分の姿をあまり目にしたことがない。
この世界では鏡は高級品だ。街中といえど、自分の顔がくっきりと映るほど精巧な物は存在しない。
というか、そんなものが窓なんかに使われていたら即座に泥棒に盗まれてしまうため、安易に設置できないのだ。
その為、前々から俺の顔はどういったものか気になっていたので、こうして全身が映り込む程の巨大な鏡を購入したのだ。
だって気になるだろ?俺の名前はラグナ・サタンだ。魔界最強の称号に加えて、ラグナだなんて中二病な名前をしているのに、顔が平凡だったら嫌だからな。
早速、家に帰って鏡を部屋の隅に設置して覗き込む。そこには垂れた角を生やした、いかにもガラの悪そうな死んだ魚の目をした男が映っていた。
「これが今の俺か……」
華やかさは一切ない。っが、それでも闇の世界を生きる住人といえるような雰囲気があり、死んだ魚の目もそういう暗殺業でなったような貫禄というものが滲み出ていた。
「あっ、そうだ……」
ふと思い出して、今日街の店屋で購入した服を着て再び鏡の前に立っていた。
そこで映ったのは全身黒一色で染まったマフィア風の服装のラグナだった。
さっきまでのラグナが街中の怪しい稼業を営む青年だとするならば、今のラグナは若くして組織を率いるマフィアの幹部といえるような見た目をしている。
「いいな、これ……」
なんとなく見た目が気に入って買った物だが、こうして袖を通してみれば着心地も悪くなく、見た目に関しては完璧だといえる。
ここで更に、赤と黒の2色で構成されたファーコートを着込んでみる。
「ヤベェなこりゃ……」
ダークな感じがいい感じに出ており、服に着られている感もない。
若干……いや、かなりの中二病的なセンスが組み込まれてはいるが、それでもダサいとはならないレベルだ。
これからはこの服を基本に着ていくとしよう。