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魔界最強の称号

 あの日、俺を拾ってくれたのは魔獣を相手に活動する退治屋という職の連中で、俺はそいつらに加わる形で人がいる町へと辿り着くことができた。

 色々と警戒もされたが、弱者には興味ないという俺の生意気な発言にカチンときた連中の一部が挑んできて、それを能力無しの体術のみでぶっ倒したらなんか普通に認められた。

 なんでも、退治屋というのは腕っぷしが強いものが正義という風潮があり、強さこそがその集団での序列を決める指標となるらしい。

 最初その説明を聞いた時、どこの戦闘民族だと若干呆れもしたが、下手に恐れられて距離を取られたまま行動するよりかはマシかと考え直した。


「ところで坊主、お前さん名前はあんのか?」


 親には名付けの前に森に捨てられたから、名前どころか家名すらも持っていなかった。

 別に前世の頃の自分の名を名乗ってもよかったのだが、今いる俺は前世とは違う俺だ。

 それに何より、こんな強大な力を持った者の名前がモブっぽい普通の名は嫌だということで、俺は終末神話であるラグナロクからとって、自身の名前をラグナとすることにした。


「ラグナ、俺の名はラグナだ」


 そうして俺はラグナとしてアレックス率いる魔獣の退治屋として生きていくことになった。


 あれから数十年、俺は自身のチート能力を最大限に利用してこの世界で登り詰めていた。

 前回、俺が殲滅した魔獣がいるように、この世界にはいくつもの危険生物が存在する。そんな存在を相手に退治屋として戦っていくうちに、いつの間にか俺の名声が高まり、今では『殲滅者』なんて大層な2つ名まで授けられっちまった。


 そんな俺が何処に拠点を構えているのかといわれると、魔界の王たる魔王のお膝元である魔王城の城下町の宿屋の一室だ。

 何故そんな所にいるのかというと、今現在の魔界では最強の称号を手に入れる為の大会が開かれている。


 この大会の出場条件はたった1つ。シンプルに強いということだけだ。

 この大会は魔界各地で行われており、そこらの都市や町、果てには小規模の村ですらその大会は開催されており、そこで勝ち残った真の強者のみがこの魔王城の城下町へと集結する。


 既に大会は大詰めとなっており、現在の大会参加者は2人のみとなってしまっている。

 つまるところの決勝戦というやつだ。


 んで、そのうちの1人が当然俺であり、もう1人の俺と戦うことになっているのが、この魔界最大手にして最高峰の実力を持つ傭兵団の団長であるオウル・バーグという大男だ。


 こいつはどこぞの海賊漫画に出てくる人間を辞めた巨体の持ち主で、事前情報では3m近くの身長を保持しており、全身を分厚い鎧で覆っていながらも動きに支障がないほどの筋肉を持っているらしい。

 また、オウルの扱う武器は大きく、固く、重く、そして鋭い大戦斧とのことだ。

 それに加えてオウル自身もかなりの強さを誇っているらしく、以前出会ったことのある魔王の側近である四天王のうちの3人を一人で倒しているようだ。


 流石に四天王全員を倒すには至らなかったそうだが、それでも4対1の戦いで3人も打ち負かしている時点で凄いんだがな。

 本来ならば、その功績で四天王統括とか新しい役職の元に就くことができるはずだが、本人はそれを断っているみたいだ。

 なんでも、自由気ままが出来る流れの傭兵団の方が自分には性に合っているとの理由らしい。


 っとまあ、ここまでが俺が知っている相手の情報だ。戦い方やら戦術なんてのは事前に知っていちゃ、退屈でつまらないからな。


 コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。どうやら、決勝戦が開始される時間のようだ。

 俺はベッドの上に腰掛けていた身体を起こし、背伸びをして軽くストレッチをする。


「……よし、いっちょやってやるか」


 覇気のない声でそう呟きながら、俺は部屋を出ていく。

 決勝戦の舞台へと続く廊下を歩き続け、ついに辿り着いたその舞台へ上がるための階段をゆっくりと上る。


 俺が舞台へ現れると、ワァー!っと大歓声がそこらじゅうから湧き上がった。そこには何万ともいえるだけの数の魔族がこちらを見ており、皆一様に興奮した様子を見せている。


「おー、おー、こりゃまたスゲー数のお客さんだ。こりゃ、気の抜けたダセェ試合は見せられねぇな」


 そんな観客たちに向けて軽く手を振りつつ、軽口を叩きながら舞台の中央に歩いて行く。


 ここはかつての昔に戦争で兵の質を高める為に先々代の魔王が建設したコロシアムであり、その強度は魔界随一との噂である。

 そりゃ、魔界最強を決める闘いなんだ、下手に壊れちまう場所を決勝の舞台には出来ねえから当然といえば当然だな。


 おっと、どうやら相手さんも到着したみたいだ。向かいの通路の方から姿はまだ見えないが、トンデモない闘気がビンビン感じてきやがらぁ。

 まぁ、俺に比べれば大したことはないモンなんだけもな……。


 そんなことを考えている間に、向かいの通路から対戦相手であるオウル・バーグが現れた。

 3m近くある巨体は噂通りであり、全身を覆うように身に着けたプレートアーマーは、見る者を圧巻させる程の威容を放っている。

 また、両手で構えた巨大な大戦斧からは一体いくつの命を刈り取ったのやら、怨念に近い気配が漂っている。


「ガッハッハッハ!オマエが噂に聞く殲滅者とやらか、聞いてた話しと違って随分とヒョロい見た目だな。我が一撃で死んじまいそうだな!!」


「噓こけよ、さっきからアンタの殺気が漏れ出てるぜ。油断なんか全然してねぇのに、見た目以上に口が回るオッサンだな」


「フン!これぐらいの腹芸が出来ずして我が銀翼の王龍団の団長を務めることなぞ出来ぬわい!」


 ダン!と大戦斧を地面に叩き付けながら豪語する。


「あっそ、まあいいや。そこまで言うなら期待してるぜ。まっ、こっちは全力は出さないでやるが、真剣に戦ってやるからよ。マジで本気になってかかってきな!」


 そう言って俺はオウル相手にクイクイと手招きして挑発する。


 そんな俺の言葉を聞き、オウルの顔が一瞬ピクリと反応を示した。

 しかし、すぐに表情を元に戻し、再び笑みを浮かべた。

 だが、それは今までのような豪快さが欠けたような笑顔だった。

 どうやら、今の一言で完全にスイッチが入ったらしい。


「それは負けた時の言い訳か?」


「いいや、俺の全力じゃここにいる観客達全員を巻き込んじまうからな。あとそれと、俺が勝った時の拍付けってやつだ!」


「よかろう!ならば、このワシが貴様の全身全霊の全てを打ち砕いてくれるわ!!!」


 オウルがそう吠えると、コロシアム全体を震わすほどの大声量と共に会場全体が大きく揺れ動いた。

 それを合図に、俺とオウルは同時に動いてコロシアム中央で激突した。




 sideオウル


 魔界最強を決める史上最大の大会が開催された。その理由としては、魔界でも随一の未来視を持つ魔女レゲーナ・テラミセルが近々大きな戦が巻き起こると予知したのが切っ掛けなのだという。


 その為、いずれ来るであろう戦の為に力を蓄えておかなければと考えた現魔王がこの大会の開催を宣言したのだ。


 ワシも最初は乗り気ではなかったが、実際に参加してみると確かに得るものはあった。

 己の実力を存分に発揮できる機会というのは中々に無いものだ。それに、これまで培ってきた経験を試すことが出来るというのも悪くはなかった。


 久方振りのタイマン勝負に気がつけば決勝戦にまで勝ち上がっていた。

 最後のワシの相手となる決勝戦の相手というのが、ここ最近有名となっている魔獣専門の退治屋で『殲滅者』と呼ばれる男らしい。

 驚いたことに、魔獣退治であれば通常なら集団戦が基本であるというのに、その者はなんとソロで活躍しており、依頼達成率は驚異の100%という数字を叩き出しているそうだ。


 ワシもその気になればソロで魔獣退治をこなすことは可能だ。

 しかし、それも今の鍛え抜いた肉体とこの身に着けている装備あってこそのものだ。


 噂に聞くにラグナという者はまだ齢50かそこらの若造という話だ。人間でいえば50代といえば老人の域に差し掛かるかどうかの年齢らしいが、魔族は人間の寿命の3倍は生きていけるので人間年齢にしてみれば16か17そこいらの少年といったところだろうか?


「……面白い」


 若くして天才と恐れられる者は得てして鼻が高くなってしまいがちなもの。そういった若い者の鼻っ柱を叩き折るのも先達の役割というものだ。


「っと、考えておったのだがなぁ……」


 決勝戦の会場となる古来から戦士達の聖地たるコロシアムから恐ろしいまでの存在の気配を感じ取る。

 まるで太古の時代より生き永らえてきた魔龍と謳われる存在が待ち構えている。

 そんな錯覚を起こしてしまうような途轍もない化け物がこの先に待ち構えている。


 怖い……そんな感情?否、生物としての本能がオウルに訴えかけてきていた。

 今まで強者と戦うことは無数にあった。天災級と恐れられた超大型魔獣や魔王様の側近である四天王との戦い。

 それでも目の前で対峙するまではこうまで震えることはなかった。


 ははは……、最初は調子に乗っている若造の鼻っ柱を叩き折ってやると息巻いていたが、これではどちらが鼻っ柱を高くしていたのやらと分かったもんではない。


 だが、ここまで来たら引き下がるわけにはいかない。ここで尻尾を撒いて逃げるようならば傭兵を名乗る資格は無い!


「行くぞ!」


 覚悟を決めてコロシアムへと足を踏み入れる。すると、会場中央にて佇んでいた男が此方に視線を向けてきた。

 噂に聞くのとは違い、芯の細い体格にやる気の無さそうな死んだような目をした男だった。

 ただ、纏っている雰囲気だけは別物で、歴戦の猛者であるはずのワシですら寒気を覚えてしまう程だ。


 ワシは自身の緊張を悟られぬように挑発的な発言で誤魔化しにいったが、奴は鋭い洞察力でワシの殺気を見抜いて油断なんてしていないことを見抜きよった。

 まあ、殺気を出している理由まで悟られてはいないであろうがな。


 だが、その後も売り言葉に買い言葉といった感じで口喧嘩のようなやり取りが続き、やがて開戦の火蓋をきったのはワシの怒号であった。


 コロシアムの中央でワシの大戦斧に対して奴は手刀で応じたのだ。


 バカな!?と驚愕してしまう。ワシの怪力に加えて魔界最硬度の鉱石であるオルテウス鉱石で出来た大戦斧に生身で渡り合うなどあり得るのか!?


「「ふんっ!!」」


 最初のぶつかり合いは互いに互角といったところであり、互いに後ろへ飛んで仕切り直しとなった。


「貴様、一体どんな体をしておる!ワシの大戦斧プレリヒッダをよもや手刀で防ぐとわ!!」


「いや、俺も鍛え上げたからな。こう見えても並大抵の攻撃には耐えられるんだぜ。っま、今の一撃はちょ~っとばかし痛かったけどよ」


 そう言ってラグナは手刀で受け取めた手をさすりながら余裕のある表情を浮かべる。

 どうやら、本当にダメージを与えていなかったようだ。

 これは本当に、全力を出させることなく負けてしまうやもしれん。


「もはや言葉は無粋か!」


 大戦斧を地面に突き刺し、祈るような態勢で呪文を詠唱する。


「戦神たる我が主よ!どうかこの戦をご照覧あれ!我が誇りと矜持を賭けたこの大勝負を捧げたてまつる!!!」


 その瞬間、オウルを中心として凄まじいオーラが吹き上がる。


「どおりゃ!!」


「ほぉ……」


 この世界には魔法というものが存在する。それはごく一般的な攻撃魔法であったり、回復魔法、補助魔法、移動魔法と様々な種類が存在する。

 今回、オウルが使用した魔法は儀式魔法と分類されるもので、この世界とは別の世界に存在する神と称される者から祝福という名の力を授かる効果を持つものだ。


 そして、戦神と謳われるものが授ける力といえば無双の怪力において他ならない。


「ぬおりゃ~!!!」


「おっと!」


 巨大な戦斧をまるで木の棒を振るうレベルで振り回すその怪力無双の姿はまさに圧巻の一言である。

 振り回す大戦斧によって巻き起こる風は強風のように荒々しく、並みの魔族であれば既にヒットして倒れていたであろう。


 だが、今回相手をしているラグナはまるでそよ風を浴びているように涼しげな顔でヒョイヒョイと大戦斧の嵐を避けていく。

 それも紙一重ではなく、余裕を持って回避している。


「おっと、これは危ない!」


「ならば――!!」


 大戦斧の一撃をギリギリ躱したラグナに、ワシは大戦斧を手放し、フリーになった手で拳を叩きつけにいった。

 正直、この不意を突いた一撃は決まると思っていた。


 っが、しかし――


『氷壁』


 ラグナの右手から冷気が発生し、ワシの拳の一撃を氷の壁が出現して止めてしまった。


「ぐぬぅっ……」


「流石は銀翼の王龍の団長さんだ。判断が早くて焦っちまうよ」


 そう言いながらも奴の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。恐らく、この程度では危険とも思っていないのだろう。

 その証拠に、戦神からのバフが掛かっているワシの拳の一撃を受けてもヒビの一つも入っておらぬ氷の壁がそれを物語っている。


 これ程の硬度の壁を一瞬の内に作り出すとは……。これがラグナの実力者か!?

 いや、こんなものではないのだろう。奴の2つ名は殲滅者、すなわち攻撃にこそが奴の本領といえよう。


「真剣に来るのではなかったのか?」


「まずは相手の出方を見るのも戦術だよ、オッサン」


 ワシの言葉に対して、奴はニヤッとした笑みを返してくる。

 なんとも生意気な奴め!だが、認めよう。その余裕が強者からくるものであるということを!!


「まあ、様子見の時間は終わりにしようかね!」


 次の瞬間、ラグナの体から迸るような熱気と冷気が発生する。

 同時に、奴の纏っている雰囲気もガラリと変わった。飄々とした雰囲気から、歴戦の猛者としての威厳に満ちたものへと。


 ゴクリと無意識に唾を飲み込み身構える。

 それを合図にラグナが右手を振るう。それだけで地面の一部が凍って氷の道が出来上がり、その上を左半身から噴き出た炎をブースターにして滑って近づいてきた。


「なっ!?」


 まさか、遠距離からの攻撃が来るものだと警戒していたところを、向こうから近づいてきての接近戦に意表を突かれるも、即座に間合いを詰めてきたラグナに対して拳を振り上げる。

 だが、そんな攻撃はお見通しだったようで、振り上げた腕を掴まれてしまい、そのまま容易く懐へ潜り込まれてしまった。


「よっと、まずは一撃『破炎』」


「ッッ!!?」


 100%ではないにしろ10%程度の火力を左手から掌底と同時に叩き込む、それは爆音と共に強烈な炎を生み出し、その技名通りオウルの鎧を容易く破壊してみせた。


 核の炎はおよそ約3000℃~4000℃の高温で、その10%ともなれば300~400℃の充分な破壊力を秘める温度だ。


 事実、吹き飛んだ鎧の下から肉が焼け溶けた傷痕が痛々しく出来ている。

 人間ならば、この時点で即座に試合中止となるレベルの大怪我であるが、元来体が丈夫な魔族であればこれ程の傷でも戦闘を続行することが可能である。


 だが、戦闘続行が可能という事と痛みを感じないという事は別問題であり、肉体的な苦痛は当然あるのだ。


「ぐっ!がはぁ――!!」


「息も絶え絶えじゃねえか。それでまだ続けるつもり?」


「当然だ!この程度の負傷で戦線を離脱することなど恥でしかないわ!!」


 よろよろとよろめきながら、先程放り捨てた大戦斧の元まで移動し、それを拾い上げて再びラグナと向かい合う。


「そうかよ。んじゃ、またこっちからも行かせてもらうぜ!!」


 再び右手を振って氷の道を作り上げると、炎をブースターに凄まじい速度で迫ってきた。

 だが、今度は拳ではなく大戦斧による振り払いで迎撃にあたる。

 これならば簡単には避けることはできないだろうとの判断だ。


 だが、これでもまだラグナへの認識が甘かったと言わざるを得ない。

 奴は迫りくる大戦斧の刃に対して、右足から炎を瞬間的に爆発させて蹴り上げて対抗してきた。

 その結果、ワシの放った渾身の一撃は空振りに終わり、逆にその隙を狙って奴の追撃を許してしまう。


「デタラメじゃろ……」


「生憎と、その手の評価は過分な程に受けてるよ……」


 再び懐に入られたワシは即座に逃げの一手を選択した。これで炎による攻撃は受けても掌底の一撃は喰らわずに済む。

 そういった判断だったのだが、その選択は少々遅すぎたようだった。


「っんな!?足元の氷が足にまで!!?」


「さっき俺がオッサンの大戦斧を蹴り上げたのと同時に凍らせておいたんだよ!」


 これでは逃げることは出来ない。完全に動きを封じられてしまった。


「ワシの負けじゃな……」


「っま、今まで戦ってきた奴らの中じゃ記憶に残る戦いはしてくれた方だぜ」


 その台詞を最後にワシの意識は完全に無くなった。



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