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高校デビューで草食幼なじみは肉食風になったそうですよ?

作者: きのえいぬ
掲載日:2021/11/19

 容姿端麗、文武両道。切れ長な瞳にあふれるイタズラ心。

 黒髪ショートで真面目そうな感じなのに、少し隙があってそれが肉食系に見える。

 大きな黒猫。それが周囲の人が抱く彼女への感想だろう。


「で猫ちゃんは何しているの?」


 幼馴染。昔から家が隣で幼稚園の頃から今、高校生の時分にまで繋がる悪縁。

 大して背も伸びずスポーツでは不利だから、勉強に比重を置き過ぎた。

 陽射しには弱く、坊主になるのが嫌だから少し髪を伸ばした。それが僕だ。


 身長の大半を彼女に奪われた気がする。悔しい。


「なーご。なんちゃって」


 ハキハキとした口調。そしておどけ方。

 こういうところが彼女がクラスの人に好かれる理由だろう。

 僕なんかと付き合わずに、みんなと遊んでればいいのに。


「猫ちゃん。可愛いね」


 崩れた。ニコッてしてみたらベッドの向こうへ転がり落ちた。

 演技が過剰である。頭を打ってないだろうか?

 イスから立ち、ベッドの向こうを覗く。


「あ、うん! 大丈夫! 大丈夫だから!」


 なんか顔を真っ赤にしてる。これくらいの事、彼女なら慣れているだろう。

 手を貸すつもりでベッドに手をつき向こうへ手を伸ばした。

 なんかゴロゴロしてる。


「ほんと大丈夫? 頭打ってない?」


 周辺には硬いモノは何も置いていない。

 落ちる危険性があるし、よく転げる猫がいるからクッションになるモノを置いていたりもする。

 これが正解か分からないが、それが無難だとは思う。


「うん! ほんと大丈夫だから!」


 彼女は笑う。えへへとちょっと恥ずかしそうに笑う。

 勉強以外では僕は見劣ってしまう。

 彼女自身勉強が出来るからそこもアドバンテージにはならない。


「それで今日はどうしたの?」


 用事がなくても来てもいい。でも来ても僕は何も出来ない。

 幼馴染の腐れ縁で、お情けでの付き合いになるだろう。

 それが心に来る。ただでさえ変なヤツに目をつけられやすいから、彼女に守られているという点で気が引けているのに。


「何でもないよー」


 そっか。何でもないのか。

 何をするか聞く理由は行動の制限。妙に動かれると気が散る。

 幼馴染がよく来る部屋に隠し物を置いておく理由がない。そもそもそういうモノはパソコンに隠すのが一番。


「そう? じゃあ僕はパソコンいじろうかな」


 シークレットモードを使って、検索履歴やクッキーを毎回消し、ブックマークなども残さない。

 サイトでも表のアカウントと裏のアカウントを分けて、裏系は専用のメールアカウントで一括管理。ログインも手打ちにし、辞書の自動登録も消す。何も問題はない。


「ここでゴロゴロしてるー」


 いや、ほんと何しに来たんだろう?

 中学は勉強一緒にやろうだったけど、お互い勉強不得意ないし、意味なかっただろ。

 友達に遊びに誘われているの知っているぞ。


「そっか」


 何も言えない。帰れとも言えない。

 来て欲しくないわけじゃない。

 ただ僕に使う時間がもったいないと思う。


「うん」


 何にも言えない。


 ズルい。


 一緒の空間にいて、なんか僕が一人で勝手に意識している気がする。


 思考が女々しい。


「ありがと」


 手元を動かす。とりあえずパソコンのプログラムを作ったり使って遊ぶ事が多い。

 勉強したモノをクイズ形式にして、イエスかノーか選ばせるヤツとか、四択クイズにしたりとか。

 せめて勉強だけは彼女に負けたくないし、何かスキルを身につけないと劣等感に身を焦がされて辛くなる。


「ごめんね」


 彼女が不意にベッドの上で言った。

 何を謝っているのか、僕には分からなかった。

 ただその言葉は僕に向かって言っているのは分かった。


「大丈夫だよ」


 何がとは聞かない。聞く必要がない。

 彼女はいい子だし、僕はそれを知っている。

 多少の被害があったところで、僕はそれくらいどうにか出来ると思う。


「ありがと」


 クイズの問題を考えるのは地味に大変だ。

 だから過去問などを参考にして作る。

 歴史というか年号問題は関係しそうな数字を選択肢に混ぜ込んで作ればいいからそこは地味に簡単。


「どういたしまして」


 解答の説明も間違えた時に見れる様に記入する。

 記入しながら内容を確認し、分からない事がないか確認する。

 問題の作成は自分の理解度も試される。


「ねぇ、それまた遊ばせて」


 背中に気配を感じた。

 いつの間にか近くにいた。

 試運転は大事だなと思う。


「いいよ。今日の分はもうすぐ完成するから」


 勉強自体はそこまでしなくても出来る。

 でもこうやって遊んで作ったモノは僕以外でも試す事が出来て、もしかしたら売る事が出来るかもしれない。

 これは将来のためでもあり、自分の現状をよりよくするためでもある。


「分かった」


 彼女につり合う人になりたい。

 きっと僕はそう思っている。

 チビで頭でっかちだし、卑屈だからね。


「進路どうするんだっけ?」


 センター試験の問題は勉強用にちょうどいい。

 難関大はちゃんと勉強の内容を理解しているかどうかの確認用にちょうどいい。

 とりあえずはセンター試験の問題で遊ぶ。


「まだ特に考えてないー」


 行こうと思えばどこにでも行けるからな。

 資格重視で医薬や法に進む手もある。

 とりあえず偏差値高いとこ入っておいて大卒資格取れば、選べる選択肢も多いし、特段問題はないだろう。


「ん、じゃあとりあえず適当に作るよ」


 学校は電車と同じ。技術や経験の目安であり目的地に辿り着く為の手段だ。

 歩いて行くよりも簡単に目的地に着ける。

 ここまで出来るよというのを学校が保証する。学歴は過程の証明だ。

 あって損はない。ある程楽になる。


「君は決まってるの?」


 猫はベッドの上からこちらを見ていた。

 正直なところ、決まっていない。

 パソコン関係は上手く立ち回れれば美味しいだろうが、五次受けとかそういう闇を聞くとキツい。

 まるで知らないでいるとゴミを有り難る事になるし、自分で出来る事や技術的に困難なモノなどを知るのが一番だと思っている。


「特にないかな」


 まずこの卑屈さをどうにかしないとダメか。

 卑屈なのは自信がない事の現れだろう。

 どんなに何かが出来たところで、それが自分にとって価値がないなら自信にはならない。

 僕にとって価値がある事とは何だろうか?


「そっか」


 猫はベッドの上で微笑む。

 彼女が羨ましい。いや、眩しい。

 勝手に引け目を感じて、妬ましさを覚えている。


「出来たよ」


 彼女が自由だからだろうか?

 彼女に対して僕が邪な感情を抱きつつあるからだろうか?

 いい人でいるのは心苦しいのかもしれない。


「いつものサイト?」


 好きなのだろう。彼女の事が。

 だからこそ自分が忌まわしく感じる。

 取り柄を取り柄とは思えない。


「そうそう」


 これだけしかない。

 いや、これだけと言えるのかも分からない。

 自分が彼女に出来る事は少ない。


「うん」

 

 パソコンの事とかも多分、彼女のために覚えたのかもしれない。

 調べ物とかで頼られて、スマホを持ったタイミングから詳しくなろうとして。

 でもそれが正しい気がしないから、未来のためと言い訳する。


「どうだった? 大丈夫そう?」


 表面上はどこまでも無害に。

 でも内心は頼られたくて仕方がない。

 歪だと思うから僕は僕が嫌いになる。


「大丈夫! これがあるから勉強楽になってるんだもん。何かお礼したくなっちゃう」


 猫ちゃんは笑う。優しく笑う。

 僕も軽く笑う。優しく笑う。

 心の底で汚い自分を踏み殺す。


「そう言ってくれて僕は嬉しいよ」


 綺麗になれない自分に吐き気がする。

 ただの腐れ縁に闇を感じる。

 守られてばかりの自分が嫌いだ。

 守られている癖に、魅力を感じ過ぎるのも嫌だ。


 僕の好きは歪だ。


「ねぇ、君は私の事好き?」


 ……。


 ……。


 ……。


「好きだよ。いきなりどうしたの?」


 猫ちゃんは顔を赤くしていた。可愛い。

 なんか枕を抱え込んでる。可愛い。

 恥ずかしそうにちょっと目を逸らしてる。


「それは恋愛っていう意味で大丈夫?」


 猫ちゃんは不安なのか言葉が揺れていた。

 何故急にそう言われたのか分からない。

 何かが溜まっていたのだろうか?


「そうだね。気がついたらそうだった」


 でも告白する状態だとも思ってなかった。

 そもそも僕はそういう相手になるとは思えなかった。

 僕以外にふさわしい相手がいるかもしれないとすら思った。


 嫌だけど。


「告白して欲しかった」


 どんな顔して言えばいいんだろう?

 腐れ縁が過ぎる。幼稚園の頃からの仲だ。

 それに自分の内心の汚さが、卑屈さが気に入らなかった。


「猫ちゃんは僕の事は好き?」


 ズルいヤツ。


 クモが糸を張る様に、絡めとろうとする。

 欲望を顔に出さない癖に、自分の思うままに動かそうとするヤツ。

 食べたいのに、無害な顔をしているヤツ。


「……好き。好きだよ」

 

 恥じらい美味しく頂きました。


 ほんと今の見た目だけなら肉食系で、男子ばんばん食べちゃってそうなのにね。

 高校に入ってから特に変えてきた。

 誰か好きな人が出来たのかと思った。


「どうして僕だったの?」


 少なくとも僕は小さい。

 平均的な身長より少し高い猫ちゃんと比べても10センチくらい低い。

 とても悲しい。


「落ち着くから……かな?」


 よく分からない。

 顔を赤らめていて可愛い事しか分からない。

 鳴らない口笛を吹くな。口を塞ぐぞ。


「そう。落ち着くんだ」


 なんというか。なんというかだよ!

 いや、うん。そうだな。そうだね。

 僕が落ち着きたい!


「うん……」


 あぁ、もう可愛いなぁ!

 可愛いんだよなぁ。

 別に僕は嫌いじゃないんだよ。

 僕が僕を嫌いなだけだ。


「うん、分かった。付き合おうか」


 身長は仕方がない。

 伸びなかったモノは仕方がない。

 彼女を悲しませる方が僕は嫌だ。


「……ありがと」


 猫ちゃんはどこか戸惑いの表情を浮かべているのでちょっと不安になる。

 もしかして罰ゲームとかそういう感じのそれだっただろうか?

 いや、さすがにそれはない……と思いたい。


「大丈夫?」


 結局のところ、都合が良過ぎる。

 そんな都合がいい事が起きるだろうか?

 いや、起きない。起きていいわけがない。


「大分緊張してたからなんか疲れちゃった」


 彼女はあははと照れ臭そうに笑う。

 その姿に嘘は感じられない。

 こうやって考える僕はダメなんだろう。


「そっか」


 ヘタレ。


「うん」


 ヘタレ。


「ごめんね。ちょっと実感がわかない」


 僕は何をお高く留まっていやがる。

 内面の汚さは晒せない。

 傷つけるだけだから。


「私もだよ」


 上げられるステータスを上げても。

 賞を取ろうと思ってやってはいない。

 諦めきれず、ただやってただけだ。


「ビックリした」


 見栄っ張りの張りぼての虎だから。

 近くで見ればなおさらよく張りぼてだと分かっただろう。

 演技が上手いなんて、自分でも思っちゃいない。


「そっか。そうだよね。分かるよ。私だってそうだもん」


 彼女の目にはちょっと涙が溜まってた。

 鼻をふすふすってちょっと鳴らしている。

 やっぱり可愛い。


「あのね。実は高校に入ってから他の人に何回か告白されてたの」


 彼女の顔にちょっと陰が入っている。

 なんかすごく嫌だったんだろう。

 僕もすごく嫌だ。


「でもなんか全部怖かった。チャラい人も真面目な人も色々な人全部怖かった。よく知らない人なのに、なんかみんな私の外見を見て選ぼうとしている様なそんな感じだったから」


 彼女自身を見られているとは思えなかったという事だろうか?

 僕はどうなんだろう? 外見ばかり見ていないか?

 彼女の上っ面と競争して、勝手に負けて引け目を感じていなかったか?


「そうだったんだね」


 容姿も性格もいい彼女だ。

 中身の面でも大負けしている。

 だからこそ僕は僕が嫌いだ。


「あ、あと君に慣れてたから背が高い人ちょっとムリになってたかも」


 げふん。


 ニコニコこちらを見るな。

 自分よりも背が低くて嬉しいか?

 嬉しいのか? お、チビっ子万歳か?


「そうなんだ」


 表情筋がちょっとピキってしちゃったぞ。

 いや、うん。どんだけ小さいの気にしてるんだ?

  牛乳飲んで早寝して朝歩いてとかしてるくらいには気にしてるな。

 誰だよ。足裏の刺激が身長を伸ばすって言ったヤツ。全然伸びなかったぞ。


「怖くなってごめんなさいして、そしたら毎回君の事思い出してた」


 笑う。とろける様に彼女は笑う。

 ズルい。眩しい。僕は汚い。心苦しい。

 本当に僕でよかったのだろうか?


「僕は君の事がずっと前から好きだったよ。可愛いし、優しいし、こんな僕の友達でいてくれるから」


 言い訳ばっかりだし、内心面倒くさいし。

 チビだし、運動は微妙だし、勉強しか取り柄がないし、卑屈だし。

 考える程、相応しくない気がしてしまう。


「そうなんだね。ありがと。ねぇ、ぎゅってしていい? いつも微妙な距離で悩んでたんだけど、彼女になったからいいよね!」


 ? うん? なんか息が荒い気がする。


「あー、うん。いいよ」


 別に断る理由もない。

 自分の下心に気づいてからは距離感を考えたけど、触られる分には気にする必要がない。

 友達でいたかったから控えてただけだ。


「なんかね。こうやって触るの久しぶりな気がするの。私さ、けっこう君が遠かったの気にしてたんだよ?」


 ぎゅってされた。

 実は身も心も肉食だったか?

 食べたいモノを抑えてたのか?


「お互いいい歳になっちゃったからね」


 あー、これはぬいぐるみとかの抱き方だ。

 親愛の対象だけど、性愛の対象じゃない。

 やはりアスパラベーコン。


「寂しかった」


 可愛いかよ!


「僕は猫ちゃんが好きで、友達のままでいたくて、自分の感情が変わっていくのが怖かったかな。今も君に対してどうしたらいいかとかやりたい事ばかり考えちゃってる」


 肩に顎をのせられた。よく分からないが可愛い。人の体温で温まるのは不思議な気分。

 腰に手を回して、頭をポンポンとしてみる。普段は絶対に届かない場所だ。

 色々と感慨深い。


「なんでこうなったんだろうね?」


 僕も分からない。

 身長が伸びてたら告白してただろうか?

 別の子に告白されてた可能性も?

 卑屈じゃなかったらこんな日は来なかったかもしれない。


「分かんないね。でもありがと」


 笑う。ニコニコと笑ってみる。

 仮面の笑みかもしれない。

 でも可愛いから顔が綻ぶのは間違いない。


「思ってたけど君って犬っぽいよね。真面目だし、可愛いし、素直だし、隠し事が上手くないし、可愛いんだもん。ねぇ、わんちゃん?」


 クスクスと猫ちゃんは笑う。

 犬と猫で釣り合いが取れるかもしれない。

 そう考えるとちょっと嬉しい。


「そっか。猫ちゃんは僕を犬って思ってたんだ? ふーん」


 からかう様に、意地悪に言ってみる。

 猫ちゃんは笑う。犬も笑う。

 何となく強く抱き締めた。


 彼女の腰は細かった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 肉食系、草食系は反日ヘイト、日本人差別語です うんこを食べる某半島民族の作った言葉です
2022/02/18 20:54 退会済み
管理
[一言] 長年の関係性を変えるのは怖いよねぇ。 特に彼のような性格だとね。 これからは、ちょっと自信が付くかな? 自信が付いても、調子に乗らなさそうな彼だから、落ち着く場所っていうのは変わらなそうです…
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