5(終わりのワルツ)
5(終わりのワルツ)
コリドー。世界が終わったとき、そういう通路が表れる。C・O・R・R・I・D・O・R……。世界が一周するとき、終わりと始まりを糊付けするようにあるのがそこだ。わたしはそこを歩いている。乳白色でなにもなく、在る(……つまり、ないと確認する)のはわたしだけ。
コリドーは雪の結晶で、足もとをうろつく緩衝材。わたしの不安を優しく受け止め、埋もれさせる……世界が終わったとき、優しく包み込んで、世界が始まったとき、自由に動けなくするため。わたしは心地よくて、不気味で恐ろしくて、真っ白な中で、真っ黒な空間を真っ逆さまに落ちているような気分になる。目をつむって、耳をふさいだ時、世界になにがあるだろうか? 真っ暗闇、深淵、コリドーの入り口が、大きな口をあけてわたしを待っている……。
「ねえ知ってる? ほら、宇宙って四十六億歳じゃない? これをね、時計に当てはめるんだけど、そうするとね、ほら、いわゆる、人類史ってやつ? の始まりはね、23時59分58秒になるんだってよ」
「へえ」とわたしは言った。
「へえ、だよねえ。いやどういうこっちゃ? ていう。じゃあなにか、あと2秒で世界は終わるってことなのかな?」
(ここで二秒を数えてみるが、世界は終わらない。終わるわけがない。)
「でもさーわけわからんよね。なんでそんなこと考えなきゃいけないわけよ? 終末時計とかもそうだけどさあ、そんなんわざわざ考えてどうするよ? ダウナーになるしかないじゃん。バッドトリップってやつだよ」
(やつじゃない。ぜんぜんやつじゃない)
バカみたい。でも、不安になる。バカじゃない? でも、不安になってるんだからしょうがないじゃない。
だってずっと一人みたいなんだもの。
真っ白のクッション、真っ白の鳥の羽、真っ白のスポンジ、真っ白の石クズ、わたしはそこに飛び込んで、ずっとずっと、光がなくなるまでずっとずっと深くまで埋まってしまう。
わたしはコリドーの中を歩いている。コリドーの中は真っ白で、なにもない。
これにて終わり。