何か......変?
新学期が始まって2日目になった。大学の講義室には、すでに夏生と真優と歩乃目がいた。
3人はいつもよりも早く登校していた。成美のことがどうしても気になって、早く来てしまったのだ。3人で成美が来るのを待ち
講義室の入り口から成美が入ってきた。夏生と歩乃目は成美の様子をうかがった。
しかし、真優は大声で言った。
「おーい、成美。こっちこっち!」
最初、成美は真優の声に気づいていないのか、真優の方を見ていなかった。しかし真優がもう一度呼ぶと、声に気づいたのか3人の元に来た。
「おはようみんな! ごめん、私は元気だから......これからもよろしくね!」
成美が大きな声で言い放ったその言葉に、3人は顔を見合わせる。
成美は吹っ切れたのか、それとも心に隠しただけなのか夏生たちには分からないが、妹の死を乗り越えていたようだった。
「おう、これからもよろしくな。お前がいないとやっぱ寂しいぞ」
真優が成美に言った。夏生と歩乃目も頷いた。
「ほんと? それならよかった。嬉しい」
成美は笑っていた。夏生は、成美が妹と同じようにうつ病にならなくて本当に良かったと思った。
講義の前にお手洗いに行くと言って成美は席を立ち、講義室を出た。
成美が席を立ったとき、ポケットから1枚のカードが落ちたのを夏生は見た。夏生が拾い上げると、それは成美の妹の名前が書かれた学生証だった。
夏生はこれを真優と歩乃目に見せるべきか迷った。しかし悩んだあげく、見せることにした。
「あのさ、2人とも......」
夏生が学生証を見せると、2人は顔をしかめた。夏生はこの学生証をみたとき、成美がまだ妹の死を乗り越えられていないのだと感じた。しかし、歩乃目からは予想だにしなかった言葉が発せられた。
「やっぱり!」
意味が分からず夏生は問いかけた。
「どういうこと?」
「えっと......」
「教えてくれ、歩乃目」
真優も気になったようで、歩乃目に問いかける。歩乃目はゆっくりと口を開いた。
「あのね、私がおもったことなんだけど、今日ここに成美ちゃんが来たとき変な感じがしたんだ。なんか、まるで初めて見た人みたいな」
真優は全く意味が分かっていなさそうな顔をしていたが、夏生には言いたいことが分かった。しかし、それは――――。
「えっと、それってすごいこと言ってるのわかってる?」
「うん。分かってるよ。でも、本当にそうとしか思えなかったの......」
「ただの勘違いかもしれない」
「うん、だから私がただ思っただけ。でも、私には誰だか分からなかったんだ.......。私、人を見間違えたことなんて今まで無かったのに」
夏生はその先を聞きたくは無かった。しかし、聞くしかなかった。
「つまり......?」
「今のって、成美ちゃんじゃなくて、妹ちゃんなんじゃないかなって」
歩乃目の言いたかったことは、やはりそれだった。やっと話を理解した真優が口を挟んだ。
「じゃあ成美はどうしたんだよ」
その問いに歩乃目が答えようとしたとき、
「私が、どうかした?」
成美、が帰ってきた。
「あーえっと、海でみんな日焼けしたねって話してたの」
夏生は必死で違う話を口にした。その話しに歩乃目と真優は合わせた。
「そうそう。そうなんだよ!」
「成美ちゃんは全然日焼けしてないねって話してたの」
歩乃目の言葉で夏生は気づいた。今の成美は全く日焼けをしていなかった。海に行ったのはそんなに昔のことではない。夏生たち3人はまだ日焼けしたままだ。
この事が引き金となり、夏生は自分の中で成美に対する不信感が大きくなっているのを感じた。