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私の影映し  作者: まんまる
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夏生の夏の終わり

 夏休みも終わりに近づき、夏生(なつき)は家族に会うために帰省していた。


 夕食を食べ、お風呂に入った夏生は、実家の自室にあるベッドに寝転がっていた。右手にはスマホを持ち、写真を見ていた。

 写真を見終え、右手からスマホを放って仰向けになる。夏生は天井を眺めた。


 どうして、実家という場所はこんなにも落ち着けるのだろうか。


 もう来週には一人暮らしが再開する。実家では、夏生は家事も勉強もせずに自室でだらだらしていた。

 横に放り出したスマホが鳴った。もう一度画面を見ると、また4人のSNSグループに写真が送られていた。海での写真だ。

 夏美は映し出された4人の写真を眺める。みんな楽しそうだ。

 大学生になるまでずっと実家で生活していた夏生は、大学生になって初めて一人暮らしを始めた。そして、友達とこんなにも楽しい夏休みを過ごすことが出来た。

 夏生は、自分が大学生活を満喫していると、たまに考えてしまう。


 ――妹と一緒に大学生になれていたらなあ。


 夏生は今日も病院にお見舞いに行っていた。帰省中はできるだけ妹の千映ちえの元を訪れるようにしていた。

 明日は千映の退院予定日だ。ついに待ち望んでいた退院だ。

 明日は帰る前に病院に迎えに行こう。そう思いながら、夏生はそのままベッドの上で眠った。



 翌日、母と病院に来た夏生は千映の病室へ向かった。ドアの前に立つと、中から話し声が聞こえる。夏生はドアを開けて病室に入った。

 

「あっお姉ちゃん! また来たの?」

「帰る前に寄っておこうと思って」


 千映はこちらを見ると手を振った。千映の横にいた看護師さんが夏生たちの方を向き、失礼しますと病室から立ち去る。千映と話してくれていたようだ。

 夏生たちはベッドの横の椅子に座る。千映が夏生に言う。


「お姉ちゃん。大学生活はどう?」

「うん。楽しいよ」

「そっかー。私もやっと退院だよ~」


 その言葉を聞いて、少し、胸が痛くなる。


「そうだね。はやく元気になりなよ?いっぱい楽しいことあるんだから」

「夏休みはどんなことしたの?」

「みんなで海行ったりとかー、写真見る?」


 見たい、と千映がスマホの写真を見る。千映はじっと4人が写る写真を見ている。


「お姉ちゃん。この人たちは友達?」


 唐突に聞かれた夏生は、


「そうだよ。大学で知り合ったの」


 そう答えた。千映はずるいずるいと頬を膨らませて夏生を見た。


「いいもん。私も退院して早く大学生活を謳歌するもん」

「そうね、がんばってね。お姉ちゃんも応援してるから」


 がんばれ、としか言えなかった。夏生にはどんな言葉をかけるべきか分からなかった。

 しかし、千映は今から退院である。先ほどからそわそわした様子の千映を見ると、本当に待ち望んでいた退院のようだ。

 看護師と医師が、病室の入り口側にいた母に軽く一礼して入ってくる。


「あっ、退院の時間だ! やったー!」


 お疲れ様、と千映に看護師が言う。退院の準備が始まるようだ。


「じゃあ私はもう行くね」

「うんありがとー! またね」


 千映からスマホを受け取ると、夏生は立ち上がった。千映は夏生に笑顔で手を振った。夏生も振り返した。

 じゃあね、と言って夏生はこの場を後にした。


 大学生になって初めての夏が終わる。病院の外は、もう薄暗かった。

 夏生は駅に向かって歩いた。

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