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私の影映し  作者: まんまる
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7&な.{こ+*な$常

私は家にいる。でも私の家じゃない。


ベッドの横に立ち、キッチンにあった包丁を右手に握りしめた。


――こんな日常ならいらない。


%&は包丁の先を寝ている彼女の喉元に運ぶ。あと少しで――。


夏生なつきちゃん...?」


彼女が目を覚ましたようだ。

しかし彼女は起き上がることはせず、うつろな目で私のことを見るだけだった。


「私は夏生じゃない」


そうして喉に突き立てた。彼女はそのまま眠ってしまった。

玄関から誰かやってきた。


「なに...してるんだ...?」


その声の主を知っている。でも、私は知らない。振り向くと、彼女は泣いていた。

私はその人に向かって包丁を、この家にあったもう一つの包丁を投げつけた。その人はそのまま床に倒れた。

そういえば、包丁には「誕生日の真優まゆへ」と書いてあった。


そうだった。夏生が彼女の家から持ってきたんだった。


でも、今の私は夏生じゃない。夏生はもう死んだ。

私は千映ちえ黒本くろもと 千映ちえだ。


姉の人生を奪えば、私の失われた時間が戻ってくると思っていた。理不尽に奪われた人生の一部を。

だから私は、同じように姉の人生を奪った。あの薄暗い夕方の帰り道。夏生が電車で帰るあの駅で。理不尽に。今頃、実家では退院のタイミングでいなくなった私を親や警察が捜していることだろう。いや、もう諦めたか。

姉の人生を奪って、姉の人生を生きてみた。でも、実際は虚しいだけだった。

夏生の友人はみんな優しかった。みんな私のことが好きだった。

でも、それは、私じゃない。私の演じていた夏生だ。


だれも私のことを考えてくれなかった。だれも私のことを知らなかった。

一度でも千映と呼んでくれたら、私は私の犯した全ての罪の責任を取ろうと思っていた。

でも、誰も私を知らない。気づいてくれない。


――そんなこと知っていた。当たり前だ。


だって彼女らの見ている私は、夏生だったのだから。


――――だったら、彼女らの人生も貰おう。


彼女らがいなくなれば、夏生の友達はいなくなる。

夏生の友達がいなくなれば、私は私を名乗れる。

そうなれば、私は私の人生をやり直せる。そう思った。


だから、殺した。

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