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デートを終えて、想い始まり

「巡回してる時に見つけてね とっても眺めが良かったから君と観たかったんだ」


 ここは夕陽に照らされた街が一望出来る隠れスポット。


 人通りはあまりないが、その分ゆっくりと見渡す事が出来る、知る人ぞ知る憩の場なのだ。


「素敵ですね……こうしてみると 街の人達がどれだけ頑張ってるかが分かります」


 そろそろ日が沈み始めてる為、人の行き来も減り始めているが、それでもまだ商いも買い物をする人がいた。


「今頃はみんな夜ご飯の準備かな?」


「お店の食べ物美味しかったですよね!」


「今から食べませんか?」


 買い物の中には気に入った食べ物も含まれている。


 景色を眺めながら、イスもテーブルもあるのだから丁度良い。


「これが……"買い食い"というものですね!」


 美味しそうに頬張るスピカに、リンは癒される。


 今日の経験はスピカにとって初めての事ばかりであったが、その全てが新鮮で、幸せな一時であった。


「"デート"とはこんなにも楽しかったのですね……もっと前からすれば良かったです」


「でも誰とでもはやめようね」


「そうなのですか? 難しいのですねぇ……」


 まだ深くは理解していないお姫様思考のスピカは、若干誤解しているが、楽しんでもらえた事はリンは嬉しい。


「また二人でしましょう 僕は幾らでもお付き合いします」


 楽しんでもらうのに、リンは何も惜しまない。


 いつどんな時であっても、呼ばれたのであればリンはスピカの元へ往く。


「それは……難しいですね」


 この時間は"奇跡"に等しかった。


「……ご存知ですか? 近々肯定派との戦いが始まる事を」


 今はこんなにも穏やかな日々を送っているが、世界は戦争の真っ只中だという事を忘れてしまいそうである。


 ただの"仮様の平和だという事"をである。


「僕も参加しますよ 衛生兵団を除けば出撃は僕の前衛兵士団だけですよね?」


「"遊撃兵士団"も参加します 敵兵力の視察も彼らが」


 各地から寄せられた目撃証言と合わせ、怪しいと睨んだ場所へ遊撃兵士団は別動隊として出動していた。


 そして発見したのが、敵のアジトと思われる場所だった。


「小規模で有りましたがおそらくは三百程……多くて五百といったところでしょうか」


 増援として前衛兵士団が現地の遊撃兵士団と合流し、拠点を潰すの事が、次の戦いの目的である。


「白兵戦となるでしょう ですが拠点を一つ消す事が出来れば大きな一歩だと思うのです」


「大丈夫だよ ピスケスにアリエスちゃんも出るんでしょ? 九賢者の二人が参加するなら安心だね」


私も合わせれば(・・・・・・・)三人です(・・・・)


 氷と木、それに"光の九賢者"であるスピカも戦場へと赴く。


「負けられません絶対に……でも──」


 以前スピカがリンに言ってたように、戦わずに済む方法もあるのでは無いか、戦わずとも手を取り合う事は出来ないのか。


 この国の姫として、スピカは常に考えていた。


「間違っていないのだとしても……やはり苦しいです」


 だがその考えを振り払ってでも、戦わなくてはならないと知った。


「だからリン君は──街をみせたのですね」


 自分が守っていた人達と、真近で関わって、改めて思い知る。


 戦わなくては守れない人達が、こんなにも多くいるのだと。


「迷う私を気遣ってくれていたのですね……覚悟を決めさせる為に」


「そんな大層な考えじゃなかったよ」


 夕暮れの空は夜空に変わり、星々が輝きを始めた。


 街には明かりが灯る。その光が、沢山の人が住んでいる事を表していた。


「姫様が背負ってるモノは──いつだって降ろせるんだ」


 リンは一人で全てを背負うスピカに、もっと知って欲しかったのだ。


 震える肩を抱き寄せてくれる人が側にいれば、弱音の一つや二つ零しても、誰も責める事はしない。


 皆が信じて戦っているのなら、支え合うのは当たり前なのだ。


「強がる必要なんて無いんだよ 弱いなら……その弱さを大事にしよう」


 優しい心を切り捨ててはならない。


 切り捨てて得た強さは、いずれ自分自身を壊してしまうだろう。


「街の人達も九賢者のみんなも君が好きなんだ 国の為に戦う君をみんなが応援してる」


 街で笑っていられるのも、誰かが戦っているからだである。


 その最前線に立つスピカを、誰もが感謝しているのだ。


「その中には……僕もいるんだよ?」


 リンはスピカの瞳を見つめ、手を握る。


 剣となり盾となって戦うと誓った。絶対に護ると、心に決めたのだ。


「私は幸せ者ですね……こんなにも多くの人が居るのですから」


「任せてほしい 頼ってくれたら僕は嬉しい」


 戦場を共に駆けるのなら、きっと役に立ってみせるのだとリンは言った。


「僕ってば強いから まあ流石に九賢者の人達には劣るけど……それでも充分に強いよ!」


「駄目ですよ慢心しては〜 いついかなる時も気を引き締めて戦いに挑んで下さい! 自分より弱い相手ばかりとは限らないんですからね!」


「うぅ……ごめんなさい」


 怒られてしまう。だが怒った顔も可愛いなどと、反省の色が見えない。


「でもおかしいですねぇ……本当はリン君を励ます為の日だったのに」


「一緒にいられただけで満足です 言ったでしょ? 支え合うって」


「はい! "友達"ですもんね!」


「是非ともそれ以上になりたいですが」


 他愛無い会話を始めると、時間を忘れて話し込む。


 お互いを知り合い、今日あった出来事を振り返り、そんな二人からは笑顔が溢れていた。


「フフフッ……約束よりも遅くなってしまいました」


「もしかして誘拐犯として指名手配されてされてませんよね僕?」


「さあどうでしょう? もしかするかもしれませんね〜?」


「助けて下さい姫様!」


「そうですねぇ……でしたら呼んでください(・・・・・・・)


「呼ぶ?」


 何の事かと首を傾げると、スピカは言った。


「"スピカちゃん"と呼びたいと言っていたのに一度も呼んでいないので 呼んでくれたら助けてあげますよ?」


「ウグゥ!?」


 恥ずかしくて面と向かって言えなかった呼び方を、今ここで呼ばないと、最悪処刑されてしまう。


「……呼ばないんですか?」


(かわいい)


 少しむくれて可愛らしく睨むスピカに、リンは何度でも虜になる。


「ス……スピ……スピカ……ちゃん」


 歯切れの悪い呼びであれ、スピカは笑顔で応える。


「はい! スピカです!」


(好き)


 今すぐ抱きしめてたい思いをグッと堪える。意外にも身分差などの問題をしっかり考えていたからだ。


 こんな楽しい時間も永遠では無い。


 だからこそ、この時間を何度でも過ごす為に、永かせる為に戦うしか無いのだ。


「でも今のは少しぎこちないと思うのです」


(少しで許してくれてる)


 明らかに呼び方としては下の下だったが、スピカの中ではそうカウントしていた。


「なのでもう一度お願いします!」


「ス……ピカちゃん」


「ワンモアです!」


「スピ……カちゃん」


「う〜ん」


 判定が甘いのそうで無いのか、凄く曖昧である。


「──スピカちゃん」


「はい──スピカです」


 漸く言えた。ただ、呼び方を変えるだけなのに苦労する。


「今度こそ……時間ですね」


 それだけに、リンの想いは本気だったのだ。


「お手をどうぞ姫様 エスコート致します」


 終わらせたく無いからと、攫うような事はしない。


 何故なら、誰もが認める関係になりたいからだ。


「ありがとうございます」


 夜の道。転ばないよう手を握る。


「僕はこの手を──"男として"伸ばしてる」


 好きな人と手を握りたい。その一心で手を差し出す。


「えっと……その……」


「まだ分からなくて良いんです 何度だって 僕は伝えるから」


 だが確実に、距離を縮める事が出来たであろう。


 いつの日か、想い合う事が出来ると信じて。



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