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暖かな一日

「お待たせしました〜!」


 城門の前で待たせていたリンに、スピカが駆け寄る。


「大丈夫だよ 君を待つ時間もまた愛おしい……って流石に臭すぎるかな?」


 誰よりも楽しみにしていたリンは、待ち合わせの一時間以上前から待機していた。


 怪しんだ門番に問い詰められる時間でさえも 、幸せそうにするリンの前には全く動じず、最終的には諦めて放置されていた。


「どうですか? 誰にもにバレないですか?」


 変装の為に掛けた眼鏡に、普段はしていない三つ編み。


 念の為にフードを被れば、覗き込まれない限り確認は出来ないであろう。


「大丈夫 凄く可愛いから」


「ありがとうございます!」


 それは答えになっていないのだが、誰も指摘出来ない。


「お手をどうぞ」


「これにはどういう意味が?」


「街に向かうのでエスコートを それにはぐれないように」


 差し出された手を、スピカは微笑みを浮かべながら握る。


 ただ手を添えるのではなく少しだけ握る力は強く、離さない為に握られた。


「今日は……よろしくお願いしますね?」


 上目遣いでそんなお願いをされれば、皆決まってこう答えるだろ。


「──仰せのままにお姫様」


 夢のような時間が始まった。無謀だと言われていた人が、今隣で一緒に歩いている。


 歩みを始めたばかりだというのに、リンはそれだけで満たされていた。


「綺麗な道だよね 僕好きなんだ」


 暖かな陽射しが、木々を通して道を照らす。


 広場へと繋がる並木道をゆっくりと歩きながら、二人の会話が続く。


「春になれば桜に染まるんです きっともっと好きになりますよ」


「桜は君の瞳の色と同じだね?」


「もう……私のことばっかり」


 どんな会話でも自分が出てくるのが流石に照れ臭くなり、頬を膨らませてささやかな抗議をする。


「仕方ないよ 僕は君のことが好きなんだから」


「だとしてもです! 褒め過ぎ禁止です!」


「それは困っちゃうなあ……会話が続かなくなってしまう」


 とにかくリンはスピカの事を話したいのだ。


 いついかなる時、どんな場所であってもである。


「でしたら……今日は私がリン君を褒めましょう!」


「僕を?」


「今日は励ます為だったんですからその方が良いです! だから……覚悟してくださいね?」


 不敵に笑うスピカもまた可愛いかった。


 脳裏に過るのはそればかりで、褒め言葉禁止令を発令されるとなると、リンは本当に困ってしまう。


(くっ! 言葉に出来ないのが辛い!)


 リンはぐっと堪え、褒め殺しを受ける覚悟を決める。


「リン君は……優しいですね!」


「そうかな〜?」


「リン君は……面白いですね!」


「そうなのかな〜?」


 そんなやりとりがずっと続き、広場に到着後も続けられていた。


「それからそれからリン君は私を助けてくれました! 命の恩人です!」


「もう勘弁して……」


 褒められ慣れないリンは顔を押さえて恥ずかしいがる。


 その様子を見て、スピカは勝ち誇った様子でリンに言う。


「どうですか? 少しは私の気持ち分かりましたか?」


「降参……お強いですね」


「でも本当のことですから──頼りにしてますよ?」


 陽に照らされて微笑む姿に、心奪われる。


 胸の高鳴りが強くなる。何度でも、ただ"好き"を伝えたくなって堪らなくなる。


「──好きだなぁやっぱり」


 抑えきれず、想いが溢れた。


「そんなに……好きなんですか?」


 止めどなく想いを伝えたくなる。一目見た時からずっと、変わらない気持ちを伝えたい。


 スピカの問いに答えよう。そんな時だった。


「あ〜! リンだ〜!」


「女の人とイチャコラしてる〜!」


 そんな事をリンが考えていると、巡回時に知り合った街の子共達に話しかけられた。


「今日バトラーじゃなーい!」


「解雇された? 解雇されたの?」


「安心して 今頃お城でしごかれてるから」


 相棒のバトラーは仕事中であり、戦闘訓練を受けている真っ最中であった。


 今頃は根を上げ、不満を口にしているであろう。


「こんにちわ リン君のお友達かな?」


 スピカは子供達と目線を合わせて挨拶をする。


 子供達もそれに応え、元気良く挨拶を返した。


「こんにちわ〜!」


「お姉さんはリンの彼女?」


 思った事をストレートに訊ねられるのは子供の特権であろう。親しそうに話す二人を見て率直に訊かれた。


「友達ですよ〜 仲良くさせてもらってます」 


 勿論スピカは素直に答える。今の関係はそれ以上でも、それ以下でも無いからだ。


「僕としては彼女以上が良いんだけどね」


「フラれてやんの」


「お兄さん怒っちゃうぞ〜?」


「わーい! 逃げろー!」


 二人だけの時間の一部を使って、子供達との触れ合いの時間に当てたられる。


 楽しそうなのは子供達だけでなく、スピカもまた楽しんだ。


「それじゃあねリン!」


「あれ? もう良いの?」


「二人のジャマしたくないもんね」


 良くできた子達だなと、存外考えてくれていた子供達に感謝する。


「じゃあねー!」


「また遊ぼうね!」


 手を振って別れる。スピカは子供達が見えなくなるまで、愛おしそうに眺めていた。


「可愛いお友達でしたね?」


 そう言ってリンの顔を覗き込み、少しだけイジワルそうな言い方が、またリンの心をときめかせる。


「懐かれちゃって」


「仲の良い方は他にもいらっしゃるんですか?」


「うん 次は酒場に挨拶に行こうか」


 興味を持ってくれたようなので、リンは酒場の亭主のもとへと案内した。


「お昼から酒場なんですか?」


「昼はただの飲食店さ 夜になると行きつけの酒場」


 人通りが増えた商店街で、再び手を繋ぐ。


 活気に溢れ賑わう人々を見て、スピカは目を輝かせてる。


「沢山! 沢山人が居ます!」


「特にこの辺りは賑わってるんだよ 気になるところがあったら言ってね」


「はい!」


 目的地までに何度も寄り道をし、最初はどうなるかと思われていたが、スピカはちゃんと馴染めていた。


「そんで? 荷物がこんなに増えたと?」


「えへへ……」


「どれも素敵なものばかりで」


 酒場にたどり着いた頃には、両手一杯に持ち物が増えてしまったのだ。


「まさか兄ちゃんが女連れて来るなんて驚いたぜまったく」


「なんだいその縁が無いみたいな言い方?」


「だってそうだろ? いっつも姫様姫様言ってたし他の娘は眼中に無いだとばかりで」


 変装は上手くいっていたようで、亭主にバレていない。


「この兄ちゃんオススメはしないぜ嬢ちゃん? 口を開けば姫様ばっか言ってんだから」


「……ハイ」


 本人ですとは名乗れず、恥ずかしさを堪えながら、スピカは黙って頷くしかなかった。


「店の調子は?」


「昼はともかく夜はまだな 街に侵入されてから客足はてんで駄目だ」


 平和に見えるこの街でも、不安に怯える日々を送らなければならない。


「早いとこ戦争なんて終わって欲しいもんだがいつになるやら……まああんまし姫様達に負担もかけられんしな 上手くやってくぜ」


 この国では誰もが姫に期待している。


 戦争を終わらせてくれると、必ず勝利するのだと。


「──きっと終わりますから」


 店を出る前に、スピカは亭主にそう言い残していった。

 

 外に出れば日が沈み始めていた。あとは帰るしか無い。


「今日はありがとうございました 楽しかったです」


 昼とは違う、夕日に照らされた顔。


 少し儚げな笑顔を浮かべるスピカを見て、リンはスピカの手を引いた。


「もう少しだけ僕に時間を下さいますか?」


 デートの終わりに、必ず連れて行こうと決めていた。


「いったい何処なのです?」


「最近見つけた僕のお気に入りさ」


 階段を上がって行く。少し長いが、登るだけの価値があった。


「どうでしょうか姫様?」


「──綺麗です とっても」


 高地にある、街を一望出来る秘密のスポットであった。



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