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納得出来ない

「邪魔しないでください"ピスケスさん" 急に現れて今まで何処にいたんですか?」


「そうだぞピスケス! ここからが面白くなるところではないか間抜けめ!」


「喧しい オレは事情説明で忙しかったんだよ」


 苦情を入れられるピスケス。リン達に双子を仕向けたのは、"氷の九賢者'であり『魚座のピスケス』と呼ばれるこの男の差し金であった。


「"只今市街地での夜間演習実施中"ってな お前達が暴れても良いように気を遣ったんだぜ?」


「なんだと!? ならば遠慮せずに撃っても良かったのか!?」


「では再戦といきましょう兄様 加減の必要は無いです」


「それも必要無いんだよ」


 駄々をこねる双子を宥めながら、ピスケスはリン達へと謝罪する。


「悪かったな お前達の実力を測るのにこの双子がベストだと思ってな」


「なんか……前にもあった気がする」


 リンの脳裏によぎるのは、城門前でのタリウスとの戦闘である。


 あの時も途中でエリアスが中断させた、リンの実力を測る意図があったのだと明かされたのだ。


「エリアスに頼まれてな お前らを"オレの所属にしないか"って タリウスさんやレグルスの旦那も認めてた事だしそのまま引き受けても良かったが……やっぱ自分の目で確かめようと思ったのさ」


 現在巡回兵として所属されてから一ヶ月が経ち、街に侵入した敵を倒した事もあり、配属先の変更が考えられていた。


「そんでその双子は部下って訳かよ?」


 ピスケスが指揮を務める"前衛兵士団"でどれだけ通用する実力なのか、言伝で無く自身の目で確かめたかったのが今回の戦いの理由である。


「戯け 誰が部下だ」


「失礼な人ですね 何故ピスケスさんの下につかなくてはならないんですか」


「お前らもお釣りが出るぐらい失礼だよ……この双子も"九賢者"だ」


「えぇ!?」


「このガキ共が!?」


 どう見ても十代前半にしか見えないというのに、それだけの力を持っている事に二人は驚きを隠せなかった。


「上官に対して口を慎め二等兵共」


「もしかしてピヴワちゃんみたいにその見た目でお爺……」


「ぴちぴちの十一歳です いぇーい」


 ポルクスは両手で一本ずつ人差し指を立て、年齢詐称ではないと主張する。


「"風の九賢者"は我ら二人で一つ!」


「我ら"中衛兵士団長"っ!」


「「"不滅の絆"っ! 『双子座のデュオスクロイ』である!」」


(また名乗ってる)


 嬉々として自分達の素性を明かす幼き賢者二人。


 ちゃんと九賢者の事を知っていればリン達は誤解せずに戦えていたのだろうが、生憎と不真面目な二人は予習していなかった。


「フハハハッ! 今日で四度目の名乗り! 新記録だぞポルクス!」


「満足ですねカストル兄様 これだけで夜更かしした甲斐があります」


「お前ら肝心なことを名乗り忘れるんじゃねえよ!」


 意図してか忘れていたのかは定かかでは無いが、もしも双子が一度でも『九賢者』とさえ言ってくれればと、二人は思わずにはいられない。


「気付いてなさそうだったのでな 言わない方が面白そうだったと考えたのだ」


「その方がお二人の実力も測れて一石二鳥です いぇーい」


「フハハハッ! イェーイだなぁ! 楽しかったぞ!」


「この双子嫌い!」


 気にいったと言う二人に対し、まんまと嵌められたうえ、目の前でしゃぐ双子を見たバトラーからの評価は地に落ちていた。


「兄様兄様 僕夜なのに眠くありません」


「それは"深夜テンション"というやつだな弟よ ならばこのまま朝まで語り明かそうか!」


 風を纏い、宙へと浮かび上がる。


「さらばだ二等兵共! もし中衛兵士団に配属されるのなら歓迎しよう!」


「ばいばいでーす」


 三人を残して飛び去っていった双子は、自分達が住まう城へと向かうのだった。


「……話を戻すぞ」


 何事も無かったかのように、ピスケスは二人に話し出す。


「お前達の実力は見させてもらった 戦場でも通用するだろう」


 戦闘能力も咄嗟の機転も良く出来ていた。白兵戦を主とする前衛兵として、十分だと判断されたのだ。


「合格だ 前衛兵士団にようこそ "リン・ド・ヴルム一等兵"及びに"バウムガルト・トラートマン一等兵"」


 そして前衛に配属されるとともに、階級が上へと格上げとなった。


「……冗談じゃねえ」


「バトラー……?」


 だが、納得出来ない者がいた。


「今回のやり方は納得がいかねえ! 夜に襲わせるだけ襲わせて自分は高見の見物だとぉ? スカウトするなら直接しやがれ!」


 機嫌が最高に悪いバトラーの怒りが爆発したのだ。


「格上げされようが何されようが知らねえ! 入団して欲しいなら自分で頼むんだな!」


「ちょっ! ちょっと!?」


「……成る程 一理ある」


「あるの!?」


 バトラーの言葉を受け、考えを改めてみるピスケス。


「折角の夜間演習って面目だしなぁ……やらなきゃ勿体ないか」


 ピスケスからの提案。それはとてとシンプルなものである。


「"オレに負けたら入団しろ" 勝てたのなら好きにすれば良いさ」


「上等じゃあねえか!」


「よく意見を呑もうと思ったね!?」


「お前ら負けたら入れよな あと断っても入れ」


 完全に断れない雰囲気を察し、リンも腹を括る事にした。


「いくぜリン! 最初からフルスロットルでいくぜ!」


「はぁ……いつも我儘に付き合ってもらってるし仕方ないか」


 乗り気では無いがリンも承諾し、バトラーはリンに付与魔法を与え、身体を強化させる。


 元々の身体能力の高さを底上げされ、ピスケスとの距離を一気に詰めた。


「やるからには……ちゃんと応えてやんよぉ!」


 その場が急速に温度が下がり始め、ピスケスの周りに冷気が集まっていく。


「テメェらの団長の実力! その身に味わいなぁ!」


 地面に手を添えると、その場所から氷の剣が無数に襲いかからせる。


「纏えよ火炎ッ! 歯向かう敵を焼き払え!」


 バトラーはリンに火属性を付与し、炎を纏った剣でリンが斬り払う。


「相性はバッチリだな! 普通なら勝てる(・・・・・・・)だろうさ!」


 相手に応じて属性を切り替えられれば、戦いを有利に進められる。


 氷には火を。考えとしては間違っていない。


「でもなあ──戦いはそう単純じゃあねえんだよ!」


 叩きつけられようとした炎の剣の前に、ピスケスは巨大な氷の壁を張って対抗する。


 氷が溶ける。白い蒸気が発生したかと思うと、リンを纏う炎がかき消されてしまった。


(この蒸気……まさかドライアイス!?)


 その場を包み込む煙幕として利用し、ピスケスはバトラーの背後へと回り込んだ。


「カハッ!?」


「まず一人」


「バトラー!」


 首元を手刀だ叩き、付与術師(エンチャンター)であるバトラーを気絶させる事で支援を奪う。


「やる気のある方は潰したが……まだやるかい?」


「やるからには本気で……戦うさ!」


 向かって来るリンに対し、空に魔法陣を描く。


「ならば敬意を表して──この一撃で打ち砕こう」


 描かれた魔法陣から巨大な"槌"が取り出される。


「なっ!?」


「その身に刻みな 九賢者の実力……その一端を」


 振りかぶった剣ごと槌を叩き込み、リンを大きく吹き飛ばす。


 剣が砕かれた音ともに、身体からも嫌な音がしたのを聞き流されるわけが無い。


「"姫様に惚れた"とかなんとか聞いてたが──今の程度じゃあ足りねえな」


 大きく吹き飛ばされ、地面へと這いつくばる。


「クッソ……ッ!」


「良い眼だ 獲物を狙う"鮫"みたいな……オレと同じだ」


 薄れゆく意識の中でも、睨みつける事をやめなかった。


 戦いを好まないリンだからといって、負ける事は望んでなどいない。


「改めて『ピスケス・レーヴァ』だ よろしくな」


 そしてなにより、自分では"姫を護れない"という言葉は、なによりも屈辱的だった。



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