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その12

ゴンちゃんがJAFに連絡を取っている間、アイヴィーはライヴの主催者に電話し、事情を説明した。

ショージとジャッキーは、積んであった楽器や機材、物販の入った箱を車外に運び出した。

空の色が、東京よりもずっとずっと鮮やかに赤くなっていく。カラスの声までタフに聞こえる。

「どうだった?」

「あと30分くらいで来られるってよ。そっちは?」

「サトシ君とウイスキー君が、それぞれ車で迎えに来てくれるって。」

「それは助かる。何とかライヴには間に合いそうだな。」

「リハする時間は無いね。」

「そうだな。まあ、そっちは大して問題はねえか。」

「ゴン、アイヴィー、ちょっとアンプ手伝ってくれ!」

ショージが声をかけた。二人は機材車に戻り、重たいアンプとヘッドを歩道にまで運び出した。

「代車、どうすんだ?」

「今日はもう手配は無理かもな、ライヴの方が優先だ。まあ、何とか明日の午前中に手配するさ。」

「何だよー!ホームラン食堂のカレー、幻になっちまうじゃねえか!」

ショージは力が抜けたように、ドサッと地べたに座り込んだ。

「“わらじとんかつ”のリベンジは、ホームラン食堂で晴らす予定だったのによ!何て、ついてねえんだ!」

アイヴィーはショージの横に体育座りした。ゴンちゃんとショージも一緒に。

「今夜の打ち上げに期待すればいいんじゃない?」

「どうせハコ打ちだろ!乾きもんが関の山だろうよ!」

「早めに切り上げて、みんなで居酒屋でも行こうよ。みんな入れるような店、一軒くらいあるでしょ。」

「どうだかな。ああ、最悪だ最悪!」

しょげるショージを前に、ゴンちゃんもジャッキーもかける言葉が見つからない。

アイヴィーは、そんなショージをまじまじと見つめていたが、ややあってニッと笑った。

「まあ、これがツアーだよね。ご飯よりも何よりも、これがツアーの醍醐味だよ。」

ショージが顔を上げた。

「また一つ、後でゲラゲラ笑えるネタが増えたね。これだから、ツアーはやめられない。」

4人の顔が一斉に和んだ。

そうなんだよな。

ツアーの数だけ事件があって。

ツアーの数だけ思い出が増える。

俺たちゃ、ツアーバンドだぜ。

沈みゆく太陽を背にして、4人は静かに座っていた。

ライヴハウスは、もうすぐそこ。

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