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中年少女マルメン  作者: 立川好哉
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3箱目・ロリコンになっちゃった!

 満腹になってもすぐに痩身がふくよかになるわけではないが、これを続けていれば気付かぬうちにそうなっているのだろうと思える。腹が満たされて上機嫌になったルーシアと手を繋いで衣料品店に入った結城は子供服売り場に入って直感で可愛いと思った服を手に取った。この世界の子供服は日本のそれと大差なく、デザインや作りがしっかりとしている。これなら金を失ったと感じることはないはずだ。

「ルーシアはどういうのが好き?」

 茶色の布しか着られなかったルーシアの直感を問うと、彼女は桃色のシャツを手に取った。白のドットがポップだ。身体の全面に当ててみると、なんとも可愛らしい。

「いいじゃん。手頃だし…下は?」

「露出が少ない方がいいので長いスカートがいいかな…」

「そうだね。細いうちは脚を見せないほうがいいかもな。この組み合わせ…悪くないな」

 結城はコーディネートに詳しいわけではないが、直感を信じれば自分が不満を抱くことはないのでそれに従った。ルーシアが他の服を見ている傍で棒立ちをしていると立谷の声が聞こえてきた。


『幼女って言ったら白ワンピっすよ!これだけは俺譲らないね!穢れを知らない清楚な子には白ワンピ白パンツって決まってんだ!』


 穏やかな立谷が頑として主張したことがくだらなかったのでその時結城は笑ってしまったが、今になって分かってきた―確かにこの子には似合いそうだ。結城は黙って白ワンピースを探した。すると白地に青いリボンのついたワンピースを見つけた。

「これだ!」

「?」

「これが似合うならステキってことにしよう。他に気に入ったのあった?」

 その問いを待っていたかのようにルーシアは好みの服を掲げた。ワインレッドのフリルスカートだ。膝ぐらいの丈に二段のフリルがついていて、前面二ヶ所にポケットもついている。この小さなポケットが子供らしさを演出しているのだと結城は分析した。彼はいま、子供服の世界の入り口に立っている。のめり込んだら戻ってこられなさそうな魅力がある。ワインレッドに合う黒のTシャツで小悪魔系っぽくして試着したルーシアを見た結城は新たな世界の扉を開いた。

「か…かわいい!」

 身体の大きさに合うサイズであることがしっかり者の印象を与えるのに対してラメ入りの大きな星が子供らしさを強く感じさせる。そしてフリフリのスカートは奔放さを助け、短めの丈が小悪魔らしさを決定的にしている。くるっと一回転して見せたルーシアに見蕩れた結城は身体のバランスを崩してよろけた。

「ユーゴ様?」

「幼い頃から成熟していることをよしとされて大人びた格好をしている子供の多い日本では滅多に見ることのない子供らしい格好をここで見ることになるとは思わなかったよ」

 大人になると露出を増やして自分を見せつけるのだが、子供はそうではない。しっかりと包まれていながらも、魅力を伝えるような服が似合うので、大人服に似せて作られる最近の子供服は結城に嫌われていた。

「偏見かもしれないけど明らかに性欲を喚起するために露出してるのって娼婦って感じがして嫌なんだよね。それをさ、子供に着せるって俺からしちゃありえないわけよ」

 意図は時に正しく理解されない。結城が性欲を喚起するという印象を持った服は、きっと違う意図をもって作られたのだろう。それを正しく理解した者には買われている。


 アウターを揃えたルーシアは下着売り場に移ったのだが、結城は立ち止まっていた。下着に限っては彼女の選択に口出しは無用で、自分が売り場に行く必要はないからだ。しかし主人を傍に置きたいルーシアに手を繋がれたので、下着ではなくルーシアを見ながらやり過ごそうとした。

「ユーゴ様、できれば下着はたくさん持ちたいです。私、洗うのが苦手なのかすぐ汚してしまうので…」

 それは結城に理解できない悩みではなかった。今となっては汚れの分かりにくい色の下着を穿いているが、子供の頃は洗濯をしても微かな黄ばみが下着に残っていることがあった。すぐに母が新しいのを買ってくれたので、あの頃はたくさん持っていた。

「汚れてるのを穿きたくはないわな。わかった。十分な数選びなよ」

「ありがとうございます」

 漂白剤などを使って汚れを綺麗に取り除くのではなく少ない回数で捨てるということは、頻繁にパンツを捨てるということである。果たしてそれは良いことなのだろうか。金を消費するし、勿体ない気がする。ルーシアが気にしないのであれば洗剤にこだわって僅かになるまで汚れを落とし、新しいものを買うことなく再利用したい。

「汚れが目立たないように黒い下着にしたほうがいいですかね」

「でも汚れがなくなるわけじゃないんでしょ?気付かないで汚れてるのを穿くのか、気付いて新しいのを穿くのかは君に任せるよ」

「私は買ってもらっている立場なのでユーゴ様の事情が優先されるべきと思います。ですから頻繁に買い換えるとお金が減って家計が厳しくなります。黒い下着なら汚れていないと思うので穿けると思います」

「なるほど?それでいいならそうしたほうがいいんじゃない?でも黒いパンツって子供用の…」

 ここで結城はワゴンの中に雑に積み重なっている下着を見た。女児ものは色とりどりで、思わず感心してしまう。ルーシアは山を探って黒い下着を見つけた。白いリボン柄とフチのピンクのゴムが可愛らしい。

「でもこれだけしかありませんね…どうしましょう。これだけ買って毎日穿くのは難しいでしょう…あと一枚でもあればいいのですが」

 そこで結城は大人向け下着売り場に移って小さなサイズを探った。大人でも140cm代の女性はいるため、それ向けのは穿けるはずだ。

「でもデザインがせくしーですね」

「そうだなぁ…バックがレースになってる」

「あ、ありましたよ!」

 ルーシアが黒い下着を掲げて結城に見せた。確かに大きすぎないサイズなのだが、一つだけ問題があった。

「Tバックじゃん!」

「およ?これ、お尻のところの布が足りてませんよ」

「そういうデザインなんだよ。これはいかんなぁ」

「何の目的で…うーん、いいのがありませんねぇ」

 結局黒下着を諦めて頻繁に買い換えることにしたルーシアは子供向けの可愛いパンツを五着とキャミソールを三着選んだ。ルーシアはすっかり自分が奴隷ということを忘れて結城に全幅の信頼を寄せて臆さず意思を伝えている。それがルーシアの精神に過去を封じるプロテクトがかかったためなのか、結城とのやり取りで抱いた気持ちで上書きされたためなのかは定かでない。ただどちらにせよ、今のルーシアが楽しんでいることは間違いない。

「ルーシア、服選びは楽しい?」

「はい!とっても楽しいです」

「そりゃよかった。あとは靴下と新しい靴か?そのボロい靴じゃいつか突然歩けなくなる」

「ユーゴ様、お金は…」

「気にするな。俺は必要だから言ったんだ。金がないなら稼いででも買うべきものだろ」

「すみません、私のためにたくさんしてくれて…」

「言うなって。正直、俺も楽しんでるところがある。我武者羅に毛皮を集めてたおかげで少し余裕がある。焦らないでいいうちに足しときゃいいさ。な?」

「はい!」

 素直な子供の笑顔はやはり癒やされる。結城は胸の膨らみかけているルーシアのために店員を呼んでサイズを測らせ、適切なジュニアブラを提案させた。初めてブラを着けたルーシアは違和感のために何度も胸を触っていたが、慣れてからは誇らしげだ。

「ユーゴ様、大切に着ますね」

「ああ。これで最低限は揃ったかな。早めに終わってよかった。次のことを考えよう…」

 結局耳のついたパーカーはなかったが、ルーシアの笑顔を見てどうでもよくなった。今の彼女にそれは必須ではないとわかった。


 二人は宿に戻って今後の活動を確認した。

「苦しんでいる奴隷を少しでも多く解放することが一つあるけど、解放してから住む場所を与えないと途方に暮れて下手したら死ぬ。だから俺が見切れない人数になる前に住処を確保する。そうなれば人は多いほど望ましくなる」

「時間とお金がかかる長期的な計画ですね」

「そうだ。だから俺が何かしらで大金と人脈を得る必要がある。それはこの世界を知れば知るほど明確になってくるとして、二つ目はタバコだ。前に言ったけど説明はしてなかったな」

 首を傾げたルーシアに対して結城はこれまでに得たタバコの知識を分かりやすくまとめて伝えた。

「…それがないとユーゴ様は完全状態にならないということですか。それならば私が手伝う理由になりますね。全力でやります!」

「これも長期戦だろうな。最初に俺を泊めてくれた男曰く、タバコはこの世界にはまだないらしいからな」

 発見されていないのか紙巻きとして世に出回っていないのかすら調べる必要がある。そのために積極的にアンダーグラウンドに入り込まねばならないとしたらルーシアは嫌がるだろうが、やるしかない。

「まずはいつでも安心できる金を得ることだな。毛皮を剥いで売るのは慣れてきたから、これをより効率的にやれるようにする。そのときルーシアは宿に留まることになる」

 予想に反してルーシアはその条件を受け入れた。人間の所有物になった奴隷でもこれほどに愛されている奴隷ならばその権利を侵すべきではないとの思考を読んだからだ。

「奴隷とはたいていは乱暴な扱いを受けるものなので服装はそのままということが多いですが、私の場合は主人が意図してこの状態にしているとすぐにわかるでしょう。そんな私に傷をつけようものなら、人間対人間という構図になります」

「…君さぁ、奴隷だったわりには頭がいいね。こんな論理思考をするのは日本の10歳児には無理だよ」

 結城は最初からそう思っていた。その時はこれについて問うことより先にすべきことがあったのだ。

「私は力仕事ができないので、頭脳でご主人様を支えるよう教育されたのです。たくさんの本を読み、あらゆる分野の知識を得ることで価値を上げようとしていたようです」

「じゃあ君はそんなに乱暴にはされなかったってこと?」

「いえ、体調が悪いと訴えても縫い物を強制されて胃液を吐きながらやった日もあったし、調教師の趣味で裸にされて立たされ続けた日もありました。この痣は眠気のあまり机で眠ってしまったときに叩かれたときのです」

「食事は与えられて、睡眠時間もあって、風呂にもたまに入れる。それだけ聞けば最低限の生活に不満を抱くほうを非難したくなるけど、そういう乱暴をされていたのなら責めるべきは調教師のほうだな。かわいそうに…折角綺麗な肌なのに傷つけるなんて許せん」

「悪いことばかりでなかったということです。自分のことに全く役立てられない知識でも、助けてくれた人のためになると思えば良いものに思えます。ユーゴ様よりずっと少ないだろうとは思いますが、何かのお役に立てられれば」

「ああ。そもそも俺の話をすぐに理解してくれるだけでだいぶ助かってるんだ。話を戻すよ。俺が十分な金を得るまでは宿で留守番だ。それからは移動してタバコを探しながらこの世界を知る。とりあえずそれだけ考えよう」

「わかりました。では明日から始めるんですね」

「ああ」

 こうして始動した結城とルーシア。果たして彼は奴隷を解放してタバコを手に入れることができるのだろうか。


 その夜…

「はー、かわいい」

「そうですか?」

「マジかわいい。ルーシアを選んでよかった」

「照れますね…でも今までで一番幸せです」

 フリフリの服を着たロリっ子と彼女を褒めちぎる中年男性の泊まる宿に夜の帳がおりてゆく…

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