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少年は世界を救わない  作者: 怠惰猫 Zero
4/9

第四話 覚悟

 よし、今回は減らせたぜ(空白・改行含むと8401文字)

「あ、そうだ。この後のことはさっき話した通りなんだけど、その時の布陣として先生はタイミングを見計らって両方に、俺たち六人はそれぞれ半分に別れて――と行動して欲しいんだが……」


 この申し出は手遅れになってからでは遅い、鉄は熱いうちに打て、というのと同じようなもので、まだ明確に意思が固まっていない状況だからこそ説明の仕様があるということだ。


「ハッキリ言ってこれは女子の心疲労がハンパない。男子は四人いて二手に分かれるから相談の使用があるが女子は一人ずつだからな。一応男子の方でも相談に乗る事は出来るが頻繁な接触は多方から疑いの目が掛けられかねない……出来るか?」


 無理なら断っても良い、そんな妥協を許すような視線が二人に注がれる。

 正直なところ涼花も夏美も断りたい感情は少なからずあるだろう。

 他人の命に係わることに携わり、ほぼ全てを自分一人でやらなくてはいけない。

 幸いな点があるとするならば優也のクラスは三七人中女子は八人という傾いた男女比だろう。

 けれどそれにしても心細さがあることに関しては変わらないのだ。


「嘗めないで、伊達にアンタと付き合ってないわよ。変人と名高いアンタと一緒にいるお陰でこっちの疲労は耐性ついたわ」

「そぉだね~、重見んは面白いもんねぇ」

「え? ちょっと待って? 俺ってそういう風に見られてたの?!」


 今更だとため息を吐く涼花にケラケラと笑う夏美が同意。

 不名誉な称号を授けられていたことを初めて耳にした優也は「おったまげー」と露骨な驚きを見せる。


「ええ、授業態度は悪いクセに成績は常時トップ。何考えてんのか分からない表情をいっつもしてて周囲に興味のない天才タイプかと思えば口を開けば変な事くらいしか言わない稀代の変人。人を見れば馬鹿にするように興味なさ気に鼻で笑うくせにその実一番状況を理解してて適切なアドバイスをする嫌な奴ってのがアンタの総評よ」

「アッハッハッハッハ。……ちくせう」


 罵倒と称賛を交互に投げられ複雑そうな表情で悪態を吐く優也。

 他の面々も大体同じような印象を持っていたのか同意するように首を縦に振る。


「ちなみに重見くんは授業態度さえ良かったら全ての成績で最高評価を取れる『残念な逸材』と教師の間では評判でした」

「ほへぇ、推薦入試じゃなかったら成績なんて使わんだろうから興味はなかったが……どうせなら一度くらいはオールマックス取っときゃ良かったな」


 真面目にやる理由もないが手を抜く理由もないだろうとテスト類に関しては常にトップの成績を取っていた優也はどうせ出来るなら一度くらいは数字を揃えておけば良かった、といった風な適当な思考で軽く後悔をしていた。


「あらやだ周也奥さん、今の聞きまして? サラッと余裕宣言しましたわよ」

「ホント癪よね航亘奥さん、面と向かって罵倒されない分余計に腹が立ちますわね」

「……あらやだ森上奥さんに松戸奥さん。そんな馬鹿になんてしてませんわよぉ、本当にそうするつもりなら全ての点数を九九に揃えますわよ」

「「「……」」」

「「「オホホホホ」」」


 航亘のおふざけが伝播し三人の中で稀によくある『井戸端会議風トーク』が繰り広げられ、残る四人からは『また始まった』といった内容の冷たい視線が再び向けられる。


「まあ実際学校の外だと普段からは想像出来ない様子みたいですけどね」

「ッ!?」

「ああ……」


 冷たい視線の中で桃子から放たれた言葉にほとんどの者がキョトンとし、当の本人である優也は『やめろぉッ』と言わんばかりの動揺を見せ、内容を理解している悠生は『あの事か』と思い出すような表情になる。


「言うな、先生。頼むから言うなッ」

「重見くん、実は学校の外では――「ワーワーワー!」」


 優也の静止を無視して言おうとした桃子の言葉を大声で遮り、それ以上言わせないと優也は素早い動きで桃子の口を手で押さえつけた。


「困ってる人を良く助けてるんだよね。道が分からない外国人に道を教えたりひったくり犯を捕まえたり、マスクとサングラスで顔を隠してるけど中学生の頃からそんな感じで基本いつも制服ってのと下校中は僕が一緒ってので多分正体はバレてるだろうけどね?」

「もうやめて! 悠生~!」

「HA☆NA☆SE!!」


 静止するも悠生の手によって暴露され、知られたことと正体がバレていた事の二重苦で優也は羞恥からその場に蹲るように顔を両手で覆った。


「なあ航亘、それってなんのネタだっけ?」

「某カードゲームアニメ」

「ああ、アレね。けどあれって今のシチュエーション的には悠生だよな?」

「あ奴がおふざけに乗るワケがないので俺が代わりにやりました」


 そんな風に口ではなんてことないように元ネタ雑談に花を咲かせる二人だが、実際には死体蹴りと言わんばかりに蹲った優也を足先で軽く蹴っている。


「……それで他の奴らに話す内容だが」

((((((露骨……))))))


 ほんの数瞬で紅潮した顔色を元に戻した優也は、さも『何もありませんでしたよ』といった具合にサッと立ち上がり話を戻す。


「現状はあまり情報を開示しない。アイツらは戻るまでも戻った後も何も知らなくて良い、ただこの逼迫した状況の国で身元の分からない奴を雇ってくれるところはないだろうという部分と生きるために戦うが戻った時に胸を張って生きられるように不殺を貫く、という部分だけを話し促せばいい」

「……そうだね。罪の意識に苛まれ続けるのは誰も幸せにならない、頑張る意味がない」

「ああ、アイツらには前だけ向かせろ。余計な思考はアイツらの命を危険に晒す」


 命という重み、危険という恐怖を受け取った全員が意志を強固にしたように優也を真っ直ぐ見据える。


「ほんっと、こういうのはキャラじゃないハズなんだけどなぁ……。しゃーねーから全部まとめて俺たちが守る、お前らが表で俺が裏。……頼むぞ」


 打ち合わせはしていないがまるで打ち合わせたように全員が一斉に頷いた。


「んじゃまぁ、最後にそれぞれのステータス確認といこうか」


 ブレザーの胸ポケットからステータスプレートを取り出した優也は全員分のステータスを記入するために机に置いていた鞄の中から手帳と筆記具一式を取り出す。


「ちなみに俺のステータスはコレな」


 そう言って優也は女子の方から順にステータスプレートを回し見させ、帰ってきたステータスプレートの内容を手帳の中に『重見優也』とタイトルを付けて記入した。

 そしてそれに続くように悠生もステータスプレートを回す。


「じゃあその順番で次は俺だな」


 優也たちから見て手前にいる周也が優也、悠生と続いた順番に従うようにステータスプレートを回した。

 その後は航亘、桃子、涼花、夏美の順にステータスが開示される。

 そしてそのステータスがこれだ。


===================================

松戸周也 男 17歳 LV1

筋力:50

魔力:20

敏捷:35

耐久:55

器用:45

能力:剣術適性(大)・魔力操作・付与魔法適性(中)・四大魔法適性(小)

===================================

===================================

森上航亘 男 17歳 LV1

筋力:35

魔力:30

敏捷:70

耐久:30

器用:60

能力:短剣術適性(大)・軽身功適性(大)・魔力操作・風魔法適性(中)

===================================

===================================

夜桜桃子 女 22歳 LV1

筋力:20

魔力:70

敏捷:60

耐久:25

器用:50

能力:魔力操作・加護魔法適性(極)・防御魔法適性(大)

===================================

===================================

藤咲夏美 女 17歳 LV1

筋力:35

魔力:70

敏捷:55

耐久:55

器用:65

能力:魔力操作・治癒魔法適性(大)・雷魔法適性(中)

===================================


「……あれ? 藤咲……お前……能力値だけならワンチャン最強じゃね?」

「ああ、そこそこのステータスを誇れど意味分からない『能力』の役立たずと女子に負ける貧弱紙装甲と魔力突出魔法使い、戦闘経験なしの剣士に同じく戦闘経験なしの敏捷特化の軽剣士、防御特化の紙装甲……に対して筋力は女子中最高アンド男子最弱を上回っている。……チートや、チーターや」

「僕の扱い酷くない!?」


 肉弾戦において重要な敏捷はメンバー中3位、防御力やスタミナに関わっていそうな耐久は同率2位と脅威の数値だ。

 恐らく現状一対一で戦った場合勝つのは夏美だろう。

 さらに言えば現状把握出来ている中ではステータス平均値がトップだ。

 勇者である鉄刃がステータスオール50なのに対し、夏美は56である。

 この中で平均値50を上回る者は誰もいないのだ。


「つっても森上……お前の筋力、藤咲と変わらんからな? それと役立たずは余計だ」

「やめい! おおお俺はアレだから、あの……ホラ……な? そう、きっとアサシンタイプだから」

「ただ素早いだけでアサシンやれりゃ苦労しねえよ。忍び歩き10%変装1%のお前には無理だ」

「まさかの初期ステ。でもナイフと回避には技能振ってるから大丈夫だろ」


 役立たずと言われた腹いせとばかりに優也は航亘のステータスを軽く貶す。

 使っている用語が用語なだけにTRPGを知らない他の面々は完全には内容を理解出来ていないものの罵倒合戦ということだけは理解出来ていた。


「まあ、真面目な話をするが……俺、高ちゃん、逆水、が後衛攻撃職。松戸が前衛攻撃職で森上が前衛後衛両方の攻撃職。藤咲が遊撃で先生が後衛支援職って感じだな」


 とはいえ『能力』に適性がないとしても『行動』そのものが出来ないワケではない。

 周也のような『能力』としての『剣術適性』がなかったとしても剣が振るえないワケではない、使うと使いこなすは違うのだ。


「なんだか攻撃に偏ってませんか?」

「別に構わんだろ。この面子でパーティー組むワケじゃあるまいし」

「……え?」

「え?」


 まるで優也の返答が全くの予想外だったかのように桃子は沈黙ののちに疑問符を残し、優也もそれに疑問符で返す。


「そもそも裏で動くワケだからパーティー組むワケがないっしょ」

「そ、そうでしたね……」


 このメンバーで戦う者だと思い込んでいた桃子はその事実を思い出して少し悲しそうな表情を浮かべる。

 その思い込みは他の者たちもそうだったのかそれぞれが悲しそうな表情だったり寂しそうな表情を隠さんとばかりに薄い笑みを張り付けていた。


「俺は方針として落ちこぼれを演じるって決めてんだよ」

「なッ!? それってどういうこと?」


 全くの予想外の言葉に悠生はそう問い詰め、桃子たちからは「聞いていない」と批判の声が上がる。


「ああ、言っていないからな。……勝手に連れて来られた世界で暮らし続ければ精神が不安定な序盤はストレスが溜ますのは必至なワケで、そのストレスの捌け口が俺ってワケだ。『自分よりも下がいる』そう思わせる事である程度の精神安定を図る」


 人間は意識的にしろ無意識的にしろ他者を見下すことで精神安定を図る傾向があるのだ。

 学生ならばテストの点数や順位。

 社会人ならば収入や勤めている企業といったところか。

 自他を比べて『自分の方が優れている』そう思うことで自分の現状に安心感を抱いたり『自分はこれ以上頑張らなくても良い』という怠惰への免罪符を生み出している。

 だとすれば、だ。

 意図的に増長しない程度の他を見下す状況を生み出すことで精神安定を促せるというワケである。


「な、なら僕だって! この中だと一番ステータス低――」

「いや、俺が一番適任なんだ」


 悠生の申し出に、優也は意図的にセリフを遮って否定した。

 そんな態度に納得がいかないように悠生のみならず他の全員も訝しげに優也を見つめる。


「まず第一に『能力』が正体不明であること、そして第二に俺は前の世界の時から色眼鏡で見られていた。自慢するワケではないが俺は事実として学年一位全国模試トップクラスという一種の優等生として知られていたんだ、それが異世界では落ちこぼれ。十二分にヘイトを稼げる。そしてこれは精神安定と共に気付きを与える機会でもあるんだ。俺は能力値上、合計値は勇者である片平を上回る。にもかかわらず落ちこぼれという状況は『数値上の強さ』に惑わされないための布石に出来るんだ」


 ここまでヘイト稼ぎと踏み台に適した存在、他にそうはいないだろう。

 足場として目を引きやすく、踏みやすく、壊れにくい。

 少なくともこのメンバーの中では圧倒的に状況に適しているのだ。


「お前はこの役目に不向きなんだよ」


 冷たくあしらうような言葉に悠生は思わず顔を俯かせる。

 下手に役を引き受けようとしても失敗することは目に見えている為他の者たちも口を出せない。


「それにメンタルケアする人間がヘイト稼ぎするワケにゃいかんし? 俺が暗躍する上でもこのヘイト稼ぎという立場はかなり重要になってくるんだよん」


 だから受け入れろ、言外にそう発する優也は「耐久値はトップだぜい」と危険度の低さをアピールする。


「ただ下に見られるだけ。昔となんら変わらんさ」


 当の本人が気にしてないんだから気にするな、そう笑い飛ばした優也は分かりやすく手帳をパタンと閉じると筆記具一式を制服の中に入れる。


「んじゃまあ、俺からは以上ってことであとはお好きにドーゾ。クラスメイトと話し合いたいってのなら他の部屋行くでも良し、質問がありゃ受け付けるぜい」


 言いたいことを全て言い終えた優也は演技ではなく本当にリラックスをして大きな欠伸を零した。

 そして差し込む夕日を目に鞄の中に入れていたソーラーチャージャーを取り出してモバイルバッテリーに充電をし始める。


「……」


 釈然としないものの言うに言えずといった様子で航亘たちは部屋を無言で出て行く。


「重見くん……二人で話せませんか?」


 そんな中、部屋の中に優也と悠生と桃子自身しかいなくなったタイミングで桃子はそう申し出た。

 桃子の眼差しに少し考えるような表情を見せた優也は悠生にアイコンタクトで退室を頼み、それを受け取った悠生は承知したように頷き桃子の横を通り過ぎる。


「重見くん……危ないことをしようとしてますよね?」


 ただ真っすぐ。

 怒るでも、憐れむでも、慈しむでもなく。

 ただただ真っ直ぐ。

 一切の他意のない問いが投げかけられる。


「……さあ。危ないの基準が分からないな」


 あからさまとは自覚しながらも優也は惚ける。


「では聞き方を変えます。……あなたが今想像しているやり方にあなたの意思ありますか? あなたが今想像しているやり方にあなたの幸せは……ちゃんとありますか?」

「ッ!」


 桃子の問いに、優也の顔がハッキリと歪むのが見て取れた。

 桃子の問いに、優也が動揺するのが目に見えて分かった。


「やっぱり……」


 その反応を理解していたように、桃子は苦々しくも悲しげな表情でゆっくり優也の胸倉を掴む。

 しかしその手にはシャツが伸びてしまいそうなほどに強く力込められていて、背もたれに着いていた優也の背を引き剥がした。


「私は……重見くんの目を見て、覚悟を感じて……説得は不可能だと諦めた身です。動くべき時に動けず、皆の命運を守るべき生徒に委ねてしまうような分際です。けれど! ……しかし! 私は教師です! 生徒の幸せを第一に願わなくてはいけない教師です! 私たちは重見くんに守られる身、たとえ遅くなっても一切文句を言えない程度の人間です……。なのであなたの旅にあなたの幸せを入れてください。一人の人間として、一人の大人として、一人の教師として……最も苦労するあなたが最も不幸になるのは嫌なんですッ。あなたには幸せになって欲しい。大切な人を元の世界に返すために傷付き、悲しんだままでいて欲しくないんです!」


 夕日に照らされた桃子の顔に二筋の光が走る。

 教師として生徒を守れなかったという耐え難い恥辱を受け、ボロボロな桃子の顔が歪む。

 慟哭を上げたくても、本人が一番辛いと知っている桃子はむせび泣くことしか出来ない。


「あなたが帰ってくるまでの長い時間、皆を帰すことだけを目的に動き続けていてはあなたが……『重見優也』という存在が磨り減ってなくなってしまう……」


 二人の距離でなければ聞こえないほどの小さな、小さな小さな叫びを放った桃子の手が優也の首元からその背中へと伸びる。


「だから重見くんの幸せを見つけてください。ほんの少しでもいい、あなたが心を許したあの子たちのような存在を……一人でもいいので作ってください」


 ふざけているように振る舞って、奥底ではずっとキリキリと張り詰めていた心の糸が桃子の言葉でゆっくりと緩んでいく。

 破断しそうなほどに圧し潰されていた心が休まりを得て、そのプレッシャーを動力に動いていた優也の腕から、全身から力が抜ける。


「これ以上私を惨めにしないでください。これ以上……あの子たちを悲しませないでください」


 力を失った身体が桃子に委ねられる。

 緩やかに、桃子の小さな身体に優也の重みが加わる。

 糸が切れたマリオネットのように宙を彷徨っていた優也の手は、無意識のうちに桃子を抱きしめ返していた。


「いつか来る別れの日。その日は皆揃って満面の笑みで別れましょう。……先生は少し自信が無いですけど」

「ああ、俺も皆には……先生には笑っていて欲しい」


 お互いの首が触れ合い、声の振動が肩を叩く。

 今はまだ遠い別れの日を想い、互いにその日までの温もりを求め合うように抱きしめる腕の力が増し、優也は大切なモノを思い出したようにそっと微笑んでいた。


「え?」

「先生は良い人だ。俺が嫌いな教師ではなく、人を導き、癒やすことが出来る正しき教育者。だからこそ俺は先生の泣き顔なんて見たくない。……今まで『太陽のような人』、なんて表現嫌いだったけど、先生は俺の太陽だ」


 暗闇に閉ざされていた優也の大切なモノに光を当てて見えるようにしてくれた。

 プレッシャーで盲目になっていた優也の目に光を取り戻させてくれた太陽だ。


「なら重見くんは、私に進むべき道を示してくれた――神様です」

「そんな大層なことした覚えはないが……神というなら皆の願いを叶えられるよう、精々頑張るよ」


 神ならば皆の帰りたいという信仰おもいに応えてみせよう、とふざけるように笑う。


「……もうお互いに十分すぎるほどに温もりは感じたでしょう。続きは再会の日にでも。……放してくれませんか?」


 徐々に冷静に戻っていった桃子が少し恥ずかしそうにゆっくりと腕を緩めた。

 だが優也の手は今なお桃子の背に回されたまま、その小さな身体を一切放さない。


「もう少し……」

「私は――」

「一度覚悟を決めた男が誰かに涙を見せるワケにはいかないんだ……」

「ッ! ……そうですね。再会の日はきっと他の皆が一緒にいてこんなことは出来ないでしょうから今のうちに充電をしておきましょう。……それに…………それにきっと今私は重見くんの見たくない顔をしているハズですから」


 そう言うとさっきよりも腕の力が増す。

 お互いに隠れて溜まったものを曝け出す。

 耐える日のために今この瞬間だけは、誰も見ていないこの瞬間だけは耐えない。


「先生が俺の『先生』で良かった……」

「私も、あなたが『生徒』で本当に良かったです……」



 この時、優也が桃子と語り合ったのは、全てにおいて良かったと言えるだろう。

 この出来事がなければ後に優也が起こすであろう出来事のほぼ全てが――起こり得なかったのだから。


 ガソリン車に軽油を入れて走るように。

 優也を動かす燃料がプレッシャーのままだったのならば、世界は確実に崩壊を迎えていた。

 今日明日はまだ動けていたとしても、近い将来必ず優也は壊れていたのだから。

 次でシリアスを終わらせたいと言ったな

 あれは嘘だ

 

ちょっとした説明

 優也は基本何事にも無関心で、ふざける時には自分を大きく見せますがその実自己評価はかなり低め

 なので常に自分への関心よりも周囲への好奇心が勝ります

 そして幼少期に色々失っているので大切なモノ(友人仲間恋人などといった大切な者や熱を注いでいる物)に被害が及んだ時は自分を犠牲にしても、何が何でも守るタイプの人間です


UP主からのコメント

 桃子ェ……完ッ全にヒロインじゃねえか!?

 その予定……ない! とは言わんが皆が帰るくらいの第一部ストーリー終盤だから!

 初日の! 大人枠だから仕方ないけど!

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