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俺が求める青春の形とは、一体何なのだろうか。  作者: ダンテ
第二章 文化祭準備編
9/15

第9話 恋情の積

勇作視点。第八話から少し時間が飛んで10月になっています。

第八話の内容とリンクしています。よろしくお願いします。

___________

 _________

 10月1日、16時35分頃、新淵高校本棟2階、第3多目的会議室


「あぁ…?ホントにこれ全部俺たちの資料なのか?」

「…多分。ここはイベント係の作業部屋だからきっとそうでしょ。」


 今日の日付は10月1日。夏休みが明けたのと文化祭実行委員発足からのちょうど1カ月が経った日だ。

 9月までは何となく活動していただけで、10月になってからは遂に本格的に文化祭実行委員

 としての活動が本格化していくという話を、

 ついさっきまでやっていた第4回文化祭実行委員発足会議にて聞かされた。

 そしてその後に、イベント係の作業部屋に戻ってきた俺達の目に真っ先に入ったのは、

 部屋の中央の机の上に2列に山積みにされた紙の山だった。

 どんだけあんだよ、いくら何でも限度ってモノがあるだろうよ…。

 そして俺はその山積みにされた紙を一枚だけ取った。


「………何々?…あぁ…。これ、ステージ企画のオーディション応募用紙だな。」

「先週に文化祭のオーディションをやるから、オーディション参加希望者は1週間後までにこの提出用紙を文化祭実行委員会まで提出してください、って流れだったもんね。」

「それはそうだけど…。数が多すぎんだろコレ。一体何枚あるんだよ…。」

「うーん。見た感じだと100枚くらいはありそうだね。」

「はぁ…?」

「てか委員長、いつの間にこの部屋にこのプリントの山を置きに来たんだ?」

「うーん。確かに。」


 それはそれとして要するに全部これに目を通して、

 とりあえず俺達で1次選考をしなくちゃいけないんだよな。

 コレ、果たして今日だけで終わるのか?絶対思ってるよりも大変だよな。


「まぁ委員長から相当期待をされちゃってるし、これも宿命なんじゃないかな~?」

「あぁ…。活動計画書だけ見られて、相当な予算貰っちゃったもんな。」


 俺達イベント係が9月に提出した活動計画書の出来が、

 委員長曰く相当優秀という認定を受けてしまったせいで、

 例年ではありえないくらいの予算をもらってしまったのだ。

 昨年までの活動報告書を見ていると大体10万円程度らしいんだが、

 俺たちはというとなんと20万円も貰ってしまったのだ。

 よってステージ装飾を例年よりも豪華に作らざるを得なくなり、

 期待をされているから嬉しいという反面、実は結構面倒くさい状況になってしまったというわけだ。

 まぁ何が言いたいかというと、俺たちは実行委員会から期待されてしまっているという事だ。


「…じゃあとりあえずやるか?早いとこ手を付け始めた方が良いだろ。」

「うん。じゃあイベント係のメンバーの皆を呼ぼうよ。その方が早く終わるし。」

「そうだな。」

「じゃあ私が皆を集めてくるよ。勇作君は先に作業を進めててよ。」

「…いや、わざわざ彩華が行く必要はないだろ。」

「…え?どういう事?」


 困惑している彩華を前にして、俺はこの部屋の入口のドアの裏に隠れている人影に対して声をかけた。


「なぁ。隠れてないでいい加減出てきたらどうだ?」

「へぇ…?」


 俺の言ったことを聞いた彩華は、俺と同じく入口のドア辺りを見た。

 俺達がこの部屋に入ってきた時からずっと視線を感じてたからな。

 ずっと俺達を付けてきてたんだろう。そんな事を俺にする奴なんて1人しか居ないし。

 そして俺の声を聞いたのか隠れていたアイツはひょっこりと姿を現した。


「バレちゃったね~。高野君ってばいつから気付いてたの?」

「最初からだ。3階の会議室を出た時からずっと付けてきてただろ。バレバレだぜ、玲奈。」

「ちぇ~。」


 やっぱりな。マジで高1の時から何一つやる事が変わってないな。

 強いて言うなら見た目が少しだけ大人っぽくなっただろうか。

 玲奈とは高2になってからもちょくちょく話しをする事はあるし、

 特段久しぶりというようにも感じない。昨日とかもちゃっかり話したしな。


「玲奈。悪いけどイベント係の皆を呼んできてくれるか?俺たちは先に作業してるからさ。」

「任せて。呼んでくるよ。」


 そう言って玲奈は部屋から出て行った。

 アイツってドライなんだか優しいんだか分かりづらいよな。

 何考えてるのかすら分からない時もよくあるし。


「勇作君、すごいね。私ったら全然玲奈に気づかなかったよ。」

「そうか?結構大胆に後ろを付いてきてたけどな。」

「そうかな~?」


「…さてじゃあ切り替えて作業やってくか。」

「うん。早いところ終わらせちゃおうね、勇作君。」


 そして俺たちは席に着き、目の前の大量の資料に手を付け始めた。

 そしてイベント係のメンバー15人が集結した後、

 全員で話し合いながら少しずつこの山積みの選考依頼書を処理していった。


 ____________

 18時00分頃、本棟2階、第3多目的会議室 


「はぁ…。これで全部か。」

「うん…。皆でやったから何とか今日だけで終わったね。」


 マジで大変すぎやしないですかねコレ。15人がかりで1時間以上もかかるだなんて。

 作業量があまりにも膨大なんだよな…。

 まず一つ一つその団体がステージ上でやりたい内容を確認。

 そしてどれ位の時間が必要なのかを確認して、

 ステージ上でのマネジメントブックと照らし合わせながら、

 その団体がコンプライアンス的に問題が無いかどうか、

 そして尺的には問題が無いかを確認するという作業をただひたすらに繰り返すという、

 まさに地獄の所業というわけだ。まぁまだ初期段階の選考だから、

 あまりにも問題がなければ基本的には落選しないようにはなっている。

 そして今日見ただけだととりあえず103組中の92組は問題なしと判断したわけだ。

 てか多すぎだよな。最終的に30組まで絞らなきゃいけないことからして、

 今年はオーディションが白熱した展開になりそうだ。


「皆、お疲れ様です。今日は作業に協力してくれてありがとうございました。」

「とりあえず今日はこの辺で終わりにしたいと考えているのですが、何か言いたいことがある人はいますか?」


 俺は係長らしくこの場にいる全員に声をかけた。

 すると1年生の後輩の女の子の手が上がったので、俺はその子に対して応答をした。


「すみません、質問良いですか?」

「はい。何でしょうか。」


「今日の第1次選考会の合否結果はどのような形で各団体に伝えるんですか?」

「1週間後を目途に委員長から通達が行くそうです。ですので今日の選考結果を係長の自分が委員長に伝えに行きます。」

「なるほど~。ありがとうございます、係長。」

「いえ、とんでもないです。」


 こんなに人に対して丁寧語でしゃべるだなんてあまりにも慣れてなさ過ぎて、

 凄く変な感覚に陥ってしまう。なんか9月の最初の文化祭実行委員会発足会議でも

 同じような感覚になった記憶があるぞ…。あれ、俺ってば全然変わってないじゃねぇかよ。


「他にはありますか?」

『……………………。』

「ではこれにて今日は解散です。お疲れさまでした。」

『…お疲れ様です。』


 メンバーの皆はそう言って部屋から出て行った。

 すると俺と彩華以外にも1人だけ残っていた人物がいた。


「おう、玲奈。お前は帰らないのか?」

「いや、高野君に聞きたいことがあってさ~。」

「なんだ?」


 すると玲奈が俺の前でニヤニヤし始めた。何だよ、いきなり。

 それやられてる側の身にもなってくれよ。何されるか分からないから意外と恐怖を覚えるんだぞ。


「な、何だよ。」

「高野君。ちょっと耳貸して?」

「なんで?」

「いーから。」


 俺はそんなよく分からない玲奈に耳打ちを要求されたので、

 俺が膝を軽く曲げてアイツの顔の前まで俺の耳の高さを合わせてやった。

 まぁコイツ女子だと背は高い方だろうから、俺と大して背も変わらないんですけどね。


『…高野君ってさ。彩華の事どう思ってるの?』

『…はぁ…?』

『私、高野君が彩華をどう思ってるのかフツーに興味あんだけど。』


 文化祭の事を聞かれるかと思ったんだが、全然関係なかったみたいだな。

 てか何?俺が彩華をどう思ってるかって? ………。そんな事あんまり考えたことなかったな。

 …俺にとって彩華とはどんな存在なんだ?


『…ん~。自分でもよく分からないけど、…何だろうな。』

『…自分よりも幸せに過ごしていてほしい人…、みたいな感じか…。』

『へぇ~…。』

『何だかあいまいな感じなんだね。』

『そうだな。…上手く言葉で表せないんだ。悪いな。』


 なんだかすごくもどかしい。確かにそれ自体は決して嘘じゃないんだが、何かが違うのだ。

 凄く何か自分の中で引っかかる。決定的な何かを、俺は忘れているというか、。


『ううん…。それが聞けただけで充分だよ。』

『…そうなのか?』

『そうだよ。いきなり無理言って悪かったね。』

『いや…。気にしなくても大丈夫だけど。』

『…あ、待って。もう1つだけ言いたい事があったよ。』

『まだ、あるのか…。』

『うん。そんなに悪い事じゃないよ。』


 そんな言い方をされると何だか悪徳商売を受けているような気分になってくる。

 それにコイツの悪い事じゃないはあまり信用ならないからな。

 どうせしょうもない事を言われるに違いない。


『…彩華はね。』

『高野君に対して、色んな意味で好感を持ってるよ。』

『……は?』


 好感…?

 しかも色んな意味でって何だ…?

 彩華が俺に好感を…?…それはつまりそういう事なのか?


『それってどういう…?』

『詳しく知りたかったら、彩華本人に聞いてみたらいいんじゃないかな?』

『いや…、さすがにそれは…。』

『…私にこんな事言われて、気にならないの?』


 気にならないわけないだろ。そんな風に言われたら確かに聞きたくなるモノだが、

 直接彩華に聞けるような強靭なメンタルを、俺は持ち合わせていないのだ。

 俺はアニメの主人公のような特別な補正も何も持ち合わせていない。


『まぁ、そういうヘタレの所も含めて高野らしいよね。』

『あ…?』

『フフッ。何でもないよ。』

『じゃあまた明日ね、…高野君…。』

「っ……!」


 急に耳元で囁かれたもんだからびっくりしてしまった。

 意外と心臓に悪いなそれ。玲奈なんかにドキッとしてしまった俺に対して、

 少しだけ後悔したような気分になった。何でだかは俺にも分からないけどな。


「じゃあ、彩華もバイバイ~!また明日ね~!」

「あ、うん…。バイバイ。」


 そう言って玲奈はあたかも何も無かったかのように、

 明るい感じで手を振りながらあざとく小走りしてこの部屋を出て行った。

 全く一体何だったんだよ…。


「勇作君…?」

「あ、あぁ。なんだ。」


 彩華が心底不思議そうな表情を浮かべて、俺に話しかけてきた。

 彩華からしたら俺達2人で耳打ち話をしている所を目の前で見せられていたわけだから、

 よく状況が分からなくて当たり前だな。俺もよく目の前で耳打ち話を

 見せつけられることがよくあるから、そのもどかしい気持ちはよく分かる。

 加藤とか加藤とかによくやられてますね、はい。


「…さっきは2人で何を話してたの?」

「いや、まぁ色々とな…。」


 まぁ、あんな話をしてたんだし…。本人に言えるわけがないよな。

 もし『俺に好感持ってるの?』と聞いたとして、

 それで相手からキモがられたりなんてしたらマジで精神崩壊する自信がある。

 出来ればそんな目に俺は会いたくない。


「うーん。私に言えないようなことなの?」

「いや、言えなくはない、、けど…。」

「じゃあ聞きたいな。私が思ってるよりも些細な事なのかもしれないけどさ~。」


 マジか…?さっき玲奈が言ってたことをマジで俺が彩華に聞くのか…?引かれたらホントにキツいんだが?


「言ってもいいけどさ、約束してほしいんだ。」

「何をかな?」

「聞いても笑わないっていうのを約束してくれるなら言う。」

「もちろんだよ。」

「…あぁー…。」


 …何でこんなに緊張してるんだ、俺は?

 ただ単に玲奈から聞いたことを彩華に聞くだけだろ。

 いつもの俺ならすんなりと言えるはずなのに。またしても自分が分からない。

 自分の思考回路が全く分からない。クソッ、マジでモヤモヤするぞ。


「玲奈が言ってたんだけどな…。」

「うん。」

「玲奈は、”彩華は色んな意味で俺に好感を持ってる”って言ってたんだけどさ…」

「あぁー…。」


 俺がそう言うと彩華は特に笑いもせず、顔だけを軽く左上に向けて何かを考える素ぶりを見せた。

 はぁ…。とりあえず彩華に笑われなかったのがせめてもの救いだな…。


「…じゃあさ。おこがましいと思われるかもだけど、私もそれに関して聞いていい…?」

「…え。あぁ…、いい、けど…。」


 全く想定していない返答が返ってきたので、まるで情けないような返答になってしまった。


「…もし私が勇作君の事を好きだったとしてさ、自分のどんな所が私に好かれていると思う?」

「…え?」


 俺が彩華から好かれるポイント?こんな逆に聞かれるだなんて思ってもいなかった。

 いくら考えようとしても状況が状況で全く頭が回らない。

 自称冷静な俺はどこに行ったんだよ。冷静の”れ”の字もないぞ。


「………………。」

「しっかりと自分の考えを持っている事、…とか?」


 今の状況だとこれくらいしかひねり出す事が出来なかった。

 実際自分の考えを持っているかどうかすら怪しい点ではあるが、

 そこは持っていると言い張りたいところではある。

 実際、周りの奴にどう思われているかなんて知ったこっちゃないが。


「…半分くらいは合ってるかな。」

「これで半分なのか…。」

「うん。…でもね勇作君。私が本当に言いたいのはそういう事じゃないんだよ。」


 そう言うと彩華は2メートルくらいあった俺たちの間の距離を急に詰めてきた。

 そして肩がぴったりとくっ付くくらいの距離まで迫ってきた。

 それから彩華は俺の耳元まで顔を近づけてきた。


「……私は、…勇作君のそう言う所を全部ひっくるめても。どうしようもなく貴方が好きなんだよ…。」

「……っ!!」


 俺は耳元で切なく呟やかれた彩華の言葉を受け止め切れなかった。

 そして俺の顔が信じられないくらい熱くなっていくのが分かる。

 とてもじゃないが今は、彩華の顔なんて直接見れるわけがない。

 少なくとも俺はとんでもなく緊張しているような表情をしている事だろう。

 ってかマジかよ。そんな事あっていいのかよ?

 そして俺は何とか頭を回そうとしながら、彩華に対する言葉を紡ごうと口を動かす。


「…彩華っ、………俺は…。」


 ーキ~ンコ~ンカ~ンコ~ンー


 いつものように最終下校時刻を知らせる就業ベルが堂々と学校中に響き渡る。

 そしてこの部屋の真ん中でぴったりとくっ付いている俺達二人にも、

 しっかりとベルの音が耳に仰々しく響いてくる。


「……な~んてね。」

「…冗談だよ~勇作君。私ったら何を言っちゃってるんだろう~。」


 そう言うと彩華は俺から距離を取り、そのまま部屋のドアの前まで小走りしていく。

 そしてそのまま部屋から出て行こうとしていた彩華は、こちらに顔だけ向けて俺の顔を見てくる。


「…さっき私が言ったことだけど、2人だけの秘密にしようね。」

「…約束だよ。」


 彩華はニコッと軽く笑ってそのまま部屋から出て行った。

 とにかく今の俺の感情は何だか分からない。とにかく今の俺は言葉が出なかった。

 いや、言葉を失ったといった表現の方が正しいのかもしれない。

 そして俺は、そのまま10分程度はただ呆然としてその場に突っ立って動けないままだった。

__________

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