第7話 夕闇の二人
勇作視点。第六話とリンクしております。学校外の場所も出てきます。よろしくお願いします。
___________
_________
9月8日18時00分頃、本棟3階、第一会議室
「では、本日の第2回文化祭実行委員会の内容は以上となります。」
「次回は2週間後の9月22日の放課後17時から、この第一会議室にて行います。」
「では皆様お疲れ様でした。」
「それと各係の係長には連絡事項がございますので、前までお越しください。」
えぇ…。折角終わったと思ったのに。何で係長だけ呼ぶんだよ。副係長も呼べよ。
「勇作君。頑張ってね。」
「あぁ…。」
そして俺は重い腰を上げて、一番前にいる委員長の元まで歩いていった。
ただでさえ広い会議室では、委員長の所まで歩くのでも一苦労なのだ。
「4人とも集まりましたね。では連絡事項を伝えます。」
そう言った委員長は、4人に何やら分厚い冊子と一枚のA4用紙を配布した。
その俺が受け取ったA4用紙には『イベント係活動計画予定書』と書かれていた。
「今お配りしたのは、A4用紙の方が【活動計画書】で、
冊子の方が【昨年までの活動報告書】になっています。」
「皆様にはこの文化祭までにどんな活動をするのかというものを示した、
活動計画書の提出をお願いしたいと思っています。」
「1週間の期間を設けますので、それまでに昨年までの活動記録書を参考にするなどして、
この活動計画書を仕上げて提出してください。」
何それ、めちゃめちゃ難しいじゃねぇか。
文化祭実行委員会さえ初めての俺に、いきなり活動計画書を書いて来いとか、
とんでもない無茶ぶりだな。てか、マジで思いつかないんだけど。
「そしてその提出された活動計画書を元に、こちらで吟味した後、各係に予算を精算します。」
「クオリティーが高い活動計画書の係には、より多くの予算が分配されます。」
「なお、今年の文化祭のテーマは【HIGH】です。皆がHIGHになれるような、最高の文化祭を作り上げるために、是非頑張って書いてきてください。」
「以上なのですが、何か質問はありますか。」
予算の大小が関係してるなら、手を抜くわけにはいかないな。
てか一人でやるの無理だろ。副係長の彩華とかと一緒に考えるのはいいんだろうか。
折角だし聞いてみるか。
「委員長。質問があるのですがよろしいでしょうか。」
俺は慣れない敬語を意識しながら、委員長に質問しても良いかを尋ねた。
ヤベェ、自分で言ってて違和感が凄いな。
あまりにも丁寧語や尊敬語を使っていなかったせいで、すっかり忘れていたまであるな。
バイト先でもほとんど喋らないしな。これからは意識的に使っていくとするか。
「構いませんよ。何でしょうか。」
「活動計画書を自分一人で作成する事が難しい際は、同じ係の副係長と協力して作成する事は可能ですか?」
「えぇ。ただしそれ以外の方に協力を要請する事は無しにしてください。」
「一応申し上げておきますがこの内容は漏洩厳禁ですので、くれぐれも他言することが無きよう、ご留意ください。」
「分かりました。肝に銘じておきます。」
これって漏洩厳禁なのか。まぁでもよく考えたらこの学校の機密情報も含まれているわけだし、
当然なのかな。文化祭実行委員なんて初めてで、分からないことが多すぎるんだよなぁ。
これからは慎重に行動していく事にしよう。
「よろしいですか。では他に質問がある方はいらっしゃいますか。」
『……。』
マジか、質問無いんですか皆さん。てかよく見たら他の3人は3年生の先輩だな。
もう3年目だしよく知っているんだろうか。じゃあ2年生の俺はどう考えても浮いてるよな。
大丈夫かこれ。
「ではこれにて終了とします。活動計画書の提出を忘れないようにしてください。以上です。」
そうして委員長と副委員長が会議室から出て行ったのを見届けた俺は、
自分の荷物が置いてあった自分の席に戻ろうと思い後ろを振り向いた瞬間、
彩華がカバンを2つ持って俺の元まで駆け寄ってきた。
「待ってたよ。やっと終わったんだね。」
「あぁ。待たせて悪かったな。前田と加藤は?」
「理紗は終わってすぐに帰ってったよ。前田君は総務係の係長を待ってて、今さっき一緒に会議室を出て行ったところだね。」
「なるほど、じゃあ俺たちも帰るか。歩きながら何となく話すよ。」
「うん。分かった。」
そうして俺達はもう数人しか残っていない会議室を出て行った。
そして俺は彩華にさっき委員長から聞いた内容を伝えながら、学校の校門まで歩いていった。
___________
18時20分頃、新淵高校校門前
「よし…。じゃあ話の内容はこんなところなんだけど。」
「うん。じゃあその活動計画書を作り始めようよ。なるべく早く作り始めた方がいいよ。」
「それはそうだな。じゃあ明日からやることにしようか?」
「いやいや。これから私達でカフェにでも行ってそこでやろうよ。」
マジかよ。学校の放課後にクラスメートの女子と二人きりでカフェに行くだなんて。
そんな俺は経験がないし、どんなことをすればいいのかさえ分からないんだが。
まぁ仕事だし、しょうがないのか。
「それとも勇作君はこれから予定とかあるのかな…?」
そんな寂しそうな顔をされたら、もし本当に予定があったとしても
絶対に予定を先延ばしにしてしまうまであるぞ、コレは。
元々予定なんて無いから普通に大丈夫なんだけどな。
「いや、予定はないけど。じゃあ、カフェとか行くか?」
「…うん。無理言ってごめんね?」
「気にしなくていい。…さぁ行こうぜ、彩華。」
「…ありがとね。勇作君。」
そして俺達は学校から一番近い距離にある新宿駅まで向かうことにした。
とりあえず新宿駅に出れば何かしらいい感じの店があるだろう、という安直な考えなのわけだが。
___________
18時50分頃、新宿駅西口近辺
「…相変わらずこの時間の新宿駅周辺は凄いよな、マジで。」
「ホントだね。人でいっぱいで周りが見えないよ。」
とりあえず新宿駅に出てきたものの、あまりにも人が多くて、
分かってはいたがびっくりしてしまった。
通学には電車を使わず家から徒歩勢の俺は、正直新宿駅をなめていたのかもしれない。
この人の量はヤバくないか。どこから湧いてきてるんだよってレベルだ。
「じゃあとりあえずスタバでも探す?」
「スタバ?」
「スターバックラーコーヒーだよ。略してスタバ。知らない?」
「…あぁ、そのスタバか。」
スタバを一瞬で何のことか分からなかった俺氏。
…いや、普段そういうカフェとか行かないんですよ…。
そんなお金持ちじゃないからな俺。一人暮らしの為の家賃とかで精いっぱいなんですよ。
__________
19時00分頃、新宿駅西口スタバ店
とりあえず一品ずつ軽く買ってきた後、俺たちは2人で向かい合って座った。
てか今どきのスタバってこんなにオシャレな雰囲気なんですね。
暗めの雰囲気に黄色の明るい照明が照らされていたり、
何だかオシャレな音楽が流れていたりとかしてますね。全然知らなかったですね。はい。
「よ~し。じゃあ早速活動計画書を作ろう!」
「あぁ。…でも何から始めたらいいんだろうか。」
「うーん。…とりあえず去年までの活動記録書でも読んでみる~?」
「そうだな。」
そうして俺達は恐らく200ページくらいあるであろう”2019年度イベント係活動報告書”
と書かれた、分厚い冊子を広げて、何となく目を通し始めた。
まずイベント係は、文化祭におけるステージ企画の企画運営全般を担う重要な係であるという事。
そしてその為のステージ装飾を装飾係と協力して行う事。
またそのステージ企画の為の団体オーディションによる選考まで、
全て行わなければならない大事な係であること等。
要するに自分が大変な係の係長を引き受けてしまったということは、すぐに分かった。
「あぁ…。このイベント係ってやつ。想像の3倍近く大変なんじゃないか?」
「……うん。何だかやることが沢山あるんだね…。こりゃ計画立てるの大変じゃないかな。」
「そうだな…。」
どう考えても考えることが多そうだ。普段からあまり頭を回してない俺からすれば、
こんなにも自分で計画しなくてはならないなんて、
恐らく自分の人生において今までなかっただろうし、これからも多分ないであろう。
まぁこれも人生経験の1つになるだろうし、頑張らないといけないな。
「まぁまぁ、折角だしさ頑張ろうよ!私も手伝うからね!」
「……。」
ヤバい、可愛い。こんな萎えてしまっている中でも俺の気持ちを鼓舞しようと
頑張ってくれている健気な彩華を見ると、マジで何でも頑張れそうな気持ちになってくる。
さては女神なんですか?そうなんですよね?
「…どうかした?」
「………あぁ、いや、何でもないんだ。頑張ろうな。」
「そうだね!」
彩華があまりにも尊過ぎて、思わず固まってしまった。ホントに俺大丈夫なのか。何だか心を揺さぶられる回数があまりにも多いな。何なんだよ、これ。……集中しなきゃダメだな、マジで。
それから俺達はじっくりイベント係としての計画を2人で練った。
なるべく早い内に企画オーディション選考会を行うための日程を設定し、
早めに全校生徒に向けて公表した方がよいという事。
また文化祭当日に行われるステージ企画の1団体の尺をどうするべきか等。
具体的な案を何個も出し合ってそれの為に必要な作業を逆算しながら、
活動計画表を少しずつ作り上げていった。
__________
21時00分頃、新宿駅西口スタバ店
「ん~!今日は頑張ったね~!」
「あぁ。すっかり話し込んじゃったな。」
あれから俺達は2時間程、2人で休むも間なく勢いよく、
かつ慎重に活動計画書を書き上げて行ったおかげで活動計画書は8割以上は完成した。
後は細かい修正を加えていけば問題ないレベルで、大まかの全体像が出来上がった。
「まさかこんなに長く勇作君と相談することになるだなんて、思ってもなかったよ~。」
「俺もだ。彩華がこんなにも喋ってくれる人だったなんて、知らなかったな。」
「そうかな?」
「あぁ、新たな発見って感じで俺は嬉しいぜ。」
まさか学校の放課後に彩華と2人でスタバに来て、
熱心に文化祭の話題について語り合うことになるなんてな。
夏休み初日の俺が聞いたら、とんでもないくらい驚くだろうな。
「さて、もう夜も遅いしさ。そろそろ帰る事にしないか?」
「うん。もう21時だもんね。じゃあ帰ろっか。」
そうして俺達は席から立ちあがり、スタバを後にした。まぁ、こんなオシャレな店には、俺1人で来ることは二度とないと思うけどな。
_________
21時10分頃、新宿駅西口前
「じゃあ、この辺でいいよ~。」
「なんだ、家まで送っていくくらいするぞ?」
「申し訳ないし大丈夫だよ。勇作君にこれ以上迷惑掛けられないし。」
「そんな事気にしなくていいのに。…まぁ、分かったよ。」
こんな夜に女の子を1人で帰らせるのは気が引けるんだが。
本人がいらないって言ってるんだから、そこで無理やり付いていくのはナンセンスだな。
「じゃあここでお別れだな。」
「うん。また明日ね、勇作君。」
「あぁ、また明日、彩華。」
彩華は手を振って新宿駅の人ごみの中に入っていった。
何だか今日は今まで経験したことないような事が沢山あったな。
文化祭関連でも色々あったが、彩華とも色々あったな。
家に帰って1人で頭を整理する時間が欲しいな。じゃないと頭がパンクしそうだ。
そんな事を考えながら俺自身も新宿駅を背にして歩き出した。
相変わらず騒がしい夜の新宿を騒ぎ声などを流し聞きしながら、
自身の気持ちを落ち着かせようと、ゆっくり一歩一歩地面を踏みしめて歩く。
家に帰ったらゆっくり休もう…。今日は色々ありすぎた…。
____________