第6話 俺達の文化祭とは、一体なんなのだろうか。
勇作視点。第四話とリンクしております。少しだけ勇作と彩華の関係が動き出します。よろしくお願いします。
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16時58分頃、本棟3階、第1会議室内
「久しぶりに来たけど相変わらず凄いな、この会議室。」
「ホントだよ。会議室にこんなに金かけるなら、教室も豪華にしてもらいたいよね~。」
「まぁまぁ、理紗も勇作君もそんなこと言わないでさ~。」
「まぁ、この会議室がいかついのは紛れもない事実だな。」
今、文化祭実行委員になった俺たちは本棟3階にある第1会議室に来ている。理由はここで文化祭実行委員会発足会議が行われるからである。もうこの学校にほぼ2年通っている俺たちでさえ、この会議室に立ち入ったことはほとんどない。授業でさえ使わないのに、この文化祭の為には大いに使われるんだな。もしかして文化祭の為の会議室だったりするのか。だとしたらヤバすぎるよな。
「周りはなんだか知らない奴が多いな。」
「そう?私は知ってる子多いよ。単に高野に知り合いが少ないだけじゃないの?」
「そんな事はない、…と思いたいんだが。」
「アンタ部活やってないから他学年の知り合いとかいないでしょ。文化祭とかそういう繋がりを作るいい機会じゃん。」
確かにこの学校だったら、俺の先輩後輩の知り合いはほぼ0だ。まぁ、部活せずにバイトばっかしてるからしょうがないな。
「でも高野と違って後輩女子からモテモテな前田なら、後輩の知り合いがさぞ多いんでしょう?」
「俺を後輩女子たらしみたいに言うな。そもそもあっちから寄ってくるだけだよ。」
「前田君、そんなこと言ったら可哀想だよ!皆本気かもしれないんだよ。」
「そんなこと言われてもな…。」
「前田もはぐらかしてばっかりじゃなくて、ちゃんと相手してあげないとダメよ~?」
「そうだよ、前田君!」
俺の前で前田が加藤と高橋さんに言い寄られているという、意味不明なこの状況を見せられている俺は、一体どんな反応をしたら正解なのだろうか。
「おい、そんなしょうもない事で言い争うなよ。やるなら後でやってくれよ。」
「そんな事って…。まぁ、高野には分からないよね~。」
「何のことだ。」
「前田に寄り付く後輩女子たちの気持ちよ。」
「そんな事分かってたまるか。知りたくもないわ。」
「はぁ…。アンタも乙女心が分からないと将来絶対困るわよー?」
こいつら女子が言う”乙女心”という魔法のような言葉は、俺のような男子にはよく分からないのである。そんな感じでマウントを取られても、もはや何も思わないでもあるな。
「まぁまぁその辺にしとこうよ。勇作君も前田君も困ってるし。」
「う~ん。乙女心って大事なんだけどな~。」
「そんなこと知らんって。てかとりあえず座ろうぜ。」
「あぁ、そうだな。」
何だか加藤は不満そうにしているが別にいいだろう。てかこんな状況でも場を和ませようとしてくれる高橋さんが、もはや女神に見えるんだが。いや、俺にとってはマジの女神なんだな。間違いないわ。
「どこら辺に座ったらいいんだろうね?」
「周りを見る限り、皆バラバラに座ってるしどこでも良さそうだな。」
「じゃあ真ん中の辺りにしない?周りも良く見えるしさ~。」
そうして俺たちはまぁまぁデカい会議室の中で、会議室の外側を囲うように並んでいる円形の席の真ん中の辺りの席に4人で着席した。周りを見ると会議室の席はほとんど満席で、結構圧倒されるような雰囲気が感じられる。何だかこうして同じ学校の生徒がこんなに集まっているのを見ると、不思議な感覚になってくる。
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17時00分頃、本棟3階、第一会議室にて
「17時になりました。皆様自身の席に着席願います。」
3年生の先輩の委員長と副委員長らしき人物が、何やら書類を小脇に抱えながら会議室に入ってきた。
委員長らしき方は男子で、もう片方の副委員長らしき方は女子だ。そして一番前に用意されている一段高い席に二人が着席すると、会議室が静かになりその二人に注目が集まる。
「これより第1回文化祭実行委員会発足会議を実施します。」
「まず各クラスの出席状況を確認します。」
そう言って委員長は、各クラスの4人がきちんと出席しているかを確認しながら、手元の書類に記録を付け始めた。そして高1、高2、高3の各クラスの出席確認が終わって会議がまた進み始めた。
「各学年5クラスずつ合計60名、全員の出席を確認しました。」
「ですので、これより会議の本内容について進みたいと思います。何か疑問点や質問がある方はいますか。」
『…………。』
それに対して何かの返答をする者はいなかった。まぁ、そりゃそうだ。人数確認しただけだしな。
「何もないようなので、次に進みます。」
「ではまず文化祭実行委員である皆様に、文化祭開催要項をお配りしたいと思います。」
そう言って委員長と副委員長は席から立ちあがり、会議室中を歩いて回り全員に手渡しで冊子書類を渡し始めた。開催要項ってこんなにしっかりした冊子なのか。もっとしょうもない感じだと思ってたわ。
その後、30分くらいかけて開催要項の内容の詳細説明が行われた。そしてまずここにいる60人をそれぞれの各係に分配することになり、主に総務係、イベント係、装飾係、企画運営係の4つに15人ずつで分かれることになるという旨が説明された。
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16時30分頃、本棟3階、第一会議室
「では、これより係分けを行います。」
「皆様にどの係を希望するかを記入する為の希望用紙を配布いたしますので、ご記入願います。」
「5分後に回収に参りますので、それまでに記入してください。」
そして再び委員長と副委員長が会議室中を歩いて回り、係希望記入用紙を全員に配っていった。
「3人はどの係にするの?」
「う~ん。私は企画運営とか面白そうって思うかな~。」
「俺はサッカー部もあるから、あまり忙しくない係が良いな。」
「前田、そんなに忙しくない係なんてないだろ。」
そういう俺もどの係にするかなんて全く考えていない。ぶっちゃけ何でもいいとは思っているんだが。
「じゃあ私はイベント係にしようかな。勇作君も一緒にやらない?」
「え?あぁ、構わないけど。」
いきなり高橋さんに誘われたのでびっくりしてしまった。…イベント係か。まぁ悪くはないといった感じなのだろうか。
「じゃあ俺もイベント係に……、痛ぇ!」
何か言おうとした前田に、なぜか加藤が前田の脇腹にチョップをかました後、耳打ちで何かを話し始めた。だから一体何を話してるんだよ。気になるっての。
「……あぁ。分かったよ、加藤。」
「うむ。」
「じゃあ俺は総務係にするよ。」
「?…分かった。」
加藤が前田に何を言ったんだか知らないが、前田は総務係をやることになりそうだ。まぁコイツ後輩からの人気も高いし、人の注目を集めるのも上手いし、そういうのは向いてそうに見える。
そうして係希望用紙に希望する係を記入してその用紙が回収された後、前で委員長と副委員長と書記さんの3人で集計が始まっていた。そしてそれを元に分配された係が発表されることになった。
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16時50分頃、本棟3階、第一会議室
「では今発表された係の中から、各係ごとに係長と副係長を決めていただきます。」
「希望する者は挙手をしてください。」
委員長がそう言うと特に誰も手を挙げることは無く、しばらくの沈黙が広がった。また、俺たち2年2組の4人は全というと全員が第一希望の係に所属することができて、そういうわけで俺と高橋さんはイベント係になったわけだ。
「希望者がいないようなので、こちらから推薦をかけようと思います。」
「では総務係から行きます。」
「係長に3年1組の田中君、副係長に2年2組の前田君でどうでしょう。」
「マジか。」
委員長からの推薦でまさかの前田が副委員長に推薦された。そんなことあるんだな。
「前田、どうするんだ副委員長。やってみたらいいんじゃないのか。」
「…。まぁ特に断る理由もないしやるか。」
「委員長。副係長やります。」
「分かりました。では総務係はこの二人にお任せします。」
「皆様、異論がない方は拍手を。」
ーパチパチパチパチー
拍手と同時に女子たちの歓声も聞こえてきた。前田の奴、ホントにモテモテだな。クソ、俺にも少しファンを分けてくれよ。
「では次に行きます。続いてイベント係。」
「えぇー。イベント係には3年生が1人しかおりませんので、係長と副係長とも2年生にお任せすることになります。」
「係長に2年2組の高野君、副係長に2年2組の高橋さんでどうでしょう。」
『はい?』
俺は不意の指名に、情けない声が漏れてしまった。俺が係長とマジかよ。文化祭実行委員会すら初めてなんだけど。俺なんかに務まるような立場じゃないだろ、マジで。
「いかがでしょうか。もし嫌という事であれば他の方にお願いしますが。」
「う~ん。そんなこと言われてもな…。」
「ねぇねぇ勇作君、やろうよ二人で。きっと上手くいくよ!」
高橋さんがニコッと笑って俺に笑いかけてきた。ヤバい、むちゃくちゃ可愛いんだけど。そんな顔でお願いされて断れる男子なんているんだろうか。
「う~ん。じゃあ、…やるか。」
「やった!頑張ろうね、勇作君!」
「お、おう…。」
「委員長!私達二人、係長と副係長やります!」
「ありがとうございます。異論がない方は拍手を。」
ーパチパチパチパチパチー
何だか今日の俺はすごく成り行きに身を任せている気がする。文化祭実行委員会になったと思ったら、いきなりイベント係の委員長になってしまうだなんて。これからの俺、本当に大丈夫なのか?
「では次に参ります。続いて装飾係です。」
「係長は…………------。」
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17時00分頃、本棟3階、第一会議室にて
「…-ということですので、皆様ご理解のほどよろしくお願いいたします。」
「そして今日の第1回文化祭実行委員会は以上になります。」
「次回の第2回文化祭実行委員会は、一週間後の9月8日の放課後、第一会議室にて行います。」
「次回も忘れずに参加してください。では本日はこれで終わります。」
「お疲れさまでした。」
そう言って委員長と副委員長が会議室から出て行った。実行委員会ってこんなに長いモノなのかよ。丸1時間話してたじゃねぇか。クッソ疲れたんだけど、マジで。
「ねぇ、勇作君。」
「あ、高橋さんか。どうした。」
またもや高橋さんに話しかけられた。何か今日はすごく高橋さんに話しかけられている気がする。夏休み明け初日だから余計にそう感じているだけかもしれないが。
「イベント係の係長になっちゃったね。…私が押しちゃったせいで断りづらい雰囲気になったりしてたかな。」
「いーや、決してそんな事はないよ。気にしなくて大丈夫だ。」
「それにどうせ係長やるなら、歴代の中でも一番すごい事をしてやろう。やれるだけの事は全力でやる、今はそんな気分だからさ。」
「勇作君…。」
なんだかカッコつけてしまったみたいになってしまったが、そう思っているのは本当だ。ちゃんと出来るかなんて俺には分からないが、出来ることはしっかりこなしていく。それが俺の流儀だからな。
「…そうだ。折角二人でイベント係の係長と副係長になったんだし…。LINE交換しようよ。連絡もとりたいし。」
「あ、あぁ。別に構わないけど…。」
そう言って俺はポケットからスマートフォンを取り出して、高橋さんと連絡先を交換した。なんだか女子と連絡先を交換するとか、気恥ずかしいな。俺は前田と違って女子たらしではないから、こういうのは慣れないのだ。前田に女子たらしとか言うと絶対否定するけどな。
「ありがとう勇作君。…あとね、もう1つお願いがあるの。」
「おう、何だ?」
「私はあなたの事名前で呼ぶでしょ?でも貴方は私を名字で呼ぶでしょ?」
「……だから私の事を名前で呼んで欲しいなって……。」
そんな恥ずかしがりながらそんなこと言われたら萌死しちゃうだろうが。てか顔を赤らめてちょっとだけうつむいている高橋さんが可愛すぎるんだけど。何度でもいうが、これは反則級なんだよ
なぁ。
「………………。」
「あ、あぁ。分かったよ。……彩華…。」
「…うん。ありがとう勇作君…。嬉しいよ。」
「いや、…こちらこそ。」
ヤバい。恥ずかしすぎて空気に殺されそうだよ、マジで。この何とも言えない緊張感がすごくゾクゾクするような感覚になるな。
「おーい、彩華ー、高野ー!いつまで話してるの~!帰るよ~!」
会議室の入り口で加藤と前田が俺たちの事を呼んでいるのがみえた。てかずっと待ってたのかよ。てことはずっと見てたんだよな。ヤバい、さらに恥ずかしくなってきたんだけど。
「あぁ、悪いな待たせて!」
俺はドアの前に立っている二人に声をかけてから、隣にいる彩華に声をかけた。
「帰ろうか、…彩華。」
「…うん。……うん!帰ろ!勇作君!」
名前を呼んだだけでこんなに嬉しそうにするのも可愛すぎるんだよな。こんな反応してくれるんだったら、最初から名前で呼んでおけばよかったな。
そうして俺たちは第一会議室を後にした。もう辺りは真っ暗で少し不気味な雰囲気すら感じられる。
「じゃあ、また明日ね~。」
「バイバイ~。」
「高野も気を付けて帰れよ!」
「…前田もな。」
そして俺たちはそれぞれの帰路についていった。何だか今日は色々あったな。あまりにも疲れたし今日はゆっくり家で休もう。あぁそうしよう…。
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