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俺が求める青春の形とは、一体何なのだろうか。  作者: ダンテ
第一章 各々の日常の高校生活編
5/15

第5話 復讐の思惑

新登場人物視点の物語です。時間軸的には第一話と第二話と同じで、これまで4話分とも違う視点者のお話になります。第三話の一部内容との関連部分があります。

_________________

_________


『おい。聞いてんのかよ。』

『お前さ、無視してんじゃね~よ。永田のくせに俺らを無視するとかいい度胸してんじゃねぇか。』

『おい、コイツムカつくからボコろうぜ。』

『イイね~!俺ってばちょうどサンドバックが欲しかったんだわ!』


 僕はいつもこうだった。中学校のあの事件以来、僕はいつも虐められていた。

 トイレに行くにしても、隠れて弁当を食べていても、

 僕は常に奴らに見つからないようにビクビクして生きていたんだ。

 そしてこんなどうしようもない自分を変えることなんて僕には出来なかった。

 例えるなら僕は強い虎に怯える草食動物みたいな存在なんだ。


『おい、お前ら。その辺にしとけよ。』

『なんで止めるんだよ高野、今折角いいところなのによ~。』

『問題になったらどうすんだよ。退学とかになったら、シャレにならないぞ。』

『ま、それは確かにそうだな。』

『高野がそういうならやめとくか~。』

『お前、高野に救われたからって勘違いするなよ。お前は所詮、俺らには逆らえないんだからな。』


 そう言って僕を囲んでいたアイツらは、僕の元からゾロゾロと去っていった。


『あ、ありがとう…。』

『別に…。お前だから助けたわけじゃない。』

『俺は単純にあーいう集団リンチが嫌いなだけなんだ。勘違いすんなよ。』

『う、うん…。』


 そう言って高野君も校舎の中に戻っていった。

 彼が居なかったら僕は今頃ボコボコにされていたに違いなかった。

 それから僕は敵しか居ない中学校の中で、同じクラスの高野君だけが

 僕の唯一信頼できる人だった。そう、中2の文化祭であんな事が起きるまでは…。


__________


「……ん?」


 どうやら俺はいつの間にか座ったまま居眠りをしまっていたようだ。

 えーと、ここはどこだったっけか…。


「どうも、おはよう。君が転校生の永田隼人君で会ってるかな?」

「あ、はい。そうですけど。」


 目覚めたばかりの俺の目に入ってきたのは、

 たった今部屋に入ってきたスラっとした女性だった。 

 それによく見るとここは校長室っぽいな。

 歴代校長っぽい人達の写真が壁にズラリと並んでいる。


「よかった。じゃあ改めてだけど、新淵高校へようこそ!私が貴方の担任になる、後藤乃蒼ごとうのあと言います。よろしくね!」

「よろしくお願いします。」

「うん。じゃあ早速だけど貴方にこの後の段取を説明するね。」


 その後俺は、後藤先生から今後に関する説明を受けた。

 俺が在籍するクラスは2年3組であるという事。また、その教室は本棟の最上階にあるという事。

 そして今日はクラスの皆に転校生がいる旨を朝のHRで伝えるから、

 それまでの時間はこの校長室で待機していることになる等、

 他にも沢山の説明を10分くらいかけてじっくり聞かされた。


____________

8時55分頃、本棟1階、校長室


「、というわけで大体そんな感じなんだけど。分かってもらえたかな?」

「まぁ、多少は。」


 正直内容が多すぎて途中から聞いてなかったんだが、まぁ特に問題ないだろう。

 それに俺がこの学校に転校してきた目的は、この学校に慣れることなんかじゃないしな。


「うん、じゃあそろそろ教室に向かおうか。」

「分かりました。」


 俺は腰を上げて、足元にあった自分のカバンを肩にかけて後藤先生と一緒に校長室を出た。

 この校長室は1階にあり、ここから4階の教室に向かうには

 まぁまぁ遠いので4分くらいは歩くことになりそうだ。

 そして2年3組の教室に向かうまでの間、階段や廊下を歩きながら、

 俺は周りの様子をかなり集中して様子を窺った。

 が、俺が探している例のアイツは見当たらなかった。…どこかの教室の中か?


___________

9時00分頃、本棟4階、2年3組教室前


ーキ~ンコ~ンカ~ンコ~ンー


 始業のチャイムが鳴ると、各教室からバタバタと音を立てながら、

 全力ダッシュで廊下に飛び出してきて、自分の教室まで戻っていく連中が大勢見かけた。

 この学校はこんなにギリギリの奴が多いのかよ。まぁどうせ俺には関係ないけどな。


「じゃあ永田君は私が呼ぶまで教室の前で待っててね。」

「はい。」


 俺にそう言うと先生は一人で3組の教室に入っていった。

 そして俺は教室のドアに耳を当てて、教室内の会話を聞き始めた。

 なんか盗み聞きをしているみたいだが、この際しょうがないだろう。


『みんな遅れてごめんね~。HR始めるよ~。』

『出席確認しま~す。……35人全員いますね。夏休み初日から全員揃うなんて偉いです皆さん!』

『せんせ~。質問があるんですけど~。』


 何やら頭が悪そうな男子生徒の声が聞こえてきた。

 その気だるそうな声、聞いてるだけでムカついてくるな。


『なんですか~?』

『なんか~、今日転校生が来るって噂を聞いたんですけど~、本当なんですか~?』

 

 すると教室内から『マジで!』とか『イケメンな子かな~』とか

『むっちゃ陽キャそうな人が良い!』だの廊下まで普通に聞こえるくらいの大声で騒ぐ声が聞こえた。

 俺はイケメンでも陽キャでもない、残念だったなお前ら。


『皆さん、察しが良いですね~!まさに今日!転校生が入ってきます!』

『おぉ~~!!』


 先生の発言のせいで教室内がまるでハロウィンの渋谷みたいな盛り上がり方をし始めた。

 先生よ、そんなに盛り上げないでもらえますかね…。マジで入りづらいんですけど。


『じゃあ、早速教室に入ってきてもらいましょう!どうぞ~。』


 マジ?こんな状態の教室に入るの?雰囲気が俺にとって完全アウェーなんですけど。

 もはや晒上げだろコレ…。

 そして俺は前の扉を開けて、ゆっくりと教室に入り教壇の前に立っている先生の隣に立った。

 教室の全員が、俺を見定めるようにしきりに見てくる。やめろってお前ら、俺を殺す気か。


「では早速自己紹介と行きましょうか!皆さんよく聞いてくださいね!」


 そう言った後、先生が俺の耳元で『じゃあそういう事だから。』と言ってきた。

 こんな段取になるなんて全く聞いてなかったんですけど。


「…永田隼人と言います。よろしくお願いします。」


 俺が軽く自己紹介をした後、先生が黒板に俺のフルネームを漢字で書き出した。


「では軽く質問タイムにしましょう!永田君に質問がある人~!」


 先生がそう言った途端、今まで黙っていた教室中の奴らが騒ぎ出して手を挙げた。

 そして俺はまるで岩雪崩の如く大量の質問を、5分くらいは受け続けた。


「……じゃあ、とりあえず質問はこの程度にしておきましょう!」

「えぇ~!まだまだ聞きたいこと沢山あるんだけど~。」

「まぁまぁ、HRの時間には限りがあるので、切り上げます!」


「じゃあ永田君の席は、最後尾の真ん中の列の席だからね。」

「はぁ…。分かりました。」


 俺は教室の真ん中を突っ切って、最後尾の空いている席まで歩いて自分の席に着席した。


「じゃあ今日のHRはこれで終わりです!皆さん今日も頑張っていきましょ~!」


 そう言って後藤先生は、教室から出て行ってしまった。

 コレ、俺完全にぼっちになっちゃうんですけど…。


「はぁ…。」

「あの~、長田君…。だったかな?よろしくね。」


 俺がため息をつくと、自分から見て左隣の女子が俺に話しかけられた。


「…あぁ、よろしくな。」


 まぁそうは言ったものの、コイツらと仲良くするつもりはあまりない。表面上の建前ってやつだ。


「私は田口玲奈たぐちれいなって言うの。私の事は玲奈って呼んでくれていいよ。それなりに仲良くできたら嬉しいかな。」

「…分かった。まぁ、それなりにな。」


 そういえばこの学校に来たばかりの俺は頭が回っていなかったが、

 自分の本当の目的を忘れかけていた。例のアイツを探さなければ。


「それはそうと、聞きたいことがあるんだけど。聞いてもいいか?」

「もちろんだよ。何かな?」

「高野勇作という人間を知っているか?」

「え、」


 玲奈は心底驚いたといった表情をしていた。

 そりゃそうだな。

 転校してきたばかりの人間に、この学校の人間のことを聞かれたら誰だって驚くに決まっている。


「知ってはいるけど、どうしていきなり高野君の事を聞くの?」

「まぁ、少し関わりがあるのさ。とりあえず高野の所在が知りたいんだ。」

「高野君なら、隣の教室の2組にいると思うけど…。」

「なるほどな。…それでお手数で悪いんだけど、俺を2組の教室まで案内してくれないか?」

「…うん。別に構わないよ。」


 そして俺は玲奈に連れられるまま、隣の教室の2組まで案内をしてもらった。


__________

9時10分頃、本棟4階、2年2組教室前


「ここが2組の教室だけど。」

「あぁ。わざわざ悪いな。」

「私も一緒に教室内までいた方いいかな?」

「いや、俺一人で構わないさ。どうせすぐに3組に戻るだろうし。」

「そっか、分かった。」


 そう言って玲奈は3組の教室に戻っていった。アイツ意外と悪い奴じゃないな。


「…入るか。」


 そして俺は2組の教室の後ろ側の扉を開け、2組の教室内に入った。

 やけに騒がしいな。この学校の休み時間の教室はこんなもんなのかよ。

 あまりにもうるさ過ぎてムカついてくる。

 そして俺は目的の人間を探すため、その騒がしい教室内を見回した。


「…居たな…。間違いなくあれは高野だ。」


 廊下側の席を見た俺は、見た目からして明らかに屈強そうな男と話していた高野を見つけた。

 やっとだ…。ついにようやくこの時がやってきたんだ…。

 テメエに中学の時の復讐をするためだけにわざわざこの学校に来たんだ。

 マジで覚えてやがれよ、高野。

 中学の時の俺が経験したような心の傷、テメエの心にはそれ以上の傷を与えてやるからな…!


「…今は勘弁してやるよ、高野…。徹底的にお前に復讐するため、俺にも準備があるからな…。」


 俺は誰にも聞こえないように独り言を呟いた。

 一瞬、俺は高野の事をアイツに気づかれないように睨みつけてやった。

 そして俺は高野への復讐の決意を固め、2組の教室を後にした。


__________

9時12分頃、本棟4階、2年3組教室


「あ、永田君。もう戻ってきたんだ。早かったね。」


 俺が教室に戻ってきて自分の席に座ると、またすぐに玲奈に話しかけられた。


「少し様子を見てきただけだからな。特に何もしてきてないし。」

「ふーん、そっか。」

「…詳しく聞いてこないんだな。」

「まぁね、永田君が聞いてほしいなら聞いてあげるけど?」


 見た目に反して結構ドライなんだな。

 見た目だけで言えば、面倒見がよさそうな感じがするんだがな。

 いや、相手の事を尊重しているべきと考えるべきか。


「いや…。別にそういうわけじゃねーけどよ。」

「うん。でも~、やっぱり私に聞いてほしくなったりしたら、いつでも聞いてあげるからね~。」

「…中々面白いなお前。」

「そう~?」


 高野への復讐の為だけにこの学校に来たはずなんだが、

 予想していなかった意外な出会いがあったな。何だかんだコイツとは上手く関わっていけそうだ。


「そういえば全然話は変わるんだけどさ~。今日の1時間目のLHRなんだけど、そこで文化祭実行委員を決めるらしいんだよ。」

「文化祭?」

「うん。毎年12月の半ばにやるんだけど、生徒も先生も一丸になってめちゃめちゃ盛り上がるんだよ。」

「そうなのか。」


 文化祭ねぇ…。どこの学校にもありがちなイベントだが、俺は文化祭のいい思い出がマジでない。

 まさに俺が高野に恨みを抱いているのも中学の文化祭のせいだしな。

 ホントにしょうもないモノだと俺は考えている。


「私さ~、文化祭実行委員やろうと思ってるんだ~。」

「だから~。永田君もやろうよ、実行委員やらない?」

「は?」


 何言ってんだコイツ。俺、まだこの学校に来て1日も経ってないんだが。

 そんないきなりで出来るわけないだろ。それに興味もないんだが。


「そんないきなり言われても無理だ。俺、文化祭とか興味ないし。」

「まぁまぁそんなこと言わないでさ~。私と一緒にやってみようよ。」

「えぇ…。」


 ドライなのかと思ったら結構強引な所もあるんじゃねぇか。色々と引き出しが多い奴だな。

 それと、ものすごく器用な事が出来るんだなコイツ。


「それに~。文化祭実行委員になれば、高野君に関われる機会が出来るかもしれないよ?」

「……。別にアイツとは仲良くしたいわけじゃない。むしろその逆だ。」

「ふーん。じゃあ尚更やればいいじゃん。」

「…何故だ?」

「文化祭実行委員会に入ればいろんな人と関われるから、自分の欲しい情報が手に入りやすいと思うんだよ。」

「…それは確かにその通りかもしれないな。」


 すごく説得力がある事を言うな。

 何か言い返してやりたいところだが、ぐうの音も出ないなこれは。

 さては意外と頭の回転も速かったりするのか。


「…分かったよ。やればいいんだろ、文化祭実行委員。」

「理解早くて助かるよ!一緒に頑張ろうね。」


 マジで気分は乗らないが、文化祭実行委員をやらされることになってしまいそうだ。

 まぁ、高野への復讐への為だ。致し方ないだろうな。

 それに玲奈も色々と言うが、本気で悪い気分になるような事は言ってこない辺りからして、

 一応気は使っているんだろう。

 この学校に転校してきたからには、きちんと俺の目的は達成するために全力を尽くす。

 そのためにはまず現在の高野の情報収集からだ。

 そのためにこの文化祭の機会は、しっかりと生かさせてもらおうか…。


ーキ~ンコ~ンカ~ンコ~ンー


「は~いみんな~!LHR始めるよ~!」


 1時間目のチャイムが鳴ると同時に、後藤先生が教室に入ってくる。

 まぁ、高野への復讐計画を練るのはまたの機会にじっくり考えるとして、

 今は新しく始まった高校での授業に、形式上は集中すべきだな。


「……俺が思っているよりも、高校とは簡単なモノなのかもしれないがな。」

「…なんか言った?永田君。」

「…いや、何も。」


そして俺にとっての慣れない高校生活が始まり、復讐計画が現実味を帯びてきたのは十分な収穫だった。そうやって1つずつ前進させていくのが、俺のやり方だ。


___________






 



大変長くなってしまいました。

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