第4話 思考の綾
勇作視点。第三話とリンクしています。よろしくお願いします。
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「9時15分になったしLHR始めるぞ~。席に就け~。」
大量のプリント用紙を抱えた斎藤先生がそう言いながら教室に入ってきて教壇の前に立つと、
ざわついていた教室内は徐々に静けさを取り戻しながら、少しずつ皆が着席して
前の斎藤先生に注目し始めた。こういう切り替えがしっかりできるコイツらの
そういう所は偉いと思う。
「静かになったな。ではLHRを始めたいと思います。」
「えー、ではまず先ほど伝えたように文化祭の詳細日程について発表したいと思います。」
そう言った先生は、まさに持ってきたばかりのプリントを
各列6枚ずつのプリント用紙を最前列の席の人に配り始めた。
皆は手元に回ってきたプリントを一枚ずつ取り、後ろの席の人にプリントを回していき、
教室内の全員にプリントが行き渡ったのを確認してから、先生は話を続けた。
「そのプリント用紙に書いてある通り、
今年の文化祭は12月17日、18日の2日間に亘って行われることが決まりました。
ちなみにその二日間は土曜日と日曜日ですので、翌日の12月19日、
すなわち月曜日は学校が休みになる事を覚えておいてください。」
なるほどな。このプリントを見る限りだと、
準備期間は12月1日から12月16日までになってるな。
そして冬休みは12月22日からなのか。そして20日と21日は片づけ期間として設定されている。
つまり12月は授業がないって感じか。何それ、最高じゃねぇか。
「そして忘れないでいただきたいのが、1月末に行われる学年末テストです。
例年の話なのですが、この文化祭に熱中しすぎたせいで、
テストの成績が壊滅的になってしまう生徒が多数現れます。
その際に赤点が付いてしまうと容赦なく留年の扱いになりますので、
一応多少の勉強はしておいてください。」
確かにな。去年もそのせいで俺自身もマジでギリギリの成績になって、
かなり冷や冷やした記憶が強く残っている。
文化祭も頑張らないといけないのだが、勉学の方も疎かにしてはいけないことを俺は知ってる。
サボっているとそのツケは自分に回ってくるからな。
「そして二点目。その文化祭の開催に伴い、文化祭実行委員会が文化祭開催の三か月半前、すなわち本日の放課後に発足されます。」
「そのため各学年の各クラスから4名ずつ、男女2名ずつを選出することになっています。」
「ですので今のLHRでその文化祭実行委員を男女各2名ずつを決定したいと思います。」
ついに来たか。てか男女二名って初めて聞いたな。
先生、さっきそんな事言ってなかったよな。結構重要だぞ、その情報。
「では早速選出を行います。文化祭実行委員に立候補する者は挙手をしてください。」
先生のその発言を聞いた俺は特にためらいもなく、静かに右手を高く上に上げた。
まぁ、これ立候補しないと加藤に潰されちゃうもんな。何がとは言ってなかったけど。
まだ俺は男でいたいのです。
「今手が上がったのは、高野、飯田、前田、加藤、高橋の5人。そして男子3人と女子2人なので、異論がなければ女子の2人はこの2人で決定としますが。どなたか異論がある方いますか。」
先生のその発言に対して何か反論を返した人間は10秒経っても現れなかった。
つまり女子2人は決定というわけだ。てか何で前田まで立候補してるんだよ。
どうせ飯田がさっきの休み時間に何か言ったに違いないけどな。
「では女子2人は決定とします。加藤さんと高橋さん、よろしくお願いします。」
「では高野と飯田と前田の男子3人の中から2人を選ぶことになるんですが、どんな方法で2人に絞りますか。」
「じゃんけんでいいです!」
俺が考えようした瞬間、飯田が即答でじゃんけんと言い出した。マジかコイツ。
折角の文化祭実行委員なのにそんな運任せでいいのかよ。
「じゃんけんでも構わないですが、その代わり負けてもお互いに恨みっこ無しですよ。」
「もちろんですよ!先生!俺は運すらも味方につけれますから!」
「いいのか飯田。負けるかもしれないんだぞ。」
「そんなわけないって!俺は前田には負けないって!」
うわ~。飯田の奴、盛大なフラグ立てたてやがる…。これで飯田が負けたら面白いな。
てか俺も負けちゃダメだよなこれ。教室の右側を見ると加藤が、俺に対して『絶対勝ちなさいよ』
と言わんばかりの表情をしていた。俺も加藤に潰されちゃうの嫌だし。
「それじゃ行くぜ~!」
『最初はグー!』
『じゃ~んけん、ぽん!』
じゃんけんの結果は俺がグー、前田がグー、飯田がチョキだった。やっぱりな。
俺の思った通り飯田の一人負けだった。そして飯田を見ると明らかにがっかりしていた。
まぁ恨みっこなしって言って納得してたもんな。しょうがないと割り切ってくれよ。
「飯田、残念だったな。」
「ク、クソ…!」
「お前がじゃんけんで決めようだなんて言い出すからだぞ。この際諦めるんだな。」
「では男子二人は高野と前田に決定します。」
「というわけで、2年2組の文化祭実行委員は高野、前田、高橋、加藤の4人に決定します。
皆様、ご了承願います。」
先生がそう言うと、教室中に拍手が巻き起こった。
俺を文化祭実行委員に誘った張本人は見事に運に負けてしまったな。
皆が拍手をしている中、俺の前の席の飯田はげんなりしていた。
てかそんなにがっかりするなら、じゃんけんなんて言わなきゃよかったじゃないかよ。
自業自得だぜ、飯田。
「ではその4人は本日の放課後の17時から本棟3階の第1会議室にて、
第一回文化祭実行委員会総括会議が行われます。
時間になったらそちらの方に参加してください。」
例の会議室でやるのか。
ここの2年2組の教室の教室は4階だから、1つ下のフロアにある会議室だな。
この学校には会議室が2つあるのだが、本棟3階にある方の会議室はとてつもなく
おしゃれな空間で、とても高校にあるとは思えないほどのクオリティーの会議室なのだ。
収容人数が100人の縦長の部屋で、柔らかい色合いの木の壁に囲まれている。
その縦長の部屋の天井には端から端まで、縦に三本の黒い木の棒が取り付けられていたり、
壁にはほのかな黄色の光で照らす、芸術作品のような照明オブジェクトが
いくつも取り付けられていたりする等、感心するほどオシャレな会議室なのである。
「では、文化祭についての連絡は以上です。続いては後期の日程についての連絡をします。」
「本日は9月1日ですが、その一週間後のーーーー……。」
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10時15分頃、1時間目終了間際。
「……--ということなので皆様、御確認願います。」
「では、次の2時間目からは通常授業になるんですが、次の2時間目は家庭科ですが、
先生の方が欠席されているという事なので、教室で自習になりました。」
『やった~~!!』
教室中に歓声が上がる。夏休み明け最初の授業が自習とか、さては家庭科の先生は神ですか?
違いますよね、知ってます。
「最初の方だけ別の担当の先生が人数確認に来ますので、きちんと着席しておいてください。」
「以上だ。」
そう言うと斎藤先生はまたもやそそくさと教室から出て行った。
そして教室はさっきのように賑やかさを取り戻した。
何だか知らないが、クラス中が本当に楽しそうで何よりである。
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「さて………。」
俺は1時間座りっぱなしで痛くなった腰を伸ばして、ゆっくり立ち上がった。
そして俺の目的は自販機に飲み物を買いに行くことだ。本当は朝に買いに行きたかったんだが、
飯田の奴の無駄な自慢話を聞かされたせいで、買いに行けなかったのだ。
マジであの野郎、俺の貴重な朝の15分を返せってんだ。
そして誰にも話しかけることなく廊下に出た俺は、ここから最寄りの自販機に歩き出した。
この時期になるともはや廊下まで暑いな。なんで教室にエアコンを付けてくれるのに
廊下にはエアコンを付けてくれないだろうか。てかもう9月なのにこんなに暑いのが
悪いんだよな。太陽、そろそろ休んでくれよ。俺らを焼き殺すつもりなんですか…。
そんなどうでもいいこと事を考えているうちに、本棟3階の購買部の自販機前に到着した。
この購買部は各教室と同じくらいの広さで、3時間目が終わった後の
昼休みの時間には大変混み合うのだが、さすがに今の時間はスカスカだな。
そして俺は自販機に150円を入れて、午前の紅茶のミルクティーを買った。
やっぱりこれなんだよな。疲れてる時にはこの甘さが堪らんのだ。
何事もなく飲み物を買えた俺は、特に寄り道もせずに一つ上のフロアの
2年2組の教室に戻り始める。この高校の休み時間は10分しかないので、
もたもたしていると次の授業に遅刻してしまうってわけだ。
そして今はというと購買部にしか行ってないのに、2時間目開始まで後2分しかなかった。
今回は教室授業だから良いんだが、これが移動教室授業だったりすると
物理的に間に合わなかったりすることもある。しかもこの学校無駄に広いからな。
ゆっくり歩いていると絶対に間に合わない。
先生よ、そこんところ考えなおしてもらえないでしょうか。
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飲み物を買って教室に戻ってきた俺は、すぐに自分の席に着こうとしたんだが、
またもや意外な奴に話しかけられた。
「よ~~!高野君じゃ~~ん!」
「宮川、どうしたんだ。」
俺に話しかけてきたのは、今朝遅刻したばかりの宮川浩だった。
コイツはとにかく見た目がチャラいし俺よりも背が高いが故に、見下されている気がして
俺はあんまり得意じゃないんだがな。
「高野君さ~。文化祭実行委員やるんだよナ~。」
「あぁ。それがどうかしたか?」
「何か困った事があったら俺にも協力させてくれヨ~。
特に人間関係で困った時はこの俺の出番だからサ~。」
コイツは喋り方の癖が強いんだよな。
特にその語尾、聞いててムカついてくる時がたまにあるんだが。
まぁそれはともかく、コイツの根がいい奴なのは間違いない。
もしそういう時があったら頼らせてもらうことにしよう。
「あぁ。その時はよろしく頼むよ。」
「待ってるぜ~。」
宮川はそう告げると軽快なステップで自分の席に戻っていった。
アイツの席は確か廊下側だから俺とは反対側だったな。俺はふいに軽く廊下側を見た。
そこにはやはり楽しそうに友達と話している高橋さんがいた。
何故か自然と彼女に目が行ってしまうこの俺の行動原理は何なんだ?
自分で自分の事がよく分からない。
俺が今まで経験したことのないこの感情は、つまりそういう事なのか?
__キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン__
俺が席に着くと2時間目のチャイムが鳴った。確かこの時間は自習だったな…。
さて何をしようかな…。ーーー
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